財部真琴という人間   作:otamamata

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第1話

1

東京。ここは日本の首都であり、世界有数のメトロタウンである。

そんな大都会、たくさんの人が行き交い、働き、生活が営まれている。その分、人々の負の感情は「呪い」として溜まっていく。

 

「で?どこなの?」

「金は?」

「あんたはいっつもコレだ。最強呪術師五条悟先生が聞いてるのに答えてくれないなんて」

「答えないなんて言ってないよ。金は?」

 

 透き通るような白髪をボリボリとかきながらあくまで困った風にしている男――五条悟。

 五条は退屈そうにパソコンを眺めている目の前の女に話しかけた。

 

 

「――ったよ!学長に頼んで月末に支払うようにするから。」

「毎度。」

 

 やっとこちらを向いた女は、興味がなさそうに言う。

 

「…ちょっと待ってろ。メモを渡す。読んだら燃やす。」

 

 適当な紙の裏に(レシートの裏だった)殴り書きされていたのは、「埼玉県さいたま市 飯塚隆 45歳」。

 

「ありがと。こいつやばいの?」

「…私の見たとこじゃあ、相当ヤバいの産むよ。間違えても高専2年以下には行かせない方がいい。」

「ご忠告ありがとさん。また頼むよ」

 

 紙を女に返すと、女はライターでそれに火をつけた。火は紙をあっという間に焦がし消失させた。

 それを確認した五条は思いっきり伸びをしてから女の元を後にした。

 

 

 

 彼女――、財部《たからべ》真琴は呪いを祓う呪術師ではない。

 

 ただ彼女には特殊な能力があった。

 呪術が使えるわけでもない、呪霊が視えるわけでもない。

 彼女は、呪霊を産み出す親がわかるのだ。

 そして、その強さをあらかた把握出来てしまう。

 本来、呪霊というものは生み出されてしまってから被害が出て、呪術師がそれに気付き駆けつけ、祓うのだが彼女の力を使えば、親をマーキングしておくことで被害を最小限にすることが出来るのだ。

 なので呪術高専職員は時々このように財部 真琴の元を訪れる。

 

 

 

 

 だが、彼女の元を訪れるのは高専職員だけではない。

 

「……ねぇ、どこかいない?」

「……金は?」

「用意してあるよ。ほら」

 

 机に置かれた巾着袋の中には札束が2、3個入っていることが確認できた。それを手に取り、デスクの1番下に乱雑に入れると財部は椅子をくるりと来客の方へ向きを変えた。

 

「夏油傑も随分太客になったね。いいよ、どんなのが知りたい?」

 

「そうだなぁ。産むのはまだ先でいい。ただ、めんどくさそうな奴がいいな。わかるでしょ?」

 

 夏油傑と呼ばれた男はニッコリと微笑みながら言った。

 財部は、めんどくさそうなのって何だよめんどくさいのはお前だよと言いそうになったのをグッと堪えて「新宿の4丁目に月末頃 キャバレーで働いてる女がいる。名前は佐々木 しおり。特級ではないがめんどくさいぞ。捻くれてる。また取り込むのか。まぁ、健闘を祈るよ」と言った。

 夏油はそれに満足して「有難う。また寄らせてもらうよ」と踵を返した。

 

 

「……ところで、最近 悟は来た?」

 

「…仲直りでもするのか?」

 

「まさかね」

 

「私としては貴方達それぞれからお金をいただけた方が有難いのでその方が助かるよ」

 

 夏油が出ていくのを横目で確認して、財部はまたパソコンへと視線を向けた。

 

 

 

 

 

2

 財部はいつもパソコン画面で街のLive配信映像を見ている。渋谷スクランブル交差点、東京駅、新宿駅、横浜駅、大阪梅田――、どれも24時間眠らずに大勢の人が行き交う大都会ばかりだ。

 一見普通のLive映像だが、財部には違ってみえる。呪霊を産む「親」が視えるのだ。さらに、その「親」に関しては、その人の上に名前も視える。

 早速、渋谷スクランブル交差点にいたサラリーマンに目をつけると、名前を写した。――――山本 康二。

 そして、もう一台並んでいるパソコンでその名前を調べる。――――神奈川県厚木市××町×-×××-502

 どういうわけか名前を打つと住所や生年月日が出てくる。ハッキングしているのであろう。

 山本 康二の情報を打ち込んで、またLive映像へと目を向ける。

 所謂これが財部の仕事なのだ。

 

 

 

 17時30分。

 彼女のなかで決めた定時。ブラインドカーテンを閉めて、飲みかけのコーヒーを捨ててコップを洗って、パソコンをシャットダウン。

 世間と同じように彼女も帰路へ着く。

 帰りにコンビニへ寄ってミルクティーを買ったり、そこらのOLと変わりない。

 

「……お会計254円です。」

「これで」

 

先程夏油が置いていった巾着から手探りに一万円札を1枚出してレジへと渡す。パッと顔を上げてみたコンビニ店員はまだ垢抜けていない男性だった。

 ――小林 タツキ。20歳。

 大学生だろうか、フリーターかもしれない。彼も近々呪霊を産むであろう人物らしい。あまりにまじまじとみていると小林は「あの…僕何かついてますか?」と手グシで髪を整え始めた。

 

「いえ、まだ何も憑いてないので気にしないでください」

「…まだ?」

 

 別に言ってあげてもいいかと思うけれど、教えてあげたところで色々とめんどくさい。呪霊とは、呪いとは、1から教えてあげる義理もない。阿保らしい。

 ま、今度来たら五条か夏油にはサービスで教えてやらんこともないとは思ったが。

 

 

 

 

「……毎度毎度思うのですが、何故貴方はここへ帰ってくるのですか」

「近いんで」

「距離を聞いているのではありません。」

 

 大きくため息をつきながら、リビングテーブルの向かいに座っているのは一級呪術師の七海建人だ。

 

「……ダメというなら、家にあげなければいいんじゃないの?」

「……貴方には借りがあるので無闇に断ることは出来ませんが、出来るならば財部さん自身の自宅へ帰っていただいたいですね。……危惧するわけではありませんが、貴方と関わりがあると色々とお互いに面倒ごとに巻き込まれる可能性が高いかと思います」

「……それもう3万回聞いた。」

 

 これもいつもの会話だ。なんだかんだインターホンを鳴らすと開けてくれることを財部もわかっている。わかっているから来るのだ。しかも、玄関先に財部用のスリッパが置いてある。なんだったらこの時間にお風呂も沸かしてある。

 無駄なものがひとつもなくシンプルな部屋はどこか落ち着かなかったが今では家みたいなものだ。

 

「…どうせ泊まるんでしょう。私は明け方には家を出ますので。」

「呪術師って多忙だね」

「……人手不足ですから。貴方が高専側に来てくれれば随分と楽になります。どうですか」

「今の方が給料いいもん」

 

テーブルに札束の入った巾着を置くと、七海はため息をついた。

 

「夏油傑ですか。貴方はどちらの味方なんですか」

「金額に応じて、かな」

 

 ピーという音が鳴ると、七海はキッチンへと向かった。しばらくして、コポポポ...とお湯が注がれる音がした。同時に芳ばしい香りも。

 

「……」

 

 無言で置かれる白のマグカップは正面に座る七海と色違いのデザインだ。

 心から歓迎こそされてないが、毎回こうしてコーヒーを淹れてくれるのだ。

 

「ありがと。七海が淹れるコーヒーが1番美味しいよ」

「当たり前です」

「すっごい自信だね。…お礼に教えてあげる。本当は太客に教えるつもりだったんだけどね、ここ来る途中にあるコンビニのFriend martの店員、「親」だよ」

「……祓えと?」

「祓えなんて言ってないよ。ただ放っておいたら残業になるかもね」

「ご忠告ありがとうございます。……私は先程言ったとおり、明け方には出ますからソファーで寝ます。財部さんはベッドを使ってください。もう私は休みますから。それでは。」

 

 何も返事をしないことを肯定と取ったのか、七海はソファーに寝転んだ。

 財部は流石に申し訳ないと思い、リビングの照明を落とし、冷蔵庫から食べるものを少し拝借して部屋へと向かった。

 

「……結局、時間外で働いてるじゃん。」

 

廊下の扉が閉まったのを薄めで確認した七海は今度こそ束の間の休息をとることにした。

 

 

 

 

 

3

――明け方、ネクタイを締めて出勤する直前に財部がいる部屋の扉が少し開いていた。そっと覗くとベッドの隅で寝ている彼女がいた。

 

 彼女はもう少し色々と……いや、少しじゃないな…大いに改善点があるなと七海はため息をついてから家を出た。

 家の外には1台の黒い車が停車しており、七海がマンションを出てきたのを確認すると窓が開いた。呪術高専の補助監督を務める伊知地だ。

 

「おはようございます、七海さん。朝早くから大変ですね」

「ええ、朝早くから本当に大変です」

「……出発しますね」

 

 出発し始めて間もなく、目の前の交差点にFriend martがみえた。ふと思い出した。財部が言っていた「親

」のことを。時計を確認するとまだ時間に余裕はある。見るだけ行ってみるかと「そこのコンビニ寄ります」と端的に告げた。

 

「珍しいですね。何か買ってきましょうか?」

「いえ、結構。私が行かないといけないので」

「…は、はぁ…それでは車で待ってますので」

「お願いします」

 

