キタサンブラックの場合
「あ、トレーナーさんお久しぶりです!」
町中で突然声をかけられた。聞き覚えのある声だ。
「あ!キタサンブラックじゃん。久しぶり……元気にしてた?」
「はい!それはもう!……ってあれ?」
「あの……こんにちは」
少しモジモジしながら俺の今の担当が挨拶する。
「こんにちは、もしかして今のトレーナーさんの担当?」
「はい、そうです!……私、キタサンブラックさんに憧れてトレセンに入学したんですよ!」
「本当!?それは嬉しいな……」
キタサンが少し遠い目をする。おそらく今のこの娘と、昔の自分を重ねているんじゃないだろうか?キタサンもまた、とあるウマ娘にあこがれてトレセンに入ったもんな。
「今度、皐月賞に出るので見てくれませんか?」
「もちろん!後輩の活躍をちゃんと見ないとね」
「やった!……あ、ええ、ええと、トレーナーさん、先にエクレア屋さん、行ってますね」
そそくさと今の担当が走り去っていく。今更になって恥ずかしくなったのかな。
「……今の娘、昔のあたしによく似ています」
「分かるよ。アイツったら『世界最強のウマ娘になる!』って意気込んていて、昔の君を見たようだったよ……もしかしたら俺もその雰囲気で契約したのかもな」
「フフッ、良いですね……何故かわからないですけど、あの娘なら『世界最強』、やってくれそうな気がします」
「俺もだよ……さて、長話もなんだし、ここで失礼しますかね。あの娘を待たせるのも悪いし」
「デート、なんですか?」
「いやー違うよ。単純に彼女がオフだったから誘っただけだよ」
「ふーん、そうですか」
「大変なんだよ、彼女の話はよく聞いてあげないと怒られちゃうし」
「……トレーナーさんも大変そうですね、お仕事頑張ってください」
「ありがとう、君も仕事頑張って!」
「はい、それでは」
トレーナーさんの前でいつも見せていた「明朗快活のお祭りウマ娘」として振る舞えていたか少し心配になる。
久しぶりにトレーナーさんに会えたのは嬉しかったけど、少しさみしかったな。あの娘、どこかあたしに似ていたし、少しモヤモヤする。あたしはトレーナーさんが好きだ。今も昔も。だからこの思いを諦めきれないでいるし、トレーナーさんがトレーナーの仕事で他の娘とトレーニングしていることが少し嫌と感じちゃう。
どうすればいいんだろう。
ホント、トレーナーさんって、罪な人だよなあ。
わたしの本当の気持ちを知らないで気軽にわたしと接しちゃうんだから。
キングヘイローの場合
「あら、久しぶりね」
「お、キングじゃないか。久しぶり」
キングととあるパーティーで再会した。
「貴方もこのパーティーに招待されていたなんて知らなかったわ」
「ああ……今の担当もお金持ちらしくてね……なぜか参加することになったんだよ」
「なるほどね。それで?当然貴方は今も一流のトレーナーであり続けているのよね?」
「もちろん、最近はG1取ったよ」
「……っ。そう。それは良いことだわ」
一瞬キングが苦虫を噛んだような顔を見せる。
「あの、こんばんは」
見覚えのないウマ娘が会話に入ってくる。
「こんばんは。もしかして今の彼の担当?」
「はい、そうです」
「こら、勝手に割って入っちゃ駄目でしょ?……すまんな」
「いえ、構わないわ……」
「すいません。トレーナーさん。私、キングヘイローさんと一度話してみたくて……」
「……嬉しいこと言ってくれるわね」
「キングヘイローさん!今度私に経営について教えて頂けませんか?」
「はい?」
確かに今のキングはお母さんの会社を継いで、勝負服のデザインの会社の社長をやっている。
「いや、迷惑でしょ?」
「問題ないわ。予定は後で連絡して合わせましょう」
「解りました。ありがとうございます!」
「……いいのか?」
「もちろんよ、キングの一流の講義、見せてあげるんだから」
「そっか……頑張れ」
「もちろんよ、ところでトレーナー─────」
「トレーナーさん、あっちの料理すごく美味しいですよ一緒に食べましょう!」
「え?あれ?え?」
腕を引かれてキングと離れる。
その時少しだけキングが悲しそうな顔をした気がした。
まったく、私は「一流」なのよ?どうしてあそこでトレーナーを引き止めることができなかったのかしら?あの後結局有耶無耶になってしまったわ。トレーナーを食事にでも誘おうと思ったのに……思えばいつもそうだったわ。勇気を出そうとしてためらっているといつも失敗してしまう。……卒業式の日、トレーナーに思いを伝えようとしたけども、それも叶わなかった。私はどこまでいってもうまくいかない。それで何度も辛い思いをしてきた。その度トレーナーが励ましてくれた。私はあのことを今でも忘れていない。だから、トレーナーへの思いも諦めるわけにはいかないわ。
私は不屈の象徴よ。