ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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メラメラメラメラヒートアップ!

〜数分前。

 

 

「迎えに…迎えを待ってるって、誰が!?」

 

 

“デミと、デミ…はは、まぁ二人が待ってるんだ…”

 

 

先生が胸元のポケットに手を入れて、中から黒いカードを引き出す。

 

 

真っ黒で、燃えカスの様にボロボロになっているカード、それからはチリチリとまるで燃えている途中の炭の様に火が灯っている。

 

 

「デミ…アイツの事か…!!…何故あんな奴の為に先生は…」

 

 

“……流石アズサだね…やっぱり君は逞しいし、本当の意味で強い生徒だと思う”

 

 

“デミの事を、知らないんだよね?”

 

 

「……うん、アリウスに羽音デミという名前は無かった、元より生徒は兵士として名を持つ事は許されている者のみだったから…」

 

 

“ふふ…うん…”

 

 

デミに関する記憶が失われかけた者。その人にとって…ーー

 

 

 

()()()

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

“本当にごめんね、アズサ…先、行ってくるよ”

 

 

キャラキャラと光の粒状が先生の身体に纏わりつき始める、それをアズサは何度も見ているし、何をしているのかも分かる。転移だ。

 

 

「待って!待って先生!ならせめて私も一緒に行く!!」

 

 

“…アズサ…うん、ありがとうそれじゃ私の手を…ーー…ッ!!”

 

 

手を伸ばすアズサ、その影が独りでに動き始め、立体を成す。

 

 

泥の様なものが溢れ出し、影が闇に、黒が更に深く沈んだ色になり……。

 

 

「………ククッ…どうやら間に合った様で」

 

 

“何をしに来た、黒服”

 

 

「誰!?」

 

 

先生の転移が止まる、視線の先の黒服は随分とボロボロで黒い炎が胸元から溢れようとしていた。

 

 

「やれやれ、と言った所ですね……あの生徒には困ったものです、狂気というべきか愚かというべきか」

 

 

“そうやって生徒の成長を称する間は、きっと貴方に生徒は理解できないよ”

 

 

「そうかもしれません、ですがアレを成長と呼べるのも又狂気であるのでは?」

 

 

“私から見ればゲマトリアの研究も全て理解出来ない狂気の沙汰だよ、平行線だから切り上げるけど、何?謝罪でもしに来た?”

 

 

「いいえ、交渉です」

 

 

“へぇ?お願いじゃなくて?”

 

 

「ええ」

 

 

“…相変わらずだね”

 

 

「先生も相変わらず手厳しいものです、さぁ本題へ参りましょう」

 

 

ジリジリとした言い争いを終え、黒服が懐から球体を取り出す。

 

 

紅く燃え続ける黒い玉。

 

 

“それは…! まさか?いや、そんな……そんな形でやっていたのか、デミが……”

 

 

「察された様ですね、これは『羽音デミ』さんから頂いた対抗手段です……ですが、今は既に効力はありません、彼女自身が既に己を棄却した時点でこの玉は役割を変えました」

 

 

「そして先生、貴方は既にコレに対しての『鍵』を手に入れている」

 

 

“……!”

 

 

『手放さないでくださいね、先生』

 

 

あの時、あの夢で渡されたモノ。失った足を通貨として手に入れた『鍵』

 

 

まさかここまで見通していたとは思っていなかったけど…。

 

 

「…先生は既にかなりの無茶をしている状態、カードと己の融合、それを介した彼女との接続、そこへ更なる負担となるコレを背負い込めば……」

 

 

“良いよ、交渉なんでしょ?黒服は代価に何が欲しい?”

 

 

いつも通り、ノータイムの返事を黒服に返す先生。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

「……」

 

 

「……ククッ、やはり貴方は興味深い、先生」

 

 

「……」

 

 

「…ゲマトリアに加入を、等と今更言いません、ご無事を祈っています」

 

 

 

そう言って先生の元へ近づいて、弱々しく震えている先生の手に炎に包まれた玉を握りこませた。

 

 

 

“……”

 

 

 

“…あ〜…もう!…はぁ、年賀状待ってるから、宜しくね”

 

 

「クク…ククク、健闘を祈ります、先生」

 

 

“行こ!アズサ!もー腹立つ腹立つ、あーーー…はぁ”

 

 

「う、うん」

 

 

先生とアズサが手を繋いで、転移の予兆である光の粒状を見せる。

 

 

「マエストロもお待ちの事でしょう、是非彼とも会ってあげて下さい」

 

 

“分かったよ、それじゃ!!”

