にんじん2本(ウマ娘短編集)   作:のるどすとりーむ

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過去作の中で一番長いのですが、ボツにしました。
ここに供養します。

※モブウマ娘注意
※展開暗め


7本め「もう一度、あの芝へ」モブウマ娘

「きゃああっ」

 トレーニングルームに悲鳴が響き渡る。

「どうした!?」

 急いで彼女の元に向かう。少しでも目を離すべきではなかった。

 視界に、倒れている担当ウマ娘を見つける。

「おい、大丈夫か?しっかりしろ!」

 

 俺はこの日のことを深く後悔している。

 

 

「本当に、申し訳ありませんでした」

「……いえ、貴方の責任ではないですよ」

 松葉杖をつきながら、彼女は柔らかい表情を浮かべる。それを見るとより一層、胸の奥がきつく締められる。

「ですが……」

 あの後、彼女は病院へ搬送された。診断結果は、「大腿部の骨折」だった。医者曰く、「もうレースに戻るのは不可能に等しい」とのことだ。 私は、彼女のレース人生をぶち壊してしまったのか、

 あの場で何があったのか、実はあのトレーニング器具に整備不良があった。ちょうど彼女が使っていたときに、器具がバランスを崩して倒れてきたらしい。

「ですが、貴方を監督する立場として、しっかりと確認するべきでした。本当に申し訳ありませんでした」

 

 彼女と別れた後、学園長室へ赴く。外は雲が厚いようで、廊下は仄かに暗い。

 ドアを三回ほどノックする。

「どうぞ」

「失礼します」

 

「君か……謝罪、学園長として謝る。本当に申し訳なかった」 

「いえ、私ではなく、彼女に謝ってください」

 理事長は苦しげな表情をしながらうつむく。

「そうか……ところで君はもしかして今日……」

「はい、辞表を届けようと思い、ここへ参りました」

「そうか……そのことなんだがな、たづな、あれを」

「はい」

 たづなさんから一通の手紙が渡される。

「伝言、骨折した彼女からの手紙だ。君が辞めたいと言い出したときに読んでほしいと言っていた。それを読んでからでも辞任の意志を考えても遅くは無いんじゃないか?」

「しかし…………わかりました」

「あと、追加で君はしばらく自宅待機をしてくれ。君は一度心を休めるべきだ」

「わかりました」

 

 

 

 ピピピッ、と目覚ましがなる。どうやら先週のことが夢に出てきたようだ。

 しかし、朝の早い時間帯に目覚ましが鳴るのも、なんだか心苦しい。彼女と早朝からトレーニングするために、苦手な朝を克服しようとしていた頃が思い出される。

 

「手紙……」

 夢に出てくるまで存在を忘れていた。開けずに机の上に放置していたのだった。

 

 薄いピンク色の紙には、見慣れた丁寧な字で内容が書いてある。

 

 トレーナーさんへ、

 これを読んでいるということは、トレーナーを辞めたいのでしょうか。あの事故で私は走れなくなったと、医者から診断を受けました。トレーナーさんも多少は聞いていると思います。しかし、私は走ることを諦めてはいません。貴方が、契約する日に言った、「君を最高のウマ娘にする」という言葉が忘れられないからです。正直私は、他の娘と違って、特筆すべき才能とか、特徴とかはありません。ですがそんな私に貴方は全力で向き合ってくれました。私もそれに応えられずにはいませんでした。まだ私は諦めていません。ですからどうか、そんな諦めの悪い私を待っていてくれませんか?今回のことで貴方に深い傷を負わせてしまったかもしれない。私のことが嫌いになったかもしれない。でも、どうかお願いです。私のトレーナーは貴方だけなんです。私が元気に走れるようになるまで待っていてください。

 

「……」

 なぜ君が私の心配をするんだ。君は悪くない。私が、あの時、あの場所で君を守れなかったのが全部悪いんだ。

 視界がどんどんぼやけてくる。胸が熱くなる。ポタ、ポタ、と手紙に水玉模様ができる。

 

 担当ウマ娘を心配させるなんて、トレーナー失格だ。でも、そんなトレーナーを待っている人がいるんだから、もう一度挑戦してみるのも、悪くないのかもしれない。そう思えた気がした。

 

「本当に大丈夫なんですか?」

「心配しすぎだ、たづな」

 翌日、理事長室に赴いた。自宅待機の間、ずっと音信不通だったらしい(記憶に無い)ので、赴いたときは、とても驚かれた。

「やらせてください」

 理事長は何かを察したのか、口角を上げて言う。

「分かった、じゃあまずはたづなの補佐をしてくれ」

「私ですか?」

 たづなさんが驚いた表情を見せる。

 

「じゃあ、まずはこちらと、こちらのレース・イベントのチラシを作っていただけますか?」

「わかりました」

 

 レースの概要を見る。芝中距離で右回りか、彼女と適性があっているな。もし日程が合っていれば、参加できそうだな。こっちのレースは……

 

 気づいたら彼女のレースのローテーションを考えていた。いかんいかん、このままではチラシの作成が終わらない。……ふと考えたのだが、たづなさんがこの仕事を私に与えたのは、もしかして彼女のレース復帰を見越して?いや、そんなことは無いか、

