にんじん2本(ウマ娘短編集)   作:のるどすとりーむ

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エキストラ本め「おい今告白したか?」モブウマ娘

「トレーナーさん好きです。付き合ってください」

 トレーナー室でくつろいでいる時にそんなことを言われた。俺の返事はもちろん─────

「え?無理」

「拒否するの早いな!?」

 もしかしてもっと悩む素振りを見せてほしかったのだろうか。とはいっても、

「いや〜だって……君は生徒、俺はトレーナーじゃん」

「そうですけど、でもそういう禁断の恋というのもアリじゃないですか?」

「ないね」

「どうして……そんな事言うんですか?……私の事が嫌いなんですか?」

 急にしおらしい態度を見せてくる。ヤメてくれ、そういうテンションがジェットコースターされると、こっちの心拍数がド◯ンパみたいに加速するから。

「……そんなわけない。でも、君にはもっといい相手が居るはずだよ」

 実際そうだろう。特に目立った特徴も無い俺にふさわしい相手なんて誰でもない。

「いいや、私にはトレーナーさんしかいません。どうか付き合ってください」

「ふーん、じゃあそこまで言うなら…………俺を惚れさせてみろ」

 展開が少しだけかぐ○様みたいになってくるかもしれないが、俺は彼女を試したい。

「ほう?」

 目が確実に、獲物を仕留めようとするライオンとかの目になる。怖いって。

「俺が君に惚れたら、多分そういう立場の差なんて消し飛ばすからね」

「でも、トレーナーさん、契約した日に『君の走りに惚れた』って言ってませんでしたかね?」

「ごめんそれノーカン」

 自分の発言には責任を持ったほうがいいな。まじで。

 

 

 こうして、次の日から彼女の熱烈なアプローチが始まった。

 

「トレーナーさん、お水どうぞ」

紙コップに入った水を渡される。

「え?ああ、ありがとう」

サラサラサラッと白い粉が水に入れられる。

「ねえ今何盛った?」

「何も盛ってないですよ?」

「いや、明らかになんか白い粉入ってたよね?」

「多分ポ◯リスエットじゃないですか?」

「んなわけあるか。……もしかしてホのつく薬か?」

「いえ」

 惚れ薬ではない、じゃあもしかしてビのつく方の薬とか……?

「じゃあビ薬か?」

「そうです」

「なんてもん飲まそうとしてんねん」

 というか、どこでそれ入手したんだ?

 

「トレーナーさん、次のトレーニングなんですが」

 自然な感じで質問していたのは評価に値する。本当に彼女は演技が上手い。だけども─────

「おう、どうした?……と言う前に、その格好はなんだ?」

「何って?水着ですが?」

 今彼女が着ているのは学校のスタミナ練習で使うようなタイプではなく、完全なビキニだ。

「今冬だってこと知ってる?」

「知ってます」

 彼女がっポーズをとる。

「なぜ水着?」

「トレーナーさんを誘惑するためです」

 またポーズをとる。

「ストレートだな。しなくていいし、できてないので今すぐ着替えてきなさい。あとその謎のポーズも意味がないのでやめなさい」

「はーい……」

 てくてくとその場を去っていった。

「まったく……あそこまでするか?」

 正直彼女の行動力に驚かされている。彼女はまだ未成年だ。だからちゃんとした判断とかもできないだろうし、ああいうことを他の人にやられたら困るな。

「あ、トレーナーさん」

「ストップ、どうせ『着替えている途中で思わず質問しようとしてヤバイ格好で出てきちゃった』みたいな展開を作ろうとしてるのだろうけどダメだ!」

「ちぇ」

「ちぇじゃない」

「チュ」

「チュでもない。だれに投げキッスしとんねん」

「それはもちろんトレーナーさんです」

「でしょうね。知ってた」

 ああ、なんか前と比べてアプローチがストレートになってきたな。

 この娘好意を隠すのが下手くそだったけど、ここまで来ると振り切れすぎて心配になってくる。もしかしてあの提案は不味かったか……?

