ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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希望的観測 薄氷の上

 

 

全ての要素を切り落としてこの世界に転がり込んできたのは私だけじゃ無い。

 

 

デミも同じだ。

 

 

ナラム・シンの玉座を使用した私達の世界と少し違う、もう一つの終幕世界線の観測、そしてその救済計画。

 

 

…その結果、私は肉体のみを残し精神は虚数世界を漂い、今は羽音デミという少女も全てを削り落として無垢と無知のまま、選択の意味を理解しにこの世界にやって来ることに。

 

 

 

 

“…長い、旅路だった”

 

 

“核となった私の肉体はそのままに、『使命』を抱いた精神は数多の世界、数多の……私が失敗してしまった世界を巡った”

 

 

“数多の世界を駆けて、数多の世界の終わりを見届け、数多の世界から全てを託され続けてきた”

 

 

“ホシノの選択を見届けた、アビドスの皆の選択と共に歩いた、アリスの決断の責任を取った、ゲーム部の皆とミレニアムの皆とそれを背負った、ヒナの背中を押して、ミカの誤ちを清算し、トリニティの負の側面と向き合った、百鬼夜行の皆の過去との決別、プレナパテスと共に空で燃え尽きた”

 

 

“私じゃない…私が歩んできた旅路の殆どの『未来(道標)』はキヴォトスの皆が選び、歩んできた道だ、その選択の責任を背負うだけ”

 

 

“だから、君はさっき…私が同じ選択をして、ここまで辿り着いたって言っていたけれど”

 

 

 

“同じ選択をしたのは、私だけじゃない”

 

 

 

“想いを背負い、友愛を、決断を、選択を……生徒も同じく『それでも』を選択し続けてきた”

 

 

 

“大切なのは、全く同じ選択肢を取ることじゃない、同じく『前を向いて進めるか』どうかだから……皆、その決断と選択がどの様な結果になっても、『それでも』を選択し続けて、ここまでの道へと繋がったんだ、私じゃない、誰かの選択さ”

 

 

“そして君の選択でもある”

 

 

 

手を置く先は、私の頭。

 

 

 

“この物語の始まりになった選択、その責任は私が取るからね”

 

 

「始まりになった…選択?先生の以前の世界の…誰かの選択ですか?それが、先生がここまで来た意味…なんですかね」

 

 

“……少し違うよ、以前の世界じゃない『この世界で』全ては始まったんだ”

 

 

「……?」

 

 

“私は知らない、君の最初の選択……あはは、やっぱりエスパーの肩書きは返却するよ、デミの口から…君がこの世界にやって来て、最初に取った選択を…教えてくれるかい?”

 

 

「……」

 

 

「私の選択…」

 

 

「覚えてます、私がこの世界にやって来て最初に選んだ選択、それは…」

 

 

「それは、生きる事です」

 

 

「『羽音デミ』という少女……目の前に居る貴方が経験してきた青春の物語(ブルーアーカイブ)を私も記憶で経験して、私は生きる事を最初に選択しました、その結果がどうなったとしても、本当に最初は生きていたいって思ってたんです」

 

 

「……まぁ……でも、『それでも』っていうのは…やっぱり……ヒフミちゃんや、ハスミ先輩、正義実現委員会の皆とカズサちゃんみたいな親しき友人、ゲヘナのバカ共や、キヴォトスという物語そのものが、私に自己救済の道を最初に歩ませたって思ってます」

 

 

「まあ、そっからはその責任を取り続ける事になっちゃいましたけど」

 

 

“それが全ての始まりだったんだ、他者を理解出来ず生きてきた全能の少女が転がり落ち、傷つきながら辿り着いた、何の変哲もない日常”

 

 

“『寝て起きたら、明日が来る世界』”

 

 

“見知らぬ誰かの選択が、見知った誰かの選択が世界の明日を作り上げていく、当たり前の世界”

 

 

「……はは」

 

 

ずっと黙り込んでいた『羽音デミ』が口を開く。

 

 

「そうっすよ、先生…この世界は余りにも明日が眩しくて、眩し過ぎて目を閉じたくなる時もあった、そしてその光の影に居た私は…『以前では気づかなかった』事に、この世界で気づいた」

 

 

「運命の時間、今日この日が近づくにつれて…数年前の私はどんどんと記憶を取り戻し、一時期は…まぁ、病んでたっすけどね?でも、気づきました」

 

 

「影の中に居すぎて自分が見えなくなった時は、その巨大な光の影の向こうを見れば良かったんすよ、簡単な事っす」

 

 

「明日の影に呑まれそうになるのなら、影を作り出した光に自分を求める、きっとそこには輝くような『明日の自分』があるから」

 

 

「それが…私の、『それでも』っす、多くの人に助けられ、支えられ選択を共に歩んだ私の結論」

 

 

 

結局の所、この結末は何度も繰り返された選択の結末なのだろう。

 

 

アロナは必死に選択を追い求め続け、そして根底の違いによって誤ち続けた。

 

 

デミは選択の意義を理解出来ず、一人で全てを収めようとした。

 

 

 

そしてその責任を先生が取ろうとしている。

 

 

 

キヴォトスに生きる全ての生徒の選択を以て、『それでも』と歩む世界の為に。

 

 

 

 

 

“アロナ”

 

 

星空の下、箱を通してでは無く、『彼女』に対して語りかける。

 

 

「…はい、先生」

 

 

“…君が選んだ道は決してミスじゃないけれど、間違えてはいたかもしれない……その理由も、分かった?”