 七海が店内に入るとやる気のない店員があくび混じりの「いらっしゃいませ」がレジの向こうから聞こえた。

 

彼ではなさそうだ。まだ時期が早かったか?と思いつつ、店内を一周した。すると、店のバックヤードから小さな子どもが顔を出した。

 その子どもはこちらを見てにっこり笑うが、大きな目はひとつしかない。――呪霊だ。

 財部さんが教えてきた呪霊なのだから、祓っておくに越したことはないかと思い、呪霊を手招きしてこちらへ呼んだ。

 

「こんにちは!お兄さんなぁに?」

「えぇ……少しだけ宜しいでしょうか?」

 

七海は呪霊の肩に手を置いて、手短に簡単にそれを祓った。

 なんてことない朝飯前だった。あの呪霊は4級以下だろう。

 

「ただいま戻りました」

「おかえりなさい。出発しますね」

「伊知地さん、コーヒーでもどうぞ」

 

伊知地は缶コーヒーを突然渡された。

 

「七海さん?!そんな申し訳ないですよ」

「…伊知地さんを労うために買ったわけではないので悪しからず」

「どういう反応したら良いんですか……い、いただきますね……」

 

 車はゆっくりと発進しだした。と、同時に雨がポツリポツリと降ってきた。

 車内は車のワイパーが動く音だけが聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4

 朝起きると七海建人はいなかった。いつものことだ。財部 真琴は別に何も気に留めずに自分の身支度をした。昨日のうちに洗濯しておいたシャツをアイロンなんてせずにそのまま袖を通した。2番目のボタンがほつれかけているが気にしなかった。

 いつの間にか置いていた使い捨て用の歯ブラシもずっと使っていて気付けばボロボロだ。買おうかななんて思いながら。

 

 出勤途中に昨日のコンビニへ立ち寄った。入った瞬間に店の雰囲気が違うと思った。昨日よりも”重くない”のだ。

 昨日教えてやったから早速祓ったのかもしれない。仕事が出来る男は違うねなんて。

 

「…378円です」

「10,000円で」

 

 

 ただ、ふと感じた。嫌な空気。呪霊だろうか。今朝よりは重くない空気だから呪霊はいないはずだ。いないと思いたい。一体なんだろうか。

 財部はモヤモヤしながらも、視えない物に悩みながら職場へ向かった。

 

 その日は別に対した仕事はなかった。いつも通りパソコンと睨めっこして、気になる「親」の名前を調べての繰り返しだった。来客予定だったりもない。

 ――そうだ、夜ご飯は最近できたファミレスに行こう。たまにはそういうのも悪くない気がする。あそこはグラタンが美味しいって聞いたことがある。

 

 

 

「もしもし?夕飯食べて帰るのでいらないよ」

 

 スマホの向こうで家主の大きな溜息が聞こえた。

 

「貴方と一緒に住んでいる記憶はないですし、夕飯も好きにしてください」

 

「はいはい、わかったわかった」

 

通話を切ると、バックミラー越しにこちらをチラチラみていた運転手が聞いてきた。

 

「七海さん、誰かと一緒に住んでるんですか?」

「プライベートです。それを詮索されるのも私は好みません。」

「あぁ、すみません…」

 

 今日の仕事は朝に都心部から少し離れたところで2級の呪霊を数体祓っただけだった。別に対したことはなかった。

 朝早かった分、定時も早い。七海はなんとなくいつもよりも気持ちが軽かった。

 

「…七海さん、申し訳ないんですけどもちょっと所用がありまして…そこのコンビニ…Friend mart寄っていいですか」

「ええ、構いません。私は待ってますので」

 

 伊知地が指定したコンビニは七海が今朝寄ったコンビニの別店舗だった。七海は特段気に留めることもなく、伊知地のことを待っていた。

 伊知地はコンビニから出てくると慌てて携帯を取り出した。かなり慌てている。何かあったのだろうか。

 

「七海さん!あそこのコンビニ、呪霊がいます!」

「…呪霊?」

「はい、高専の方へ連絡します」

「みてきましょうか」

「え、あぁ!帳を貼りましょうか!?」

「いえ、それは結構。帳が必要な時はこちらで合図をしますから、宜しくお願いします」

「わかりました…お気をつけて」

 

 店内に入るが特段変わった様子はない。逃げたか?

 逃げ足だけは早いようだ。

 

「もう逃げたようです」

「…そうですか。とりあえず、高専の方へは私から連絡しておきます。」

「お願いします」

 

せっかく止んでいた雨がまた降り出してきた。

車のワイパーが動く音だけが車内の沈黙をかき消そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

5

 あれからしばらく経った。何度かあのコンビニに足を運んだが呪霊はみかけなかった。その周辺でも呪霊の被害はない。平和であればそれでいいと七海建人は思っていた。

 

「…ねぇ、今晩ちょっと野暮用で帰ってこないから宜しくね」

「ここは貴方の家ではないので大丈夫です」

「はいはいはーいはい。」

 

 ダイニングテーブルで目を合わせるわけでもなく会話を交わすのは2人にとってはもはや日常だった。

 

 

 

 昼間、財部の職場を訪れてきたのフリーランスで呪術師をしている海原 千寿(かいばら せんじゅ)。月に1回くる常連顧客だ。彼女は鎖骨くらいまである紺色の髪を綺麗になびかせ、窓の外を向きながら話しかけてきた。

 

「最近は、祓っても祓っても祓いきれないよ。どんどんウジのようにわいてくる。…ただ、わいてでてきたやつは高専に任せておけば何とかなるだろう?それなら、私が「親」をやっておこうと思ってね。別に弱いのでいい。たくさん情報がほしい」

 

「毎度あり。そこのファイルに海原さん用に情報まとめといたよ。」

 

「サーンキュ。さすが財部ちゃーん」

 

 海原はファイルをパラパラとめくった。

 

「…うん、お代はまた振り込んでおくよ」

「またのご利用お待ちしてます」

「私も呪霊が強化される前に潰せたほうが楽だし、Win-Winなんだよね〜」

 

 へらりと笑う海原。財部と海原の付き合いはもうそこそこ長くなってきた。

 

「五条は最近来た?」

「顧客の情報は秘密主義でーす」

「ちぇっ」

「現場被りたくないんだよね。絡まれると面倒くさい」

 

 呪術師は数が少ない上に、高専が絡むとなるとその情報はすぐに広まってしまう。(まぁ高専に広めてたりするのは五条がほとんどだが)

 

「呪術師の世界もなかなか厳しくなってきたよ。禪院家と御三家と、あの辺がめちゃくちゃに面倒くさいのよ」

「今に始まったことじゃないと思うよ。あと、私は術師じゃないよ」

「そりゃそうか!」

 

 海原は一通りの世間話をしてからやっと帰っていった。

 

「……はぁコーヒーが冷めちゃった」

 

 冷めたコーヒーは美味しくない。しかもインスタントは尚更だ。

 

「七海のコーヒーが1番なんだよなぁ」

 

 

 

 

 

 

6

 その日は雨で、夜は上客に誘われて飲み会だった。すぐそこが家なんで なんて適当な嘘を吐いて、適当なところで車を降ろしてもらった。

 チッ、傘なんて持ってないじゃないか。

 いいタイミングでタクシーが通りかかったので、思わず停車させて乗り込んだ。

 今日はまだ飲みたい、飲み足りない。

 

「運転手さん、そこのFriend Mart寄ってください」

「えぇ、わかりました。」

 

 おつまみに適当なお菓子とビールを数本。カゴに適当に入れてレジへ向かった。

 

「お姉さん、今日はミルクティーじゃないんですね」

「え?あぁ、今日はビールにした」

「そうなんですね。あ、お会計1863円です」

「はい、じゃあコレで」

 

 と、お金を出して正面の彼をみると――おかしい。おかしい。なぜまだ名前がある?彼の上にはくっきりと歪ながら名前が視える。やばい、もう生まれるのか?だが、先日な七海に教えてやってから祓ったはずだ。

 

 

 ――小木木 タつキ

 

 

 何故。祓えなかった?いや、そんなわけがない。彼は1級術師だぞ。

 とりあえず急いで七海に連絡しないと。

 財部は急いで携帯で七海へ連絡をした。

 

「どうされましたか?今夜は帰ってこないんじゃないんですか?」

「やばい。近所のコンビニ、呪霊生まれるぞ!!」

「…この前祓ったのとは別ですか?」

「違う!多分!とりあえず早く来ないと!」

「わかりました。すぐに向かいます。」

 

 七海は、電話を切ると急いで現場へ向かった。ここからだと走って数分。間に合え。間に合え。

 

 

「いらッじゃイ ママ せ ェェえ"え"」

 

 七海がコンビニに着いたとき、財部は一般客が来ないように店を閉めようとしていた。

 

「…遅い!!……どう?!呪霊いる?!?!」

「残念ながらいますね。ちょっと祓ってきますので、貴方はここにいてください。もうすぐ伊知地くんが来ます。伊知地くんに送ってもらってください」

「わかったよ。あとは任せたよ」

「では、いってきます」

 

 トカゲの呪霊。少しだけ厄介なのが、長い舌を伸ばして先ほどから絡めるように他の雑魚な呪霊を捕まえては食って自己を強くしている。

 七海は冷静に呪霊を観察し、その呪霊の7:3を見極めた。

 ―と、ちょうど伊知地が到着した。

 

「貴方が財部さんですか?」

「はい」

「車に乗っておいてください。私は帳を降ろしてすぐに戻ります」

 

