その『紙きれ』で救えますか?【完結】   作:帝都造営

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(注意)本話では阪神淡路大震災の情報を取り扱います。直接的な震災・被災地の描写はありませんが、ご注意ください。


こんな時だからこそ

 

 

 

 

 

 

【兵庫県南部地震】

 

 兵庫県南部を震源として1995年(平成7年)1月17日午前5時46分に発生した地震。兵庫県南部を中心に大きな被害と発生当時戦後最多となる死者を出す阪神・淡路大震災を引き起こした。日本で初めての大都市の直下を震源とする大地震で、気象庁の震度階級に震度7が導入されてから初めて最大震度7が記録された地震である。地震の震源は野島断層(六甲・淡路島断層帯の一部)付近で、地震により断層が大きく隆起して地表にも露出している。

 

 平成時代に三大都市圏内で震度7を記録した唯一の地震である。

 

(Wikipediaより引用)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――URA賞。

 

 

 

 

 年度代表ウマ娘をはじめとする格別の活躍をしたウマ娘に送られる賞。レース界に特別な功績を残した人物に送られる賞。

 なんにせよ、去年一年で華々しい活躍を遂げたレース人に送られる賞である。

 

 

『それでは続きまして、年度代表ウマ娘の発表です――――ナリタブライアン!』

 

 

 そしてもちろん、去年のクラシック三冠ウマ娘にこの栄典が贈られないはずはなく。

 万雷の拍手と共に、そのウマ娘は壇上へと現れた。

 

 ――――――そう、勝負服姿で。

 

「「おおっ……」」

 

 会場にどよめきが広がる。URA賞の授賞式ともなれば当然ドレスコードであるが、彼女の正装(ドレス)は勝負服――――その絵に描いたようなストイックさに、思わず記者達はペンを止めてしまう。

 

「……」

 

 そして、ナリタブライアンはその会場を一瞥。

 

「ナリタブライアンさん。受賞おめでとうございます」

 

 歩み寄ってきた司会が水を向けるが、彼女は一顧だにせず佇んでいる。

 それはまるで、誰かを探しているかのようであった。

 

「え、えっと……受賞の感想など、お聞かせ願えれば……」

「感想だと?」

「はい! 今のお気持ちを、どなたに一番伝えたいですか?」

 

 司会の言葉に、ナリタブライアンはマイクを受け取って……いや、殆ど奪い取って。

 

 

「聞いているんだろう。強きウマ娘たち……私は、年度代表ウマ娘になったらしい」

「!」

 

 家族とか、恩師というありきたりな言葉は飛び出さなかった。次の言葉を待つように、記者は一斉に構え、会場は異様な空気に呑まれていく。

 その異様な空気とは――――まさしくレース場で味わうべきそれ。

 

「年度代表とは最強のウマ娘を意味するらしい。だが、私はまだお前達と競っていない」

 

 ゆえに、その「最強」に意味はあるのかと。

 ――――――そう、言い放つ。

 

 

『ナリタブライアン、全世代に宣戦布告!』

『「私を最強にさせろ」強者の貫禄!』

 

 

 それは現役最強と名高いライスシャワーや残念ながら年末の姉妹対決実現とならなかったビワハヤヒデへの挑戦状であり、そしてなにより、彼女に比する者はいないという宣言でもあった。

 ナリタブライアンのURA賞受賞は、受賞そのもの――――実際、彼女がなんらかの賞を受賞するのは既定路線であった――――よりもその発言が大きな波紋を呼ぶだろう。

 

「良かったんですか。あんなこと言って」

「うん。ボク、やるって決めたらちゃんとやるからね」

 

 コンサルの発言に、シャンパングラス(中身はにんじんジュース)を揺らすトウカイテイオー。

 ナリタブライアンが三冠ウマ娘となり年度代表ウマ娘にもなった今、彼女が次の生徒会長になるのだろうというのが内外の観測である。

 

 とはいえナリタブライアンが生徒会の仕事に興味を示しておらず、生徒会入りすらも目処が立っていないのが現状……そこにトウカイテイオーは、こう言ったのだ。

 