 

 

 

 仕事に復帰してからざっと3ヶ月経った。心身ともに落ち着いてきた。しかし、彼女のことがどうしても気がかりになってしまう。噂によると、リハビリは順調らしいが……偶に胸の奥がズキンと痛くなる。

 

「トレーナーさん、お仕事順調そうですか?」

「ええ、もう少しで終わりそうです。たづなさん」

「そうですか、じゃあこの後食事にいきませんか?」

「いいですけど……?」

 

 仕事を片付けたあと、たづなさんと居酒屋に向かった。

「生2つと、枝豆ください」

「かしこまりました」

 

「ふーっ、やはり生徒さんと相手をしていると、ちょっと疲れますね」

 たづなさんは、肩を回しながら言う。

「そうですね……特に最近はG1レースが多いので、生徒も少し気が立っているようですね」

 

「……トレーナーさんはなんでトレーナーになろうと思ったんですか?」

「……あー、そうですね。やっぱりとあるウマ娘のレースで感動したからですね」

「感動?」

「そうですね、確か、パーフェクト?そのような名前でしたね。名前の通り凄い走りで、一目惚れしちゃいましたね」

「えっ……」

 たづなさんが驚いた顔を見せる。

「あっ、いや、その……私もその娘と縁がありまして、偶然ですね」

「ハハ、そうですね」

「ハハハ……」

 

 その後、何故かたづなさんの飲むペースが上がり、泥酔していた。

 「うへへ〜。とれーなーはん〜、もっと飲みませんか〜?」

 「いや……流石にこれ以上はまずいですよ」

 

 お会計を済ませ、たづなさんを介抱しながらお店を出る。

 

 「たずなさん、しっかりしてください……」

 「うへへ〜」

いつもの真面目な雰囲気はなく、完全に泥酔している。

 

 街灯に照らされる商店街を、二人で通る。

 

少し焦りがある。今ここでこうしていいのだろうか。あの時、あの瞬間から自分の時計は止まったままのようだ。

「……まだ、自分のことを許せてまふぇんか?」

「!……ええ、まあ、そうですね。あの時こうしてればな、と後悔はあります」

 いきなり言われたので焦った。たづなさんは俺の心を読む能力でもあるのだろうか?

「……私も後悔はあります。あの時こうしていれば、あの時もっと自分に力があれば、そう考えてしまいます」

「……」

「でも、やっぱり、私達は今を生きるしか無いのではないのでしょうか?私が落ち込んでいた時に、とれ‥友人が『今はそれが後悔かもしれないけど、これからそれを受け入れて、動かないと君はあの時に囚われてしまう』と」

 

 頭に酒が回っているのか、少しだけ言葉を理解するのに時間がかかった。でも今の自分を表しているとすぐに気づいた。「時にとらわれる」まさにそうだ。あの光景が常に脳裏に浮かび、彼女のあの悲鳴が常に耳の奥にあるように感じる。世界がとても暗く、重く見える。

 

「それに、あの娘はもう囚われていないんじゃないれすか?」

「えっと‥‥それはどういう意味で?」

 

「さあ?」

たづなさんは少しいたずらっぽく笑う。彼女とは私が新人トレーナーの頃からの付き合いだが、彼女にはいつも敵わないな、と常に思い知らされてきた。もちろん、今もだ。

 

 

「おはようございます」

「おはようございます……トレーナーさん」

翌朝、校門を訪れると、少しだけ顔色の悪そうなたづなさんが立っていた。

「二日酔いですか?」

「ええ、まあ。昨日は申し訳ありませんでした」

「いえいえ」

「その……昨日、私変な事言ってないですよね?その、トレーナーさんに対して」

「えっと……それは、その……言ってないです」

「……本当ですか?」

 たづなさんから疑うような目を向けられる。

「はい、言ってないです」

「そ、そうですか、それは良かったです。……ああそうでした。今日はトレーナー室に赴いてもらえますか?」

「トレーナー室ですか?」

 今は担当がいないので行っても意味がない気がする。

「ええ」

 

「そこで、きっと貴方の時計はまた動き始めますから」

「?」

「いえ、なんでもないです」

 

 

 言われた通りにトレーナー室に向かう。

 ドアを開けると、優しい風が自分の体を撫でた。窓が開いているようだ。

  一番初めに目に入ったのは、懐かしいと、ふと思ってしまった、彼女の姿だった。

「お久しぶりです、トレーナーさん」

「え……」

 自然と目頭が熱くなる。彼女は柔らかい笑みを浮かべたままこちらを見ている。言いたいことがたくさんあったのに、言葉が詰まる。

「私、リハビリ頑張ったんですよ?お陰で走ることもできます!」

 視界がぼやけてくる。再会くらいしたときくらい笑顔で迎えられない、俺はなんてダメなトレーナーなんだ。

「よかった……本当に良かった…………」

 声を押し殺して涙を流す。本当にこんな奇跡があるのだろうか。今目の前で彼女は元気に立っている。

 

「トレーナーさん」

 

「一緒に、戻りましょう」

 

「もう一度あの芝へ」

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