その『紙きれ』で救えますか?【完結】   作:帝都造営

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エンジェルおじさん登場

 

 

「私たちが投資するのは、お嬢さんたちだけではないからだよ」

 

 

(ふぇ)……?」

 

 首を傾げるライスシャワー。

 

「詳しくは私から説明しましょう」

 

 社長に代わって口を開くのは営業部の室長。たしか……戦略マネジメントとかいったか。

 

「我々はライスシャワーさんのトレーナーさんをはじめ、計5名のトレーナーに同様の条件で打診を行っております」

 

 もちろん、それらトレーナーはコンサルが選出したトレーナーである。

 条件は専属体制かチームの規模が小さく成果を挙げにくい……つまりバックアップ体制に問題がありそうなこと。

 そしてもう一つは、まだ有名になっていないウマ娘を抱えていること。

 

「ご、5人も……?」

「それは、どうしてですか?」

 

 よく分からないといった様子のライスシャワーに、お姉様(トレーナー)

 

「理由は簡単だ。この投資は金がかからない」

 

 直接資金を投下する訳ではなく。あくまで人員のサポートをつけるだけ。

 旅行の手配やホテルの予約も、結局は提携関係にある取引先の利益になるわけだから困ることはない。

 

 

 

「そして同時に投資を行うことで――――我々は諸君に競走を促す」

 

 

 

 なぜなら、彼らが有名になってくれないと困るから。

 なぜなら、彼らが同時に有名になることでこそ、この「投資」は意味を発揮するから。

 

 

 社長がバッと手を開いた。

 

 

「私はエンジェル投資家(おじさん)だ」

 

 ???

 

「ウマ娘の走りに投資し、競走を促す」

 

 それは早ければ早いほどいい。

 熱ければ熱いほどいい。

 

「その熱からしか取り出せないエネルギーをもって、我々は投資を回収する!」

「具体的な話は私が」

 

 バッチリ決めてやった、みたいな顔をしている社長の話を引き継ぐのは社長室の統括。

 あの語りの後でよく冷静に話せるなとコンサルは思うが、慣れているのだろう。きっと。

 

 

「弊グループは現在、グループ再編事業を行っています」

 

 5つの主要な子会社と重工業本体……つまり今回の投資先であるチームと同じ数の会社をひとつの持株会社に統一するのだという。

 

「それに合わせて社名も変更されます。なので皆さんには、投資の見返りとしてコーポレートイメージの周知を手伝って欲しいのです」

「??」

「あの、全然話が見えないのですが……」

 

 

 

「そうでしょうね。ですので……」

 

 Pが動いた。

 

 読白(よめじろ)エンゲージメント。広告代理店大手の敏腕プロデューサーが動いた。

 

「まずはこちらをご覧下さい」

 

 

 プロジェクターが、光る。

 

 

 

 

 

 


 

 大写しになったのは誰もが知る不屈のウマ娘、トウカイテイオー。

 (現在は剥離骨折で休養中)

 

「NKBダンス、いっくよぉ~!」

 

 

 彼女が画面の中央でウインクすると、そのままカメラから離れて会場の中央へ。

 そこには沢山の子供たち。画面下にはこう表示される。

 

トウカイテイオーさん

NKBダンサーズのみなさん

 


 

 

『N・K・NKB! あなたとわたしのNKB!』

『N・K・NKB! あなたとわたしのNKB!』

 

「これは今年の春に放映された、地方銀行NKBのテレビコマーシャルです」

 

 音楽に合わせたキレッキレなダンスを披露するテイオー。バックダンサーと化したNKBダンサーズなる子供たちの踊りもなかなかのものだ。

 

『N・K・NKB! あなたとわたしのNKB!』

 

 


 

あなたとわたしの

えぬ()けー()びー()

 

濃尾共立銀行

 


 

 

「おわっちゃった……」

 

 そう漏らしたのは誰だっただろうか。

 