 

『ねぇブライアン――――「最強」ってなんだと思う?』

 

 

 そしてそれをナリタブライアンなりに咀嚼した結果が、おそらくあの宣戦布告なのであろう。ナリタブライアンの考える最強とは、やはりレースで全てを下す者なのである。

 

「今の彼女は、間違いなく強いですよ」

「あははっ、コンサルったら変なの! そんなの知ってるよ」

 

 だから視てみたいんじゃん。

 

「さいっこうの、特等席でね!」

 

 そう口にするトウカイテイオーが現役復帰を公式の場で示唆するのは、もう少し後のこと。彼女の中には既に復帰に向けた青写真(絶対)が描かれている。

 

「……」

 

 本当に、まるで全ての歯車がかみ合うように進んでいく。ナリタブライアンの呼び掛けに応じたライバルたちも動き出し、今年のシニア級競走は熱を帯びるに違いない。そんな最強に囲まれた環境でナリタブライアンはさらなる高みへと手を伸ばし――――彼女が触れることのなかった同期(クラシック)のウマ娘であるサクラローレルは、その「最強」を倒すことで「最強」を証明する。

 

「あれー? どうしたのコンサル。もしかしてボクの脚が心配?」

「いえ、そんなことは……」

「んー……?」

 

 首を傾げるトウカイテイオー。どうやら本当にコンサルが自分たち(競走ウマ娘)の心配をしている訳ではないことを察したらしい彼女は、ひとこと。

 

「あんまり根詰めちゃダメだよ? ボクみたいに、時々だら~っとしないとね?」

「それでエアグルーヴさんに怒られてたじゃないですか……」

 

 どうやら、気を遣われてしまったらしい。

 

 もちろんコンサルとて、考えても仕方ないことは理解してるのだが……それでも考えずにはいられなかったのだ。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「社長!」

「……おぉ、君か」

 

 東京の邸宅にその人物が帰ってきたと聞いて、コンサルはすぐに駆けつけた。

 大きな取引相手であり、恩もある人物である。本来なら現地に飛び込みたいところであったが、下手に勇み足を踏んで現地に迷惑をかけてはなるまいという思いもあり我慢していた。

 だからという訳ではないが、多少乱暴に扉を開けてしまったのは許して欲しいところである。

 

「お見舞いが遅くなってしまい、申し訳ありません」

「はは。むしろこのくらいが丁度いい。せっかちなヤツは病院に押しかける有様だったからな、面会謝絶にさせてもらってたんだ」

 

 そう微笑むのはヨイハル重工業の社長。現在YHIS(ヨイハル・インダストリーズ)へのグループ改編を進めており、その宣伝戦略としてコンサルと手を組んだ「逆張りシンジケート」の一員である。

 

「お身体の方は」

「腹の底から笑うと痛くてしょうがない。おかげで寄席にもいけなくなった」

 

 ま、こんな有様じゃ行きたくともいけないがなと笑いかけて……どうにかそれを収める社長。全治は3か月とのことである。紛う事なき大怪我だ。

 

「今回の震災で、保険屋は大損だな。本社の方(第一海上損保グループ)は大事ないか」

「大損だなんてそんな。苦しいときに寄り添ってこその保険会社です」

 

 早速ビジネスの心配をしてくる社長にコンサルは恐縮。そもそもコンサルが社長を見舞いにきている訳だから、心配するという意味では立場が逆である。

 

「ま、大方私の会社が吹き飛んでないか心配で来たんだろうが……それには及ばんよ。グループ再編には当然事業継続計画(BCP)も含まれている。抜かりはない」

「ですが……!」

 

 語気を強めかけるコンサルに、あーわかったわかったと手を振る社長。

 

「君といい役員連中といい、私のことを心配しすぎだ。私は生きてる、それで十分だろうに」

 

 もちろん、それで十分なのはコンサルだって理解している。それでも一時は生き埋めになり、それによって決して若くはない身体に大怪我を負ったのである。知り合いなら誰だって心配して当然である。

