俺はトレセン学園の前の交番で巡査をしている。日々生徒が安全に過ごせるように、仕事をしているのだが……
「そもそもウマ娘のほうが圧倒的に身体能力高いんだから俺たちいらなくないですか?」
「その気持ちはよーく分かる」
同じく駐在している巡査長が言う。
「でもなあ……生徒だって思春期の女子だ。安全を彼女ら自身に任せるのは危なすぎるんじゃないか?」
「なるほど、確かにそうですね」
『すいません。学園の北門で不審者を見つけました』
新人から入電が入る。少しだけ空気が変わった。小さな交番内がピリつく。
「ちなみに接触は?」
『一応今職質しています。全身が発光していて─────』
「今すぐ解放してあげなさい」
めちゃくちゃ思い当たりがある人間だった。
『え?でも怪しくないですk─────』
「怪しくない。その人はそれが標準装備だから」
『そ、そうですか……分かりました』
「……ふう」
「そういや新人に言うのを忘れていたな」
巡査長がハッハッハと笑う。
「でしたね……アグネスタキオンさんのトレーナーさんは光っているって」
「あと他に個性的なトレーナー・ウマ娘はいたか?」
「そうですね……ミホノブルボンさんのトレーナーさんは顔が厳ついですけど、カタギですね。他には、変なグラサンを付けた、自称医者は捕まえるようにと学園から言われてます。あとは……黄色い帽子の、見た目は小学生に近い人は、URAの幹部さんであることぐらいですかね」
「そうだな……あと理事長も見た目が未成年に見えるから気をつけるように言っといてくれ」
「分かりました」
『すいません。またまた不審者見つけました』
再び新人から入電が来る。
「一応聞くけど、見た目はどんな感じ?」
『桃色の髪のウマ娘で、鼻血を出しながら倒れています』
「あ、それ平常運転だから、学園の保健室に連れて行ってあげて。あと不審者じゃなくて要救助者だね」
『え?明らかに致死量くらいの鼻血ですけd』
「大丈夫その人通常の人の700倍くらい鼻血が出るから」
『……わかりました』
「次はどんなのが来るか楽しみだな」
「楽しまないでください、一応本人は大真面目ですから」
「ハハッ、そうだな」
『すいません。今度こそ不審者です』
「どういう人ですか?」
『婚姻届を大量に捨てている人がいました』
「あ、それはウマ娘からのアプローチが激しすぎるトレーナーだから大丈夫です」
『……分かりました』
『今度こそ不審者です』
「……どういう人ですか?」
『芦毛のウマ娘で、なんか凄い大きい金色の船を担いでいます』
「もしかして『これがホントのゴールドシップちゃんだぞー!』って言ってたりしませんか?」
『どうしてわかったんですか?』
「その人はそれが通常運転なのでほっといてください」
『分かりました』
『絶対にあれは不審者です』
「ほう、どういう人?」
『「ついてく……ついてく……」ってストーキング行為をしています』
「あー、それは見れてラッキーだね。あれはドクターイエローみたいな感覚で見ることをおすすめするよ。その場からすっと離れてね」
『? 分かりました』
『すいません、さっきコンビニでお昼を買っていたんですけど』
「どうかした?」
『「パクパクですわー」と言いながらあり得ない量のコンビニスイーツを買っているウマ娘がいました。これって大丈夫なんですか?』
「あー、それもその人の通常運転だね。一応その写真を『メジロマックイーン』という名前のウマ娘のトレーナーさんに送っておいてね」
『……分かりました』
『すいません。今度こそ不審者です』
「どういう人?」
『セガサ◯ーンを配っているウマ娘がいます』
「あー、その人も通常運転で事件性は無いので一個だけ貰ってきてください」
「……分かりました」
─────
この交番に配属されてもう2年が経とうとしているが、未だにこの学園はおかしな所がたくさんある。偶に学園から爆発音がしたと思ったら実験に失敗しただけとか、普通の学校じゃまず起きないことがバンバン起こる。だからあんなに個性が強くて光り輝く生徒を輩出できるのだろうけど。
「あのー……すいません」
誰かが交番の前に来た。
「はい、どうされました?」
「実は道に迷っちゃって……駅までの道ってどこでしょうか?」
少しだけ年の取った女性が困った顔で言う。警察官に道案内はお手の物だ。
「駅までの道ですね……ここを真っ直ぐ進んで、最初の信号を右に行けば着きますよ」
「ありがとうございます」
「あ、どうせなら一緒について行ったら?」
巡査長が提案する。
「それはいいですね。わかりました。少し離れます」
「いってらっしゃい」
─────
「今日は学園に用がありましてね」
「そうなんですか……もしかしてお子様が学園に通ってらっしゃるのですか?」
「そうなのよ!最近たくさん活躍してくれるのは嬉しいけど、やっぱり偶には会いたいなって思ってしまって……」
「なるほど……」
子供想いの方のようだ。
─────
「着きましたよ」
「ありがとうございます」
「当主様ー!!」
黒いスーツを身にまとった男性が迎えに来る。黒スーツに黒ネクタイ、グラサンはまるでSPのようだ。
「どこへいかれていたんですか?」
「ちょっとだけ、子どもたちの顔を見たくてね」
「そうですか……でもこれ以上一人になるのはヤメてください!貴方は『メジロ家の当主様』なのですから」
え?この人メジロ家の当主の人?
そんなにウマ娘のレースには詳しくは無いけれど分かる。あの名門メジロ家だ。
「ああ、おまわりさん。ありがとうございました」
「いえいえ……」
少し呆然としながら返事をする。まさかずっとここまで来たのが名家の当主だなんて……
─────
あの後、「お礼がしたい」と言われて半ば無理矢理に何処かに連れ出されそうになったが、あくまでも仕事だし、メジロ家と関わるのは怖すぎるので固くお断りさせて頂いた。
時間はもう夕暮れ時で、学園の生徒もちらほら見かける。
「あ、お巡りさん。こんにちはー!」
「こんにちは」
すれ違いざまにトレセン学園のジャージを着た生徒に挨拶される。なんだかこういう時が一番警察官をやっててよかったなと思える。
交番に帰ってきた。
「お、おかえり。遅かったじゃん」
「いや、ちょっといろいろありまして……」
「あ、先輩!あの人がトレーナーだってもっと早く教えてくださいよ!お陰でとっても申し訳なかったんですから」
新人が交番に戻っていたようで、カップ麺を啜りながら言う。
「ごめんごめん」
─────
取り敢えず事の顛末を話した。
「まじか……そんなすごい人だとは思わなかった……」
「先輩なにかもらえそうだったなら貰えばよかったじゃないですか!?」
「だめだろ。俺たちはあくまでも警察官なんだからな」
「むう……」
後輩が納得のいかない顔をしたところで、学園から電話が入る。
「どうしたんです?」
「どうやら学園で理事長の飼っている猫が行方不明になったらしい」
「もしかしてそれを探すんですか?」
「まあな」
「絶対時間かかるやつじゃないですかー?」
「しょうがない。行くぞ」
トレセン学園前の交番に勤めていると面白いことにしか遭遇できないのは一回上司に訴えたいな。そう思いました。