ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

13 / 119
後編のつもり……でしたけど、後ちょっと延びます…!


いずれ辺獄へと至る道

 

 

 

[な……何なんですか一体!?何が、何が起きてるんです!?]

 

 

イオリの手によって一度は伏した相手、トリニティ正義実現委員会所属の羽音デミ。彼女の噂は知っている…曰く新しいトリニティの戦術兵器、剣先ツルギと羽音デミは人としての対応を許されない。別称“鬼神”

 

「うわぁぁぁ!?!」「や、やべで」「痛い……痛いよ…!」

 

[アコ行政官!追加戦力の第一大隊……半壊!包囲網に割かれていた中隊、全滅…致しました!!!]

 

一瞬だ、一瞬瞬きによって目を離した間に彼女の姿は掻き消え、遅れて轟音が鳴り響き渡っている。

 

[そんな馬鹿な……!?述べ七百五十人の大隊ですよ!?イオリ!今鬼神は何処に…]

 

先程まで傍に居て指示を聞いていたイオリがいない……!射撃を指示したのは私だが、発砲したのは彼女…報復されない訳が無い!

 

[イオリ?イオリは何処へ…?]

 

たった1秒、その一瞬で手持ちの全ての兵力が秒読みで崩れていく。

 

「アコ…行政官……!ここにイオリは居ますよ」

 

私の叫びにチナツが答える、彼女も額から血を流していたし、ドローン越しではあるが口から大量の血を流しているイオリが見えた。

 

[チ、チナツ!……チナツ!!!イ、イオリは無事ですか!?]

 

「腹部への強い衝撃で内臓にダメージが……気絶していますが直接的に命には別状ありません、しかし…ひとまずの応急処置です、病院に運ばなければ」

 

[な、何故こんな事に…鬼神…私は読み間違えましたか、これほどの戦力だとは……!これでは条約締結への不安要素を増やしただけに…」

 

ブツブツと己の失態を呟く、平常の状態では無いのは分かっていたが、特段身体能力に異常は無かった事。噂程度に惑わされて戦力の計測を見誤った事。

 

[くぅっ…!仕方ありません!撤退!撤退指示です!今動けるものは全力で引き上げなさい!」

 

今の残存兵力では到底便利屋どころか、アビドスの面々にも勝てやしない。そう判断し指令を飛ばす。

 

 

 

 

「お前」

 

 

 

[は?]

 

 

辺りを見渡して指令を出し終えた後、正面を見ると“羽音デミ”が居た。

 

 

 

「あぁ……そうだ」「そうだった、お前だったよな」「まずはお前からでいっか」

 

 

「そっちに行く」

 

 

 

バチュン……

 

 

 

 

ドローンが…壊された。あの虚ろな目でさっき呟かれた言葉を口に出す。

 

「は?え、そっちに行くって」

 

執務室でさっきの言葉を噛み締める、そっち?まさかここに?馬鹿なそんなゲヘナ学園そのものに喧嘩をトリニティの生徒が仕掛けれる訳が…

 

「…!あ!げ、現在羽音デミは、『シャーレ』部員……認められているのは……他の自治区での制限無しの戦闘活動!!!」

 

不味い…不味い不味い!!いや、大丈夫だ!不安がる事は無い、戦闘区域からここまでの距離は今から電車で向かってきたとしても二時間程度かかる!

 

 

『緊急放送です!!正体不明の突風がアビドス区域から発生!爆発的な勢いを保ったままゲヘナ学園方向へ!このままだと数分でゲヘナ学園中央区まで衝突しようとしています!!』

 

 

テレビからそんなニュースが流れてきて私は椅子から転がり落ちてしまう。

 

 

「ま、まだ!彼女はあくまでシャーレの部員、シャーレの先生…に連絡して…先……生…。」

 

「あ、ああああ!!」

 

そうだった!私のせいで今、彼は気絶している!ヤバイ…ヤバイヤバイ!