 伊知地が何かを唱えた途端にコンビニの空気感がガラリと変わったように感じた。

 財部には呪力もなければ、呪霊もみえない。だから何が起きてるか推測しかできない。ただ、何かしらの呪霊が先程のコンビニ店員から生み出されているということはわかった。

 

 

「さぁ送ります」

 

 車はコンビニを出発した。財部は窓から見えなくなるまでコンビニを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呪霊は特に問題なく祓えた。

 七海はその報告を高専へしたあと、特級術師である五条悟に捕まっていた。

 

「ねぇ、ななみん。財部くんと面識があったなんてねぇ」

「私が誰と面識があるとかないとか、貴方にはぶっちゃけどうでもいいはずです」

「いやぁ、そうなんだけどさぁ、意外だよねぇ〜。ななみんも隅におけないね!」

「……ちょっと黙っていただけますか」

 

 七海は陽気な五条と対比的なくらい大きなため息が出た。先程の呪霊の相手をしている方が楽かもしれない。非常にめんどくさいと思った。

 

「ねえねえ、ななみん。あの人のこと高専に引き込めないの?」

「…何故私に言うんですか。」

「あの人がいたら、随分と業務が楽になるよ?」

「それはわかっていますが、彼女にはその気がないようで。では、私は帰りますので!!お疲れ様です。五条さんもゆっくり休んではどうでしょう」

「あははーーーありがとー!」

 

 五条と別れたあと、七海は胸ポケットからスマホを出した。そして通話履歴の新しめのところにある名前を押した。

 

「伊知地くん、財部さんを送ってくれましたか?」

「えぇ送り届けました。ところで、財部さ」

 

 七海は通話を切ると、また履歴から違う名前を探して通話ボタンを押した。

 

「七海です。無事に先程の呪霊は祓えました。貴方がいち早く教えてくれなかったら巨大化していたと思います。ありがとうございます。」

「七海くんもお疲れ様。ところで、入れないんだけど」

 

 ん?入れない?まさか

 

「財部さん、貴方は今どちらに?」

「七海くんのマンションの玄関」

「……はぁ」

 

 やはりそうか。

 彼女が自分の家に帰るという可能性は五分五分。いや、3割以下だったかもしれない。七海はため息をつきながら帰路へ着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 七海がマンションに着くと、エントランスに彼女はいた。スマホを熱心にタップしているあたりきっとゲームか何かしているのだろう。

 

「何故ご自分の家に帰らないんですか、貴方って人は」

「そのつもりだったんだけど、忘れ物してた」

「明日でもいいでしょう」

 

 とりあえず財部を自宅へ上がらせてあげたところで、先程の呪霊の話になった。

 

「呪霊無事に祓えてよかったよ」

「えぇ、その点は感謝します。貴方は呪霊が視えないのでは?どうして生まれるとわかったんですか?」

 

 純粋な疑問だった。たま視えない人であることを忘れてしまう。そのくらい普通に呪霊の話をする。

 

「私は呪霊がみえるんじゃなくて、多分「呪い」がみえるんじゃないかな。でもそれは「呪い」が溜まっていくエンゲージのことであって、具現化された「呪霊」ではなくて。……私はそのエンゲージが視えるんだけど、そのエンゲージがどのように表示されてるか……その呪いの持ち主の「氏名」として表示されるの。で、その名前が呪いの量で日に日に歪んでいったり、ぼやけたり、大きくなったりする。その度合いによって呪霊の強さだったり、生み出す時期を予測したりするの。」

「なるほど。今回の彼もそのエンゲージが歪み出したと?」

「そ。ただそのエンゲージも途中で加速したり、緩やかになったりするの。今回は急激に加速したってこと。」

 

 財部はあたかも普通のことのように話すが、財部自身が視えないだけで呪霊がうじゃうじゃいるように、財部からすると「親」もうじゃうじゃ湧いている。

 財部はこうも続けた

 

「私は自分の身を守ることが出来ない。術師じゃないからね。だから人混みにはできるだけ行かないようにしてる。エンゲージはみえるけど、対処はできないから。」

 

「…呪具を手配します」

「いや、いいの。私はこういう体質だから呪われて死ぬんだろうなっていう未来は覚悟してるし、なんなら呪具をもらっても"豚に小判"だと思うし」

「"豚に真珠"では?まぁ意味としては通じるかもですが」

 

 財部は七海に以前も呪霊を視ることができるようになる眼鏡をすすめられたり、高専側で働くことをすすめられたり(コレに関しては現在形)したが、断ってきた。

 その度に彼女は「私は呪われて死ぬ運命なんだよね」だとか「特異体質だから仕方ない」と言ってきた。

七海はそれを聞くと何故か散っていった旧友の姿を思い出す。彼女もいずれはそうなるのか……そう考えずにはいられない。

 

 と、財部の携帯電話がテーブルの上で震え出した。

 

 

 ――夏油 傑

 

「ちょっと出るね」

「……帰ってきますか?」

「帰ってくる」

 

 いつものように交わした会話だったが、財部は七海の一言に驚いた。

 

 

 

 

「待ってますから」

 

 

 てっきり「ご自身の家に帰られては?」などと言われると思っていたのだ。驚いて目を見開いた財部は、一瞬間を置いて「いってきます」と言ってからカーディガンを羽織って出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 呪霊は特に問題なく祓えた。

 七海はその報告を高専へしたあと、特級術師である五条悟に捕まっていた。

 

「ねぇ、ななみん。財部くんと面識があったなんてねぇ」

「私が誰と面識があるとかないとか、貴方にはぶっちゃけどうでもいいはずです」

「いやぁ、そうなんだけどさぁ、意外だよねぇ〜。ななみんも隅におけないね!」

「……ちょっと黙っていただけますか」

 

 七海は陽気な五条と対比的なくらい大きなため息が出た。先程の呪霊の相手をしている方が楽かもしれない。非常にめんどくさいと思った。

 

「ねえねえ、ななみん。あの人のこと高専に引き込めないの?」

「…何故私に言うんですか。」

「あの人がいたら、随分と業務が楽になるよ?」

「それはわかっていますが、彼女にはその気がないようで。では、私は帰りますので!!お疲れ様です。五条さんもゆっくり休んではどうでしょう」

「あははーーーありがとー!」

 

 五条と別れたあと、七海は胸ポケットからスマホを出した。そして通話履歴の新しめのところにある名前を押した。

 

「伊知地くん、財部さんを送ってくれましたか?」

「えぇ送り届けました。ところで、財部さ」

 

 七海は通話を切ると、また履歴から違う名前を探して通話ボタンを押した。

 

「七海です。無事に先程の呪霊は祓えました。貴方がいち早く教えてくれなかったら巨大化していたと思います。ありがとうございます。」

「七海くんもお疲れ様。ところで、入れないんだけど」

 

 ん?入れない?まさか

 

「財部さん、貴方は今どちらに?」

「七海くんのマンションの玄関」

「……はぁ」

 

 やはりそうか。

 彼女が自分の家に帰るという可能性は五分五分。いや、3割以下だったかもしれない。七海はため息をつきながら帰路へ着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 七海がマンションに着くと、エントランスに彼女はいた。スマホを熱心にタップしているあたりきっとゲームか何かしているのだろう。

 

「何故ご自分の家に帰らないんですか、貴方って人は」

「そのつもりだったんだけど、忘れ物してた」

「明日でもいいでしょう」

 

 とりあえず財部を自宅へ上がらせてあげたところで、先程の呪霊の話になった。

 

「呪霊無事に祓えてよかったよ」

「えぇ、その点は感謝します。貴方は呪霊が視えないのでは?どうして生まれるとわかったんですか?」

 

 純粋な疑問だった。たま視えない人であることを忘れてしまう。そのくらい普通に呪霊の話をする。

 

「私は呪霊がみえるんじゃなくて、多分「呪い」がみえるんじゃないかな。でもそれは「呪い」が溜まっていくエンゲージのことであって、具現化された「呪霊」ではなくて。……私はそのエンゲージが視えるんだけど、そのエンゲージがどのように表示されてるか……その呪いの持ち主の「氏名」として表示されるの。で、その名前が呪いの量で日に日に歪んでいったり、ぼやけたり、大きくなったりする。その度合いによって呪霊の強さだったり、生み出す時期を予測したりするの。」

「なるほど。今回の彼もそのエンゲージが歪み出したと?」

「そ。ただそのエンゲージも途中で加速したり、緩やかになったりするの。今回は急激に加速したってこと。」

 

 財部はあたかも普通のことのように話すが、財部自身が視えないだけで呪霊がうじゃうじゃいるように、財部からすると「親」もうじゃうじゃ湧いている。

 財部はこうも続けた

 

「私は自分の身を守ることが出来ない。術師じゃないからね。だから人混みにはできるだけ行かないようにしてる。エンゲージはみえるけど、対処はできないから。」

 

「…呪具を手配します」

「いや、いいの。私はこういう体質だから呪われて死ぬんだろうなっていう未来は覚悟してるし、なんなら呪具をもらっても"豚に小判"だと思うし」

「"豚に真珠"では?まぁ意味としては通じるかもですが」

 

 財部は七海に以前も呪霊を視ることができるようになる眼鏡をすすめられたり、高専側で働くことをすすめられたり(コレに関しては現在形)したが、断ってきた。

 その度に彼女は「私は呪われて死ぬ運命なんだよね」だとか「特異体質だから仕方ない」と言ってきた。

七海はそれを聞くと何故か散っていった旧友の姿を思い出す。彼女もいずれはそうなるのか……そう考えずにはいられない。

 

