財部真琴という人間   作:otamamata

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 ―――バラバラにされた物体は元通りに戻るだろうか。
パズルを組み立ててもう一度作り直したことは?お気に入りの玩具を壊してしまって、元に戻した経験は?
家電を分解して組み立てたことは?本を破ってしまって、修繕したことは?コップを割ってしまったことは?



 
 では、草は?花は?動物は?




――――――人体は?




第2話

25

「面白い話をしてあげようか?」

「なんだい?Mis.財部」

「君たち呪術師は等級が高い呪霊ほど多くの報酬が入るでしょう?でも、それはここでは違うんだよ。わざわざ特級案件を欲しいと言う呪術師は少なくてね。みーんな楽がしたいのさ。だからここでは特級案件は安くて、低級案件は数体セットでお値段が張るわけ。おわかり?Do you understand?」

 

 ペンをくるくる回しながら退屈そうに話す財部に対して、白髪の長身の女性――冥冥はニコリと微笑んでその話を聞いていた。

 

「あぁ、そうだね。それが理にかなってる。金は上手に稼がないといけない。」

「でもねー、面白いことにそれが逆のパターンもあるんですよね」

「ほう」

「呪詛師。――彼らは等級が高い案件がほしい。だから彼らにはその逆の値段で売り捌いてるってわけ」

「……Ms.財部。貴方……貯金はいくらある?」

「はい??」

 

 2人の間にはよくわからない空気が流れていた。気まずいようなそうでないような。

 

「冥さんはどんな案件買いに来たの?」

「あぁ、別に買わないよ」

「え?」

「私はむしろ政府や高専から依頼される側だよ?なのにわざわざ自分から祓いにいくためにお金を払うなんて可笑しいと思わないかい?」

「……じゃあ何しに来たの?」

 

 誰だってそうだ。ここに来る人は案件を買いに来る。または、その交渉にくるのだ。なのにこの冥冥という女は何をしに来たのか。全くわからない。

 

「わたしはねぇ、財部真琴という人物とお話をしたかったんだよ。貴方がどんな人物なのか、どんな仕事をしているのか、どれだけ羽振りが良い人間か、どんな女性なのか、気になっていたからね。」

 

 冥冥のコツコツという足音のみが響く部屋で、彼女は喋り続ける。まるで独壇場。

 

「私のことは知ってたかい?……あまり興味はなさそうだね。あぁ、……わたしの術式はシークレットなんだよ。ごめんなさいね。貴方に開示したところで別に得なことなんてないからねぇ。別途料金だよ?」

 

 妖美な笑みを浮かべる冥冥に財部は徐々に自分が警戒していくのがわかった。でも、そんなこと気にする人じゃあなかった。

 

「……まぁ別に?誰も買わない売れ残りのような案件をもらってやらないこともないよ。そのときは気軽に連絡してきてね…」

 

 冥冥は名刺をスッと財部に渡すと笑みを浮かべたまま事務所を出て行った。何だかつかみどころのない人だった、と思った。初めて会うタイプの人間だった。

 冥冥が事務所のマンションを出ると五条悟が暇そうに突っ立っていた。

 

 

「……顔覚えた?」

「あぁ大丈夫だよ」

「これで君のカラス達にみておいてもらえたら助かるよ〜」

「金は振り込んだかい?」

「勿論。記帳してきなよ」

「毎度」

 

 

 

 

 

26

 財部は都内のとある喫茶店にいた。ここが待ち合わせだったのだ。

 

「おっまたせーー!!ごめんよ、お待たせして」

「反省が全く伝わらない謝罪するなら早く座って」

 

 そう促されて席に座ったのは全身黒ずくめな服装をした男――というより、まだあどけなさが残る感じは青年と呼ぶべきだろうか。

 

「――ということで、ボチボチ一級に昇格したいんでここらでちょっと強い呪霊を倒しておきたいと思いまして」

 

 青年、猪野琢真は語った。要するに、彼は直属の先輩である七海建人に認めてもらって彼の推薦で一級に昇格したいのだが、七海がなかなか推薦してくれないらしい。で、財部の噂を聞いて来たというわけだ。

 

「いや、別に理由はいいんだけどさ……金取るよ?」

「え?!あ、そっか!!!やっべ、今月金欠なんだった……えっと!倒したら払う!」

「……金は?」

「いや、あの、そこをなんとか!!!」

「……仮にも二級なんでしょーが。金くらい持っとけよ…」

 

 財部が今回は断るか、初回だから適当な親を安く売るかはたまたサービスしてやるか悩んでいると、

 

「……何やってんですか」

「うぉ!七海先輩!っつかれッス!!」

「やほーー」

「店員さん、私にもアイスコーヒーを。――――で、猪野君は何故財部くんといるんですか」

「七海くんは何でいるんですかー?」

「たまたま店の横を通りかかりました。」

 