 

自分自身の策が全て自分を蝕む罠となって逃がさない。

 

「い、嫌…嫌!し、死にたくない…!」

 

このキヴォトスでどのような生徒でも殺人が起こった事例は無い、ましてや相手は正実…そんなふうに冷静に考える頭と違って口から出てくる言葉は恐怖に染まって身体の震えが治まらない。

 

彼女の……羽音デミの目だ!あの目…私の事を本当にモノだと見ている……命あるものに向けれる筈がない無機質な目!

 

「怖い…怖い!!!助けて…!」

 

執務室の隅っこで蹲ってしまう、こんなはずじゃ…と何度も呟き、委員長を……ヒナ委員長を頭に思い浮かべながら…。

 

『速報!!先程までゲヘナ学園に向かっていた突風が一時停止しました!というより…?先程の突風は自然現象では無かった様です!?あれは…トリニティ学園の鬼神、羽音デミ!?更に相対しているのはゲヘナ学園の風紀委員長です!ヒナ風紀委員長が…………』

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

■アビドス ゲヘナ区域 境界線

 

 

 

 

「チナツと先生から連絡があって用事を終わらせて来てみれば……」

 

 

瓦礫の山を背にゲヘナの風紀委員長(最強)が『終幕:デストロイヤー』を構える。

 

 

「一体どういう了見かしら?トリニティの鬼神」

 

 

「…あまねく奇跡の始発点か」

 

 

「……?何を…?」

 

 

「なるほど…私は、私が生きる意味は…先生(救世主)にとっての辺獄ってことか」

 

 

「ハハハ……ハハハハハハ!あはは…………アハハハハハ!!リセット装置か!なるほど!!そういう事だっのか!だから…だから!!あの光景だったってことか!!!!」

 

 

「……正気を失っているようね、制圧させて…もらうわ!」

 

デストロイヤーからの一斉射撃、ヒナの通常攻撃にして辺り一辺を更地に変化させる破壊の嵐……

 

「っ!前に…!?」

 

弾丸の一発一発が建物を崩壊させる威力だというのに、目の前の敵は一歩一歩、まるで何も障害は無いとでも言うように軽快に歩いてくる。

 

効いていない……訳では無い、むしろ普段より効きが良い。彼女の身体には風穴が空いて……?いや、凄まじい火力とはいえそのようになるほどの攻撃では無いはず。

 

(違和感…)

 

風穴が空き、血塗れになりながら進んでいる彼女を良く観察する。この弾丸の嵐、全てが致命傷の筈……再生しているのか?

 

近づいてきた彼女が前蹴りを放ってきた。

 

(…っ!とんでもない速度!ガードを…)

 

頭によぎる違和感、それは彼女の一命を取り留める結果となる

 

(いや!避け……)

 

「っ!ぁぁぁ!!」

 

身体を捻り、顔に迫る足をギリッギリで回避した。と、同時に背後の建物が蹴りの風圧でバラバラに破壊される。

 

 

(……なるほど、先生が私を頼る訳ね)

 

頬に一筋赤い線が走り、血が流れる。脚には当たっていない筈だ……つまり、あの速度で放たれた事による衝撃波か。

 

それならば、それを行った相手方も無事では済まない筈……顔の横にある足に目を向けると、原型が分からない程にぐちゃぐちゃに砕けていたが…。

 

「……ハハハ…凄いねヒナちゃん……ぅ…ォゲッ」

 

色彩より君の方が怖いね、そう訳の分からない軽口を叩く彼女の足は異音を立てながら元に戻っている。口からは混ざりすぎて何が何だか分からない赤色の塊が吐き出される。

 

「あはは、気持ち悪いでしょ?」

 

「……」

 

「私は弱いし脆いからね…見苦しくてごめんね?」

 

肩にかけてあるデストロイヤーを背中に掛ける、先生から依頼されたのは“先生が到着するまでの時間稼ぎ”

 

