「トレーナーさん……こんにちは……」
自室の玄関でマンハッタンカフェを迎える。
「お、こんにちは。よく来てくれたね」
「いえ……トレーナーさんのためならいつでも駆けつけますよ……」
「嬉しいことを言ってくれるね……さて、早速相談があるんだけど……」
「おじさーん遊んでー!」
俺の身長の半分もない、小さな子どもが奥からでてくる。
「……トレーナーさん子供いたんですか……?」
少しだけマンハッタンカフェの視線が冷たくなる。
「違う違う!これは俺の甥っ子!……親戚から暫く預かってくれって」
「なるほど……」
「でも俺子育ての経験とか無いからさ、カフェに手伝ってほしくて」
「……分かりました。この子は5歳くらいですか?」
「そうだね」
「おねーちゃん誰ー?」
「私は……マンハッタンカフェです」
「もしかしておねえちゃんウマ娘?レースに出ているの?」
甥が目を輝かせる。それにカフェは微笑んで応える、
「そうですね……」
「すごーい!」
「フフ……」
カフェが少し恥ずかしそうに笑う。
─────
「あ、おじさーん、この部屋つまんない……」
甥は頬をぷくーっと膨らませて不満を言う。
「えー?じゃあどうするか……」
「あ!おじさんの学校みたいー!」
「ええ!?」
─────
という経緯でトレセン学園を案内することになった。
「ここが練習場、実際のレースのコースと同じように作られているよ」
「わあー!すごい!」
「……楽しそうですね……」
「ああ……」
遠くで駆け回る甥を見る。ああいう小さい子供を見ていると自分も年をとったなあと思ってしまう。
「……トレーナーさんは、子育てとか、興味が無いんですか?……」
「そうだね……子供は好きだけど、実際育てられるのか、不安なんだよなあ……」
「……そうですか……その時は手伝いますよ……」
「? ……ありがとう」
どういうことかイマイチわからなかったが取り敢えず感謝した。
「おやあ?お二人さん、何を見ているんだい?」
突如として背後から声をかけられる。
「……タキオンさんですか……どうかしましたか?」
少し警戒しながらカフェが言う。
「そう警戒しないでくれ……どうやら小さいこどもが居るらしいから」
「実験に使うんですか?……」
「そんな恐ろしいことはしないよ!……まったくカフェは私を何だと思っているんだい?」
「……強いて言うならマッドサイエンティストでしょうか?」
「……はは、酷いね……私は単純に子供が好きなだけだよ……あの子かい?ちょっと声をかけてくるよ」
アグネスタキオンは甥の元へ駆け寄る。遠いので何を話しているのか分からないが、なんとなく打ち解けているようだ。
「以外ですか?……」
思っていたことをカフェにあてられた。
「……まあね」
「ああ見えても最低限のことは守る人間ですから」
「……そっか」
なら気軽にタキオンのトレーナーさんへの実験は辞めておいてあげてほしいな。
「おっ、カフェとそのトレーナーじゃん、どしたの?」
今度はジャングルポケットがやってきた。
「タキオンさんが奇行に走らないか監視しています……」
「ふーん……あれ?なんかもうひとり居る?」
「ああ、それは俺の甥」
「なるほどね……俺も混ぜてくれー!」
今度はポッケも甥の元へ向かう。なんだよアイツめっちゃ人気じゃん。
「行っちゃいましたね……」
「だね…………君は良いの?」
「私は別に……」
その割には尻尾がだいぶ荒ぶっていますが?
『イ ッ テ コ イ』
ふと、誰かから囁かれたような、感情と言うべきものが脳に入ってきた。
……「お友達」さんが言うっているのかな?
『カ フ ェ ヒ ト ミ シ リ』
……なるほど。
「ねえカフェ。一緒に行ってみない?ほら、あの二人が変な事しないようにさ」
「……わかりました」
少し緊張した顔でカフェが答える。
「おーい……ってあれ?」
甥の元に向かうが、何故か遊んでいる感じはしない。
「んー。やっぱりここのこーいうところが走りづらいよー」
「ほう、確かにこのコーナーでは足を踏み込んだほうが良いかもしれない」
「なるほどー……あ、カフェのトレーナー。こいつトレーナーの才能あるぜ」
甥がガッツリ二人に指導していた。しかも俺でも分かるくらいわかりやすい。嘘やろ……
─────
あの後、俺の部屋に戻った。
「おねーちゃんこの絵本読んでー」
「『ももたろう』……ですか?」
「うん!」
「分かりました……『むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが……』」
カフェが絵本の読み聞かせを始めた。カフェの少し低い声が相まってとても快適な朗読だ。……やばい眠くなってきた。
起きていようかと思っていたが、カフェの朗読が俺の睡魔を強くした。意識が深いところに潜っていく。
─────
「『ももたろうはお宝を持て帰って、みんなと楽しく過ごしました、めでたしめでたし』……これで良かったですか?」
「うん!ありがとう!」
「……トレーナーさん?」
どうやらトレーナーさんは寝てしまったようだ。
「そうだ、おねーちゃん、おねーちゃんはおじさんの事好き?」
「は、はい?」
それは、一体どういった質問なのでしょうか?
「……そうですね……嫌いではありませんし……尊敬もしていますし……そうですね……多分、す、好きですね」
「ホント?僕もおじさんの事好きなんだ!」
……甥っ子さんの答えを聞いて、どういう意図の質問だったのか理解しました……
「おねーちゃん顔赤いよ?風邪?」
「ッ……」
トレーナーさんが寝ていて本当に良かったと思いました。