この度俺は、VTuberになりません。 作:初見さん
「……歌ってみた?」
「うん……」
俺がそう聞き返すと、姉はこの世の終わりのような声で呟いた。わざとらしく俺に聞こえるような愚痴を言って興味を惹かせた割には、ぞんざいな受け答えじゃないか。
アピールして、その後何も思いつかないとか舐めとんのか。
「姉の歌、言うほど悪くないだろ。逆に何でそんなに落ち込んでんだよ」
「そ、それは……聞いてほしいけど、言いたくない…」
うわめんどくさ。じゃあ良いよ。
…とか言おうとしたが、ソファーにうつ伏せていても余裕で分かるくらい、明らかに聞いて欲しそうな顔をしている。そこはかとなくうぜぇ…
「もったいぶらずにさっさと聞かせろ」
「あうぅ…だって、だってさぁ!」
姉がクッションを引っ掴んでバタバタと振る。うおっ、ホコリ凄いな。大掃除の時にはたいてカバーも洗濯したのに、もうこんなに……いいぞ姉、よし、もっとだ!
あ、もう疲れた? そう。
「……緊張、するし」
「ガキかよぉ」
思わずそう言ったらちょっとキレられた。ごめんて。まあ姉はとにかく皆の前に立つの苦手だし、その上歌みたいな発表する類のものはやりたくないだろう。
だが…その歌唱力は決して天性の才能という訳ではないのに、それを知らしめる機会がなくなるというのは……少し残念かもしれないな。
「でも、奏先輩にせっかく誘ってもらったし……」
「もったいないって?」
「…うん」
その心意気だけはよし。というかまた新キャラ出てきたな。奏って誰だ、そもそもいつ誘ったんだよ。姉、酔いが冷めてから今日に至るまで配信の感想見るのが怖くてSNS関連軒並み切ってたはずだぞ。
おかげで告知なし配信ばっかするようになって、ちょっと騒がれてたんだから。
「まあまず、歌の練習しない事にはな」
「そうなんだよね、出来れば練習の配信もしたいし…私に教えてくれる人なんているかなぁ」
仮にも人気Vtuberではあるし、その辺は問題なさそうだけどな。それこそ、その何とかいう誘ってきた人に頼みに行っても良いわけだし。ネガティブに捉えるよかまず実行だろ。
とは言え、上手い歌動画なんて全世界中のを探していたらキリがないのはそりゃそうだ。
「絞り込むとすれば…二次喜劇で一番再生回数稼いでる歌の動画ってどれだ?」
「えっと、確か楓羅先輩の歌ってみた『おかえり』とか星先輩のオリ曲『そろそろ円盤状のあんこが入った和菓子のアレの呼び方統一しようぜ!!!!!!』とかは600万を突破したって聞いたよ」
「逆に何だそのオリ曲…」
詳しく調べれば、これがオリ曲の第一弾で出たって言うから驚いた。今はワクセイのオリ曲は二桁行ったらしいが、これはワクセイ自身が作詞と作曲を得意としているかららしい。
人間のおおよその常識が通用しないあの化け物に才能を渡すとああなるのか……(困惑)
「でもそれ以上はあるかな……」
「ない事はないだろ」
「動画を調べてみるね、ちょっと部屋行ってくる」
「あ、待て俺も行く」
今回ばかりは少し協力してやろうと思う。
一時の気の迷いみたいなもんだ、だからそんな超常現象を見たみたいな顔をするな姉。しばくよ。
「……うーん、いくつかあるね」
「何で『森のくまさん ロックアレンジVer』が1100万回再生もされてんだよ……」
というか視聴者も視聴者で中々狂ってんな。コメント欄で大喜利開催すんな。海外勢もめちゃくちゃ見てるし、こいつ色々とネットミーム化しすぎだろ。
あと投稿日時がたった数ヶ月前なんだが。本当狂気的な信者が多いなワクセイは……
「あとは……蘭丹の『1980年代アニソンメドレー』が672万……」
「あいつはまた別のニーズでえげつない戦果叩き出してんな…」
まあおじさん達がこぞって再生するであろうテーマだけど。下手したら父さんもループ再生しそうだな…オススメするのはやめておこう。そんな機会もあんまりないしな……
確かにあの時代神アニメ多かったよね、分かるよ。俺高校生だけど。
「あとはもう二次喜劇の公式チャンネルくらいだよね」
「つっても基本グループの曲ばっかりだが…」
…ん? チラッと見えた数字に少し顔を寄せる。ああ、やっぱり。画面上に映し出されている数字は1821万。数字的にはぶっちぎりでトップだ。
歌唱力も…うん、問題なさそうだな。というか教えを請うのが憚られるくらい上手いな。歌姫の二つ名が似合うのこっちでは?
