─────ジャングルポケットの場合
「おう、邪魔するぜ」
「こんにちは」
ずかずかとトレーナー室にジャングルポケットが入ってくる。
「……何だそれ」
俺がちょうど背中の古傷に湿布を貼っていたところを見られた。
「これ?これは……まあ、昔にちょっといろいろあってね……」
「『ちょっと』?これのどこがちょっとなんだよ?明らかに何回も打撲……」
いつもとは違って、ジャングルポケットは少し怯えて怖がるような表情をみせる。
「親がね…………今はもう死んじゃったけど」
みなまで言わなくても分かるが、俺は親からあまりいい扱いを受けていなかった。
「……お前は辛くないのか?」
「辛いっちゃ辛いかもしれないけど……それでも世界に一人しかいない親だからね、恨むようなことはないよ」
その言葉を聞いて、ポッケは驚いたとも、怒っているとも、取れるような表情をする。でもすぐに顔をうつむかせてこう言った。
「…………悪ぃ。こういうことは聞かないほうがいいよな」
「ううん。大丈夫。それに、謝るべきは俺の方だよ。……実を言うと、最初出会ったときの君が、どうも昔の俺に似ていてね」
「……それは、どういう」
「なんというか、周りから見れば、何処まで行っても手のつけられない問題児で、そして当の本人だれも自分をわかってくれない。みたいな感じだった。……俺が家庭に事情があって、周りから冷たい目で見られていた時に、間違え自分の心を閉ざしていた時に、近いなって思っちゃって……」
「……」
少しポッケが目線を下にする。どこか思うところがあるのかもしれない。
「でも、今は全然そうじゃないと思っている。君はとても優しくて、いい娘だよ。だから……これも、いつか言おうと思っていたんだけど、君は、俺みたいな大人の近くに居るべきでは無いんじゃないかな」
「……はぁ?それって……おい、それってどういう意味だよ!!」
突如として俺の眼の前に顔を寄せるポッケ。
「そのままの意味だ」
「ふざけんな!!!オレがここまでこれたのは紛れもないお前のおかげだ!今更になってそうそう簡単に手放せるかよ」
「でも」
「でもじゃねえ!……わかった。じゃあオレが証明してやる。お前がオレに必要な存在だってこと。オレがレースに勝って、オレにはお前がふさわしいことを証明してやるよ」
突如として彼女の雰囲気が変わった。
「……それで、良いんだろ?」
ポッケの目から涙が溢れる。
どうやら俺はまた、間違えてしまったようだ。
─────トウカイテイオーの場合
「トレーナー!今日もトレーニングよろしくね!」
「もちろん。じゃあ先に用意してまっているから」
「はーい!」
ボクのトレーナーはスゴい。このトウカイテイオー様のトレーニングをしっかりと考えてくれるし、ちゃんとボクへの気遣いもできている。
ピロン、と通知音が鳴った。てっきりボクのスマホかなと思ったらどうやらトレーナーのスマホみたい。……もしかしてトレーナーの彼女とか?いや、ないない。だってトレーナーはボクに夢中だもんねー。
……でもやっぱり気になってきちゃうな……少しくらいなら見ても……
「妹 今月の分の金よこせよクソ兄貴」
……なにこれ?どういうこと?トレーナーの妹さんが、トレーナーに金をたかってるの?どうして?
再び通知が来る。
「妹 てめえのせいでどれだけ私が生活に困っていると思ってんだ」
……本当にどういうこと?
「あ、やばい今月の分送るの忘れてた……ってあれ?」
トレーナーが部屋に戻ってきていた。
「もしかして……みちゃった?」
「……うん」
「そっかー……このことは他の人には内緒でお願いね?」
「……トレーナーはどうしてこんな事してるの?」
「え?……それはね……昔、俺が家族と海でバーベキューしに行った時に、俺が溺れて……で、それをみて助けようとした両親が一緒に溺れて……俺だけが生き残って、妹と俺だけになってしまったからだね」
「それで、どうしてトレーナーの妹はトレーナーにお金を要求しているの?」
「それはね、妹には昔夢があってね、美容師になることだったんだけど、両親が亡くなって、お金が無くて、妹はその夢を諦めたの。で、俺がそもそも溺れなければ妹は夢を追えたし、ということで俺が毎月妹に金を渡している。昔じゃ無理だったけど、でも今はそういうことができるからね」
「……ぇ」
トウカイテイオーは驚いた表情をみせる。でもその驚きには少し自分に対する怒りもあるようだ。
「ボクになにかできることは無いの?」
「残念だけどないよ。でもありがとう。俺はそのテイオーの気持ちが嬉しいよ。……それにこれは他の誰でもない、俺が悪いんだよ」
「そんなことはないよ!トレーナーの親はトレーナーがそう思ってほしくて助けたの?」
「……」
「おかしいよ、こんなこと……」
テイオーの顔が涙やら鼻水やらでぐしゃぐしゃになる。
「なんでテイオーがそんなに泣くの?」
「だって……だって……」
まあ、何となく分かる。自分ではどうすることもできないと、自分の無力さに嘆く。嘆き悲しんだって状況は変わらないのに。
俺もそうだったな……