 

 

「……私は、私は……せめて、少しでも幸せな形で、誰もが苦しまない形で『終わる事』を…選んでいました」

 

 

「明日を望むのでは無く、『幸せだった』過去に逃避する」

 

 

「より良い明日では無く、より良い今日の終わりを目指して歩み続けた」

 

 

アロナの傍によって、膝立ちをし、その頭を優しく撫でる。

 

 

“それも一種の正解ではあったかもしれないけれど、やっぱり私達は……明日を望む為に産まれてきたんだと思うよ”

 

 

「……そうかも、知れません」

 

 

“……ねぇ、アロナ”

 

 

“鳥は何故飛ぶのか、分かる?地上での活動に不備は無く、空を飛ばすとも生きていける彼らが何故飛ぼうとするのか”

 

 

「……」

 

 

“それはね、アロナ”

 

 

 

“鳥は、飛ぶ為に……この世界に生まれ落ちてきたからだと、私は思うんだ”

 

 

 

鳥に大きな翼があって、それを羽ばたかせる事で空を飛ぶ様に。

 

 

 

私達も、明日への光を追い求めて翼を羽ばたかせ続けている。

 

 

 

 

 

 

 

「まっ、そんな所っすね〜あんまし重たいのもなんなんで、さっさとやっちゃいますか」

 

 

「…あのさぁ、だから『私』ワビサビが無いって、この状況でその軽口出来るか?普通さ…なんかこう、もっと…」

 

 

「じゃあなんすか?アンタみたいに先生への気持ちも伝えれずウダウダしてるみたいに、このしんみり感を引き伸ばせと?」

 

 

「お前ッ!!それを言ったら戦争だろうがぁッ!!!」

 

 

「年下の逆ギレ程めんどくさいものは無いっすねぇ〜…ほら、アンタ何歳でしたっけ?十五歳でしたよね?はい私の方が歳上偉い、私に従え」

 

 

「ガルルルルルルルル…!!!」

 

 

“二人共落ち着いて落ち着いて…”

 

 

「「先生は黙ってて下さい!」」

 

 

 

“クゥン…”

 

 

 

「そ・も・そ・も!!私を選ぶってセンス無さすぎるだろお前!なんでこんなクソみたいな人間を計画の一部に入れてるんだよ!」

 

 

「私が好き好んで誰かをちゃんと選んだと思ってます!?そもそもこの計画って、マジの希望的観測な奇跡の連続の上に成り立ってるもんなすけど!?」

 

 

「はぁぁぁ???なんで、クソッ……一回その計画の内容全部話してみろよ!!ここまで来るのに原作と違いすぎるんだけど!?来た瞬間に無名の司祭に洗脳されようとしてるわ、変な力持ってるわ、世界設定終わってるのなんなんだよ!」

 

 

「嫌でーーす!話したら『希望的観測過ぎるだろ』ってツッコまれるので嫌でーーーす!!特に無名の司祭辺りの干渉が賭け過ぎてアンタにボコボコにされちゃいまーーす」

 

 

「…一回、一回その司祭の奴、それだけ話してみて?」

 

 

「……」

 

 

「…………えっとっすね、以前の世界での出来事なんですけど…私の力に目つけたアイツらの干渉で、私の行動権潰されるじゃないっすか?この世界みたいにそれより前に『テラー化』はしてなかったんで、それが起きた時点で積みっす、私はそれを眺めて味わう事しか出来ない」

 

 

「うん」

 

 

「だから……ナグ・ハマディの福音計画始動後に、司祭が私に植え付ける精神が、司祭の精神汚染の干渉に耐えるものだと仮定して…そrーー」

 

 

「ストップ分かったもういい、その時点で何か変だなって計画してる途中で気付かないクソバカにそれ以上語られたらこっちまでバカになる、何から何までギャンブルじゃねぇかバカバカバカバカバカバカ」

 

 

「だから先生はアンタの選択が全ての始まりつったんでしょうが!バカ言うなバカって!それ以外はちゃんと皆の事信頼して計画作ったんですから!」

 

 

「知らんわバーーーーカ!!こんな手の凝った自殺みたいな道筋、何回私が絶望したと思ってんだ!!!」

 

 

「何回死にたいと思って!!何回も皆んなの事傷つけて!」

 

 

「それ、それで…!もう無理ってなった!苦しんで……嫌だって!!死にたいって何万回思ったと思う!?」

 

 

「…それは……」

 

 

「…ぐぞっ……涙が…今まで私は!!訳わか゛んないまま走って…!……あの子にお別れを告げれたけど、それでも…それ、でも、私は……苦しくて堪らない゛…アンタがどれだけ苦しんでこの道を選択したかは知らないけど、それ相応に同じ様な苦しみを味わったとは分かってる……でも、私にとっては……」

 

 

「私は、ずっと……間違えた選択を取って……ただそれだけの話だったのに、アンタが…意味を持たせてさ…」

 

 

「分かってる、分かってるよ……だから、ありがとう、そして絶対に許さない」

 

 

 

 

「だから、その顔一発殴らせろ゛…!」

 

 

 

 

「…ははっ、泣いてちゃ強がりにしか…いや、ずっと強がってましたもんね……良いっすよ、一発じゃなくて、何発でも、その強がりが終わるまで」

 

 

 

 

腕を捲り、拳を握り込む。

 

 

 

私の、私としての終わりに決着を……違う、こんな大層な名目は要らない。

 

 

 

ただ殴って、スッキリして終わりだ。

 

 

 

 

手加減も何もせず、ただ拳を振りかぶる。

 

 

 

 

「歯ぁ食いしばれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

漸く星に手が届いた。

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