 これにはトウカイテイオーもワケワカンナイヨー!である。

 もっとも、彼女は一般にはカッコいいウマ娘で通っているから誰もそんな想像はしないだろうが。

 

 しかしそんな会議室の雰囲気も気にせず、Pは続ける。

 

「15秒CMですからね。では次です」

 

 

 

 


 

字幕

『Q:帝紡績を知っていますか?』

 

自由な三冠ウマ娘

「知らないよ? なんで?」

 

 

 

 

 

製作・著作

――――

帝紡績

 


 

 

 

 

 

「…………」

「次です」

 

 

 

 

 


 

 

♪~

 

職業:競走ウマ娘

 

 


 

 

「え、待ってください今のはなんです?」

 

 思わず声をあげるコンサル。

 最後のCMは本当にただウマ娘がクッションに座っただけではないか。

 ラーメンを啜るだけの洗脳CMより意味が分からない。

 

「CMにおいて重要なのは、とにかくインパクトです。視聴者にどんなインパクトを与えるかが重要なのです」

 

 コーポレートイメージとは、まず社名を知ってもらうことから始まる。

 

「特にヨイハル重工グループさんのような機械部品、プラント系のメーカーは、一般に名前が知られる機会がほとんどありません」

 

 一般に知られている社名とは、食品メーカーや外食チェーン、公共交通機関といった「生活していれば目に触れる」ことのある会社だけである。

 従って、そういった会社のCMはあくまで「商品」の宣伝を行うが、会社の名前を知ってもらうためには商品よりもむしろインパクトが大事だということだ。

 

「今の例で解説しますと、濃尾共立銀行(NKB)は営業地域の拡大を目指してCMを作成しています。彼らは中小企業を相手に融資を行いますから、拡大先の地域で活動する経営者たちに存在を知ってもらう必要があったわけです」

 

 そこでトウカイテイオーと一緒に踊るだけのCMを作ったと。有名人を起用するのはコマーシャルの王道ですねとPは言う。

 

「帝紡績は『♪名前はしってるけど~』でおなじみですね。今回は変化球で名前すら知られていないバージョンでしたが、マンネリ化したCMシリーズにインパクトを与えるのは大切です」

 

 これも社名だけ出して事業内容は出さないCM、つまり名前を知ってもらうためのCMである。

 

「そして最後のCMについてはビーズクッション商品のCMでしたが、分かりやすくウマ娘をキャラクターとして用いた例として紹介させて頂きました」

 

 

 これらの先行事例を元に、今回のコマーシャル戦略を提案させて頂きます。

 Pの言葉に合わせて現れる企業ロゴ。全部で6つ。

 

 

「弊社からご提案するのは『思わず追いかけたくなるCM』です。今回企画に参加して頂く6つのチームには、グループ6企業が別々のスポンサーとなり応援するだけのCMを作成させて頂きます」

 

 ざっとイメージで作ったという映像が流される。

 映像といっても、そこには緩やかな音楽と「トレーニング風景」とだけ書かれた1枚の画像が写されているだけだ。

 

 紙芝居みたいに画像が切り替わり「応援する人たち」と書かれた画像になる。

 

 そして最後に企業ロゴ。

 画面下にそれなりの大きさで「ヨイハル沿海電源開発はトゥインクルシリーズとチーム〈○○〉を応援しています」という表示が出る。

 その文字はすぐに切り替わり「ヨイハル・インダストリーズ」となり、統合後のものと思われる企業ロゴが現れて、映像は終了。

 

「このように、最初は『トゥインクルシリーズを応援している企業』としてCMを打ちます」

 

 Pはその後もCMシリーズの具体的な構想を話していく。最初はローペースに、応援するウマ娘の競走成績に応じて徐々に盛り上げる形式を取る。

 

「ここでベストなのは、応援されたウマ娘さんたちが栄光への道を駆け上がっていくことですね。CMと現実がリンクする、そうなればCMも大きく盛り上がることでしょう」

 

 そして、競走成績が最も栄光に近づいたウマ娘を中心に最後のCM、統合されたヨイハル・インダストリーズのCMを最後に打って終わる。

 

