ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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燃え盛る炎より熱く

 

 

名前を付けてあげられなかった。

 

 

 

その名が無いから呼べる事無く、その名が無いから存在する事も無い。

 

 

 

だから■■■■。哀れな水子、死水の揺籃、存在なき命。

 

 

 

そしてその守籠も同時に死に絶え、終にその名を得る事は無かった。

 

 

 

呼べず、産まれず、そして産声(肯定)をあげられず。

 

 

 

知られず、認められず、誰かに一瞥すらされる事すら無かった。命とは認識を以て本来総体と個人を往来する筈のもの。

 

 

 

だが■■■■は、その故を持って総体(母体)の一部であると言える。

 

 

 

子を死水から渡す使命を持っていた揺籃は、逆に子を深い深海へと沈め溺れさせてしまった。

 

 

 

その使命が本来の揺籃の役目であり、それが黄泉から舞い戻りこの世界に移り堕ちた…ーー

 

 

 

私の、本当にこの世界に持ち込んできた罪過。

 

 

 

 

 

清算すべきこの夢の代価だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そしてその後には……万雷の喝采を」

 

 

“…押し通る!!行こうアズサ!”

 

 

「ああ!」

 

 

デミがナラム・シン起動とシッテムの箱へのジャマーを開始したのは、本当に丁度先生とマエストロの激突の瞬間だった。

 

 

アズサがアサルトライフルの照準をグレゴリオとヒエロニムスに向けた時…ーー。

 

 

「…がッ…!ぅ…ぐ…」

 

 

“…!アズサ!?”

 

 

「始まってしまったか、こうなるより前に始めたかったが…些かあの少女に時間を取られ過ぎたか」

 

 

フラフラとアズサが先生の胸元へ倒れ込み、気絶してしまう。

 

 

“…後手後手に回ってばかりだね、歯痒いものだ……これはナラム・シンか、ゲマトリアがよくコレに手を出せた”

 

 

「あの玉座を知っているのか!…いや、貴方ならば不思議では無いか、先生」

 

 

“ああ、『同じ』だからね、私も”

 

 

「…………?」

 

 

「……!! まさか…?」

 

 

「…確かめねばならんな、行くぞ我が芸術よ」

 

 

 

 

マエストロ含め、全員が先生を攻撃の標的とした時……。

 

 

 

黒い稲妻が空から迸った。

 

 

 

「……障壁は多いな」

 

 

 

ガゴンッ!!!!!!

 

 

 

空からの黒い光が先生と人工天使を遮り地面に突き刺さる音は、爆撃を超えた音量を響かせる。

 

 

 

唐突の事だ、しかも馬鹿に出来ない衝撃波を受け先生は尻もちをついてしまう。

 

 

 

突き刺さったと同時に舞い上がった土埃を視界から払い、立ち上がって『ソレ』を目にする。

 

 

 

 

“けほっ…いてて…ーーこれは…!”

 

 

 

 

【 IRON HORUS 】

 

 

 

 

 

空からもう一筋、桃色の光が炎獄の地へ到来しようとしていた。

 

 

 

 

希望の光、戦神の神秘、そして後輩の想いとユメ(先輩)を背負って毎日を過ごす……。

 

 

 

キヴォトス最高の神秘、頼れる先輩。

 

 

 

“ホシノーーー!!!”

 

 

 

「先生!助けに来たよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

調印式場 上空

 

 

 

 

「ん、凄い事になってる」

 

 

「うへぇ〜…よし、私も気合い入れていくかぁ〜…」

 

 

「せっかく購入出来るまで皆でバイトして貯めて買ったヘリですが……この様子だと無事には帰れなさそうですね」

 

 

「何よ、先生を助けに行くのに今更ヘリなんて!……ヘリ、なんて…!…うぅ…」

 

 

「セリカちゃんが一番頑張ってたのに……『借金が無くなったから自由に買い物出来るって事!?』って…」

 

 

「うるさいわね!!思い出させないで!」

 

 

「ローン、分割払い、負債」

 

 

「うわぁぁぁぁ!!?!?」

 

 

「シロコちゃん……鬼だね……」

 

 

「いざとなったら私の力も貸しますよ、セリカちゃん☆」

 

 

「うぐぐ…ぅぅ…」

 

 

「よし!話を戻して……第一目標は先生!その次に救助者!作戦は私の突入後に皆んな入ってきてね」

 

 

「でも…やっぱり、幾らホシノ先輩といえど……この炎のドームに突入って…」

 

 

ヘリから見下ろして見える光景は、非現実な光景がよく見られるキヴォトスでも見られない、炎の塊。

 

 

一歩足を踏み出せば灰燼となってしまいそうな雰囲気を纏っていた。

 

 

「ふふん、先輩に任せなって〜」

 

 

「ん、その作戦で行こう、アヤネ…高度を上げて」

 

 

「……はい!!」

 

 

ヘリはどんどん高度を上げて、その横側の縁に立つホシノも一本一本握っている指を離していく。

 