 そういう七海はこちらの席に着くとネクタイを緩め、ジャケットを脱いで喫茶店のメニューを見始めた。

 

「あぁ、すみませんがこの厚焼き卵のサンドウィッチをひとつ。」

 

「あ、食うんだ?」と財部と猪野が同時に思ったところでまた話は戻る。さっきの事情を猪野がかくかくしかじか説明すると七海は大きくため息を吐いた。

 

「……別に私からじゃなくても推薦してもらえるでしょう?なぜそこにこだわるんですか。あと、誰からこの人の噂を聞いたんですか。そもそも呪霊の親が視えて、その情報を売ってる人だなんて怪しさ極まりないでしょう。なのに直接会うだなんて…はぁ……」

「なんか私ディスられてない?」

「財部さん、…ディスられてますね」

 

「財部くん、猪野くんは私の後輩です。彼がやりたいと言ってるからには私は止めませんし、むしろ手伝いたいので支払いは私が持ちます。」

「……わかったよ。3日後いいの見つけて連絡するから。猪野さん、また連絡する」

「う、うす!!」

 

 財部は猪野の返事をきくと、会計伝票をひったくるように持って店を後にした。

 

 財部は七海に案件を売ったことがない。別に理由はない。彼も買おうとしないし、財部も売ろうとしない。ただそれだけだ。でも、もしかすると彼は高専を通じて案件を処理していたかもしれない。だが、直接の売買はないのだ。

 

 財部は店での話、猪野の等級と術式とを考えてどんなのがいいかなんて考えながら帰路に着いた。

 

 

 

 

 

27

 仕事が終わって財部が七海の家に帰宅すると珍しく出迎えられた。出迎えられたといっても扉を開けられて、どうぞと言われただけだが。

 

 なんだか畏まられるとこちらも気を遣うななんて思いながらリビングのテーブルに座ったところで、七海から話が始まった。

 

「猪野君のお支払の件ですが、これでいいですか?」

 

 無言で差し出されたのはそれなりに厚い茶封筒。財部は中身を確認して、数枚抜くとあとは返した。

 

「何故?私は貴方の案件の相場を知りませんが、日々の話からするとこんなもんでしょう」

「鋭いね。でもね、衣食住させてもらってるからその分さっ引いておくよ!……君には逆らえないので」

「当たり前です。家主です。」

 

 七海はふっと笑うと冷蔵庫から昼間の喫茶店の箱を出して来た。サンドウィッチをテイクアウトしたらしい。

 

「貴方の晩御飯です。本当、貴方は食に無関心すぎる。このままだと栄養不調で倒れますよ」

「……食べろと?」

「食べましょう」

「……はい」

 

 サンドウィッチなんて久々に食べた。からしマヨネーズが絶妙で美味しいなんて味わいながら食べたらあっという間になくなってしまった。

 今日初めての食事だった。なんて言うと七海に怒られそうなので言わないことにした。

 

「……呪術師のルールなんてよくわかんないけど、なんか推薦?がいるの?七海くん推薦してあげればいいじゃん」

「彼は彼なりに一生懸命働いてくれています。今はまだ時期じゃない。」

「ふーーん」

 

 財部は大して興味なさそうに返事をした。でも、七海が彼を後輩として可愛がっていることはなんとなくわかったのだった。

 

 

 

 

 

28

――――――来たる夏。

 

 

 夏は毎年呪霊が頻発する。即ち、呪術師達は忙しい。ということは、情報なんて買う暇もないということで、財部は暇だった。毎年恒例だった。

 なので、この期間を夏休みと称して毎年長期間出掛けるのだ。

 荷造りする財部を横目に出勤の準備をする七海は夏に入った途端に疲れて来たように思う。

 

「…あんた、つかれてない?」

「取り憑かれてはいませんが、疲労は蓄積されてますね」

「ははっ、冗談言えるならまだイケるか」

 

 七海は毎年のことなので、気にしないが 荷造りすらもこの家でするなんてここにどれだけ彼女の荷物があるのだろうか?と不思議に思う。

 

「今年はどこに行くんですか」

「えーーー、どこだろ。」

「決めてないんですか?」

「サイパンかヨーロッパかアメリカか北海道かエジプトじゃないかな?」

「決めてないんですね。毎年、適当すぎませんか」

「ま、人生計画通りにいかないんでね!!」

「計画すら立ててないじゃないですか」

 

 スーツケースに座って、荷物をぎゅうぎゅうに押し込む姿がおかしくて思わず七海は締めてやるのを手伝った。帰りは大丈夫だろうかと思ったが、帰りに関してはどうしてもやれないので頑張ってくれと思う。

 

