「さて、先生…車止めて下さい」
“了解、先に歩いて行っておくね”
「ええ、先生の出る幕じゃないっすからね…流石先生、物分りが早い」
“行こうか、アロナ”
「はい、先生」
先生が急ブレーキを踏んで車を止める、車のドアを開けて一足先に降りていく。
“デミ”
「「はい」」
“どの選択をしても待ってるから、最後には……必ず、迎えるよ”
「「分かりました」」
それだけを告げて去っていく。
アロナに手を差し伸べてエスコートをし、車内に残るのは二人だけとなった。
「さて、私」
「なんだよ、私」
「
「………」
「今、私はハッピーエンドに指をかけている、この計画は99%が成功に収まって、全ての準備は完了し、あと少しで終わる」
「この世界そのものの存在意義を書き換える事で、この世界は廃棄口という役目を終え、他の世界すら巻き込んで『それでも』を求める世界へと螺旋を描きながら成長していく」
「個人が無限の可能性を持っている世界、元と同じ様な世界に変わるんすよ、誰かの失敗、どこかの
車を降りて、『彼女』の手を引いて外へと連れ去った。
星空ドライブデート、デートの次はきっと…告白が待っているから。
「…それは、いいことだね…それで、私に何がいいたいの?」
「99%って……貴方は言ったけれど…………最後の1%が私とでも…言いたいのかな、はは…」
「漸く口調を変えた……いや、元に戻したっすね、私」
ーー空に赤い染みが現れる。
唐突に現れた『赤』は、特別動きを見せることは無いが…。
風景にペチャッ……と、汚れの様に張り付いて離れない。星空が背景な事もあって雑な合成に感じる程に、違和感を持たせてくるものだ。
「…ここまでお疲れ様、よく頑張ったっすね」
「うん」
「本当に、ほんっとうによく頑張ったと思います、あと少しで終わるからお願いできるっすか?……最後に一つ質問があるんけど…」
「なにかな?」
「『過去の罪とは赦されるものなのか』」
「……」
「貴方の根源、オリジンそのものへの質問です、どうですか?」
「………」
「答えられないっすよね、当たり前っす…『その考え方自体』が貴方には無い」
空に現れた一抹の赤は消えない。
「貴方にとって■■■■は最後の心残り、後悔でしかない……勿論貴方の中では最も大切にしていた事でしょう、黒服の提案、世界を救う名目での自殺はあの子を殺してあげる為でもあった」
「貴方程欲深い人間は見た事がないっすよ、この世界の親友を救いながら、この世界を救済しながら……自分の欲望まで果たそうとする、こっちはこれでも情緒教育をキヴォトスの皆に受けまくって漸くこんな感じなんですから、貴方も少しは見習って欲しいんすけどね」
「冗談上手いね」
「はは…」
乾いた笑いを返すが、彼女の表情はピクリとも動かない。
「私の記憶と混濁しても一切揺るぎない自我を持つ精神、それが計画の初歩だってさっき言いましたよね?」
「うん」
「そもそも『人の記憶と混濁して自我を保つ存在』なんて、壊れてなきゃ無理っすよ」
「はは、そうだね」
目の前の少女に指を指す。
「ずっとだ、ずっと変わってない、ヒフミちゃん、ハスミ先輩、フウカちゃんやハルナに何を言われたか覚えてます?」
「覚えてるよ、でもそれは私に向けてじゃないし、私が受け取るものでも無い、貴方のものだから」
「……変わらないっすねぇ、私のものだって理解しときながらあれだけ泣いて、苦しんでたんすか」
「見てたんだ」
「…はぁ、貴方の脳内は、優しい地獄だ、ひとつの地獄が渦巻いている」
自分を永遠と閉じ込め、死ぬまで、死んでも離さない牢獄。
「それを隠して、よくここまで
「慰めてくれてありがと、デミちゃん、でも先生にはバレてたけどね、『誰だって抱く思い』だって」
