ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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秘密の開示は甘く苦く

「……私、これからどうすればいいのかな…」

 

 

「…これが贖罪、あの二人によって用意された……最後の、償い」

 

 

「でも、もう現実の世界は崩壊してる…儀式の為に、私と『元の私』の乖離は必要不可欠で、大々的に『羽音デミ』という存在は……アリウスの生徒会長、テロ実行犯に…」

 

 

「……まぁ、帰れる保証も無いか…殆ど燃え尽きてたからなぁ…」

 

 

「……」

 

 

「……はぁ」

 

 

 

このまま沈んでいこう。

 

 

このまま、消えていこう。私はもう疲れた、色々あったし…責任を取らず逃げるんだ。

 

 

子供で、ワガママだけど…もうこれ以上の足掻き方が分かんないや。

 

 

「…結局謎だらけだったなぁ……全部分かった気でいて、全部理解出来る力を持っていて、先生にしてやられた」

 

 

「なんなんだよ……はぁ……まっ、振りほどけ無いって事は分かってはいたけど…こんな結果になるとは…」

 

 

先生は私と同じだって言ってた、託され続けた意志の集合……あれ程までに使命に燃えながら、その下の自我は希薄だ。

 

 

いや、無いんだろう。あの人に、人として必要なものが無かった。

 

 

……だが、そうなった理由も分からなければ、この現状を予想出来た理由すら分からない。サンクトゥムタワーへの干渉を予測もしていたし、聖槍とか訳わかんないもの作ってるし、この結果まで知っていた風にまで感じる。

 

 

「……何回も使えるカードも……意味不明だったなぁ…」

 

 

なんか…イライラしてくる。私の事は事細かに暴ききった癖に、先生の事を私はよく知らない。

 

 

………いや、知ろうとしなかった私が悪いか。

 

 

 

「なんか…思考が纏まりやすいな…前世の時みたい…」

 

 

「……この世界に来てからはずっと……ずっと別の事でいっぱいいっぱいだっし…」

 

 

 

「………」

 

 

そろそろ目を閉じて、寝るとするかぁ…。

 

 

ちゃんと夢を見れたらいいな…あ、でも熟睡しちゃったら夢って見ないんだっけ?

 

 

…って事は、初めて熟睡出来るのかもしれないね…。

 

 

 

「あーやめやめ、感傷的になっても仕方ない…」

 

 

 

「私も寝るよ、おやすみ■■■■…すぐそっちに行くから」

 

 

 

“デミ”

 

 

「はい?」

 

 

空から声が聞こえてきた。

 

 

“迎えに来たよ”

 

 

「…もー嫌この大人、何処まで着いてきてんすか、バカ」

 

 

“手を取れる?”

 

 

「嫌〜い!嫌いだから取りたくない!アホバカ、知らん知らん!!」

 

 

“普通に泣くよ??大の大人がみっともなく鼻水垂らして大泣きするけど?”

 

 

 

「なんで泣き落としが横行してんの???はぁもううっせーー!!余計なお世話じゃー!!勝手に泣いてろっす!」

 

 

…クソ、私も私で何乗せられてんだか…。

 

 

……手を伸ばすなよ?私。

 

 

“お別れは…ちゃんと出来た?声は聞けたかい?”

 

 

「…まぁ、はい」

 

 

“なら、最後の責任は私がとるよ…だから帰っておいで”

 

 

…。

 

 

「それが先生だから、ですか?」

 

 

“何度も問答はしたけれど、私が私だからだよ、私が大人で、君の責任を取ろうとするのは…私が先生で、先生だと言われたから”

 

 

“君は、責任を負う者の話は知っているかい?”

 

 

「知ってますよ、前世で全部…見てきたんで」

 

 

“…それでも手を取れないのは…意地張ってる?もしかして意地張っちゃってる?”

 

 

…!?