 

 

「トレーナーさん、トレーナーさん」

 別の日、何やらニヤニヤしながら彼女が近づいてきたので、戦闘態勢のポーズをして威嚇する。

「どうした断るぞ?」

「まだ何も言ってないのに断らないでください……後なんですかそのポーズ」

「戦闘態勢のポーズだ。で?要件は?」

「下の方は戦闘態勢じゃないようですが?……今度一緒に買い物にしませんか?レース用品の買い物したくて……」

「……わかった」

 今しれっとすごいシモネタが入ったような気がするが多分気のせいだろう。

 あ、あと買い物には何されるかわかったものでは無いけども、取り敢えずついていくことにした。

 

 

 

「言っておくが、俺はラブコメの主人公ではない」

「どうしたんですか急に」

「だからどんなドキドキ展開でも、変に俺を誘おうとしても、俺には効かない」

「そうですね」

「だから今この状況も俺には効かない」

 現在、俺と彼女はなぜか手錠で繋がれている。

「最近の小学生はアグレッシブですね」

「あそこまでアグレッシブな小学生がいてたまるか。……はあ、鍵は持っているんでしょ?早く解放してくれない?」

 ことの顛末を話すと、まず俺と彼女は買い物をするために、近所のショッピングモールにいくことにした。そして実際に待ち合わせして、さあ、これから買い物だ……という時にアグレッシブな小学生が俺の左手と彼女の右手を手錠でつないだ。彼女が裏で糸を引いていたのはわかるが、ここまでとは予想がつかなかった。

 

「解放ですか?……それは少し難しい相談ですね」

「一体何が要求なんだ……?」

「それは簡単。トレーナーさんが私に好きだって言ってくれれば良いんです」

「それは無理だな」

「じゃあ無理ですね」

「他に手段は」

「無いです」

「ええ……君も不便じゃないのか?」

「まったく。むしろトレーナーさんと繋がれてて、少し興奮しているくらいです」

 ああ、もうこいつダメだ。というか、なんかさっきから呼吸が荒いし、瞳孔が開いているのがすごい怖いんですけど。なんか生物として逃げたほうがいいという本能を発しているんですけど。

「じゃあこのまま繋がった状態で、レースとか練習の時はどうするんだ?」

「担いで走ります」

「無理があるわ」

「そうですかね?ウマ娘は力が強いですよ?」

「それでもだめ、さあ、さっさと解放してくれ」

「むう……嫌です」

 嘘やろ。

 

 取り敢えず手錠のまま靴を買いにいくことにした。少し恥ずかしいが同しようもない。

「それで、この辺の靴でどれが良いかってことだな」

「そうです」

「うーん、君の脚質なら、この辺……いや、ここはあえてその逆を行くべきか……うーん」

「トレーナーさん」

「うん?どうした」

「この靴はどうですか?」

 奥の棚に堂々と置いてある靴を指差す。

「どれどれ」

 その靴は有名ブランドのものなのだが、靴になぜか「トレーナー命」って書いてある。

「ねえこの靴需要あるの?」

「少なくとも私には」

「ああ……そうだったな」

「うーんでもその靴は少し性能が尖りすぎているから却下」

 素材とか形とか調べたが少し性能が偏っている。

「えー?」

「えー?じゃない。足に合わない靴だと怪我するぞ?」

「たしかに……」

「ま、ここの靴が無難じゃないか?色は好きに選んで」

「トレーナーさんが選んでください」

「ええー?」

 正直、そういうファッションとかには無頓着だから、無難な色を選ぼうかな。しばらく考えた末に爽やかさのある青と白色の靴を選ぶ。

「もしかしてまだポカ◯スエットのこと引きずっているんですか?」

「違うわ」

 

 

「お腹すきましたね」

「そうだな」

 お、食べるために手錠外してくれるか?

「どこか一緒にお昼――」

「まて、もしかして手錠のまま飯を食うのか?」

「そうですけど?」

「君右手使えないじゃんどうするの?」

「トレーナーさんにあーんしてもらいます」

「断る」

「ええー?別にそれくらい良いじゃないですか?」

「君が手錠を外せば解決するでしょ?」

「ま、まあそれはそうですが、でもトレーナーさんが好きだって言わないのでダメです」

 くっそめんどいなコイツ。

「はあ〜……お前のこと好きだよ」

「 」

「おい、しっかりせえ、おい!付き合うとは言ったわけじゃないぞ!!」

「は?」

 ドスの効いた声で言われる。怖いって。

「いや、俺は君のこと好きだよ?でもそれは異性としてではなく、生徒として、だ」

「まじかよ……クゥ〜〜……しょうがない、確かに私はそう言いましたもんね。シャバの空気を吸わせてあげます」

「よっしゃあ」

 