 

 

先生とアズサの姿は黒服の前から消え、残る黒服もゆっくりと壁にもたれかかった。

 

 

「……危険を犯してまで手に入れた聖女の権能も、これでは意味がありませんね」

 

 

「全く、貴方との契約は…とんだ失敗となりましたよデミさん、最初から最後まで振り回されてばかり、これなら暁の…あぁ、いえ…ホシノさんとの契約を狙い続けていた方が…」

 

 

天を仰ぎ、軽く息を吐く、これが『生徒』というものならばやはり『神秘』に私達ゲマトリアは手を出せない。

 

 

ベアトリーチェのやり方でも、あの様な場で白州アズサの様な存在が生まれている。結論は変わらず、やはり私達には…『理解不能』だ。

 

 

先生という記号が、役職が、存在が生徒を受け入れ、救いを齎す特別な存在であるのかどうか、あの精神性は『特別』であるのか、私には分からない。

 

 

「……!」

 

 

 

…だとしても、そうやって先生が生徒を惹き付けているのは…貴方が貴方だからだと思いますがね、先生。

 

 

 

 

黒服の視界の先、炎の様に夕焼けに染まった空に浮かぶ一機のヘリコプター。

 

 

 

「これも、運命というものでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方は信じれますか?

 

 

自我は薄れ、記憶は消失し、心に、ただ使命に対する欲求だけが残る抜け殻の様なものでも…。

 

 

貴方なら、同じ選択を取れると。

 

 

……。

 

 

そうですか、信じているのですね、先生。

 

 

…。

 

 

 

なら、帰りましょう。

 

 

 

私達の全ての苦しみが、在る場所へ。

 

 

 

そして、全ての奇跡が在る場所に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“……この先か”

 

 

「炎の、壁…いや、ドーム?」

 

 

調印式場を半円状に取り囲む炎の壁は、一見すれば侵入不可能に思える程に燃え盛り、跳ねるマグマの様に踊りあけている。

 

 

だが近づいてもその熱さは感じない、触れる物全てを溶かしきりそうな炎は静かなままだ。

 

 

“……”

 

 

黒服から渡された対抗手段、その役割は変わったと言っていたが……何に変質したのか。

 

 

玉を握りこんだ手をかざし、炎の壁に触れる。

 

 

 

「消えた…」

 

 

炎の壁は一部分消失し、外客を招く形になる。

 

 

 

“なるほど、ならこうするしかないか”

 

 

 

そして…ーー。

 

 

 

“手は打った、後は走るだけ”

 

 

 

「先生…そ、その火は……」

 

 

 

“ふふん、やられてばかりじゃ嫌だからね、反撃の時間さ、シャーレ出動ってね”

 

 

 

“それと……なるほど、夢幻泡影か…”

 

 

 

“うん、大丈夫だよデミ…私は忘れないから”

 

 

 

一定の生徒が羽音デミに関する記憶を保有していた理由。

 

 

 

それは、『先生の事を自身の意義としてどれだけ捉えているか』の者達。

 

 

 

白州アズサは、既に一人で立てるようになった。居場所を見つけ新しい友と歩む様になっている。だからこそデミの事を忘れていた。

 

 

 

先生を必要としていないからだ。先生はカードを通じてデミの神秘に干渉している、デミと同じくカードは燃え続け、やがて灰になるがそれまでは……先生への認識はデミと同一のものとされる。

他の生徒の先生への認識はソレそのままデミへのものへと変換されていた。

 

 

ただ一人の例外を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎のドームが張られるより前に調印式場に居たものは、そのままドームによって外との連絡を絶たれてしまっている。……周囲の炎を凝縮し、デミの手から放たれた炎は幕となり、降りしきった後の光景は奇しくも夢の中の『あの光景』と瓜二つ。

 

 

羽音デミの終着点、その光景が広がり始めていた。

 

 

だが、幕が落ちるより前……そんな地獄に足を踏み入れた者が一人。

 

 

「……まに、間に合った…のか、な………」

 

 

肩で息をきらし、座り込む。

 

 

調印式場に辿り着いた頃に、空から落ちてくる炎の膜を避けギリギリで侵入していた。

 

 

 

「はぁっ……ふぅ、待っててね」

 

 

「デミちゃん」

 

 

 

そして少女は再び走り出す、彼女に思い出してもらいたい事を、伝える為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか、先生」

 

 

炎の壁を抜けた先。

 

 

二つの頭を持つ木人形が、指揮者の手の上に佇んでいた。

 

 

傍らには祈る者達、傍らには歌を祈りとする者達。

 

 

“…マエストロ”

 

 

「もうすぐ全てが芸術へと帰結する、我々は姿形を失い、そしてある種の崇高へと辿り着く」

 

 

「元々無意味である肉体を脱ぎ捨て、全ての『他』と『己』は溶け合い、真に芸術足り得るものへと戻っていくのだ」

 

 

手の上から降りて瓦礫の上に立つマエストロ。

 

 

教父の指揮者(グレゴリオ)は再び協奏を開始し、聖者の祈り手(ヒエロニムス)は両手を組み、祈る。

 

 

「彼等も崇高へ辿り着く、私も、先生も」

 

 

“……”

 

 

 

「さぁ、先生」

 

 

 

「私の作品に、全力で応えてくれたまえ!」

 

 

 

「そして、その後には…」

 

 

 

「万雷の喝采を」

 

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