 と、財部の携帯電話がテーブルの上で震え出した。

 

 

 ――夏油 傑

 

「ちょっと出るね」

「……帰ってきますか?」

「帰ってくる」

 

 いつものように交わした会話だったが、財部は七海の一言に驚いた。

 

 

 

 

「待ってますから」

 

 

 てっきり「ご自身の家に帰られては?」などと言われると思っていたのだ。驚いて目を見開いた財部は、一瞬間を置いて「いってきます」と言ってからカーディガンを羽織って出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9

「どういう冗談?」

「冗談でこんな大金をみせるわけないじゃないか」

「……ならば、とっても悪い冗談ね」

 

 財部と夏油の間のローテーブルに乱雑に出されたのは軽く1000万円以上はあるであろう大金。

 

「うちの専属になってくれないかな?」

 

 夏油の笑顔は胡散臭い。きな臭いというか。高専の五条悟もなかなか胡散臭いが、夏油はこいつを上回る。

 何を考えてるのか全く読めない。

 

「…やだねぇ。私がお金でなびくと思われてるの」

「あははー。実際そうじゃないか。どうする?これはあくまで契約金。報酬は今まで通り払うよ?」

 

 財部は少し間を空けてから、にっこりと夏油に負けない胡散臭い笑顔を顔に貼り付けてから言った。

 

「ご遠慮っ。私はあくまでフリーランス。誰にも雇われる気なんてない。……呪術師でもない、呪いの器でもない、それどころか呪霊がみえない私をこんな大金を払ってまで雇いたいなんて物好きね。」

「そうかい?それほどに君の能力は魅力的だし、価値がある。……だから、わすれないでね」

「何をです?」

「自分に希少価値があることを。こちらはいつでも歓迎しますからね」

 

 

 帰りは送ると言われたが、タクシー代だけもらって帰ることにした。

 もうすっかり夜も明けそう。もうじき町は起き出す。

 少しずつ賑やかになっていく街の風景を車窓から眺めながら財部は「夕飯食べそびれたな」と考えていた。

 

 

 

 ……

 

 

  夏油傑の術式は「呪霊操術」である。「呪霊操術」とは降伏した呪霊を取り込み、自在に操れる術式である。

 となると、彼は呪霊をできるだけ取り込んで自己を強化したい。しかし、呪霊が出現してから向かうと呪術高専が先に祓ってしまっていたり、立ち合わせたりということがしばしば。非常に厄介。邪魔。

 そんななかで財部 真琴が自身の右にいたらどうだろう?いち早く呪霊の出現がわかる。なんなら、呪霊が いつ どこで どのくらいの強さ なのかもわかってしまう。夏油は自身の術式と相性がぴったりじゃないかとずっと目を光らせていた。

 まず彼女と親しくなり、客として信頼を得て、上客になってから引き抜くつもりだった。それに何年も費やした。

 だが、彼女はフリーランスであることが最優先らしく断ったのだ。

 断られてしまったが、1つだけ良かったと思うのは高専側にも属さないことがほぼ確実であること。

 しかし、夏油は納得していなかった。

 

「あぁ…非常に残念だ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

10

 財部は街を歩いていると不思議な少年と出会った。

 何かに怯えながら歩く気弱そうな少年。彼は白い学ランのような服を着ていた。どこかの制服だろうか。あまり見かけないデザインに財部は彼をじっとみてしまった。その視線を感じてか、少年もこちらをみてきた。

 気まずくなり目を逸らしたが、何か凄いものを感じ取ってしまった。

 

「えっ…」

 

 彼は絶対に呪われている。目には視えないが、彼の背後にどす黒いものを感じたのだ。

 今まで感じたことないソレに財部は身を震わせた。

 身体が警告音を出し始めたとき、肩に手が置かれた。

 

 

「…大丈夫です。彼は高専の転入生ですから」

「七海?!」

「そんなに驚かなくても。彼のことはこちらで監視と保護してますから大丈夫ですよ。今もこうして私が監視しています。」

「……それなら、よかった。」

 

 ほっと肩を撫で下ろしていると七海はこちらを見ながら続けた。

 

「彼は特級です。特級可視怨霊 折本里香 があの呪いの正体です。みえますか?」

「…みえないけどもおぞましいものは感じてる」

「えぇ、彼自身まだ折本里香をコントロールできていませんから。何かの拍子に暴徒化することも懸念されてます。」

「……なるほどね」

 

 まぁ、七海がいれば安全かと思いその場をあとにしようとした時だった。

 

 

「あっれーーー??まこっちゃんに、ななみんじゃないかーー」

 

 一際目立つ男が数メートル先に。しかも、手を振りながら歩いてきていた。五条悟だ。彼が異彩を放つのは、透き通るような白銀の髪、長身、それから白い包帯で両目を覆っているからだ。

 彼を視界にとらえると、財部と七海は2人して同時に大きなため息が出た。

 

 

「……ななみん?ねぇ、ななみんって呼ばれてるのっ?……似合わなっ痛っ!」

「彼が勝手に呼んでるだけでそれに対して肯定もしたことないですし、返事をしたこともありません。……財部さんこそ、…まこっちゃん?……貴方がまこっちゃんですか??ふっ……」

 

 なんて似つかないあだ名なんだろうかと2人してお互いに鼻で笑ってると元凶はどんどんこちらに近づいてきた。

 

「あいつこっち来るぞ。おい七海。あれ直属の上司でしょ?なんとかしろ」

「貴方こそ常連客でしょう?お客様には日頃から丁寧に接しないと」

「いやいやいや、ななみんと呼ばれる仲でしょう?」

「そんな仲になったつもりはありません」

 

 まるで五条悟のなすりつけあいだ。

 

「何々?僕のこと話してるの?」

「……あんたが面倒くさいって話」

「申し訳ないですが異論はありません」

 

 当の本人はこんなことではへこたれないし、なんとも思ってないだろう。なんなら、少しくらい本気で自覚して欲しいと思うのが2人の本音。しかし、五条悟は残念ながら前者でそんなことは何とも思わない。

 

「ななみん、そろそろ優太の監視交代だよーー。で、ちょうどいいところにまこっちゃんもいてくれて助かったよー。今日の夕方にお客様として伺うからもてなしてね!」

 

 この調子である。

 2人はそれぞれに了解の返信をした。

 

「――ところで、2人はどういう関係??」

 

 五条は去り際にこう問うた。

 そんなこと考えたこともなかった。

 ――居候?友人?仕事仲間?

 

「…知人?知人だよね?」

 

 財部の口から出たのは疑問系だった。

 七海はため息をつきながら言った。

 

「…家主と座敷童ですかね?」

「ざっ、座敷童!?」

 

 財部はまさか自分が座敷童扱いされると思っていなかった為、やたらと大きな声が出てしまった。そのリアクションに七海は思わずクスリと笑ってしまった。

 

「帰りますよ。」

「ひどいなぁ…」

 

 2人の不思議な関係はとりあえず「家主と座敷童」ということで落ち着いたが、側からみればそのように見えないのは言わずもがな。

 

 

 

 

 

 

11

 その日、財部 真琴は機嫌がすこぶる悪かった。

 七海が「荒れてますね」と口に出すくらいには機嫌が悪かった。触らぬ神に祟りなしとは上手く比喩した表現だとつくづく思ってしまう。そのくらい機嫌が悪かった。

 

「くそっ!!!!……このままイライラしてたら私が「親」になってしまうじゃないか!!」

 

 ことの発端は、代々呪術師の家系である御三家のうちのひとつ、禪院家が財部の事務所にやってきたことだ。財部自身、禪院家はかなり苦手な客だった。当主が直々に顔を出すでもなく、代理人がきたのだがそれでも嫌だった。

 

 特別一級術師 禪院扇。

 その付人という、1級術師 削磨 吾一(さくま ごいち)。まだまだ青臭い見た目の彼は、見た目に反して結構な重職らしい。ツラツラと笑みを浮かべ、事務所内をうろうろしながら、喋り続けた。

 

「財部さん、あんたが鬱陶しい。ちょこまかちょこまか。金か?高専の壊滅か?はたまた御三家に怨みでもあるんか?あんたの動きはようわからん。目的はなんや?扇様から伝言を今日は預かってきたんやけども。それだけ伝えにきた。案件を買うんとちゃうから、金は今日は持ってきとらへん。堪忍な。……そんなあからさまに嫌そうな顔せんでもええやんか。俺も綺麗な姉ちゃんにこんなん伝えるのは酷で酷で胸が痛いんやさかい。」

 

「言いたいことは簡潔にって小学生の頃に教わらなかったのか?」

「あーぁ、ごめんごめん。で、扇様からの伝言やねんけど、「あまり呪術師をみくびるなと。非術師のお前なんぞ一捻りで潰せるからな」と。おー、怖い怖い。」

 

 相変わらずヘラヘラ笑ってる削磨に財部はニコッと笑いながら言った。

 

「ぶぶ漬けでも出しましょうか??」

「美人となら、何食べても美味しいやろうから喜んで」

 

  削磨はソファーの空いてるところに座るとくつろぎ始めた。流石に我慢の限界だ。

 

