この度俺は、VTuberになりません。 作:初見さん
「入るよー」
「入んな姉。俺の側に近寄るな」
「拒絶反応深刻すぎない?」
午後0時、扉をやや乱暴に叩いて飛び出てきた姉を見て、俺はブランケットに包まった。
休日くらいボーッとさせてくれ、こんな時まで召使いなんて嫌だぞ俺は。
「ねー、昼飯まだ?」
「今日は眠いんだよ、誰かさんのせいで」
いつになくうるさい腹の音の姉を突き放す。
配信で夜まで働かされるのはもう慣れっこだが、肉体性能の限界には気づいてほしい。姉は学業と配信だけだが、俺はその他にも家事を並行して行っている。
今思えば配信業のためだったとは言え姉が一切手伝えないポンコツ、その上親も帰ってくるタイミングがかなり悪い。必然的に俺が家事に回る訳なのだが…配信に不定期に巻き込まれてから生活リズムが完全に狂った。
「アタシ一人じゃご飯作れないよ」
「誇らしげに言うんじゃないよ大学生だろアンタ」
「カップラーメンで我慢するからさぁ、お湯入れるだけじゃん」
じゃあ姉が入れろよ、とは言えないんだよな…カップ焼きそばでの失敗例がある限り、カップラーメンでも信用はできない。お湯をこぼすか、かやくを忘れるか、スープの素を先に入れるか、カップを落とすかってところだろう。
毎度思うがここまで壊滅的だといっそ清々しい。コーヒーに砂糖と塩を入れ間違える、というネタがあるだろう。姉はまずコーヒー豆と大豆を間違えるからな。料理下手もここまで限界突破すればむしろ特徴と言えるな。ハハハハハ。
「夜は作ってやるから我慢しろ」
「嫌。お腹空いたもん」
空いたもん、じゃないんだよなぁ…
「揚げ物ならできただろ。揚げ加減タールの」
「それ石炭でしょ!?」
正解、グリフィンドールに50点。
普通の人間ならヤバいかもしれないけど、まあ姉だしな。使い捨てみたいなもんだしそもそも生み出した元凶だから喜んで食わせられるだろ。
ただ本当に姉が覚悟を決めて調理を始めたら…その時は家中の火災報知器がこぞって大合唱を始める事を想定した方がいい。
「私はオムライスがいい」
「聞いてねぇ…」
自分で作れないくせして人に頼む時はどこか上から目線なのが姉という生き物だ。姉本人のスペックが微妙なだけにされると若干ムカつく。
とは言え、キッチンを使っていいかと聞かれなんとなくで了承してしまった時。あの時の被害かなりえげつなかったからな…また同じ目に遭うのは勘弁願いたい。仕方ない、出よう。
「…はぁ」
「お、動いた。ヤッター」
他人事みたいに。いや俺の起床の有無なんて実際他人事なんだろうけど。
ただ、俺がこの後姉にもたらす結果は決して他人事の一言で済ませていいようなものではないだろう。だって今から飯作るんだもんな。
…などと思っていた俺の姿はさぞかしお笑いだったのだろう。
「言っておくが、作ったらすぐ寝るからな」
「分かってるって。じゃー蘭丹とこ行こうか」
「あ”?」
嫌々布団から出た俺に待っていたのは、さらなる地獄へ招待するための片道切符だった。
ぢ ぜ
2024/6/9(日)13:00開始
じ ぐ ・LIVE ぎ ぜ ぞ じ し
2024/6/9(日)13:00開始
「三度の飯より超変身! 毎度おなじみ、100万人の命の上に立っている伊神蘭丹です!」
「うぇーい、笹峯ノイズだ」
「姉の頭蓋骨でサッカーしたい弟妹です、どーも」
空気読めって。いい加減さ。
「今回はお菓子ではなく、昼ごはんですね」
「姉があまりに駄々をこねるんでな。コラボ企画とは思わなかったが」
何故、昼飯を作りに行くのにはるばる鉄パイプの家に来なければならなかったのか。
これさえ出来ていれば回避は不可能ではなかったんだがな…まあ俺の負け惜しみなんか聞いててもしょうがないか。さっさと仕事しよう。
「何作るんですか?」
「手軽で人数分作れてなおかつ保存がそこそこきくと言ったら…まあアレだよな」
チャーハン。
それは中華の世に誕生せし野菜と肉が一緒に入った神の料理。なおミネラルやタンパク質とかの量の部分は一切気にしない。ただ単に野菜と肉が一緒に入っていると言っただけだ。
別に材料を持参する暇もなかったので鉄パイプの家にあるのを見て適当に冷蔵庫に入ってたのをパクったとかでは断じてないから。違うから。
「はい、アタシは二人分がいいです」
「他所の家に上がりこんどいていい度胸だなテメェ」
「まあまあ、私も昼ごはんまだだったんで」
なんと人格者なのだ……え? 元々姉とつるんで俺を配信に映らせる計画だった? ここまでちょろいとは思わなかった、だと? よし、お前らそこに並べ。殴る。
