全ウマ娘の憧憬の的にして、学園生徒会の統治者。奇跡を起こす無敵の〈帝王〉――――トウカイテイオー!
「ヤッホー!」
園芸委員会から本年度より役員に大抜擢! 期待の若駒――――エアグルーヴ!
「……よろしくおねがいします」
夢は大きく未だ無名。実力未知数のダークホース――――サクラローレル!
「あはは……やっぱり場違い感、でちゃいますね?」
レース界への最大貢献はG1ウマ娘の輩出。一族の悲願達成なるか――――サトノダイヤモンド!
「皆様。よろしくおねがいいたしますっ」
以上だ!!!
「うわぁっ~、すごい! ここがこうやってベッドになるんだね? ボク、プライベートジェット初めてなんだよねぇ~」
「はい♪ この機体は無着陸でヨーロッパまで行けますので、フライト時間は十時間近くになります。ですので、こうして寝ることも出来るようになっているんです!」
「エアグルーヴさん。紅茶はいかがですか?」
「ありがとうございます。わざわざすみません」
「いえ。私はメイドですので」
「そ、そうですか……しかし、トレーナーバッジもお持ちになっているようですが……」
「当然です。メイドたるもの、お嬢様が征くありとあらゆる場所について行けなければなりません。必要とあらばトレーナー業もこなしてみせます!」
「なぁダイヤ。メイドさんもいることだし……やっぱり俺、今から帰っても……?」
「――――ダメです! あなたは私のトレーナーなんですから!」
「わぁ、ダイヤちゃんとトレーナーさん。本当に仲良しなんですね! 私たちも負けていられません! ね、トレーナーさん?」
「ああ。同じ凱旋門賞を目指す者同士、きっと強力なライバルになるぞ」
「……ガキの使いかよ」
「(遠足と言った方が正しいのでは?)」
どう考えても引率者ポジションに収まってしまったシリウスシンボリがぼやく。
流石に口には出さないものの、コンサルも似たような感想を抱いていた。
なにはともかく、学園生4名に関係者3名(トレーナーたちとサトノ家メイド)。以上が訪問団のメンバー。
ちなみに少しややこしい話になるが、
そして、なんだかんだと学園関係者であるトレーナー(&メイド)組と違い、コンサルも学園の人間ではない。
そしてもちろん、学園関係者でない2人がこうして便乗しているのには理由がある。
労働省主導で動き出した「海外遠征プロジェクト(仮名)」。
(仮名)と着くとおりまだ名前すら決まっていないプロジェクトであるが、もちろん始動したからには各組織が動くことになる。
そしてシリウスシンボリはURA国際レース課の課長として。コンサルは労働省チームの有識者として今回の訪問団に組み込まれている。
代表がコンサルに与えた「機会」とは、彼を労働省チームの有識者枠として推薦することであった。
「――――で、労働省の役人サマはいないようだが?」
「参事官は現地で合流の予定です」
なにせ今は国際G1であるジャパンカップの直前である。各国のレース界、ウマ娘コミュニティからノウハウを取り入れることも目的のひとつであるジャパンカップ開催前になると、労働省は現地調整と称して視察チームを送り込むのが常であった。
今回の欧州視察に同行する(正確には同行するのはコンサル側)労働省ウマ娘局の参事官は、カナダから直行するとの話である。
なんにせよ、せっかく貰った機会である。
代表の心遣いに応えるためにも、しっかり勉強させてもらおう――――――
「パート制について」
国際格付番組企画諮問委員会(IRPAC)は、国際レース統括機関連盟または地域毎のレース連盟に加盟する各国・地域のレースに対して、レース開催国および個別のレースをパートに認定する。
この中でもパートⅠの国(地域)は、国内のレースが原則として外国に開放され、IRPACの定める基準でのレース格付けがされる。
このレース格付けはIRPACが維持する競走ウマ娘国際レーティング名簿のパートⅠの部に掲載され、その競走で入着した競走ウマ娘はレーティングにおいてグレード・グループおよびリステッド格付けを記載できる。
我が国(日本)はパートⅡ国であり、国際交流レースに認定された競走を「G(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ)」グレード。他を「Jpn(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ)」グレードと表記する。読みは両方とも「ジー」と発音され、さらに旧中央=地方統一グレードが「G」表記を用いたことからメディアにおいても混同されがちであるが――――――