「帰れってんだよ」

「そういや京都の方ではそうやって帰れって促すんだっけ?すいませんなぁ、根っからの京都人ちゃうさかいにわからんかったわ」

「帰れ。てめぇの顔見ると虫唾が走る。禪院家にはもう案件売らねぇからな。覚えとけ」

 

 削磨は一瞬眉間に皺を寄せたが、またすぐに元通りだ。

 

「……それが扇様への伝言ね。りょーかいっ」

 

 

 削磨が帰ったあと、財部はすぐに冷蔵庫から缶ビールを出して勢いよくプルタブを開けた。

 

 そして、その晩顔を赤くして酔っ払い状態で七海の家に雪崩れ込んだ。

 

 

「七海くぅーん。君が禪院家を潰してくれたら私はビジネスがしやすいんだけどーー??2000万くらいでどーーうですかーーー?」

 

 完全な酔っ払いである。七海は初めて財部が悪酔いしてるところをみた。

 

「飲み過ぎでは?」

「知ってる」

「ならもう飲まないでください」

「やだ」

「だって冷蔵庫にお酒があるんだもん」

「……貴方のためではありません。」

 

 財部は知っていた。七海は普段ビールを飲まないのに、冷蔵庫には常に数本ビールがあることを。

 彼はウイスキーやハイボールを好んで飲む。

 

「知ってるし。七海はビール飲まないこと」

「悪酔いしてますね」

 

 七海はムキになったのか、空いてる缶からショットグラスにビールをついでそれを仰いだ。その缶をひったくって財部は飲もうとしたが缶は空。

 

「え、もうないじゃん」

「早く寝てください。睡眠不足は肌に悪いですよ」

「痛いとこつくね」

 

 七海はそのまま寝室へ行こうと廊下の扉を開けたとき、財部は言った。

 

「禪院家が私を潰すんだとさ」

 

 思わず七海の足も止まる。それは、七海も危惧していたことだった。

 

 

 

 

 

 

12

 「……禪院扇のおともだち「削磨 吾一」が事務所にきたんだよ。扇からの伝書鳩でね。要するに「ちょこまかとこざかしい真似を続けていたら潰すぞ」ってね。あー、怖い怖い。」

「貴方はビジネスがあまり上手くないかと」

「流石、脱サラ。説得力が違うね」

 

 当の本人は禪院扇に脅されても今までのスタイルを崩すつもりはないらしい。彼女は別に大金を持とうが暮らしに別段変化はない。豪華でも煌びやかでもなければ、むしろ無頓着なくらいだ。どうしてそんなにお金が必要なのか、七海はずっと不思議に思っている。が、お互いに詮索をし合わないというのが暗黙のルールだったので、尋ねることもしなかった。尋ねられることもなければ、お互いに自分から喋るタイプでもない。なので、お互いに知らない部分は沢山あるのだ。特に仕事面では。ただ、財部が夏油だったり呪詛師と関わっていたことに対してはあまりいい顔はできなかったが。だから七海も時折、高専にこないかと言っていたのだ。まぁ、毎回軽くあしらわれるのだが。

 

「いずれにせよ覚悟してから。私はいいんだけどさぁ色々困るよね。七海、ビール」

「飲みすぎでしょう。悪酔いしてますよ」

「禪院の老いぼれジジイどもいつまで生きるつもりなんだ」

「お口も相当悪くなってますよ。……私はもう寝ますから、財部さんも早く寝た方がいいですよ」

「ビールは?」

「終わりです」

「ちっ」

 

 じゃあ私も寝るかなんて言いながら財部はソファーを倒してベッドにした。2人はおやすみなんて言わない。何も言わずとも相手のことを察して過ごしている。

 

「あ、伝え忘れたんだけど。」

「次は何ですか」

 

 

「しばらくここには来ないから」

 

 

 端的に告げられたソレに七海は驚いた。禪院家の件があるのだから仕方ないことであり、懸命な判断だろう。

 しかし、彼女は非術師。彼女の身の安全を優先すると逆かもしれないのだ。

 

「…大丈夫なんですか」

「これでも成人だから1人で暮らしていけます」

「違います。……死んではいけません」

「……この仕事も全て覚悟の上だよ」

 

 それでも生きることに意味がある。過去に友人を亡くした七海は、こう思うたびに自分は呪術師に向いていないと思うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

13

 あれから財部は七海の家に来なかった。七海は彼女のことが心配かと言われれば、"どちらかといえば心配"だったが彼女が判断したことだ。元々同居してるわけではなかった。彼女が勝手に毎日のように来ていただけだ。と思いながら日々過ごしていた。

 

「あ!七海さん!」

「乙骨くん、どうされましたか?」

「五条先生が探してましたよ」

「わかりました。ありがとうございます。」

 

 最初こそ挙動不審だった彼は気付けば高専に馴染んでおり、人懐こい笑顔をみせるようになってきていた。

 そのまま廊下を進んで突き当たりの部屋に五条悟はいた。

 

「ななみーん!コーヒー飲む?」

「結構。長居はしたくありません。手短にお願いします」

「はいはい」

 

 五条は自分のカップにコーヒーを作り始めた。角砂糖を1個、2個、3個、4個、5個とポトポトと落とす。コーヒーに溶かした砂糖を飲んでいる感覚では?と思う。五条がコーヒーを一口飲み始めたところで、本題は始まった。

 

「いやぁ、わざわざ来てもらってすまないね」

「本題に入ってください。前置きは結構です」

「はいはい。……君なら親しいだろう?――財部 真琴。」

 

 予想外の人物だった。

 七海は驚いたのが表情に出てしまったと思った。そのくらい驚いたのだ。禪院 扇との件だろうか。

 

「財部 真琴がどうかしましたか?」

 

 あくまで平然を装って尋ねたが、五条悟の包帯の下からはどのように見えていたか想像がつかない。

 

「…あの娘、呪霊の「親」がわかるでしょ?で、賢い賢い真琴ちゃんはその情報を商品としてビジネスしてるでしょ?」

「えぇ、してますね」

「…楽巌寺の学長がソレをどうやら気に食わないらしくてね」

「でしょうね。しかし、あれだけ彼女から情報を買っておいて言うのは、矛盾がすごい」

「あはは〜、ほんとにだよ!あの老いぼれに直接言ってやってよ!」

 

 五条は笑いながらコーヒーカップを空にした。

 

「…1年生が毎回、実技であれだけの低等級呪霊と戦えてると思う?……財部の情報だよ。高専は毎年新入生入学の時期に合わせて、財部から大量の情報を仕入れている。お陰で呪霊が発生してすぐ、凶暴になる前に新入生がいち早く見つけて倒せるってわけ」

「えぇ。……では何故?」

 

「……傑だよ」

 

「夏油傑ですか…」

 

 確か財部の太客だったはずだ。呪術師とこそ敵対してるが彼女は上手くビジネスとして接してきていたと思うのだが――、七海は財部がたまに漏らしていた愚痴を必死に思い返していた。

 

「……僕は薄々知ってたんだけど、あの爺さん、財部と傑が取引してたっていうのを疑い始めたわけよ。…今更だよ」

「……今更ですね」

「爺さんってばご立腹」

 

 五条悟はあくまで他人事なのかケラケラ笑いながら話す。

 そしてまたコーヒーカップに角砂糖が――1つ、――2つ、――3つ、――4つ、落とされて、黒い液体を甘く甘く変えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

14

 楽巌寺学長にも目をつけられたという財部だが、本人は至ってケロりとしていた。(本人はまだ楽巌寺学長に目をつけられてることは知らないようだった)

というか、吹っ切れたようだった。

 

「禪院家に目をつけられ、夏油の契約は断ったのだから怖いものはない」

 

 そう思い始めていた。

 しかしまぁ、仕事はやりにくくなったと思う。誰かと接点を持っているのを見られてはいけないと思い、外で会うことはせずに基本事務所に缶詰状態なのだ。

 

「はぁ……」

 

 ストレスも仕事も溜まる一方だ。

 

「貴方がため息なんて珍しいですね」

 

 突然背後から声がした。

七海だ。何故いるのかと尋ねる前に彼は続けた。

 

「…安否確認です。ご無事で何よりです。玄関施錠されてませんでしたよ。不用心です。」

「……で、用件は?」

「財部さんはよっぽど労働がお好きなようで」

「は?」

「…休んだ方がいいです。私は詳しく貴方の収入だったりを存じ上げませんが、数年は余裕で暮らせるくらいの収入はあるはずです。」

「……働きすぎでいうと貴方もでしょう?」

「今は財部さんの話をしているのであって、話題をすり替えないでください」

「……」

 

 

 深夜1時になろう時、2人は静寂のこの空間にいた。時計の秒針だけが鳴っていた。

 

 

「……今日はここに泊まります」

 

「は?」

 

 財部が振り返ったとき、七海はもうソファーに寝転んでいた。何故七海がここにきたのか?泊まるのか?仕事を休めというのか?点と点が全く結びつかない。が、尋ねようにも静かに寝息が聞こえてきたので諦めた。

 

「なんで来たのかな、七海くん」

 

 財部はそう言ってブランケットを彼に掛けた。そして、財部はまたデスクのパソコンの明かりへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15

 ――禪院家 屋敷。

 

 削磨 吾一は主人である禪院 扇に報告を行っていた。

 

「……というわけで、財部真琴はこちらにはもう案件を売らへん言うてました。」

 

 削磨は普通に今まで通りに報告をしたつもりだった。が、扇の顔は段々と険しくなってきた。

 