安心しろ、意識くらいは飛ばさないでおいてやる。
「ひ、平手ですよね……?」
「え、グーだけど」
「
最後のは事実だろうが。
不良に頼まないだけマシだぞ、アイツが本気出して殴ったらそれこそ頭蓋骨が逝くだろうしな。
「うー……それで、チャーハンなんですよね?」
「ああ、とは言えいつものとは違う。鉄パイプ食器一人分しか持ってないし」
大きなたんこぶを作り涙目になっている鉄パイプの質問に、冷蔵庫から材料を出しながら答える。
何故一人分なのかはおいといて、食事に支障が出るのは見過ごせない。という事で手で食べられるものにしようと思う。
「…チャーハンおにぎり、ですか?」
「ああ。崩れないような工夫もあるしな」
引き出しの上にラップがあるのが見えた。今回はこれでいく。
「姉はすっこんでろ」
「はいよ。じゃこっちでゲームやってるわ」
「毎度思いますけど扱い雑ですよね」
何も問題はないだろ。というか姉を残す方がむしろ問題なんだわ。
茶碗蒸しを作ろうと意気込んでたらなんやかんやで30分後にキッチンが大爆発するようなあの姉が、まともな手伝いが出来るとは思えない。
この間の料理配信で懲りた。というかあの惨状も割と奇跡レベルで損害が少ない方だ。
「それじゃ米を」
「炊いたものがこちらになります」
「はっや」
流石元から計画していただけはある。手際の良さがどこぞの3分料理番組。
生配信でされるとは思っていなかったし、それをされるのが俺というのも全く想定してなかった。ナイス鉄パイプ。
「だが炊きたての柔らかい米じゃないと崩れにくいチャーハンおにぎりは作れんぞ」
「なん……だと……ッ!」
大人しく保温にしておいてもらうか。それじゃその間にベーコンとねぎを切っておく。
「ふああ…」
「なんだ眠いのか?」
「あ、いや…そ、そんな事は!」
三期生の中では唯一そこそこの生活リズムをキープしていそうな鉄パイプだが、実際のところはどうなのだろう。こうやって自炊してる辺り栄養バランスとかは考えてそうだが、皆が皆姉のように一日の睡眠3時間とかで回るような体質でもあるまい。
「というか目に隈があるしな」
「えへへ……食事で賄えるようなものじゃないですし」
「Vtuberと大学の両立はやっぱり厳しいか」
そうだよな。一般的な観点から見ればそうなんだよな。よし、やっぱあの姉しばく。
「次に卵を解きほぐす……ん? 卵は?」
「卵なんてねえよ」
「うるせえよ黙れよ。そこにパックあっただろ」
「捨てるのめんどくて放置してただけです。…へへっ」
お邪魔しておいてなんだが殴りたくなってきたぞ、この顔。「へへっ」じゃないだろ「へへっ」じゃ。
慌てて冷蔵庫を見れば、そこにあったのは確かにパックオンリー。中身の卵は書き置きを残してどこかへ旅立っていったようだ。
「ベーコンとねぎで卵がなくても作れるやつ……」
「スプーンもフォークもいらない…」
鉄パイプがアホ毛を逆立てて、何かを思いついたような顔をした。先程の条件を揃えてなおかつ昼ごはんになりそうな、そんな虫のいい料理なんてあるのだろうか。
「ねぎのベーコン巻きでいっちゃいましょうか」
「つまみ感増したな」
「もう切ったねぎはしょうがないからメインディッシュに使うとして、残ったねぎを…」
「紫電…一閃……!」
「包丁そんな持ち方しないでもらえる?」
刃渡り言うほど長くないだろ、鞘をつけるな鞘を。
一つ間違えたら指落ちるぞ。そういう技は主将に任せておけば…いや主将も真剣ならいざ知らず、ここまで小さい小刀みたいなのの扱いには慣れてないか。
「で、ベーコンで巻くと」
「竹串で刺すんですね。三つずつがベストっぽいです」
なんとも作業じみた配信だ。
まあ普通料理ってこうだからな。音楽聞いて黙々と作業するのが俺の知る料理。バカ騒ぎしながらするのは友達とふざけながらやる奴だし、そんな状況になった事なんてミリもないし。
ところが、そう黙ってばっかともいかない。
「……なんか学校で友達とかとなんかやってる事、あります?」
「え?」
語る暇しかないせいか、鉄パイプはあくまでベーコンを巻きながらではあるが雑談をしようと話題を振ってきた。何か水素水紹介する通販番組みたいな振り方だが、まあこのままだと虚無だし。配信者としてそれはかなり致命的だからな。
「最近は……友達じゃないけど、この前言った不良と、もう一人を家に呼んだぞ」
「え、友達じゃないのに家呼んだんですか?」
「まあ……家行きたいって言ってたし」
この程度なら気づかないよな、あの二人も……気づかないよな?
