「トレーナーさん、初詣にはもう行きましたか?」
「ああ、そういえば行ってないな。……年末年始の混雑が嫌で後回しにしてたな」
「奇遇ですね。私もまだ行ってなかったんですよ。……その。良ければ一緒に行きませんか?」
「いいね。じゃあ今度の日曜日とかに行こう」
「はい。分かりました」
─────
という経緯でサトノダイヤモンドと初詣に行くことになった。
「しかし……まだ結構混んでるな」
正月からもう一週間以上経っていたから、てっきり神社は空いているものだと思っていたが、結構人がいる。
「トレーナーさん、おお待たせしました」
「いや全然待ってな─────」
サトノダイヤモンドの姿を見たことで言葉を失った。
髪は後ろで束ねていて、少し大人びた印象を与える。そして緑色を基調とした振り袖が落ち着いた印象を与え、俺が彼女を中学生であると知らなければ、多分普通に何処かのモデルさんとか女優の方だと思っただろう。
「どうです?似合ってますか?」
サトノダイヤモンドは少しはにかみながら言う。それが今度は、大人びた装いと良いギャップになって、俺の心の中のアグネスデジタルが尊死をしている。
「ああ……とても似合っているよ」
「それは良かったです……」
「じゃあ行こうか」
「はい」
神社の境内に入ると、屋台が出ていた。「焼きそば」とか「たこ焼き」とか、デカデカと文字が書かた、赤や黄色の屋台が道沿いに広がっている。
「まずは本殿でお参りするかな?」
「そうですね。たしか、ここの神社は仕事や学業、恋愛など幅広く参拝することができるらしいですよ」
「へえー」
この神社はダイヤに選んでもらったから特に知らなかったけど、そういう場所なのか。
本殿の、賽銭箱の前に立つ。5円玉を入れて、二礼二拍手一礼をする。もっと細かいルールがあった気がするが、そこまで詳しくないので一般的な作法をする。
「……お願いします」
隣からつぶやく声が聞こえる。真剣に願っているのだろうな。
─────
「何をお願い事したの?」
「それは……秘密です。口に出すと叶わないこともあるらしいですからね」
「そっか……じゃあ俺も言わない」
─────
「おみくじ、引いてみませんか?」
「いいね。よし、今年の運勢を占ってみるか」
100円払って箱から一枚取り出す。
「さあ……何だ?」
【吉】
仕事:うまくいく。
学業:注意せよ。
待ち人:すぐ近くにいる。
恋愛:問題なし。なるようになる。
良かった、「トレーナーとして」仕事運は問題なさそうだ。……しかし待ち人がすぐそこにいるのも気になるけど、一番は恋愛だな。そろそろ、「そういうこと」も考えないといけない年齢になってきたけど、「問題ない」とはいったいどういうことだろう?
「ダイヤはどうだった?」
「はい、大吉でした」
「それは良かった。俺は吉だよ」
「そうなんですか?少し見せてください」
「いいけど。ダイヤの方も見せてくれる?」
「もちろんです」
互いにおみくじを交換してみる
【大吉】
仕事:うまくいく。ただし健康に気をつけるべし
学業:問題なし。計画的に進めよ。
待ち人:すぐそこにいる。
恋愛:慎重にするが吉。
……偶然にも「待ち人」はすぐそこに居るようだ。それ以外は結構違っていたりする。
仕事運の「健康」に気をつける、か。なんとなく大事そうな気がする。
「トレーナーさんも待ち人はすぐ近くにいるんですね」
「そうだね。……この年になってきて思うけど、やっぱりいい加減いい相手を見つけないとだよなあ……親も安心させたいし」
「そうなんですか?」
「うん。俺はトレーナーになるために恋愛とかしてこなかったからさ、結婚相手とか見つからなくて心配だって、何回も親が言ってくるんだよ」
「それは……大変ですね」
なぜかサトノダイヤモンドは少し明るいトーンで言う。
「ま、あくまでもおみくじは指針みたいなものだとして、頼り切りになるんじゃなくて、自分でしっかり行動しなたほうが良いね」
「そうですね」
─────
「それで、この後はどうするの?」
「そうですね……この近くにウマ娘の銅像があるらしいです。なんでもレースの必勝祈願ができるらしいですよ」
「それは行ってみたいね」
─────
「ここか……」
本殿から少しだけ離れているため人の姿は見られず、周りには俺とダイヤだけだ。そのウマ娘の銅像は、右手を差し出すようなポーズをしている。
「これに握手すると良いらしいですよ」
「なるほど」
軽く銅像の手を握る。やはりと言うべきか、少しだけ冷たい。まあ銅像だから当たり前か。
「じゃ、ダイヤも」
その場を譲った。
ダイヤ握手している時に、銅像近くの立て札に目が行った。
「古代の名ウマ娘。一日で千里を駆けたという伝説がある。このウマ娘がそこまでの力を出せたのは、神様の使いだとも、愛する人がいたためだとも言われている」
凄いウマ娘だったのだろう。……愛する人がいたため、か。もしかしたらトレーニングに応用できるかも?
「トレーナーさん終わりましたよ」
「お、そうか……ダイヤ、つかぬことを伺うが」
「はい?」
「君にい愛する人はいるのか?」
「はい!?」
すごい困惑した顔をしている。
「ああ、ゴメン。このウマ娘は、どうやら愛する人のために走ったとかで、伝説になったそうだから、もしかしたらそういう力があるのかなって」
「そうですね……た、多少はあります」
うつむきながらダイヤが答える。
「そうか、それは良かった」
「その、と、トレーナーさんにはいないのですか?」
「俺?俺はなあ……正直今はダイヤの相手をしていたいし」
「それって……?」
「君のトレーニングを最優先したいってことだけど?」
「そ、そうですか」
今度はダイヤが少し苦い顔をしている。どういう心情なんだ、それ。
「まあいいです。今年もよろしくお願いします、トレーナーさん」
「こちらこそ、今年もよろしくお願いいたします」
「「……」」
「「フフッ」」
お互いにおかしく思えてしまい、笑う。
今年も、安らかな年でありますように。