「……削磨。てめぇどういう風に伝えたんだ?」

「え?ですからねぇ、「あんまりちょこまか動いてたら扇様が潰すからな」って言うときました。」

「……誰が財部から案件を買えなくなるようにしろと?」

「え?それはあいつが言うてきただけであって…」

「削磨、どうしてくれるんだ?あぁ?」

 

 削磨は段々手に汗が出てきたのを感じた。削磨吾一は確かに言われた通りに伝えたのだ。伝えたにも関わらず、今に至るのだ。不服だった。だが、扇が黒を白といえば白、白を黒といえば黒なのだ。

 

「謝罪してこい。情報が買えるようにしろ。……ったく何でこちらが下手にでないといけないようにするんだ…この野郎……」

「申し訳ございま……せん……」

 

 削磨は扇に向かって深く頭を下げて謝罪をした。ただ、削磨の顔には血管が浮かび上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

16

 

 

 ――――禪院 扇

 

 

 朝方鳴った携帯電話の画面に表示された。

 その音で七海は目を覚ました。暗いリビングでその名前は嫌でも目に入った。

何コール目かしたところで着信音は止まったが、そのかわりに部屋の扉が開いた。財部は七海が起きたことに気付かずに携帯電話を手に取ると思いっきり舌打ちした。どうやら掛け直しているらしい。

 

『……財部さん。先日はウチの小僧が大変無礼したようで。 』

「あぁ、もうそれはそれはめちゃくちゃ気分を損ないなりましたけども?」

『それはそれは……失礼したねぇ……最近の若い奴はどうもあまったれ』

「 主従どちらも前置きが長くて、用件を簡潔にいえないようですね。こんな夜中に何ですか?」

 

 財部は禪院の会話を遮った。だがそんなことは別に禪院からすれば不快でもなんでもない。

 

『ハッハッ...女のくせに肝が据わっていていいね。……今後の取引だが引き続きよろしく頼みたいんだがどうだろうか?』

「……条件がある」

『ほう?』

 

 

「……特級の親がいるんだよ。誰も買い取らない。それを買って欲しい。」

 

 

『……よかろう。金は振り込んでおく。情報をもらおうか』

「朝になったら電話する。……今は寝かせてくれ」

 

 財部は通話を切ると、冷蔵庫から缶ビールを出した。プルタブを空けようとしたとき、

 

「こんな夜中に飲んじゃダメです」

 

 ソファーから声がした。

 

「……電話聞いてた?」

「嫌でも聞こえました」

「あっそう」

 

 七海は起き上がると身支度を始めた。仕事だろうかと思ったがどうやら違うらしい。

 

「財部さんも支度してください」

「は??」

「この近所で朝早く開くパン屋があります。買いに行きますよ」

「え?」

「……私はぶっちゃけ機嫌があまりよくないので、美味しいものが食べたい!!!!」

「は??」

「なので、早くしてください」

 

 財部は七海に急かされるまま急いで最低限の身支度をして例のパン屋へ向かった。

 

「……朝ごはんなんていらないのにさぁ」

「何言ってるんですか。朝ごはんは1日の生産性や活動力に大きく影響します。ダイエットに食べない方とかもおられますが、あれは間違い甚だしい!!!……あと、どうせ食べるならば美味しいパンがいい!!」

 

 ……七海って案外グルメだったっけ、と財部は思いながらも3歩程後ろをだらだら着いて行った。

 パン屋「ベイク ブランジェリー」は早朝から賑わっていた。店内は芳ばしい匂いが漂っており、客はトングとトレーを持ってパンを吟味していた。

 財部はメロンパンをひとつ取ってレジに並んでいた。

 

「七海くん、朝からそれ食べるの?」

「普段なかなか来れないので」

 

 七海のトレーには、ところせましとデザート系から惣菜系までのせられていた。

 

「財部さんはメロンパンだけ?」

「え?うん」

「勿体無い。……ここのパン屋は数量限定の商品がありますのでそちらはマストです。さらに、各パンの部門でグランプリ金賞を受賞したものもあります。それから、ここはバゲットを使用したお惣菜パンも人気です。」

「は、はぁ…」

「貴方のこと見損ないました」

「えぇ?」

 

 そんなに言うなら……と財部は七海のおすすめのパンをいくつかトレーにのせて再度レジに並んだ。

 事務所戻った2人はインスタントコーヒー(事務所だからこれしかなかった)とともに様々なパンに舌鼓した。

 確かに朝から美味しいものを食べると今日は頑張れる気がするなと思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

17

 財部の事務所に久しく客が来ていた。

 

 ーーー禪院 扇と削磨 吾一

 

「何しにきた」

「先日はこの阿保が失礼したね。折行って謝らせてもらうよ」

 

  扇はあくまで営業用の笑顔を貼り付けながら言った。形式だけで本気で謝ってないとういうのは初対面であってもわかるだろう。そして、その横で削磨が拳を強く握って耐えていた。こいつには来るなと言ったのに。なんて思いながら、財部は相手の出方を待っていた。

 

「……吾一。てめぇも財部さんに誠心誠意謝れ。」

「……も、申し訳ございませんでした」

「いえいえ、お気になさらず。私もこれであの「親」が売れると思うと嬉しくて嬉しくて」

 

 扇の眉間に皺がよったが、そんなことは気にしない。

 

「削磨くんは何級だっけ?」

「……僕は……準1級です」

「あぁ、そう。それならちょうどいいね!」

「……というと?どういうことかね」

「この「親」が生むのは間違いなく特級だよ。削磨くんが呪術師としてレベルアップするいい機会だ!!」

 

 

 ――特級?誰も買わない特級案件とは?どういうことだ?

 

 

 削磨は俯いていた顔をあげた。そこにはイキイキと楽しそうに喋る財部がいた。

 

「ついでにだが、低級でいい。50程売ってくれ」

「……低級でいいの?」

「あぁ、いい。削磨!お前に今回の罰だ。これも全部祓っておけ」

「て、低級呪霊をですか?」

 

 財部はデスクからファイルを持ってきて、それを扇に渡した。扇はパラパラとファイルをめくり、それを削磨へ乱暴に渡した。

 

「これでいかが?」

「あぁ、いいだろう。生む時期は?」

「全部書いてますよ。」

「流石、抜け目がないね。ありがとう。……と、これでお暇するよ。行くぞ、吾一」

「はい……」

 

 扇と削磨は札束を数枚置いて帰って行った。財部はそれを机の引き出しにいれた。

 

 

 

 

 

 

 ――――――――それが10日前の出来事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから削磨は低級呪霊の祓霊に追われていた。―今ので45体目だ。今日だけで13体目だ。

 

「……ったくこんな業務内容きいとらへんわ。そんで、明日産まれる呪霊が5体か。ほんまあの姉ちゃんすごいな。産む時期ぴったり当てよるわ」

 

 削磨はヘラりと笑いながら歩いていた。

 しかし、ビルの隙間から呪霊。しかも特級。

 削磨は咄嗟に反応して術式発動。迎え撃つ。

 削磨は、物体を分子レベルにバラバラにする術式だ。彼は術式が保てる2分間の作動中に触れた物を破壊できるのだ。また、バラバラにした分子を物体に再構築することもできる。

 

 

「――細希分裂」

 

 

 

 が、術式発動と同時に――――――――

 

 ――――――反対側から忍び寄る何者かによって彼の身体に刀身がおろされる。

 術式発動中、その刀は瞬く間に鉄の分子へと変貌し、小さなそれは彼の心臓から全身の血管を傷つけながら末端へ。

 そして、破裂。

 

 

 

 

「カハァッッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――削磨 吾一。暗殺により死亡。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 18

  暗殺から約2時間経った頃、現場には五条悟と七海建人が駆けつけていた。

 

「ったく、遺体というか肉片じゃないか」

「むごいですね…」

 

  現場周辺は血生臭い。警察曰く、死因は不明。それもそうだろう。凶器もなければ、鑑識に出せるような遺体すらもないのだ。なんなら身元もわからないような状態だ。

 しかし、五条と七海はその洋服片から 削磨吾一 と断定していた。

 血飛沫の血痕がキラキラと太陽の光で照らされて光っている。2人は血液を補助監督に採取させて、呪術高専所属医 家入硝子に持って行かせた。

 

「削磨吾一の術式は物体を破壊して分子にしてしまうものだ。…多分これは何かしらが破壊したあとのものだろうね」

「私もそう思います。彼は仮にも準1級です。柔な相手にはやられないでしょう。……と、すると相手は相当かもしれません。」

「まだ呪詛師か呪霊かも特定できていない。警戒は必須だろうねーー。」

「彼は禪院家側でしょう?もしも夏油側がコレに関与していたら呪術界は戦争が起こると言っても過言ではないかと」

「……さぁね」

 

 高専へ報告をするため、2人は現場を後にした。

 

 

 高専に戻ると禪院扇がいた。扇は付人が死んだというのにいつも通りだった。扇が非情な人間なのか、削磨吾一が惜しまれるような人物ではなかったのかはわからない。

 

「いやぁ、この度はご愁傷様ですねぇ」

 

 場違いなテンションで五条悟は禪院扇の前のイスに座った。

 