銃撃での足止めは効果が薄い、ならば徒手空拳によってなるべくゲヘナ学園から離し、先生への元に近づきながらやるしかない。

 

彼女に向けて手招きをする。

 

「…いくよ?」

 

「ええ、来なさい」

 

基本的に彼女の膂力を受け止めれはしないが、戦闘技術に関すれば私の方が二手前を行く。

 

握り締めらた大振りの拳が飛んでくる。スピードはさっきので目が慣れた…一度しっかりと避けてから腕を完全にキメる。

 

「動くと…!?」

 

折れる、そう忠告する前に組んであった腕から重みが抜ける。

 

 

(…!?切り離し…)

 

 

思考する前に脇腹に横蹴りが突き刺さった。

 

 

 

ドゴォオオオオォオオン……!!

 

 

 

 

 

「……貴方本当に……人間?」

 

 

「こっちこそ聞きたいね……結構手応えが…ッッッ!ヶ゛ポッ……」

 

 

失われた片腕さえも再生していく異様な姿、自身の手に負えるものでは無い…化け物だと、一生徒から認識を改める。

 

「ハァッ…!フッ…フゥ……貴方は勝てないよ……ヒナちゃん」

 

痛む脇腹、骨が数本折れただろうか?加えて内臓にも多少傷がついた、長期戦は不利になる一方だと予測する。

 

「はぁ…そうね…私じゃ勝てないかも……ね」

 

一体どれくらいの時間を稼げばいいのかは分からないが、私は、私の役目を全うするだけで良い。

 

(先生……終わったら…褒めてくれるかな…)

 

店に突っ込んだ衝撃で頭も軽く切ったようで、視界に血が紛れ込んできた。

 

「……」

 

「……」

 

互いの目を見合い、空崎ヒナは『終幕:デストロイヤー』を構える。対する羽音デミは……ハンドガンを構えた。

 

 

 

「『辺獄(リンボ)』。今決めた私の銃の名前」

 

 

 

お互いの銃口が光り……

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

■

 

 

“ごめんね背負わせちゃって”

 

「先生は今怪我人なんだからさぁ〜もっと生徒を頼っていいんだよ〜?』

 

あの場に遅れて到着した先生と、更に遅れて到着したホシノは現場に残っていたメンバーから話を聞いて、戦闘を始めたデミとヒナの元へと向かっていた。

 

『急に飛んできたあいつが全部薙ぎ払っちゃったわ……それに…随分と錯乱してたみたいだし』

 

『ん、助かったとはいえ様子がおかしすぎた、先生…助けられる?』

 

 

現在先生はホシノに背負われる形で爆走しているが、ホシノがしっかりと支えてくれているため両手が自由だ。

 

既にアロナに頼んで周辺の機器のハッキングで二人の位置を特定し続けている。

 

“助けられる…か……はぁ、ダメだな私は…即答出来ないなんて”

 

「そんなに自分を追い詰めなくていいんじゃない〜?あの子って結構複雑な事情があるんでしょー?」

 

“……正直に言うとね、分からないんだ。私の考えている以上の……何かとしか言えないものを抱えているんだろうね”

 

“今まで私は…理解を重ねた上で生徒を導いてきた、けれど彼女に対しては常に暗雲に手を突っ込む様で……不安なんだ”

 

「ん〜つまり先生は、ただ単にデミちゃんとの接し方が分かんないって事か、先生も案外おじさんと同じ様な悩みを持ってんだね」

 

“うん…そうだね…ハハハ、『あの時の』君と今の私は似ているかも”

 

「…おじさんには先生が何を言っているか良くわかんないけど……時々“私”は本当に先生の事が怖くなる時があるよ…」

 

“大丈夫…君の中で折り合いがつくその時まで待つよ”

 

苦虫を噛み潰したような顔になりながら苦言を呈すホシノだったが、こういう人だから仕方ないと思ってはいた。

 

“…!見えた…!”