いや、今のも割と怪しいか。ここ最近、俺が言う事なす事全部前フリみたいになるからな……俺個人としてはいい迷惑だ。早く戻してほしい。
「そっちは大学どうなんだ?」
「え? ああ、私は……」
「うわあああああっ!? ちょっ、何すん…痛い痛い! 腕噛まないでって!」
「……????」
鉄パイプが急に叫んだと思ったが、よく聞くと姉の声だった。そう、姉。姉が奇声をあげながら他所の家の畳でゲーム機放り投げてのたうち回っていた。
配信にも声乗っただろアレ。何やってくれちゃってんの。
「あーすいませんノイズさん! 今助けますんで!」
と思ったら、鉄パイプが颯爽と助けに行った。何だ、鉄パイプの方に非があるのか?
しばらくして涙目になりながら腕をさすってやってきた姉と、その隣で苦笑いしながら頬をポリポリとかく鉄パイプが戻ってきた。
端から見ればかなりシュールな絵面だ。
「何があったんだ、今?」
「いや、ウチで飼ってる猫に噛まれたみたいで…」
何か意外だな、姉は別に昔から動物に嫌われてるという訳でもないはずだが。
特に猫は、俺の家にもたまに来ていたしな。縁側で涼んでるとよく塀の上をダッシュで通って消えていくが、餌おいておくと食べてから消える現金なやつ。
…いや、それよりも。
「猫飼ってたのか鉄パイプ」
「あ、そういやなんだかんだで会わせてませんでしたね。クイズの時には散歩行ってたみたいですし…おいで、ハバネロ!」
「は?」
ニャーという音とともに歩み寄ってきた黒猫。これが鉄パイプの飼ってる猫か…今ハバネロって聞こえた気がしたが、気のせいか? …いや、姉の無表情ぶりからして特に気のせいでもなんでもないんだろうな。
ネーミングセンス。
「こめかみは?」
「今は確か二階でお昼寝です」
だからネーミングセンス。というか二匹目いんのかい。
鉄パイプがハバネロを優しく持ち上げて撫でてやると、嬉しそうに手に擦り寄ってきた。目を細めて撫で終わるまで脱力しているのを見るに、かなり信頼されているようだな。
それを抜きにしても、猫にしては警戒心が薄そうだ。姉はハバネロに何したんだよ。
「猫愛でてる暇あったら働いてくれない?」
「だが断る」
「あ?」
「すいません働きます…」
鉄パイプは惜しみながらハバネロを離した。隙を見て再び姉の脛にかじりつくハバネロと、またも叫び和室を転げまわる姉。いいぞもっとやれ。俺ができなかった分まで姉を懲らしめてくれ。
俺とハバネロの利害が一致した瞬間だった。どうやらコイツとは仲良くなれそうだ。
「血の繋がった姉のピンチにここまで喜ぶって相当ですね」
「さっき自分で言ってた生活リズム思い返して、そこに不定期に配信に巻き込まれるストレス加算してみろ。そんな呑気な事言えなくなってくるぞ」
鉄パイプは半ば察したような顔で作業に戻った。
…とは言え俺が軒並み残りのを竹串に刺しきったので、あとはごま油を垂らして熱したフライパンに入れていくだけだ。もう午後二時、昼飯には遅い気がするのでメインディッシュはもういいか。晩飯を豪華にしておいてやるから、今はこれと白飯オンリーで我慢してもらおう。
「両面じっくりと焼くのがコツな」
「うう〜ん、この香りたまんねえ〜〜!」
そして焼き上がったものを次々に皿に乗せていく。半分はそのまま、半分は醤油をかけていい感じに味を整えれば完成だ。
鉄パイプと二人で味見をしてみるが、ごま油の風味がベーコンの味わいとマッチしてとても美味い。つまみと言ったか、前言撤回だ。副菜に昇格。
「いい加減腹減った。チャーハンはできたのか?」
「悪いな、チャーハンじゃなくなった」
「今ですか」
まあ姉向こうでずっと鶏冠井さんのゲームやってたし。
言うタイミングがなかったと言うか、こっちもこっちで言ってる暇なかったと言うか。
「白飯よそってこい、テーブルにこれ運んどくから」
