「…これは」
《調印式場で謎の大爆発!!修復されたばかりの古聖堂三階で!要人が大勢待機していた箇所から爆炎が舞い上がりました!!》
《ゲヘナ側からの陰謀説も上がりましたが、万魔殿が搭乗している飛行船も現在炎を撒き散らしながら墜落途中です!!後数十秒で激突するかと…キャッ…!》
《げ、現在調印式場には謎の勢力が台当しており!報道陣へにも攻撃が…あ、よ、避けて避けて!》
携帯に映る生放送にはゲヘナトリニティ両校の要人達が共に攻撃を受け、どちらも安否不明の凶報が流れている。
古聖堂上部が爆発で吹き飛ばされた事で、一階部分も瓦礫の重量により崩落が始まっており、崩れ落ちかけている古聖堂から大勢のトリニティ、ゲヘナ生が退避しているのが見えているが、その避難民を取り囲む様にあの時見たユスティナ信徒が地下らしき場所から湧き出ているのだ。
《火事場に重なる火事場ですが、クロノス報道はこの歴史的瞬間を記録する為にこのまま報道を続けようと思います!エデン条約のリアルタイム情報を得れるのはクロノス報道のみ!クロノス報道のみがお届けしています!!チャンネルは切り替えずそのままでお願…ーー》
プツッ…
「…切れちゃいましたね」
「ど、どうすんのよ…コレ……」
先程までお祭り騒ぎだった店内も、今は最早葬式の様な雰囲気になっている。
外は外で明るく騒いでいたのが、狂乱と騒乱吹き荒れる場になり、野次馬をしに調印式場に向かう者、友達の安否を確認する為に連絡を取る者等が慌てて動き始めているのだが…。
『お前らトリニティの仕業だろ!!』
『何を言ってるの!?両方共に襲撃を受けてるんですよ!?何処に私達の責任が…』
『うるせぇ!いつもお前らはそうだ!!ことにつけて誰かのせい誰かのせいって!』
『これだから野蛮なゲヘナは…!!話すら通じない原始人とは話し合う余地すら無いって訳ね!!』
「…酷い有り様ですね」
そう、ここはゲヘナとトリニティの境界線。両校の生徒が混じり合っている中心街だ。
「……」
また同じ光景、同じ惨状。まだ何もハッキリとした事は知らないのに、元々胸に潜めていた憎しみを理由に手を上げ始める。
この光景を見て溜息しか出ない自分も嫌になるけれど、今は先生の安否を…。
ピコン
「…?メール…これは、先生から!コハルちゃん、ヒフミちゃん、先生からのメールです!」
一番の憂い事が無くなった、良かった、本当に良かった…先生の肉体は私達とは違う、先生自身は身を守る術を持っているらしいが不意討ちで、しかもあの爆破規模で無事にいれるとは思わない。
最悪の場合、死んでいた可能性すらある。
そうなれば、キヴォトス中が大混乱に陥る事だろう。先生が赴任してきて数ヶ月、シャーレ主体に解決されてきた問題や、シャーレ(先生)の力で体制を整えている学園は多い。
アビドス、百鬼夜行、トリニティ、ミレニアム、ゲヘナ、山海経、ヴァルキューレ、レッドウィンター…ざっと調べただけでこれだけの学園のそれぞれの部や要人達が世話になっている事を知った時は驚いた、どれだけの生徒に手を出してるんですかあの人…。
「先生から、って事はあの爆発には巻き込まれてなかったのね!良かったぁ〜…」
「本当に一安心ですね、私達はこのままトリニティの避難場まで行きましょう、今必要なのは現状の把握、現場に行く事は自殺行為です、先生のメールにも退避と身の安全をと……」
…誰にも見られないようにこっそりと潜めながらメールの内容を確認する、内容は…。
《ハナコへ このメールが届く時は私の身に何か起きたか、緊急事態で私への返事は出来ないものだと考えて欲しい。そしてお願いをしておくね、第一に自分の身を守って、生きて。》
「……」
《第二に、ハナコが護りたいもの、ハナコが本当に優先したい事をして欲しい、最初に言った事とちょっと矛盾しちゃったけど……私が人の事を言えないタチだからね、勿論ハナコ自身の命を一番にして欲しい、その上でハナコが今引き起こされている状況で、ハナコがするべき事をしていいんだ、誰になんと言われてもね》
「…!」
《第三に、何が起こったとしても》
《私に任せて》
「ヒフミちゃん、コハルちゃん、聞いて下さい」
簡単な推測だ。
アズサちゃんが飛び出して行った後にコレという事は…確実にアリウスが関わっている。だからまず必須なのは補習部皆んなで安全な場所に辿り着く事。
ハナコの目配せに従って、二人は耳を傾けてテーブルに手を着いた。
この雰囲気を纏う彼女を見るのは二度目、セーフハウス襲撃の時以来。
「まずは飛び出して行ったアズサちゃんを引き戻します、恐らくアズサちゃんが向かったのは調印式場です」
「はぁ!?そんな…な、なんでわざわざ危険な場所に飛び込みに行ったの?あんなに深刻そうな顔して…」
「…これも推測になってしまうんですが、恐らく下手人はアリウス分校です、また懲りずに襲撃に来たみたいですね」
あの戦いで殆どのアリウス分校の力は削ぎ落とされたと思っていたんですけれど…あれ自体が本命ですら無かったのでしょうか…?