 

 

「はぁーー!?おいコラクソボケ教師!誰が意地張ってるって…ーーあ」

 

 

イラつきで目を覚ましてしまうと、そこには…。

 

 

 

“あはは!おはよ、デミ”

 

 

「お帰りなさいっす、私」

 

 

「…先生と、『羽音デミ』…!」

 

 

 

“答え合わせの時間だね、少し…話そうか”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ここは……”

 

 

 

目を覚ます。

 

 

平坦に広がる鏡面の湖の上、流れ星が落ち続けている夜空の元に居た。

 

 

『知っている風景』だった。

 

 

起き上がってみると、随分と身体が軽い。身体に空いた穴も塞がっているし、サオリから受けた銃弾も体内に残っていない。

 

 

そして、カードの代償も元に戻っている。

 

 

 

 

“……”

 

 

 

 

…正直、調印式後にまで私の命は残っていないと思っていたから、また五体満足の感覚を得るのは驚いた。

 

アロナとカードによる延命は、治すものでは無く…本当に死ぬまでの時間を延長するだけのものだったから…。

 

 

 

 

「先生」

 

 

 

“…!”

 

 

 

聞き覚えのある声が背後から聞こえた。

 

 

聞き馴染みのある、最も聞き続けてきた彼女の声だが……少し、違う。

 

 

 

“デミ!”

 

 

「…よく、本当によくここまで来てくれたっすね、イケ男…羽音デミちゃんっすよ!」

 

 

“あはは、もしかして…ずっと見てた?”

 

 

「バッチしっす、流石先生、同じ選択、同じ決断……そして、同じ様に手を伸ばした…先生のカードを燃料に、ここまで辿り着いたって訳っす」

 

 

「勢いのまま駆け抜けたっすけど、何一つ間違えてませんでしたよ……先生はそう思ってなさそうっすけど」

 

 

“…まぁね”

 

 

“……そうだ、皆は?”

 

 

「居ますよ、ココに」

 

 

デミが胸をさすって指を中に沈みこませる。

 

 

“『デミ』は?”

 

 

「一番深い所に沈んでます、内海遊覧中っすね」

 

 

“…そうか、会いに行ってるんだ”

 

 

「ええ、そして別れを告げに」

 

 

“……”

 

 

「も〜そんな顔しない!」

 

 

デミが顔を顰める先生の眉間のシワを指で突く。強めに押して、そのまま押し倒して二人共湖の上で寝転がった。

 

 

 

「……」

 

 

“………”

 

 

「…………」

 

 

“…ぷっ…あははは!ごめんごめん…慰められてちゃ世話無いね”

 

 

「そうっすよ、あんまり落ち込む様じゃ…それなら、元気になーれ萌え萌えきゅんでもしてあげましょうか?」

 

 

“それはまたの機会に”

 

 

 

寝転がったまま二人で夜空の星を見上げ、会話もせず、触れ合う部分も互いの手だけ。

 

 

静かな世界には二人の微かな呼吸音だけしか聞こえない。

 

 

夜空に満ち満ちている煩い程の大量の流れ星から音はしない、当たり前だ。空に星が満ちていても静寂は保たれる、夜空の星は数百万年も前の輝きで、宇宙は音を伝えてはくれない。

 

 

だから、こんなに星が満ちた空でも、こんなにも静かなんだ。

 

 

 

 

「……!」

 

 

「先生」

 

 

「……ちゃんと、終わったっすよ」

 

 

“…良かった”

 

 

立ち上がって、上の正実の制服を解き胸を露出する。

 

 

「胸に手ぇ入れて下さい、今だけはセクハラOKっす」

 

 

“人聞きが悪いなぁ!?”

