ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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折り返し地点

「音は…この先から…」

 

 

間違える訳が無い、私の人生の殆どはあの音に支配されていた。

 

 

的を撃つ、訓練として同じ学徒を撃つ、最後には敵を撃てと言われた。

 

 

「…」

 

 

背負っていた銃を構えて、スコープを覗いてみる。

この橋は直線上の視界が向こう側まで通っているから、私が先に相手側の位置を知れれば無駄な接敵もしなくていい。

 

 

(…誰もいない)

 

 

スコープから得れる情報には特筆するものは無く、ならばあの銃声は…。

 

 

ダダダッ!!

 

 

「今度は三発……一体何処から」

 

 

人気も物の駆動音も無いこの空間、風切り音と混ざって響いているせいで位置の特定が難しいが発生源の距離は分かる。

その上で直線上に姿が見えなければ。

 

 

「考えられるのは下か上」

 

 

スコープを橋梁を釣り上げる鉄柱へ向け索敵する。

 

 

「……っ!!」

 

 

「サオリ…!」

 

 

スコープ越しにサオリの顔を捉える。

 

 

(何故スクワッドがここに…?いや、それよりもサオリが孤立してるのなら、ここで足止めを……残弾良し、手持ちの煙幕は二発…閃光弾三発、海上に落とす?それとも橋自体を落として諸共……駄目、先生が聞いたら哀しむだろうし)

 

 

(あの爆弾を使うにはここじゃダメ、閉所…それに加えてサオリが爆弾を放り投げたり回避出来ない状況じゃないと)

 

 

…こんな事を考えているなんて、先生や皆に知られれば失望されると思う。

 

真剣に人の殺し方について考える、それがアリウスに身を置いていた私の真実の姿。ヒフミにもコハルにもハナコにも、先生にも言えはしない、私が見てきた『普通の人』では無い、違う人間。

 

 

「……待って」

 

 

ナーバスな思考を捨てて、胸につかえた違和感を脳に書き出す。

 

 

(銃声…そうだ銃声、サオリが銃を撃った?誰に?)

 

 

銃口を誰かに向けているのは分かる、けど誰が向けられているのか、誰に撃ったのかがここからじゃ分からない。ちょうど死角になってしまっていた。

 

 

「登るしかないか」

 

 

音を立て無いように、鍛えられた肉体を使って忍びながら登っていく。

アズサが上部に近づいていくほど、サオリの話し声が僅かに聞こえてきていて、耳を済ませながら更に駆け上がる。

 

 

「……ーーーて…」

 

 

「…………なら…」

 

 

(…誰と話して……違う、今は切り替えなきゃ)

 

 

頂上に手が掛かり、息を整えマガジンを確認し閃光弾を手に取ってトリガーに指をかけた。

 

 

(視界を奪ってからサオリを落とす、下が海だとしても復帰には相当時間が掛かるしダメージも相当になる筈)

 

 

「だとしても合理性に欠ける、それは貴方の自己満足に過ぎんぞ」

 

 

“……”

 

 

()()

 

 

(……え?)

 

 

その単語の響きによりバランスを崩し、音を立ててしまう。

 

 

先生?先生が撃たれた?

 

 

「…!」

 

 

「出てこい、誰だ」

 

 

虚空に向けられる銃口、だがそれは確かに効果があり、アズサは冷や汗を流しながら一歩でも近づくのを待っている。

 

 

「…二回目だ、出てこい」

 

 

「……」

 

 

 

「三回目、出てこなければ殺す、ここに居る……()()もだ」

 

 

 

「……っ!サオリッ!!」

 

 

飛び出すと同時、閃光弾を投げようとした手が撃ち抜かれた。

 

 

「ぐっ…!」

 

 

(卓越した技術の差は埋められない、真正面戦闘を避けなきゃいけないのに…!)

 

 

「アズサか、遅かったな」

 

 

“……アズサ”

 

 

「サオリ!!先生に何をっ…!?」

 

 

「はは、何を…か、見ての通りだ、数発撃ち込ませて貰った」

 

 

先生の上着に赤い染みが大量にでき、垂れ流される血が水溜まりを作っていた。

だが…。

 

 

“アズサ、銃を収めて”

 

 

様子がおかしい。鉄柱を支えとして背もたれているのだが、この傷で話せる訳が無い。

 

 

「で、でも!先生…!」

 

 

“大丈夫、私なら大丈夫だから…だからね、銃を向け合う関係を止めないと、アズサ”

 

 

“サオリも下ろしてくれるかい?”

 

 

「…先生、それは出来ない相談だ、この場所、この作戦自体がその関係の行き着いた先」

 

 

「もう私達は憎しみを互いに抱え、燃やし、滅んでいくしかない、そういう物語なんだよ、先生」

 

 

銃口が再び先生の方を向いて、それを見たアズサが先生を庇う様に血だらけで座っている先生の前に立つ。

 

 

“本当にサオリがそう思っているのならね”

 

 

「……」

 

 

“サオリが信じている様に、全ての物語の終結は変わらない、でもその結末に至るまで、『終わり』の意義は変わり続ける、サオリの世界がアズサに否定された様にね”

 

 

サオリの視線が更に厳しいものとなり、先生にトドメを刺さんと歩みを進めて来るが、アズサが携帯していると推測された『例の爆弾』の射程距離に入らない様に、一定の距離感を保つ。

 

 

「…私に?」

 

 

“ 『全ては虚しいもの』それは確かに真実で、それをアズサは肯定している……それでも足掻かなければいけない、今日を、明日を諦めない、毎日を足掻き続けて…”

 

 

“私はアズサにそれを見せてもらった、だからこの物語の結末が変わらなくても、受け手側からは異なる姿を見せると思う”

 