 

 

 あの恋愛合戦が始まってから1週間経った。まだ俺は勝っている。

「そういえば、さ」

「はい?」

「なんで俺と付き合いたいの?」

 確かに疑問なんだよ。俺別に大したことはしてない気がするんだけど。

「それは確かに。……まあ簡単に言うとトレーナーさんが私と一緒に笑ったり泣いたりしてくれたからですよ。正直これ以上負けるのは嫌ですが、隣にトレーナーさんが居るからまだ頑張れるんです。で、その気持ちを私は恋だと考えたわけです」

「なるほど」

「わかりました?」

「まあね、でもそれは俺が当たり前だと思ってやっているだけだしね」

「そんなことはないです」

「ここだけのハナシ、一部のトレーナーさんには、ウマ娘を出世の道具としか考えていない人も居るんですよ」

「え?トレセン学園にはそんな人いないと思うんだけどなー?」

「トレセン学園には確かにいないです。でも他のところだとそういう人はザラなんです。だってこんなにコスパの悪い仕事は無いじゃないですか。むしろそういう人間じゃないと来ないんですよ」

「はあ……」

 

 でもなんか腑に落ちなかった。

 

 

「そういや最近アプローチないね?ネタ切れ?」

「いえ、単純に今でかいのを準備しているだけなので」

「?……まあいい。でも俺は絶対に落ちないからな」

「ふん!そうやって虚勢張れるのも今のうちですよーだ!」

 

 

たしかに、このあと、俺は盛大に後悔することになる。

 

「遅いな……」

 練習に来ない。今まで遅刻することなんてなかった上に、もう予定の時間から20分は過ぎている。連絡の一つくらいくれたって良いのに。

 

『すいません、トレーナーさん。すこしトラブルに巻き込まれたので遅れます』

メッセージがとどいた。なんだ?トラブルって?急に不安が自分を襲う。

 たしか、彼女は高等部だったよな?

 高等部の校舎に行って、聞き込みをするか

「あー、あの娘?そう言えば体育館に行くって言ってたよ」

「体育館?」

 なんでわざわざそんなところに?

 

はっ!まさか俺を体育倉庫に呼び出して……いやナイ。それに今それを想定していれば、その状況も防げる。

 

 

「失礼しまーす」

 体育館に入る。何故か電気がついていないため、暗い中をゆっくり歩く。

 

「トレーナーさん!」

ステージの方から声がする。

 

 えっと、彼女は一体何をしているんだろう?

 

 「キャアーコワイヨー」

  棒読みので叫ぶ彼女。そしてその周りを走り回る布を被ったウマ娘たち。これアレかウマ娘たちが幽霊ってことでやってるのか。なんだろうこの茶番。

 

「ほら、トレーナーさん早く助けて」

「なんか図々しいなこいつ……しょうがない」

ステージに上る。

「シッシッ」

猫を追い払うようにそっと周りのウマ娘を追い払ってから彼女に向き直る。

 

「で、これがでかいアピールなのか?」

「そうです。吊り橋効果を使ったものです」

「ごめん吊橋になってない」

「えー?じゃあどうしろってんですか?これで全部失敗ですよ……」

 少し悲しげな表情をする。あー、もう……

「ふーむ。しょうがない、ヒントだが俺はダイレクトなアタックより、隙を見せられるほうが弱い」

 俺は一体何を言っているんだか……

 

「解りました!はい!」

そういうと彼女は思いっきりスカートを捲し上げる。

「違う!それは隙と言うより痴女だ。だめだぞ」

 そっぽをむきながら言う。とっさの判断で目をそらした自分を褒めたい。

「えー?」

 不満の声を上げる。ヒントあげたんだから頑張れよ……

 

 はあ、当分落とされるのはなさそうだな。

 せいぜい頑張れ。

 

 

 トレーナーさんもまだまだですね。私の本当の作戦は、「失敗を連続させることでトレーナーさんの好みを割り出す」ことですから。フッフッフ。これは勝ちましたね(フラグ)次こそは貴方を落として見せます!

 

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