 

 

「麗しの女子高生のパイタッチするんだから人聞きが悪くて当たり前っすけど!?!?」

 

 

“確かにそうだけど…というか言葉のチョイスが古い……”

 

 

「はよ手突っ込まんかい!全く、胸出したまま待たせてんじゃないっすよ」

 

 

“分かったよ……し、失礼します…”

 

 

「な・ん・で…!こんな所で初心なんだか…!!あいや、しまったこの人クソボケ側だった…」

 

 

 

デミのはだけた胸部に手を突っ込む先生。

 

 

手の先からは、冷たい水の感触が伝わってくる。

 

 

 

“…迎えに来たよ”

 

 

 

 

そして引き抜かれた手には…また、もう一人の手が繋がっていて、遂には全身が引き抜かれた。

 

 

 

 

 

「おいコラクソボケ教師!誰が意地張ってるって…ーーあ」

 

 

“あはは!おはよう、デミ”

 

 

「お帰りなさいっす、私」

 

 

 

答え合わせの時間だ、私が歩んできた黄泉路を……語ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私には、集合体の『核』となった存在が居る。

 

 

その存在は一度、完膚無きまで敗北を喫し、死んでしまった。羽音デミでは無い、だが羽音デミに酷似した人物に世界を滅ぼされた。

 

 

胸を焼き貫かれて。

 

 

そして世界に封が成され、永劫の中微睡む楽園は完成し、そこに痛みは存在せず、苦しみも苦悩も消えてなくなった。

 

 

今思えば、きっと今のデミと同じ様な状態だったんだろう、その子も身体に新しく精神が降ろされた、デミと同じ罪を抱える子供。

 

 

…そして、封をされたそんな世界に私は必要が無い。導く者はその存在理由を失い、死よりも酷く醜い姿になってしまった、連邦生徒会長の必死の蘇生と回帰も虚しく、心臓に埋め込まれたシッテムの箱は沈黙し、そして二度と戻る事は無かったんだ。

 

 

…そんな存在が出来た事は、何も無い。そんな存在が何かを出来るはずが無い、意義を失い意味を失い…惨めに死んでいったそんな存在が…。

 

 

捧げれたのは、全てだけだ。

 

 

 

 

 

『この方法しか……無い…』

 

 

『…本当に、この方法しか無いの……?』

 

 

 

今この場所と同じ、だが空には星が一切無い湖の上で会話をする。

 

 

 

『“それでもいいんだ…だから、お願い”』

 

 

『…責任を……ぁあ…負うものの、話でしたね…』

 

 

『……』

 

 

『貴方は……』

 

 

『貴方は信じれますか?』

 

 

『自我は薄れ、記憶は消失し、心に、ただ使命に対する欲求だけが残る抜け殻の様なものでも…』

 

 

『貴方なら、同じ選択を取れると』

 

 

『“うん”』

 

 

『そうですか、信じているのですね、先生』

 

 

『“この会話を覚えていなくても、私の意味も次の瞬間に泡沫に消えようとも、私なら同じ選択をするよ、きっと”』

 

 

 

『なら、帰りましょう』

 

 

 

『私達の全ての苦しみが、在る場所へ』

 

 

 

『そして、全ての奇跡が在る場所に』

 

 

 

 

そして私は『私』となり、全ての私を構築する要素を失い、核となってこの世界に送られた。

 

 

全ての奇跡を始める為に。

 

 

 

『待って』

 

 

 

……回帰した記憶、その一番重要な所をここで漸く思い出せた。

 

 

 

『これは私の責任です』

 

 

 

『だから私も連れて行って下さいっす、先生』

 

 

 

『“君は…”』

 

 

 

『名も無き生徒、名を捨てた生徒です』

 

 

 

『“……”』

 

 

 

『……私のミスでした、私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況』

 

 

『結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて…』

 

 

 

『だから、お願いします先生、どんな私になっても、どんな見た目で、どんな性格になっても……』

 

 

『迎えに来てくれますか?』

 

 

 

『“うん、きっとね”』

 

 

 

『…ではまた、再び……』

 

 

 

『この場所でお会いしましょう、先生』

 

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