 

「なに、今回に関しても私は運が良かった。上半身が潰れなかったのは僥倖だったし……救助が早かったのも良かった」

 

 それでも、全員の運が良かったわけではない。

 この年の初めに起こった大地震は、多くの人々に少なくない悲劇をもたらしていた。

 

「まったく。ひとを見舞っておきながらヒドい顔をするじゃないか。お嬢さんだってそんな顔をしなかったぞ?」

 

 どうやらライスシャワーたちも見舞いに来ていたらしい。面目ないと返すコンサルに、そんなことよりもと社長は続ける。

 

「もうお嬢さんたち(ライスシャワー陣営)には見せたんだが、ついに天皇賞・春向けの最終版CMが完成したぞ。テーマは――――『あなたと、偉業を。』」

 

 3連覇を目指す彼女と、今年から飛躍を遂げる我がYHISにピッタリのCMだなと満足げにいう社長。再生ボタンに指を触れかけて……それから、止めた。

 

「ビジネスの悩みか?」

「いえ…………いいえ。ビジネスの悩みですね」

 

 いま、レース界は最高に盛り上がっている。天皇賞連覇、宝塚レコード、クラシック三冠、有馬記念…………

 

「けれど、迷いが出てしまいました」

 

 

 コンサルの感覚は、恐らく理解されないのだろう。

 なぜならそれは、彼がずっと感じて……そして、ずっと押し込めてきたものだから。

 

 

 レースは、エンタテイメントだ。

 そしてウマ娘はファンから愛されるアイドルとしての側面を多分に持っている。

 

 だから彼女たちの世界は常に現実からは切り離さる。

 当然だ、夢を見るためにレース場に脚を運ぶのに、どうしてそこで現実に向き合わねばならないのか。

 

 しかし一歩レース場を踏み出せば……いや、本当はレース場の中も、確かに現実と繋がっている。トゥインクル・シリーズは通産省の運営する興業であり、トレセン学園は労働省が監督する教育機関であり、そして競走保険と馬喰はウマ娘の脚を守るために「紙きれ」に向き合っている。地方トレセンはほとんど人材教育の現場であるし、マル外規制も、RKSTポイントも、そんな世界を運用するために存在する。

 

 

 それをヒトは悪い話じゃないと言う。確かにそれはそうだ、別に誰も、それぞれの制度を悪用している訳ではない。保険屋にとっての最高の結果は「なにも起きないこと」であり、最悪の結果を「みんなで分かち合える程度の不幸」に変えることが仕事なのである。

 

 だがそれでも、結局。保険は無力だ。

 報道の向こうに、この空の下に、今居る東京と地続きの場所で起きた不幸は――――あまりに、大きすぎる。

 

 現実の痛みは、どうやったって切り離せない。

 

 

「こんな時に、こんなことをしていていいのだろうかと」

「こんな時だからこそ、だろう」

 

 社長の言葉はすぐに返ってきた。

 

「今日は暇だからな。特別に経済ではなく歴史の授業をしてやろう。旧競走ウマ娘法、私ですら産まれていない時代の話だぞ?」

 

 大正時代――――文化が華開き、近代国家へと生まれ変わった日本が繁栄を謳歌した時代。

 しかしその裏側には、不景気に疫病、震災と数多の不幸があったという。

 

「だからこそ人々はレースを求めた。『ウマ娘が走ると元気になる』を合い言葉に、人々はレース関連法の整備を求めたのだ」

 

 なぜか分かるか? と社長。コンサルの答えを待たずに彼は続ける。

 

「未来だからだ。子供が夢を見れない国に、未来はない」

 

 夢は見ていいのだし、見るべきなのだと彼は説く。

 

「だから君もしっかりすることだ。私にとっては、君もまだまだ若いのだから」

 

 もちろん。全員が全員、そう言うわけではないだろうがなと呟く社長。

 

「それでもだ。花は、花は咲くのだよ」

 

 

 そのために、春はやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『続いてのニュースです。阪神大賞典に出走したナリタブライアン選手が……』

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