 足かけ3年。チームの主力が入れ替わるギリギリを攻めるCMである。

 

「もちろん、お嬢さんたちにはトレーニングを最優先にして欲しい。撮影所とかでの撮影はナシ。具体的には、我々の敷地でトレーニングをする際にCM用の映像を撮らせてくれたらいい」

 

 出演料など、細かな契約内容は法務担当と詳しく調整することになるだろうが……と言ってから、社長は真剣な眼差しで競走ウマ娘と新人トレーナーを見る。

 

 

「私は純粋にトゥインクル・シリーズを応援している。しかしどうしても、私1人で出せる協力には限りがある」

 

 

 だからこそ、大きな枠組みで君たちを応援させて欲しい。

 

 

「……」

 

 頭を下げる社長を見つつ、コンサルは複雑な内心。

 

 このチームをCMに活用するプランは、社長にとっては「妥協案」だろう。

 複数のチームを用意したのは何処かが失敗してもいいように。もっといえば、仮にウマ娘が数人チームから離脱してしまっても問題なくCMシリーズが続行できるようにするため。

 

 リスク分散と言えば聞こえはいいが、建前としてチームとの契約である以上、同じウマ娘を起用し続けられるかは分からない。

 

 とはいえ、いち学生と大企業の契約関係は……やはり歪なモノになってしまう。

 そこに〈チーム〉という緩衝材を挟んだことは、決して間違いではないはずなのだ。

 

 

「あ、あの……社長さん、あのね」

 

 

 おずおずと切り出したのは、ライスシャワーであった。

 

 

「ライスのこと、応援してくれるのはとっても嬉しい、です……でも……」

 

 その顔に浮かんでいるのは「ためらい」と「不安」。

 彼女がなにを考えているかは、コンサルには分からない。

 

 それを知っているのは、恐らく彼女と……彼女の専属トレーナーだけであろう。

 

「ライス」

 

 彼女のお姉様(トレーナー)が身を寄せる。

 会議机のこちら側にいたコンサルには、机の下でお姉様(トレーナー)がそっと、ライスシャワーの手を握るのが分かった。

 

「あなたがどうしたいかで、決めて良いよ」

「でっ、でも……」

「ありがとね。ライス。私が大変なのを知って、それが少しでも楽になれば……って思ってくれたんだよね」

 

 

 専属トレーナーは、多忙を極める。

 それこそ、あらゆる時間と資金を全て担当に注ぎ込んでも足りないくらい。

 

 きっとライスシャワーは優しいウマ娘だから、自分のトレーナーが苦労しているのを見て、話だけでも聞いてみようと思ったのだろう。

 そして実際に話を聞いてみて……まあ、きっとあまり良い印象は抱けなかったのだろう。

 

 それは正しいことだ。

 大人はいつも利益のことを考えている。

 ウマ娘に関わる人間は、誰しも馬喰(ばくろう)になりうるのだから。

 

 それでも。

 

 

「――――夢の話を」

 

 

 夢の話をしましょうかと、コンサルは口を開いた。

 

「私たちはこれから『シンジケート』を作ります。それは1つの目標に向かって、一緒になって進んでいくということです」

 

 私の夢は、と。仲介人に過ぎないコンサルは続ける。

 

「私の夢は、競走ウマ娘の皆さんが後悔なくターフを駆け抜けることです」

 

 あそこでああしておけばよかった。

 ここでそうしておけばよかった。

 

 レース展開だけじゃない。トレーニングのやり方、ライバルの分析。

 走った後で後悔するなんて、そんなのは悲しいことだから。

 

「そんな……後悔の残らなかったターフは、きっと青々としていると思います」

 

 

 だから、嘘を吐く。

 三冠シンジケート(投機的な商品)を作り、今度は三冠シンジケート(投機的な商品)に逆張りして。

 

 いつか恨んでくれて構わないのだ。

 馬喰を恨むことで、後悔がなくなるのなら……いくらでも恨まれ役になってやる。

 