「うぃーす」
姉を追っ払ったあと、鉄パイプと二人で皿を運んだ。そこそこの量作ったので恐らく余るし冷凍する事になるだろうが、大学生一人暮らしで飯のストックなんぞいくらあってもいいからな。後で味の落ちない冷凍の仕方とか教えてやるか。
まあ今は取り敢えず食べよう。竹串を三人で持ち、どこぞの桃園の誓いみたいに重ねながらいい笑顔で例の感謝の言葉を。
「「「いただきます!」」」
「…あ、ハバネロも食べる?」
「あかん」
「おいバカやめろ」
736:名無しのライバーID:IWVNqrJA3
料理配信見たの久しぶりやな
737:名無しのライバーID:9y1qN1oCE
>>736
鉄’sキッチンか
738:名無しのライバーID:4A5Wc50cj
いつもはお菓子作りやからな
739:名無しのライバーID:hMFRZAWsV
言うて今回もつまみ作ってるんだけどな
740:名無しのライバーID:U7O9RBU01
ハバネロちゃん可愛かった
741:名無しのライバーID:idhkfxIYU
>>740 これに尽きる
742:名無しのライバーID:mloUYdnCw
鉄パイプ唯一の取り柄やし
743:名無しのライバーID:JPEoHGrrz
そんな鉄パイプ自身に取り柄が何もないみたいな言い方やめろや
744:名無しのライバーID:hFccOAZWx
運とかあるやん
745:名無しのライバーID:MxY8fXPcN
ラックボーナスって取り柄として胸張れる奴じゃなくない?
746:名無しのライバーID:OS3xasIMQ
>>745
まあそれはそう
747:名無しのライバーID:RAAvC4FIP
ハバネロちゃんの名前聞いた時の弟妹の「は?」でワロタ
748:名無しのライバーID:nmOkGRaZC
残当
749:名無しのライバーID:Hk/N3PUlT
ワクセイよりはマシやろ…
750:名無しのライバーID:U/ygwMCer
比較対象が少ない
751:名無しのライバーID:pcTCWQorC
>>750
他社いけばそこそこいるぞ
752:名無しのライバーID:B7G+X4oYq
あー…
にたまご、めんま、こねぎの三つ子?
753:名無しのライバーID:dkPjmjhon
そうそれ
754:名無しのライバーID:BqF17GfQY
ラーメンの具材から選ぶのが前提になってるのがおもろい
755:名無しのライバーID:YTeELpTKF
そういえば弟妹今回は結構愚痴多かったよな
756:名無しのライバーID:396NPaTA7
まあ当人からすれば付き合わされてるようなもんだしな…
757:名無しのライバーID:iAXaT6qM3
日本人の鑑のような存在じゃなけりゃここまで続かんよ
758:名無しのライバーID:k80gXLrNX
>>757
弟妹が流されやすいみたいに言うなよ
せめてちょろいとか…色々あるだろ、日本は言葉の種類豊富なんだから
759:名無しのライバーID:AZ9G/RkYG
より酷いわ
760:名無しのライバーID:S7/yNquct
その豊富な語彙で叩きのめしてる自覚はお有りで?
761:名無しのライバーID:hjTLzX5Fr
妥協する意味の副詞なのに罵倒に持ち込んでて草
762:名無しのライバーID:/UV6TAH1H
「色々あるだろ」
こっちの台詞だわ
763:名無しのライバーID:ZieUppVth
よってたかって虐めるのはやめろよ
764:名無しのライバーID:W/Y8l0XcB
確かに…
統率が取れてなかったな
765:名無しのライバーID:JwjW78Qwf
>>764
こいつさては無敵だな
766:名無しのライバーID:juYVCg+se
袋叩き超えて袋の鼠じゃねーか
767:名無しのライバーID:CmqpGWbNs
曲解すぎてワロタ