「しかも二次喜劇の同業者じゃん。知らない名前だけど、この人にすれば良いんじゃないか?」
「えっ」
「取り敢えず連絡だけでもしてみれば?」
「えっ、えっ」
何か戸惑い気味の姉を無視して、姉のスマホを拝借。連絡先を見てみれば普通にいたので、取り敢えず姉を説得して連絡を取ってみる事にした。
姉はまだ不安な顔でこちらをジトッと見ている。なんだよ。
二次喜劇の本社にて、相生は明日の会議で配る書類のコピーを運びながらオフィスの廊下を歩いていた。
「例の件だが、どうだ?」
「あ、先輩。グッズ展開の件ですか? それならバッチリです!」
「そうか。いや、相生に任せて正解だったな」
苫小牧はそう言いながら、相生の頭を優しく撫でる。相生が入社したてだった頃からの癖であり、業績を上げると必ずやっていた。
相生本人もまんざらではなさそうなので、今でも続けている。
「それはそうと、相生。奏が星を誘おうとしていたアレについては私が何とかしておいたが、笹峯ノイズはどう思っているんだ? また塞ぎ込んでしまうようなら…」
「いえ、それはいらない心配だと思いますよ? この前意思表示が来ましたし」
相生はにへらとやる気のなさそうな無害な笑みを出して、自身のスマホを見せつけてくる。弟が好き勝手にゲームのステッカーを貼りまくったらしい、とても業務用とは思えない愛のあるスマホだ。
そんな彼女のスマホの画面には、たった一言だけ。
そう書かれていた。
「そうかそうか、歌いたいのか! ……ってオイ! 今まで散々断ってきた癖してどんな風の吹き回しだ!?」
「わーすっかり定型化してますね
苫小牧は見事なノリツッコミを披露したものの、先日それを見た相生は安堵からか思わずプッと吹き出し、その後返事のあまりの簡素さにジワジワと侵食されていたと言う。
なんせ二次喜劇に入ってから一年弱、絶対に歌わなかったあのノイズがあっさり回答を変更した。言い方に安定感がないところも高ポイントである。
「でも、せっかく掴み取ったこのチャンス! 私自身を使い捨ててでも、逃しはしませんよ!」
「頼もしいが、言葉選びが物騒だな。歌を教えると言え」
「大体合ってるじゃないですか。そもそも、私の歌を勝手に撮ってアップしたのはどこの誰ですか!?」
「社長だろ」
「う、ぐぐっ……!」
そう、二次喜劇の公式チャンネルでもアホみたいな再生数を稼ぎ、Vtuberでもないのに実質一番収益を稼いでいるのは他でもない、相生だ。社長が悪ふざけで録音したのを社員総出で高音質化し、相生が冗談半分で許可を出したら即日アップ。
次の日には既に120万という化け物じみた記録を出した。
「いや、軽い気持ちで許可出した私も悪いですが…」
「CDの希望も凄いらしいな。先日もお前宛に曲が届いたぞ」
「歌いますけど……!」
そして真面目なので、届いた曲はきっちり歌う。そのせいで、迷惑だから無理やりはやめようぜ派vs歌ってくれるし送っちゃおう派vsダークライの地獄絵図と化している。もう鎮火方法は社員の誰にも分からない。
当人はどうしてこうなったと頭を抱える毎日だ。
「ですが、私の歌で笹峯さんを手助けできるのなら結構! 利用できるものは利用してやります!」
「仕事ばかりに気を張りすぎるのも感心しないな…少し休憩した方が良い」
「いえ、そんな事してられません! そうだ、惑さんにも話を…」
そう言いかけて、視界が傾く。目を擦ってもそれは変わらず、そこでようやく自分の足元がおぼつかなくなっている事に気づいた。苫小牧は冷や汗をかきながら相生を支え、そのまま声をかける。
「相生っ!」
「あ、あれえ……? ちょっとめまいが…おかしいですね…」
「はぁ……休んでろ相生、これは命令だ」
相生はその言葉に驚き反論しようと口を開くが、顎を押さえ付けられ沈黙したまま仮眠室へ直行。ベッドに寝かされてそのまま苫小牧が退室していった。
当たり前だが、相生は呆然としている。
「本来なら無視するところですが…私が倒れかけたのは事実ですし、先輩に命令されたとあれば仕方ありません。休むしかないですね……」
ワーカホリックなのが有利に働いたのか、先輩命令を素直に聞いた相生は休む事にした。
そしてそれからわずか数秒も経たない内に、ワーカホリックが今度は不利に働くようになる。
「休むって何するんでしたっけ…資料の整理とか…?」
仕事バカとはまさにこいつのためにあるような言葉だ。生まれ落ちてから仕事しかしていないのか、端っから休憩をする気など全くもってない。それどころか、それで本人的には休憩した気になっているのだから余計タチが悪い。
数十分資料の確認と整理をしていると、ふと携帯が鳴り出した。
「笹峯さんから…? どうしたんでしょう……」
画面を見て首を傾げながら、相生は通話に出る事にした。
「はい、どうしました?」