それは違う、きっと違う。私は知っています、使命に命を燃やす者の瞳を。
あの時のアリウス学徒は皆、『後がない』顔をしていた。あの作戦はアリウスにとって痛手で無くとも、『アリウス学徒』にとっては生命線だったのだろう。
つまり、あの事件は後ろで得をし続けているものが行った残飯処理に他ならない。
この襲撃自体、アリウス、トリニティ、ゲヘナを踏み台にした策略の可能性が高いのだ。
「だから私達が今すべき事は、アズサちゃんを安全な場所に連れて行く事、アズサちゃんはアリウスからすれば復讐の対象…どの様な攻撃を受けるかもわかりません、最悪あの爆弾すら使われてしまうかも」
爆弾という名を聞いてヒフミが顔を顰めるのにも理由がある。
アズサから聞いたセイア襲撃時に使えと命令された特別性の爆弾、銃弾に当たっても爆撃を喰らっても致命傷にすらならない私達を、外傷も無くその命だけを明確に奪い去る悪意の塊。
「……ヘイロー破壊、爆弾…まさか、そんな」
それを有しているのは、アリウス陣営…。
そしてアリウス陣営に恨みを買われているのは、アズサちゃんだ。
「…ヒフミちゃんの言う通りです、なので今すぐにでもアズサちゃんを……ーー」
《あ〜あ〜…》
早く席を立って移動したかった、人の波をかき分けてでも店から出ようとして、親友に命の危機が迫ってるのにゆっくりしてられないと。
その声を聞くまでは、頭の中はアズサちゃんの事でいっぱいだったのに…。
ーー暗い画面に、光が点る。
《…初めまして!ゲヘナとトリニティ、そしてキヴォトスの皆さん》
「………ぇ?」
「誰よコレ、アリウスの奴?」
「…これは」
《アリウス分校生徒会会長に就任しました、羽音デミと申します》
「…!まさか黒幕が表立って動いてくるとは、行きましょう二人共!」
「…ぁ…ぅ…ご、ごめんなさい…私ちょっと、行かなきゃ…」
ハナコから差し伸ばされた手を拒否して、ヒフミがよろけながら店の外へ走り出そうとする。
「なっ、待って下さいヒフミちゃん!!何故…いや、今ヒフミちゃんまで散らばってしまったら元も子も…!」
「ヒフミ!」
コハルがヒフミの腕を掴み、力づくで留まらせようとする。
正義実現委員会と一般の生徒では身体の使い方に差があり、逃げようとするヒフミをコハルはこのまま傷つけない様に優しく押さえつけようとしていたが…。
「…大丈夫です、コハルちゃん……でも今はごめんなさいとしか言えないんです」
「駄目!よく分かんないけど、コイツに関わってる事なのよね?そんな危ない所にヒフミ一人でいっちゃダメ!」
「コイツ……コイツじゃなくて、この子はデミちゃんって言うんです、デミちゃん、コハルちゃんの憧れている先輩で、私の大切な人…覚えてないですか?」
「え、ん…え?えっと覚えてるも何も私が憧れてる先輩はハスミ先輩だし、ヒフミの口からそんな親友の事一言も…」
「コハルちゃん…ほ、補習授業部の、皆んなの、名前を言えますか…?」
「そんな当たり前の事…ハナコ、ヒフミ、アズサ、私と先生の五人で試験を受けて合格したじゃん、前にも聞いてきたけど…それがデミ?に関係ある事なの?」
その会話をしたヒフミの顔色は、先程よりも悪いものになりコハルを振り払うように駆け出していく。
少し力を緩めていた為、握っていた腕がコハルの手からすり抜けた。
「…………ごめん、コハルちゃん、アズサちゃんは必ず見つけるから」
「まって、待ってよ!私達に相談出来ない事なの?ねぇハナコも見てないで追いかけなきゃ!」
「って、ハナコ!?」
何故か急に押し黙ってしまったハナコの方を振り向くと、ハナコが俯いたままフリーズし、そのまま鼻血を垂れ流し続けていた。
自分の手で止める様子も無く、顔色はどんどん悪くなっていき、遂にはコハルに向かって倒れ込んでしまう。
「ねぇ!大丈夫……じゃない!今すぐ騎士団の所に行かなきゃ…!でもアズサを探さなきゃいけないし、ヒフミも追わないと……」
急展する事態に戸惑い、思考が停止しかける。と同時に両手を振りかぶって…。
パチンっ!
と自分の頬を挟んだ。
「落ち着いて、私はエリート、正実のエリートなんだから…よし!」
「まずはハナコを騎士団に連れて行って、それからの事はその場で決める!」
■
「はぁっ…はぁっ…!」
周囲を見渡せば、人の子一人居ない場所に来ていた。
「人の波に攫われるかと思ったけど、やっぱりここまで来ると…誰も居ない」
徒歩で数十分、漸く調印式場へ渡る橋へと辿り着き、後は渡るだけで古聖堂は目の前。
人をかき分けて最速でここまで来た、ゲヘナやトリニティの生徒がここへ来る前に少しでも情報を得て、被害を抑えないといけない。
「…映像にスクワッドはいなかったけど……これは誰だ?アリウス生徒にこんな奴居なかった、それに生徒会会長はマダムの役職のはず」
「何が起きて…っ、それよりも先生を探さないと、先生が居ればこの状況も……」
橋を渡る、普段は人と乗り物で溢れているブリッジもガラリと人気が無い。
そうやって走っている途中で、ある音を耳にする。
バンッ。
「……?」
「……今のは」
自分の人生において、最も耳にし、最も聞き覚えのある音。
「アリウスの…自動小銃…」