 

「ライスシャワーさん。どうか、後悔のないように」

「えっ、うう……でも、ライスは……」

 

「私の夢は!」

 

 迷うように視線を泳がせたライスシャワーの声を遮ったのは、彼女のお姉様(トレーナー)

 

「ライスの才能を、咲かせること! そのためなら、なんだってしてあげたい!」

 

「お姉様……」

 

 強い決意のこもった声だった。担当ウマ娘と目を合わせ、深くうなづくトレーナー。

 

 

 

「よし、続いて良いか? いいよな? おじさんの夢はG1ウマ娘の関係者になることだ!」

 

 社長が続く。さっきは親族のレース教室と言って誤魔化していたが、彼も若い頃はウマ娘のレーシング倶楽部を経営していたくらいである。

 そもそもレースに傾ける情熱がなければこんな案件を動かそうとは思わないだろうし、彼の本気については問題ないだろう。

 

「私は家のローンを返済することです」

「目下の夢はひとまず、グループ再編の大役を果たすこと。ですかね?」

 

 営業部の室長と再編プロジェクトの主席統括が続く。つまらんなぁ君らはと笑う社長。

 

「Pの夢は――――英雄(ヒーロー)をプロデュースすること」

 

 

 ……いまさらなのだが、このP、やはり変な奴なのでは。

 

 

「ヒーロー……ライスも、ヒーローになれるのかな」

 

 えっ、そこで反応するんだ。コンサルは若干困惑。

 

「ライス、ライスはね。ヒーローになりたい」

 

 

 みんなを幸せにする。みんなに夢と希望を届ける。

 そんなヒーローに、なりたい。

 

「でも、今のライスじゃ。まわりの皆を不幸にしちゃう。そんなダメな自分(ライス)から、変わりたいの」

 

 それなら。

 

「チャンスかもしれませんね」

 

 投資を受けるかどうか。それは最後には当事者に委ねられるもの。

 それでも、なにかをしたい意思があって。その手段が目の前にあるのなら。

 

 それは是非とも、つかみ取って欲しいものだ。

 

 

 

 

 

 つかみ取らなかった後悔だけは、しないで欲しいのだ。

 

 







以上、逆張りシンジケートこと「競走ウマ娘への投資と回収」のお話でした。説明ばかりになってごめんなさい。

以下はちょっと夢のないお話(反転してありますので興味のある方だけどうぞ)

この物語を書くにあたり、シンジケート(種牡馬シンジケート)の話は避けて通れないと考えておりました。

繁殖は現状競走馬が行える唯一の「生産活動」です。
作中でも指摘した通り、レースの賞金は生産活動によって得られたものではありません。さらにサラブレッドの現役期間の短さを考えると、種牡馬として繁殖(生産)活動を行い、種付け料を得るのは引退後のサラブレッドが「食っていく」ための手段であるといえます。

しかし、種牡馬として成功するかどうかは誰にも分かりません。あのシンザンですら種付け料を値下げしないと繁殖牝馬が集まらなかったと言いますし……そう考えると、種牡馬シンジケートというのも一種の「リスク回避」に見えてきます。馬主にとっては持ち馬を「売り抜ける」ことができますし、シンジケートの参加者は(比較的)少ないリスクで有名な種牡馬をつけることが出来る。
しかし、種牡馬シンジケートの本質はリスク回避ではないでしょう。そもそも究極のリスク回避は「買わないこと」なのですから当たり前です。
シンジケートの本質は、専門家たちが集まり種牡馬の「株式会社」を作ること。種牡馬の管理ノウハウや配合理論を皆で持ち寄り、次世代のさらに強い馬を生産する。それは決して、投機と呼ばれるような悪い金融ではないと思うのです。
なので、今回のシンジケートは大勢の力を集めて、いいものを作ろう!という形にまとめさせて頂きました。


さて。
読者の皆さんはもうお分かりですね?


ここからが『本番』です。
次回、つかみ取った後悔。
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