「んじゃ、明日からいないのでヨロシクゥ!」

「ここはそもそも私の家です」

「はいはい」

「この人はわかってるんでしょうか……」

「何がーー?」

「独り言です」

 

 さすがに今夜は早く寝るらしく、ソファーを早々にベットに変えていた。5分も経たぬうちに聞こえる寝息と小さめのボリュームにしたテレビ、街の静かな音が七海の酒の肴になった。

 

 次の日の朝、財部はいなかったし自宅は静かだった。ただでさえ、ここ数日は忙しい。少しでも隙あらば体を休めたい。ソファーを独占できる有り難みを感じながら七海は朝刊片手にコーヒーを楽しんだ。

 

 七海が高専に出勤すると五条悟が前から陽気に手を上げてやってきた。

 

「やぁ!七海!おはよう!いい気分だね!」

「朝からそんなハイテンションに挨拶されて何がいい気分なんですか」

「朝はテンション高くいかなくっちゃーー!!!ね?……って七海テンション低くない??」

 

 肩を組まれた手を外しながら、七海はため息をついた。いやはや、何故この先輩は朝からこんなにテンションが高いのか。

 

「普通です。」

「そうか?……あ、わかった!!財部ちゃんがバカンスに行ってるからでしょ?」

「違います。……で、何故知ってるんですか?」

「あ、気になる?」

「いえ、そこまでは。」

「ふーーーん。毎年だよねー、あの娘。お土産くれないかなぁ!」

 

 あぁ、この人は適当な人だった。とため息を吐きながら七海は部屋を後にした。

 

 

 

30

 長期休み明け、財部は大してやる気なく七海の自宅にいた。仕事しようにも買い手がいない。仕事にならないのだ。

 七海はこの自堕落な財部に呆れながらも何も言わずに今朝出勤していた。もうすぐ帰ってくる頃だろうか、なんて思いながら。さすがに何かしていないと怒られそうだとフローリングワイパーで床を掃除し始めたときに玄関の扉が開いた。

 

「あ、おかえりなっさぁい」

「戻りました。財部さん、今ちょうど掃除し始めたところでしょ」

「ご名答!」

 

「七海、腹減った!飯!」

「もうちょっと言い方あるでしょ…お弁当買ってきました。私は食べましたので、財部さんだけどうぞ」

「サンキュ」

 

 別にいつもと変わらない夜が、ガチャリという扉が開く音で不穏へと転落していく。

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔しますぅ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――削磨 吾一、生還。

 

 

 

「あ?」

「……禪院家の削磨吾一。死んだのでは?」

「殺したはずよ」

 

 2人の顔が一気に引き攣る。警戒、警告、警報、危険、謎、何故、警戒、警告、警告、警報、警報――。

 財部の脳内は削磨を殺したときのことを思い出していた。殺したはずなのだ。何故?何故なのか。

 同じく七海も事件現場を検証したときのことを思い出していた。あの状態から生きているわけがない。何故だ。

 対照的に目の前の男はニコニコと笑っている。予想通りの反応だったのであろう。満足そうにもみえる。

 

「いやぁー、2人のその顔リアクションみれたさかいに満足満足!財部はんも相変わらずべっぴんさんで何より。何で生きてんねんって顔してはんねぇ。そりゃしゃーないで、だって俺はいっぺん死んださかい!でもちゃうで?生き返ったわけやあらへんで。なんやと思う?……はい、3、2、1……ブッブー!!とろいわ!もうちょい早よ答えてぇや。なんやの、2人ともノリ悪いなぁ。……で、正解はな、俺の術式よ。まぁちょいと雑になってもたさかいに、身長が5、6センチくらいかなぁ、こまなってもてんけどなぁ……しもたわぁ」

 

 生前と変わらずにツラツラ喋る削磨に財部はイライラのピークだった。

 

「……七海、悪いけどちょっと出てって。」

「はい?」

「出てけって言ってんだよ!!!!……今からコイツと大事な)"ビジネス"の話をしたい。……何かあったらすぐ呼ぶから。大丈夫。殺されない。だから、出て行って」

 

 あまりの強い口調に七海は驚いた。初めて声を荒げたところをみたかもしれない。

 

「……わかりました。何かあればすぐ」

「ありがと」

 

 七海は部屋の外に出て、すぐに駆けつけれるよう扉のすぐ裏で待つことにした。

 

 

「まさか財部ちゃんが、彼氏持ちで同棲しとんなんか思ってなかったさかいに俺ショックやってんで?」

「七海は関係ないよ。……で、どうやって生き返ったんだ

?何しにきた?ここに。」

「あ、せやせや!それを話にきてん!」

「てめぇと話すとイライラして仕方ないんだけど」

「おー、こわこわ。」

 

 

 削磨はリビングのソファーに座るとニッコリと笑いながら語り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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