『はい、どうしました?』
「え、あっ、そのですね……その、修行をつけたい相手とかいませんか?」
『はい??』
毎度ながら頼み方が雑だな姉。何故そっち側から修行を進んでつけてもらえるように振る舞うのか、コレガワカラナイ。恩でも売りたいんか。
まあいい、その辺の齟齬は俺が繕っておいてやる、貸せ。…何故俺が外交官みたいな事しなきゃならんのだ……
「すいませんね、姉は独り言以外ではまともな話ができないので」
『はあ、それは知ってるのでいいですが…』
「既に知ってる…?」
俺を挟まず姉とコラボしたっていうのか。相当なやり手だなこの人。
ただ単純にコミュ力が高いのか、それともお互いの絶妙な距離感のちぐはぐ具合でどういう訳かベストマッチしたのか。
「どちらにせよ凄いな…っと、それじゃ説明を…」
『あ、この間の件について笹峯さんの意見は先日、直接本人からお伺いしましたので』
「えっ、直接? 知ってるんですか?」
『? ええ、それが仕事ですので』
仕事……? そうか、この人は二次喜劇の中でも結構苦労人的なポジションに該当するんだな。韋駄天さんみたいお母さん気質ではなく、後輩の面倒を見るのが仕事、というか。
しかしそうだとしても、姉から直接カウンセリングが出来るとは……さては救世主だな? 家に呼びたいくらいだ。
「……ねえ、ちょっと変わって弟妹」
「何でだよ、せっかく俺が姉の通訳してやってんのに」
渡さん。下手な事を言われて色々と関係が悪化したりすると、修復が面倒だ。韋駄天さんに続く貴重な保護者なんだから、死んでも手放さんぞ。
いややっぱ死んだら手放すかもしれないわ。そうか、死んだら配信でなくていいんだもんな。
『歌の練習、ですよね? しかし、師匠なら私よりも適任がいるのでは…?(訳:マネージャーより同じVtuberに聞いた方がエンタメ性ええんやないか?)』
「そうですか…お互いに理のある話だと思うのですが……気を悪くされたなら申し訳ございません(訳:コラボしたらお互い得なんやないか思たんやけど、ムカついちゃったら堪忍な)」
うーん、やっぱり目上の人に交換条件持ち込むのはまずいか…? でも、売り込み方法なんかあんまり知らないしなぁ……
以前ワクセイとのコラボでチャンネル登録者数が爆増したから、同じような手法でやれば多分似たような事が起きる……ハズ。
『いえ、そういう訳ではないんですけど…配信すればより盛り上がるのでは、と』
「いや配信はしますよ?」
『え?』
「え?」
……? 逆に配信しなかったら貴方に何のメリットがあるというんだ。
「えっと……つまり、歌の練習の配信をしたいんですよ」
『は、はあ……それで何で私を…?』
「それ聞きます?」
話が噛み合わないな……いや、待て。もしかするとこの人はVtuberではないのか…? 先程の動画にもそういった事は特に書かれていなかったし、動画に使われていたイラストも二次喜劇の集合イラストだったし……
…そうか。恐らく俺と同じ、関係ないのに勝手に祭り上げられた二次喜劇ライバーの誰かの関係者だな。
「あー…大丈夫ですよ、俺も練習出るんで(訳:仲間いるから平気やで)」
『なるほど…そうなると、弟妹さんがいれば平気そうですが…(訳:弟妹さんがいれば再生数の点は申し分なさそうやな)』
「頼みます、教えられる人がいないので…」
『で、ですが……私は配信に出た事もないですし…』
事故って映った訳でもないのに歌の動画が人気って、一体どういう事だ……
いくら超常現象を日常的に発現させる二次喜劇と言えど、もういい加減意味が分からなくなってきたぞ。どういう人材なんだよこれ。
「因みに、二次喜劇ライバーの中に家族とかは…?」
『いないですけど……』
「友人とか」
『?? いないですよ? 何の質問ですか?』
「逆にそれ以外で関係する立ち位置あると思います!?」
『何で私怒られてるんですか!?』
単純に話が通じなさ過ぎるという問題じゃないなこれ。どうも会話に齟齬が生まれているような……おかげで話の全貌が掴めない。どういう事だってばよ。
おい姉、そんなドン引きしたような顔をするな。俺だって分かってんだよ、なんかかなり前提の部分ですれ違いが発生してるって事くらいは。
『……はぁ、分かりましたよ。とにかく配信に出れば良いんですね?』
「まあ、はい……そういう事です……」
結局説得に二時間くらいかかった。話の大部分は説得じゃなく、何らかのすれ違いにより発生した意味のない会話だったのだが……
まあ、結果オーライという事にしておこう。
「……姉」
「ん?」
「俺配信であの人となるべく会話したくないわ」
「多分向こうもそう思ってるよ」
25:名無しのライバーID:tmNZsGk4V
夏中盤ですなぁ
26:名無しのライバーID:UOI1nENzg
の割には雨すごくない?