「五条悟か…久しいな」

「あはははー、久しぶりなのにあまり嬉しくなさそうだねー。ま、僕も同じくなんだけどね……で、今回の事件はどのような見解で?」

「……近辺に特級呪霊の残穢があった。考えにくいが特級にやられたんだろう。」

「へぇ」

「……先程、五条さんと事件現場をみてきました。現場の血痕を高専所属医に鑑識を頼みました。また結果はお伝えします」

「あぁ、頼む」

 

 一同お開きとなったが、五条と七海はその場に残った。

何か違和感がある。2人はそう感じたのだ。何故と言われたら困る。強いていうなら、第六感だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

19

 家入硝子から連絡があったのはそれから数日後。削磨吾一の肉体と血液痕から鉄の粒子が多数見つかった。

 

「……削磨吾一の術式は覚えてるかい?」

「えぇ、確か物体を分子にするんですよね」

「そう……つまりは、」

「術式発動中に刺されたということですか……」

「そういうこと〜」

「通りで凶器も遺体も見つからないわけですか」

 

 にしても、不思議な点は沢山ある。削磨吾一といえば腕利きの呪術師だ。彼の等級は準1級。相手が特級でもあんな簡単にやられてしまうだろうか。特に呪霊というのは、気配でわかる。気配に気づかなかったんだろうか。

 

「僕はこう思うんだよね……呪霊の仕業じゃないってね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――遡ること2週間前。

 

 

 その日、財部 真琴は機嫌がすこぶる悪かった。

 七海が「荒れてますね」と口に出すくらいには機嫌が悪かった。触らぬ神に祟りなしとは上手く比喩した表現だとつくづく思ってしまう。そのくらい機嫌が悪かった。

――削磨吾一が財部の事務所を訪れた日だ。

 

 

 

 

 

 

――――――そして、戻って現在。

 

 

 七海は財部の事務所へ来ていた。

 事務所では相変わらず財部はパソコン画面に向かっており、仕事をしていた。七海はジャケットをいつものように脱ぎ、ハンガーにかけた。もうここに帰りはじめて2週間程経つ。

 

「……貴方でしたか」

「……何が?」

「言わずともわかるでしょう」

「何」

 

 

 

 

 

「――――削磨吾一を殺したのは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20

 カタカタカタとキーボードを打っていた指が止まった。静寂。七海はいつも通り、お茶をグラスに注いで飲みながら続ける。

 

「まさか貴方とは思いませんでした」

「……」

「貴方の洋服に残穢がついてるんです」

「ざんえ?」

「あぁ、そうでした。貴方は術師じゃないから見えないんでした。「残穢」というのは呪術師が術式を行使すると残る痕跡のことです。」

 

 財部は思わず目を凝らしてみるが、そんなものは自身の洋服についているわけなく

 

「――どうして人を殺したんですか」

 

 

 

 

 

 

――――――遡ること3週間前。

 

「流石、御三家。禪院家。立派なお店だよ。こんなところに連れてこられるなんてね」

「……静かにしろ。せっかく裏口から通したのに意味がないだろうが」

「はいはい、扇様」

 

 財部はとある料亭を訪れていた。禪院扇に呼び出されるのは初めてだった。思わず周りをキョロキョロみるが、扇にたしなめられてしまった。

 和室に似合わず大きな黒いソファーがある部屋に通された。

 

「今回、財部……お前さんを呼んだのは、いつもの案件が欲しいわけじゃねぇんだよ。おいおい、あからさまに嫌そうにするんじゃねぇ。」

「じゃあ何?……老いぼれの頼み事はろくなもんじゃないって知ってるんだよ」

「あながち間違ってないがな。財部、金は弾む。色もつける。」

「ますます怪しいね」

 

 

 

「――――削磨 吾一の暗殺を頼む」

 

 

 

 

 財部は笑い転げた。財部のような非術師に、こんな小娘に頼むなんておかしくて仕方なかった。

 

「本気で言ってる?」

「あぁ。本気だ。……そのために低級呪霊の「親」案件を50程用意しておけ。

「……面白いね」

 

 低級呪霊発生場所と時期を把握しておき、削磨吾一の行動を把握しておくという。財部はそこから扇と作戦を練ってから、酒と料理を堪能し、酔った状態で禪院扇が用意したタクシーで帰路についた。

 

「飲み足りない。あ、そうだコンビニで酒でも買い足して帰るか」

 

「運転手さん、そこのFriend Mart寄ってもらっていいですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

21

「七海くんは、私をどうする?高専に引き渡す?」

「いえ」

 

「残穢」なんてものを知らない財部は見つかったあとのことなんて適当にしか考えてなかった。

 

「私はねー、もし捕まるようなことがあればその前には海外に行こうかななんて思ってた。……日本って雑踏としていてあんまり好きじゃないんだよね。うーん、そうだなぁ……マレーシアなんてどう??パハン州のクアンタン。住みやすそう。のんびりできそうな場所なんだよね。」

 

 デスクチェアーに乗ってクルクル回りながらまるで休日の予定を立てるかように喋る財部に七海は呆れながら言った。

 

 

「……別に捕まりません。……彼は呪詛師でした。」

 

 

「へ?」

「ですから、何度も言わせないでください。削磨吾一は呪詛師だったんですよ。……禪院家に密偵として身を隠していたようです。」

「……禪院扇め。そんな説明なかったぞ…」

「というか、禪院扇は本当に貴方がやると思わなかったのでは?」

「さぁね」

 

 財部はいたずらに笑いながら、椅子に乗ってぐるぐる回り続けた。

 

「ねぇ、七海?……削磨吾一が呪詛師じゃなかったら私はどうなってた?」

「まぁ、軽く死刑でしょう」

「軽くないねぇ?」

 

 

 その反応に思わず七海も笑ってしまったが、本当に死刑だったらどうしていただろうと考える。

 

「……明日、五条さんが禪院 直毘人と扇、楽巌寺学長と貴方の今後の扱いについて話すようです。また報告があると思います」

「了解。」

 

 財部は相変わらずパソコンを触りながら返事をした。自分のことなのに危機感はないのだろうかと七海は疑問に思った。

 

「…貴方は死が怖くないのですか?」

「怖くないよ。私が怖いのは「自由を奪われること」だよ。だから、もしも牢屋行きなんて宣告されたら私は生きれない」

 

 七海は、彼女がフリーランスにこだわるのがなんとなくわかった。きっと何かに縛られて働くのが嫌なのかもしれない。まぁ、七海からすれば労働自体がクソなのだが。

 

「…財部さんと私は絶対に似ていません」

「急に何?」

「ですが、今の気持ちはわかります」

「う、うん?」

「…初めて共通点を見つけれた気がします」

「な、なんの話?」

「いえ、お気になさらず」

 

 七海は「疲れました」て言い、事務所の仮眠室へ行ってしまった。きっと今日も泊まるのだろう。

 まぁいい。

 削磨吾一の件が片付いたら、七海の家に泊まりに行こう。そう誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 財部は禪院 直毘人、禪院 扇と対面して座っていた。

禪院家御用達という料亭。みるからに高そうな店だ。

 

「わざわざ東京まで出向いていただいて、ご足労ですね」

「ふん。黙れ小娘が。」

 

 今にも直毘人が持っているお猪口が飛んできそうな雰囲気だが、ここにいる人間味にはそんなことに物応じる者はいない。

 

「……約束のものだ。受け取れ、銭ゲバ」

「わーい ありがとう。……ちゃんと色つけてくれた?私ってば意外と演技派だったことがわかったよ。来世では本気で女優の道を目指そうかと思ったよ。……にしても、禪院家はおっかないね。付人の削磨吾一を暗殺するなんて。まぁ、彼も呪詛師側の密偵だったから仕方ないかもだけど。……ひーふーみーや………」

 

 財部はパラパラと札を数えながら言った。その態度から禪院家とか削磨吾一が密偵とかはどうでもいいというのがみてとれる。

 

「……禪院家の汚点というべきか。わしには兄もおってな」

「知ってるよ。確か禪院甚爾の父親でしょう」

「だな。その兄貴が今の妻と結婚する前に非術師と結婚の約束をしていた。まぁ、若気の至りだろうよ。……その2人の間に実は子どもがいた。所謂、隠し子さ」

 

 思わぬ話に財部はお札を数える手を止めたし、お札を何枚まで数えていたか忘れた。

 

「……つまり、禪院 甚壱の異母兄妹?」

「皆まで言うな。別にこちらとして餓鬼に関与するつもりなんてなかった。だが、その母親が死んだ。しかも、餓鬼は呪力を持っている。……禪院家は保護という名目で奴を面倒みてやっていた。ま、いつから呪詛師側についたかしらんがな」

「………甚爾は異母兄弟と知らずとも奴のこと気にかけてやっていたから、削磨が死んだとなれば怒るだろうな。死人に口がなくてよかったわい」

 

 扇は、そういえば削磨も甚爾が死んだときは落ち込んでたなと笑いながら酒を煽った。この家族は身内の死を笑うのだ。まるで家族旅行の1ページを振り返るように笑うのだ。

 

 ――異質。

 この人たちには"禪院家"という鎖こそが重要であり、その鎖が錆びたり朽ちたりしないように手入れしているのだ。鎖も噛み合わせが大事である。噛み合わせの悪い鎖があれば切ってしまえばいい。だから切った。

 

 財部は察した。削磨吾一の母親もきっと"噛み合わせの悪い鎖"だったんだろう。――禪院家に殺されたんだろう。

そして多分だが、削磨自身はそのことを知らないだろう。

 もし削磨自身に力がなかったら彼の末路は母親と同じだっただろう。しかし違うかった。彼には力があった。それは彼にとって幸運だったのか不幸だったのか、それは彼にしかわからない。