 

「……」

 

 

「心配?ノノミちゃん」

 

 

「…ホシノ先輩が、無事で帰って来れるなら…大丈夫です」

 

 

「大丈夫だよ〜その為に()()()が居るんだし〜?」

 

 

「……!はい!作戦通り頑張りましょう!」

 

 

 

 

「うん……それじゃ、行ってくる」

 

 

 

 

握っていた指の最後の一本が外れ、盾と共にホシノが落下していく。

 

 

盾は炎の壁に燃やし尽くされる事無く、その壁を突き破り入口を開いた。

 

 

だが、炎球内はナラム・シンの玉座によって『本質』の露呈が行われている。裂け目に突入するホシノにも同じくその影響が…ーー。

 

 

 

 

「待ってて、先生」

 

 

 

 

その決意の目に、揺るぎは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ホシノとアビドスの皆んなが、全力でマエストロを足止めしている、決着をつける時だよ、デミ”

 

 

 

視線の先には、周辺の炎が無くなった代わりに作られた莫大な熱量を持つ炎の柱。

 

 

遮られた向こうに彼女が居る。

 

 

 

「……『影響は炎球内へ限定放出』…そうか、外から強制的に侵入したから定義が崩壊した、外的要因のホシノちゃんが動けば動く程影響範囲は崩壊し、縮小していく…」

 

 

「侵入……どうやって…いや、なるほど……キヴォトス最高の神秘、か」

 

 

先生と私の間にこの場で出し切れる最大の炎壁を作った。これを突破されれば打つ手は無いが、突破できる手札はもう本当に無い。

 

 

……しかし、よくもまぁ…。

 

 

ズレの清算、アビドスの借金が完済された事の影響。ヘリの購入に繋がり、そしてここまでの結果へと辿り着いた。

 

 

「…預言者が来ない」

 

 

全機体の招集も……。

 

 

「ごめんなさい、お母さん……アリス、お母さんが魔王で、『魔王である事で』悲しんでいるのなら、アリスがお母さんを討ちます」

 

 

アリスの瞳が、片方は蒼色、もう片方が紫色になっている。

 

 

そして片手は燃え盛る私の体内へ。

 

 

「『Pass』の連結が……あぁ…ちゃんと……ジョブチェンジ出来たんだね……ケイは虐めすぎてない?」

 

 

「はい!」

 

 

「そっか…良かった」

 

 

ズレの清算、廃墟でのアリスの起動、会遇、対話。その終着点。

 

 

 

「……」

 

 

「致命的なズレを引き起こす、か……は、はは……あはははは、は…」

 

 

ただ、後一人不可解な者が…。

 

 

「…じゃあ、ヒフミちゃんは?」

 

 

貴方は?何が、どうやって?

 

 

そう疑問に思った時だった。

 

 

 

「どいてッッ!!!下さいッ!!」

 

 

 

分厚く隔たれた炎壁が、巨大なペロロジラ人形に押しつぶされる。

 

 

 

「はぁっ……はぁっ…!!」

 

 

 

「私……私は、私は!!『それでも』って思って走ってきたよ!」

 

 

 

「…ヒフミちゃん」

 

 

「それでも……それでも…?どういう…」

 

 

 

「…………!!!」

 

 

 

『それでも』…それでもかぁ…。

 

 

 

「反転、してるのに…」

 

 

 

そう(テラー)なっても、走って来たんだ」

 

 

 

「そうだよ、デミちゃん…まだ私は生きているから、貴方も生きていて、まだ明日がある」

 

 

「違う、もう終わってる…ここは『辿り着く道』じゃ無くて『辿り着いた後の終わり』だよ」

 

 

「でも、私も貴方もまだ生きてる、生きている限り『次』があるから…ここまで来れた」

 

 

「…ふ、は…先生の受け売り?」

 

 

「うん、『先生』に託されて……ねぇデミちゃん、まだ誰かの為に踏みとどまってる優しいデミちゃん、聞きたいことがあるんだ」

 

 

…これが最期の問答かもしれない。

 

 

「なにかな…」

 

 

 

『「どうして」』

 

 

 

「……!」

 

 

 

「…どうして、私達はモモフレンズを買うと思いますか?」

 

 

「……へ?はい?」

 

 

「どうして朝にちゃんと起きて、扉を開けて、友人と一緒にモモフレンズを買いに行くと思います?どうしてモモフレンズの映画の予約を前日の抽選を乗り越えてわざわざ見に行くと思います?」

 

 

「ん、ん??んー〜……モ、モモフレンズが可愛いから……とか?」

 

 

「違います、モモフレンズは可愛いだけじゃ無いですし、映画はどちらかと言うとかっこいいが勝ってます」

 

 

「は、はい!そうですね!!圧かけないで!?」

 

 

「……もう一度聞きますね、というか答えを知ってるのに言わないんですか?デミちゃん」

 

 