 

“それが今日も抗う意味、終わる命が最期を迎える為に出来る唯一の準備なんだ”

 

 

「…それも、抗う理由か」

 

 

“私も抗いたい、定められた結末を受け入れる為に”

 

 

「……そうか」

 

 

「甘言を吐き、戯言を話し、偽善を語る、真実を見ようとせずに偽りの未来を生徒に見せる、それが先生か」

 

 

“それを納得するかどうかも、サオリが決めることだよ”

 

 

「納得したさ、私は疲れていたと……あんな質問をして、敵に引き金を引ききれていないのが証拠だ」

 

 

「だが先生、貴方は死ぬ…その傷では生きては帰れない、先生が言うその準備とやらも今ここで無駄に終わる」

 

 

「貴方がアズサに再び現実を見せつけるんだ、愚かにも防げる筈の弾丸をわざと受け、血塗れになった手と口で虚言を吐き続けるのか?」

 

 

ーー血溜まりがアズサの足元にまで届く。

 

 

「先生ッ!早く治療をしないと!」

 

 

「動くな、この距離でお前に先生を守れる程私の腕は錆びていない」

 

 

向けられる銃口にアズサは身動きが取れず、時間はただ無常に過ぎ、アズサの表情に絶望の色が加わっていく。

 

戯言ばかりだ、先生の話す言葉は全て綺麗事に過ぎない。

セイアが語った愚かな夢想者、実在しない何かを求めてその命を灰にしていく愚か者。

 

だがそれは、常に未来を見続けて進む事と同意義でもある。

 

 

“…アズサ、私の手を取って”

 

 

「……!うん!」

 

 

「チッ…今更何を」

 

 

指にかかったトリガーより早く、アズサが先生の手を取った。

 

 

“サオリ、■■■■”

 

 

放たれた弾丸は……先生の背面にあった血濡れの鉄柱に突き刺さる。

 

 

「…………」

 

 

「……転移か」

 

 

その場にはもう先生とアズサの姿も無く、虚しくサオリが一人佇んでいる。

 

 

先生が転移前に言った言葉は上手く聞き取れ無かったが……。

 

 

「……」

 

 

血溜まりの中に、紙が落ちていた。血が染み込んでいるせいで何が書いているかは分からないけれど、これも保険だろう。

 

口の動きで分かった。

 

 

『また後で』

 

 

「……また、は無い」

 

 

《全部隊、状況を簡潔に説明しろ》

 

 

《リーダー、ⅡⅢ両方とも私とヒヨリを残して羽音デミに攫われた、それと訳が分からないと思うけど……羽音デミの目的は私達と同じで、事が終わればメンバーは解放するって》

 

 

《攫われてどんな事をされてるんでしょうか……私も最後には攫われちゃうんですよね、怖いですね虚しいです…本当にこれが真実だなんて信じたくもないです…後、ヒナさんは羽音デミと交戦中です、契約相手とも…》

 

 

《こ、こちらチームI、Ⅴ、木人形の契約相手は式場に、黒服の契約相手は聖園ミカと交戦中!》

 

 

《…何故ミカがそこに居る、カタコンベへの侵入は許していないはずだが》

 

 

《分かりません!空から落ちてきたとしか…》

 

 

《今すぐそっちに行く、姫を連れて逃げろ》

 

 

報告が一段落した後、通信機を切って大きく溜息をつく。

 

 

「長居しすぎた、戻る…調印場へ」

 

 

「…エデンの名のもとに、審判を、か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界が覆われる程の雨。

 

 

朦朧とした意識は、水面下から覗いて揺らぐ光の様だ。

 

 

そこに映る景色を朧げに覚えている。

 

 

“……”

 

 

大雨。

 

 

傘をさして、トリニティ近くのアパートの前に立っている。

 

 

視界が動き、アパート内に足を進め、階段、扉の前へと辿り着いた。

 

 

ドアノブを回す、鍵はかかっていない。

 

 

部屋番号も表札も無い空き部屋、不法侵入ではあるが誰も居ないこの場所で、咎めるものもいやしない。

 

 

“何も無い…”

 

 

部屋に足を踏み入れて分かる事は何も無いという事だけ。

 

ミニマリストと呼ぶには生活必需品すら無い。生活していた形式すら消えている。

 

 

“私の部屋を探してみれば、か”

 

 

何も無い真っ白な部屋を手当り次第に探っていく。

 

 

壁を叩き、窓を開け閉めしたり、雑巾がけの如く床を調べまくった。

 

 

“むむむ…”

 

 

“うーん?”

 

 

“スットコドッコイしょぉぉ!!!”

 

 

▶ 特に何も無かった

 

 

“……( ˙-˙ )”

 

 

“アロナ、お願い出来る?”

 

 

「はい!先生!」

 

 

「…神の目に反応あり、空間断裂が確認されました、ジャマー送信…先生!右手を2メートル先に突っ込んでみて下さい!」

 

 

“…く、空間に?手を突っ込むの?”

 

 

「えっと、イメージしにくいかもしれませんが、アロナに会いに来てくださる時の様にお願いします!」

 

 

“なるほど…”

 

 

何も無い場所へ手を差し伸ばす。

 

 

ずぷっ…。

 

 

「そのまま中にある物体を引き抜いて下さい!」

 

 

“よいしょっと…!”

 

 

そうして出てきたのは、黒い手帳。

 

 

“……こ……れは”

 

 

“…これは、ナギサが修理を頼んでいたものでも、デミが持っていたのとも違う”

 

 

ウイが死ぬほど頑張って修復してくれた手日記は、ナギサと共にエデン条約開始前に見させてもらった。

 

 

“これが”

 

 

 

貴方(羽音デミ)の日記…”

 

 

 

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