「おい」
小冊子に目を通すコンサルに、横からの声が届く。
本当に小さな声だ。それこそ、ジェット機のエンジン音――――
「ずいぶんとまぁ、初歩的な本を読んでるじゃねえか」
馬鹿にするような気配はない。
誰だって最初は初心者であることを、
「国際レースの制度は殆ど把握できていないんです……正直、関わることはないと思っていましたから」
「そうだろうな。お前は旅費と受け入れ先だけ用意して、あとは丸投げできると踏んでたんだろ」
「トレーナーと競走ウマ娘の関係に立ち入るべきではないでしょう?」
なにを当然のことをと返すコンサルに、小さく鼻を鳴らすシリウス。
「ならお前は、どんなことになってもアイツらに介入せずにいられるのかよ」
「ご存じの通り、守るための介入ならしますよ」
「守るっていうのは、差し迫った危機からか?」
「差し迫っていなくとも、彼女たちの脚と未来を侵す脅威があれば」
それが馬喰の存在意義である。利己主義ばかりが肯定される資本主義経済の中において、馬喰という職業はどうしたって「金儲けのためにウマ娘を利用する」職業。
だからこそ倫理が問われる。馬喰とは常に、最後には競走ウマ娘の味方でなければならないのだ。
「じゃあその『脅威』とやらを――――労働省やURAが演出したとしたら、どうする?」
「あなたがたが許さないでしょう。そんなことは」
そう返しながら、コンサルはそっと後ろの気配を探る。
遮光カーテンの向こう……機内備え付けのバーカウンターを挟んだ向こう側では、学園生たちがベッドに変形させた椅子で眠っている。離陸以来、ずっとはしゃぎ通しだったから、今頃は防音イヤマフと一緒に夢の中だとは思うが……。
「いまここで、しなくてもいいのではないですか?」
「眠れねえんだ。少し付き合え」
そう言われてしまえば仕方ない。コンサルは冊子を閉じた。
「『トゥインクル・シリーズに幽霊が出る。マル外ウマ娘という幽霊である。』」
「『中ウ競批判』ですか?」
彼女が諳んじるのは、かつて函館国立レース場付属学園で頒布された怪文書。
日本中央ウマ娘競走会――――現在のURA*2に向けられた批判文書である。
「あの頃から、国外のウマ娘はずっと恐れられていた。そりゃそうだ、外国人はみんな背が高くて、ガタイが良くて。競り合いになったら最後、とてもとてもレースで勝てたもんじゃねぇ」
だからこそマル外規制が行われた。それは国内のウマ娘たちを守るためだった。
「だが現実はどうだ? そもそも日本のレースは見向きもされちゃいなかった。……結局マル外規制は、2重国籍持ちや帰国子女を苦しめるだけの結果になっている」
最たる例はマルゼンスキーである。あれだけの才能を示しておきながら、ただマル外の対象であるという理由だけで
大外で構わない。他の選手の邪魔だってしない。優勝レイも、賞金だっていらない。
――――――ただ「ダービー」を走らせて欲しい。
もちろん、そんな願いを通産省が汲むはずもない。
「で。そういうウマ娘が国内に出るようになって、ようやく日本のレース界は『開国』に舵を切った」
そうして出来たのが「ジャパンカップ」。
「ジャパンカップは日本レース界の『出島』だ。んで? これまで何人勝った?」
3人。たったの3人である。
カツラギエースにシンボリルドルフ。そしてトウカイテイオー。
「これまで、何人の国内G1ウマ娘が挑んだと思う? それで国外勢にどれだけ負けたと思う? 私たちのG1は、向こうのオープン特別みたいなもんだ」
「……ですが、あなたは挑み続けたじゃありませんか」
シリウスシンボリ。
ダービーウマ娘として国内の頂点を極め……そして、海外に挑み続けたウマ娘。
「あぁ。そうだ、挑み続けているウチは良かったんだ」
だが、いつか挑戦の日々は終わる。
「夢を託す……そう
託すことは、押しつけることでもあるから。
「叶わなかった夢を託すのは、果たして。どうなんだろうな」
「…………」
「もう寝ろ、現地に着いたらスケジュールが埋まってるぞ」
「はい」
「…………いまのは、まぁ、なんだ。寝言みてえなもんだ。忘れろ」
「はい。先輩も、忘れて下さいね」
パート制の部分はWikipediaより引用・改変しております。
本作においては、シリウスシンボリはコンサルより明確な年上として描いています。
大人になったウマ娘たちがみたい気持ち。大人になんてならないでずっと夢を見させて欲しい気持ち。
こころがふたつある……。