「あ、ぁのそのぉ…こわい、あの、お…怒ってる?圧が、その…」

 

 

「怒ってます、だから敬語は止めません、デミちゃん…『どうして』ですか?」

 

 

ヒフミの視線と言葉が、目線を逸らしてちょろちょろと逃げようとしているデミを射止めてボコボコにしている。

 

 

(逃げれないし、逃がさない気だ……)

 

 

「…そうだなぁ…ま〜……」

 

 

「…終わりに向かって……生きていく為、かなぁ…」

 

 

「……」

 

 

その言葉を聞いて、スタスタと燃えているデミの元へ足を運ぶヒフミ。

 

 

 

「…うん、色々考えた事はあるよ…?どうして生きてるんだろーとかは、まぁ私は……いつか来る『終わり』…運命の終着点に向けて必死に生き死んでるのかなーって思ってたり……ーー」

 

 

パチンッ!

 

 

「へぶっ!ふ、ふへぁ?」

 

 

「そんな!!」

 

 

「難しい事!!!」

 

 

「聞いてません!!!!!」

 

 

ペチンペチンペチンペチンペチン!!

 

 

「痛っ!ちょ、いたたたた!!かお腫れる!痛いってばぁぁぁ!?自分の!あの!力量セーブして!?テラー化してるんですヒフミちゃん!あのぉーー!!?」

 

 

「朝起きるのは!朝起きる為です!!寝るのも起きる為!外に出て友達(貴方)とモモフレンズを買いに行くのも!!買いに行くからってだけで、そこに!!特別な何かはありません!!!」

 

 

「ぐほぉあ!?」

 

 

「特別な何かじゃないんです、ただそうやって毎日を幸せに生きる為、死ぬ為に生きるんじゃなくて、私達は自らそうやって望んで『生きる』をして来たじゃないですか!!何でどうして……今更そうやってへこたれちゃうんですか!?」

 

 

「死ぬよりも辛いことがあっても、生きる事より前に進める事は無いから……だから、何があったとしても、それでも私達は生きる為に生きる(前に進む)んです」

 

 

「…はは、凄い、凄すぎるよ……テ…テラーになっても………そう、言えるんだ…ヒフミちゃんは…痛い!?」

 

 

そのままむんずと持ち上げ、肩に乗せて投げ飛ばす姿勢をする。

 

 

「先生ーーッ!!パスしますよー!!!」

 

 

“ばっちこい!!”

 

 

「アリスは離れておきます!」

 

 

「ちょま、アンタら死にかけの奴を…ーーおわぁぁぁ!!!投げ飛ばすなぁーー!?」

 

 

 

……はは。

 

 

もう何も起こらないと信じていた未来が、どんどん変数によって変化していく様を見ると……やっぱり、先生に私みたいな子供が立ち向かったって……勝てやしないんだなぁ、って…。

 

 

 

“よし!!キャッチ!!!”

 

 

「ぶへぇ……あ、熱いっすよ、先生…すぐ手放して…」

 

 

“漸く、漸く戻ってきてくれた…お帰り、デミ!”

 

 

「…ぁぁもう…!」

 

 

残された時間は本当に後少し、あと数十秒。

 

 

“ミカぁぁぁぁッーーー!!!”

 

 

「先生!!」

 

 

ミカが地面の下を吹き飛ばし、飛び上がって先生の元に到着する。

 

 

デミは…予測していたナラム・シンの玉座の力での最初の脱落者候補のミカが正気を保っている事に驚きを隠せないでいる。

 

 

「は、え、なん…ーーあ!地下か!!クソ…!」

 

 

既に玉座との接続ができるリソースは残っていない。

 

 

“ゴルコンダ!デカルコマニー!!見てるなら早く来い!!”

 

 

「ええ、始めましょうか、先生」

 

 

「そういうこったぁ!!」

 

 

「な、なんでデカちゃんとアンタまで!?」

 

 

次いで空からこの場へと何十回ときりもみ回転をしながらぶっ刺さってきた物体も………。

 

 

「ーーーーー」

 

 

「う、うわぁ……マエストロ…ボコボコにされ過ぎでしょ……」

 

 

降ってきたマエストロは見るも無惨に頭を打ち砕かれ、服は布切れレベルまでボロボロにされ頭が地面に刺さったまま足をピクピクとさせている、意識があるかどうかは怪しい。

 

 

“ナイスホシノ!柴関毎日タダで奢るよ!!ヒフミも早く来て!!最後だ、アロナ、お願い!”

 

 

「はい!スーパーOSアロナに任せてください!」

 

 

“…ーー約束、通りにね”

 

 

「…っ、はい!!」

 

 

“条件は整った……!”

 

 

 

アロナと息を合わせて、自分の腕の中にいる少女を優しく包み込みながら、その名を宣言した。

 

 

…ーーそれは、ゲマトリアとデミの本来の目的であったもの。

 

 

 

“「ナグ・ハマディの福音計画発動」”

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