27:名無しのライバーID:vhduk84Me
>>26 分かる
まだ梅雨続いてるのかって感じする
28:名無しのライバーID:LllXKfViT
雷も降るしさぁ
29:名無しのライバーID:MnUGIUGTH
幸先が悪いなホント
30:名無しのライバーID:DoNzkAU7N
雷と言えばしゅゔぁゔぁのショート動画見た?
31:名無しのライバーID:zjeV2iTIu
見た見た
32:名無しのライバーID:amzLLFPiM
あの目の前に落ちてきたやつ?
33:名無しのライバーID:1q/GcbH7F
>>32
そうそれ
34:名無しのライバーID:gbT8hO4qp
魔法詠唱したらマジで落ちてきたっていう定番動画撮ろうとしてアレだもんな
35:名無しのライバーID:D8NWXGLvF
あいつもあいつでまあまあ悪運強いよ…
36:名無しのライバーID:TOQ4IqnXd
でも雷が目の前って一歩間違えたら死んでるからな
無事で良かったよ
37:名無しのライバーID:9LD6vgLDV
しゅゔぁゔぁが死ぬ訳ねぇだろ定期
38:名無しのライバーID:AhxHFX/8v
二次喜劇唯一の引退ライバー&二次喜劇唯一の復活ライバー
39:名無しのライバーID:pPZbnyq8D
バックで処刑用BGM流してる動画マジで笑ったw
40:名無しのライバーID:7n8YX8Ywx
ただ最近は比較的雷も少ないけどな
41:名無しのライバーID:FzFXIR4bu
なおネットの雷は随時落ちてる模様
42:名無しのライバーID:zgwmIpykO
当たり前だ!!!
43:名無しのライバーID:oFaVWw4sp
ドン!!!
44:名無しのライバーID:rxSsyFH2t
前回の異音の件も俺達にとっては特大の雷だったもんな
アレはマジでビビったでぇ……
45:名無しのライバーID:nWdmSxxE+
結局どうなったん?
46:名無しのライバーID:Q8cXfrAcN
異音曰く歌練習の配信を今度する予定らしい
47:名無しのライバーID:QF5neFArh
マジかよ
48:名無しのライバーID:A/RazQZGC
いけるんかな……
49:名無しのライバーID:hlJPXE7gg
まあなんだかんだで逆境を乗り越えてきた異音だし今回もなんとかなるやろ
弟妹も参加するみたいだしな
50:名無しのライバーID:Dk2itTQyR
おっと情報が混雑してきたぞ
51:名無しのライバーID:9824C+m0m
どうやら異音のマネージャーも参加するらしいぞ
52:名無しのライバーID:bezsoZCuL
何故????
53:名無しのライバーID:vPAS0g87T
>>52 なんだ知らんのか?
異音のマネージャーと言えば歌だぞ
公式チャンネルでトップの再生数を稼いだあの謎の超うまい歌、アレ歌ったのあの人
54:名無しのライバーID:nVUQFadF+
確かチ丸の後輩だっけ
先輩後輩揃って変人だなぁ……
55:名無しのライバーID:Head/Explosion
いや俺らも常識については人の事言えんやろ
56:名無しのライバーID:J7OmoUyOM
こと二次喜劇スレにおいては一定数ステータスと所持スキルがバグってるのが複数人いるからな
57:名無しのライバーID:yBRAYLsWu
たまに大金欠ニキとか来るしな
58:名無しのライバーID:41MG/oden
まあアレだ、朱に交われば赤くなるっつーか……
59:名無しのライバーID:nZdSwSpaz
なんかこの朱濁った色してない? 茶色?
60:名無しのライバーID:6s+dTu1DF
やりますねぇ!
61:名無しのライバーID:UJJp/DWfB
じゃけん夜配信見ましょうね