 

「えぇ!?何処で戦ってるのあの二人!?」

 

目に入ったこの辺りでも一番高い高層ビル、そこの一部が爆発したり吹き飛んだりしている。二人の戦闘にビルの方が耐えられないのか今にも瓦礫になりそうな様子だ。

 

“ホシノ!行けるかい?”

 

「うへ、あそこに突っ込むだなんて…先生は本っ当に生徒が大切なんだねぇ」

 

“勿論!!”

 

「じゃあしっかり掴まっててよ!先生!!」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

■

 

 

(何分…経ったかしら)

 

 

意識が朦朧とする、手の痙攣が治まらない。熾烈を極めた戦いは感じることの無かった己の肉体の限界を告げる。

 

 

「ぅぅぁああああ!!!」

 

 

化け物所では無い、自身が相手してきた中で過去最強の敵は未だ健在。四肢を吹き飛ばした、目を潰し、百二階から五十二階まで叩きつけ、爆散させた事もある。そこまでして尚も健在…!

 

 

「……」

 

 

大振りで入った右ストレートが彼女の頭を吹き飛ばすが、その状態で突き出した腕を掴みカウンターを放ってくる。

 

 

「まだ……!まだ耐えれる…!」

 

 

ギリギリの回避、先程から素人の様な動きになった羽音デミの拳を躱した。

デストロイヤーの銃底を振り回しぶつけ、自身の腕を掴んでいる手を引き剥がして後ろに逃げる。

 

 

“………!!”

 

 

一筋の声が耳に入る。

 

 

「っ…な……に?」

 

 

今誰の声が?一体、誰の……

 

 

「……先生?」

 

 

空崎ヒナの言葉が発せられると共に彼女の拳が五十階の床を崩壊させる、このままでは降りた隙を突かれると感じたヒナは、逃げた先の張りガラスを砕き外へと飛び出した。

五十階からの落下でも私では致命傷にならない!

 

(先生…!先生の声だ!なら一旦退けば……!)

 

 

 

「ようやく思考が鈍ったね……」

 

 

 

ただし、相手は死を厭わない怪物。

 

飛び出した後方、後を追って全てを破壊しながら飛び降りた羽音デミの姿が見える。

 

 

(あ…まず…)

 

 

自由落下の速度に加え、彼女の踏みつけを喰らえば……死ぬ。数刻先の未来を予想した己を恨みたくなるほど、不可避の攻撃。

 

 

(死ぬ…の?)

 

 

諦めかけたその時、やはり……そんな時に救世主は駆けつける!!

 

 

 

桃色の髪と白衣が、横切る。

 

 

 

「うぉおおおお!!どっせい!!」

 

 

“うわぁぁぁあ!?そのまま階下にまで押し付けてぇぇぇぁああぁあ!?”

 

 

「……っ!!」

 

先生とホシノ、そしてデミが絡まりながら再びビルの中へと押し戻された。

 

 

“ヒナ!また後で!!世界で一番褒められたって位に褒めるから!!!”

 

 

(えぇ……また後で…)

 

 

先生の声が、私の身体を暖かく包んで強ばっていた身体が解け、力が抜けていく……今日の業務だとか、明日の業務だとか……全部万魔殿に押し付けよう……。

 

そんな事を考えながら、空中で意識を離した。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

■

 

 

“ありがとう、ホシノ…ここから先は私が、『先生』としての私の番だ”

 

 

「……頑張ってね、先生」

 

 

軽く会釈をして、向き合う。

 

 

“さあ…デミ、今度こそ話をしようか”

 

 

「い…きて……た、生きてたんすね…ご無事で何よりです」

 

 

“もう君に、見放されたくないからね……死んでも生き返るさ”

 

 

“この前の続きをしよう、デミ……私の事、振り解けるかい?”

 

 

「……狡いっすね、先生は」




次回………辺獄である存在証明


雑絵


【挿絵表示】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。