「だからこそ退場して貰ったんすよ、あの人はきっとこの場に居てもどちらにも力を貸さない、『最後』を飾る人ですからね、今この舞台には私達しかいない」
黒服は目の前の少女を『蓋』と称した。それは正解でもあり不正解。
彼女が羽音デミの蓋であるだけじゃない、羽音デミも彼女の蓋でもあったのだから。
私としての記憶、私としての要素が抜け落ちた彼女は……。
深い『虚無』に浸かっている。
それは深刻な病、どんな医者でもお手上げの病。不治の病であり、苦しみであり、温かさだ。
誰も彼もが抱えるその病に彼女は犯されすぎた、私という蓋が無くなった今、強がりでしか隠せていなかった姿を見せている。
「自分の名前、覚えてます?」
「忘れちゃった」
「殺した相手の名前は?」
「忘れちゃった」
「……過去の罪は消えない、それについては?」
「同意するよ」
ーー赤色が広がり、空を塗り替える。
侵食という言葉が生易しい位、一瞬で切り替わったと見える程に。
「やっぱり貴方は最後の1%っす…!貴方は自分自身のハッピーエンド、そして奇跡の始発点へと加わる事を拒絶している、だからこそ、それを罰として強がって我慢して受け入れて…このまま『この先』へ行こうとしていた」
瓦礫と血、そして炎と死体の山。
その上のボロボロな木で出来た椅子に、彼女は座った。
「それを受け入れる事こそ貴方にとっての苦しみだったとは……難しいっすね、人って」
「そうね、難しいんだ、人って」
「……決めた」
私は殴って解決しない事は苦手だ、さっきこの子が言ってた事だけど、アレは私の言葉で、模倣してただけみたい。
「私は貴方を救う」
「そこに意味が無くても、結末を辿れば全て無意味でいつか消え去る命だとしても…」
それらは全て『だからこそ』…
全てはいつか、結末を迎える。私も、彼女も。
結末は変えられない、どんなハッピーエンドもバットエンドも、等しく最後の結末として、【エンディング】に足を踏み入れる。
…でも。
結末は変えられない、でも私達は、毎日を選択出来る。
結末は変えられない、でも変えられることもある。
結末は変えられない、でも私は明日、モモフレンズを買いにいける。
『どうして、私達はモモフレンズを買うのか』
それは、モモフレンズを買う為である。
「ここで、変わることもある」
この空に広がる無数の星の様に。
「救いが苦痛?なら神様にでも祈っとけ!神様は私だけどな!!」
「…変わってない……ずっと、皆んなが見てきた『羽音デミ』と変わらず無茶ばっかの…………早く先生の所行った方がいいよ、巻き込まれるから」
「はぁ……そんな救われたくもない罪人に神様からお告げがありま〜す!耳かっぽじって良く聞けよ?」
肺に肉体の限界まで息を貯めて、吐き出す。
「私は!貴方の事大好きだよ!!だから勝手に救わせてもらうぜ!」
「ヒフミちゃんにハスミ先輩、キヴォトスの皆から背負わせてもらったからな!!私は『正義実現委員会』だッ!お縄につきやがれ!!」
「……」
「本当に…」
「変わらないね」
全く同じ銃、同じ服、同じ顔を向け合う。
違うのは髪色と……『
彼女の背中には、先生しかいない。
「私の名前は羽音デミ!」
「正義実現委員会二年生、好きな物は正実のみんなとヒフミちゃんと、ラーメンとカフェと、後色々と!嫌いなものは綺麗じゃないやつ!」
「私なりの『正義』、貫き通させてもらうッ!!!」
「……私の…名前は、無い」
「名無しの生徒、先生に縋る、ただの
「それだけしか無い、私にはもう何も無い、先生以外はね、それと後悔もやり残した事も貴方が全てを見てきたなら……今まで皆んなが私に必死に伝えてくれた事、知ってるはずだから…ちゃんと、歩いて行って…」
「持って帰って」
そうしたら、最後に私は……
「おやすみなさい」
夢を見るんだ。