 途端に削磨吾一という胡散臭いあの人間が、可哀想に思えたが後の祭りだ。今更思っても仕方ない。

 

「…酒は飲まんのか」

「ここで飲む酒は身体に悪そうでね。…帰ってから晩酌するよ」

「直毘人、小娘に酌させようってのか」

「バカいうな」

「私が酌するような女にみえるか。京都帰って芸妓だか呼びなよ」

 

 財部は削磨吾一暗殺の報酬を数え終わって封筒を鞄にいれると、席を立った。

 

 

「だが、忠告しておいてやろうか」

「……」

「コソ泥ネズミのように金をかき集めるクソ女(アマ)よ。てめぇには近々お灸がすえられるぞ」

「根性焼きかい?ノッた」

「…生意気な」

 

 

 ――さぁこの金があれば。

 金の使い道を検討しながら、財部はルンルンで深夜のコンビニに吸い込まれるように入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

22

―――― 禪院家 屋敷

 

 

「おー、怖い怖い。やだねぇ若者が1人だけってのは」

 

 五条悟が茶化しながらいるこの場所は禪院家屋敷。五条悟の横には呪術高専学長 楽巌寺。2人の前に座るのは禪院家現当主 禪院 直毘人と特別1級術師 禪院 扇。

 

「……で、高専直々に話しってのはなんだってんだ。」

「あぁ!お話ししましょうかねー!」

「悟は黙ってろ。ワシから話す」

「はいはーい」

 

 楽巌寺は険しい顔のまま、話始めた。

 

 

「てめぇら、財部 真琴を殺そうとしたろ?……あの小娘は敵か味方かわからん。なんなら、わしらを金のなる木にしか思ってないような銭ゲバ野郎。……だが、利用する価値はある。それはそちらも同じでは?」

「ごもっともですな」

「……禪院家にいた削磨吾一。奴は五条に監視させていたが、夏油傑と内通者だった。それはそちらも知っていたはずだ。――だが、泳がせていた。ここまでは合ってるな?」

「……最後まで聞くとするか」

「どうぞ続けて」

 

「……だが、削磨吾一が夏油の内通者 呪詛師とわかった。そこでだ……あんたらは」

「財部を使って削磨を殺そうとした、とな?」

「うむ」

 

 全部言い終えたとき、五条が場違いな大きな拍手をした。

 

「はははー!ブラボーブラボー!」

「五条黙っとれ」

「いやぁ、こんな堅物じいさん2人相手に話をするなんて流石学長だねぇ!!将来は仲良く3人で老人ホームにでも入ればいい!!!名案だ!…………財部真琴の処分だが、削磨吾一は呪詛師だったし、財部真琴は処分無しでいいでしょ?……勿論、僕は彼女をしばらくマーキングしておくよ。それでいいでしょ?ほらぁ!財部君の情報がなかったらお互い困るでしょ?ね?」

 

 五条のこの陽気な物の言い方に3人はさらに眉間の皺が濃くなる。しかし、五条は続ける。

 

 

「……ただ、万が一にも夏油側と深く繋がっていた場合には……殺すよ?」

 

 だから安心して?という五条に対し、禪院直毘人は静かに頷いた。禪院家としても財部にネズミのようにうろちょろとされて掻き乱されてるような感覚が否めない状態、財部は上手く利用していきたいところだがなかなかそうはいっていないのだ。

 だが、自分たちで彼女を殺めてしまえば彼女を同じように情報源として利用しているところからの恨まれ役と化してしまう。それはなんとしても避けたかった。そこに五条のこの提案である。のらないわけにはいかなかった。

 財部は非術師だ。殺めようと思えば簡単だ。まるで、蚊を叩くような感覚かもしれない。だが、それはしない。五条悟が殺すということがとても重要なのだ。五条もそれを自負している。

 

「……じゃ、決定で!!!はいはい、おじいちゃんたちは早く寝ないと!どうせ明日も早起きなんでしょ?はーい、解散!!」

 

 

 五条はいち早く部屋を出ると、電話をした。

 

「もしもし、まこっちゃーん?君のこと依頼通りに無処分にしといたからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

23

 財部真琴は五条からの電話を切ると、ATMに数枚お金を入れた。

 

 ――――――送金完了 送金先:五条悟様

 

 

 店から出ると変わった風貌の女性がいた。その女性は綺麗な長い白髪を前後で大きく結っているという独特な髪型をしていた。

 

「……Ms.財部じゃないか。」

「……誰?」

「あぁ、直接会うのは初めてだったね。噂はかねがね聞いてるよ?私は冥々。呪術師だよ。どうぞ、今後仲良くね」

「……は、はぁ。財部真琴です。」

「私はフリーで呪術師をしていてね。高専には所属していないんだよ。……また君にはお世話になると思うから宜しくね」

 

 冥々と名乗った女性は笑みを浮かべながら、去って行った。不思議な雰囲気の女性だと財部は思った。

 

 

 

 

 

 そのことを帰宅後に七海に話すと七海の眉間のシワが濃くなったのがわかった。

 

「はぁ。貴方って人は…削磨吾一のことがあったから少しは大人しくしようとは思わないんですか」

「あっちから絡んできたし。なんなら、金払い良さそうなお姉さんだったし。あの人何級?」

「……1級です。もう何年も1級術師で前線に立っているベテランですね」

「へぇ。じゃあいい顧客になりそう」

「じゃなくて……はぁ、本当に。貴方は何故ここに帰ってくるんですか」

「久々なのにその言い方はないんじゃない?」

 

 財部は冷蔵庫から缶ビールを取り出して、また喋り出す。

 

「……なに?それとも殺人犯がいたらマズイの??」

「五条さんから連絡があったでしょうが。貴方は無罪だって。」

「あったよ。……七海くんが私の監視の任務任されてると思って、楽させてあげようとしてるのに」

「残念ながらそれは伊知地くんの仕事です」

「うわぁ、それは予想外」

 

 七海は他人が自分の家で晩酌してるのに自分が飲まないというのが気に食わず、ハイボールを空けた。ついでにチーズもおつまみにと出したところで横から手が伸びてきた。パクッとチーズを口に放り込んで「最高」という彼女は年齢よりいくつか若く見えて普段見せない顔だった。

 

「貴方は幸せそうですね」

「まーね。」

 

 本題をはぐらかされた感は否めないが、七海は諦めてこの晩酌を楽しむ努力をしようと思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

24

「面白い話をしてあげようか?」

「なんだい?Mis.財部」

「君たち呪術師は等級が高い呪霊ほど多くの報酬が入るでしょう?でも、それはここでは違うんだよ。わざわざ特級案件を欲しいと言う呪術師は少なくてね。みーんな楽がしたいのさ。だからここでは特級案件は安くて、低級案件は数体セットでお値段が張るわけ。おわかり?Do you understand?」

 

 ペンをくるくる回しながら退屈そうに話す財部に対して、白髪の長身の女性――冥冥はニコリと微笑んでその話を聞いていた。

 

「あぁ、そうだね。それが理にかなってる。金は上手に稼がないといけない。」

「でもねー、面白いことにそれが逆のパターンもあるんですよね」

「ほう」

「呪詛師。――彼らは等級が高い案件がほしい。だから彼らにはその逆の値段で売り捌いてるってわけ」

「……Ms.財部。貴方……貯金はいくらある?」

「はい??」

 

 2人の間にはよくわからない空気が流れていた。気まずいようなそうでないような。

 

「冥さんはどんな案件買いに来たの?」

「あぁ、別に買わないよ」

「え?」

「私はむしろ政府や高専から依頼される側だよ?なのにわざわざ自分から祓いにいくためにお金を払うなんて可笑しいと思わないかい?」

「……じゃあ何しに来たの?」

 

 誰だってそうだ。ここに来る人は案件を買いに来る。または、その交渉にくるのだ。なのにこの冥冥という女は何をしに来たのか。全くわからない。

 

「わたしはねぇ、財部真琴という人物とお話をしたかったんだよ。貴方がどんな人物なのか、どんな仕事をしているのか、どれだけ羽振りが良い人間か、どんな女性なのか、気になっていたからね。」

 

 冥冥のコツコツという足音のみが響く部屋で、彼女は喋り続ける。まるで独壇場。

 

「私のことは知ってたかい?……あまり興味はなさそうだね。あぁ、……わたしの術式はシークレットなんだよ。ごめんなさいね。貴方に開示したところで別に得なことなんてないからねぇ。別途料金だよ?」

 

 妖美な笑みを浮かべる冥冥に財部は徐々に自分が警戒していくのがわかった。でも、そんなこと気にする人じゃあなかった。

 

「……まぁ別に?誰も買わない売れ残りのような案件をもらってやらないこともないよ。そのときは気軽に連絡してきてね…」

 

 冥冥は名刺をスッと財部に渡すと笑みを浮かべたまま事務所を出て行った。何だかつかみどころのない人だった、と思った。初めて会うタイプの人間だった。

 冥冥が事務所のマンションを出ると五条悟が暇そうに突っ立っていた。

 

 

「……顔覚えた?」

「あぁ大丈夫だよ」

「これで君のカラス達にみておいてもらえたら助かるよ〜」

「金は振り込んだかい?」

「勿論。記帳してきなよ」

「毎度」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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