ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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議題:キヴォトスとは

 

「羽音…デミ…」

 

「ククッ……どうやら思い当たる節がある様で?」

 

羽音デミ、最初はシャーレの部員、先生に引っ付いて離れない子…噂には聞いていた自己を顧みない戦い方等、おおよそ想定の範囲内の子ではあった。

 

「……」

 

違和感、そう呼称するしかないものを彼女から感じたのは何時からだろう?いや、もしかして最初出会った時から抱いていたのかもしれない。

 

目……そうだ、目だ。抱え切れぬ程の孤独、溢れる程の友愛。信頼、友情……拒絶…殺意……一体幾つの矛盾した感情を持てばあんな風になるのか想像も付かない。

 

そして……。

 

「…もしかして黒服にも?」

 

「クックック…そうですね、一度彼女とは接触致しました。彼女が秘密裏にカイザーコーポレーションの軍事基地を破壊して回っていたのでね…」

 

「………えぇ、彼女はホシノさんが考えていらっしゃる対応をされましたよ」

 

あれは…ありとあらゆるものを博愛していた、まるで神が如く全て分け隔てなく…人が持ち得る視点では無かった。

 

「彼女は、私が想定していたものより遥かに多きな…このキヴォトス自体を揺るがす爆弾です」

 

「クックック…初めてですよ、襲撃され、襲い返した相手から「愛」といったものを感じたのは」

 

「随分と…クサイセリフを吐くね…まぁ彼女には自覚が無いみたいだけど」

 

悪意を、害意を、敵意を殺意を向けられて尚、それすらまるで『大切なもの』の様に扱う。善意も悪意も等しく扱う。

 

それは人でなく、獣でなく、神であるといえる。

 

一度、彼女がシャーレに自粛していた時だ…時間が余ったのでヘルメット団の時のお礼を言うと共に探りを入れてみようとしたのだ。

 

 

 

“あはは、先生とハスミ先輩には怒られるちゃったけど、こうやってお礼を言われると嬉しいっすね!”

 

“……デミちゃんはさ、なんでアビドスにそんな良くしてくれるの?先生の為?それとも…”

 

目と目が合った

 

“うん、ホシノちゃんは本当に頑張ってるよ、私じゃ無理だから私は信用しなくていい、代わりに私が信頼してる先生を信用して欲しいな”

 

 

 

あの目だ…まるで飼っている動物を見る様な、モノを見る様な…それでいて深い深い愛情を感じる目。

 

私はその時、上手く返事が出来ずに…そのまま流されるように帰った。

 

 

「やっぱり何かあるんだ、話す気は…ある?」

 

銃を傾け、そう問う。

 

「協力関係を結んで頂けたら……と、冗談です。銃をお仕舞いください」

 

両手を挙げヒラヒラと降参の意を示すと同時に、その黒く、亀裂が入った顔が思考の中に沈んでいったように見えた。

 

「えぇ…私の考える範疇で良ければ話しましょうか」

 

黒服が椅子から立ち上がり、湧き上がったポットを手にコーヒーを入れて戻ってきた。

 

コーヒーカップを差し出される。

 

「サービスが良いね、珍しい」

 

「クックック……これも信用稼ぎ、といった奴ですよ……砂糖はお幾つ程?」

 

「1つ」

 

ポチャン…と、液体に落ちる音が部屋に響いて消えていく…。まだ黒服の表情は……いや顔は無いが、その雰囲気は思考の底に沈んだ様な感じがする。

 

「…ホシノさん、貴方はこの世界…キヴォトスの事をどれだけ知っていますか?」

 

長い沈黙が遂に破られ、黒服からそんな言葉が届く。

 

「ふと、私は空を見上げました……本当に偶然、それも空想…妄想の類です。キヴォトスに浮かぶあの模様…ヘイローに類似してる…と」

 

「…は、何それ」

 

「突き動かされる様に私は、人手を使いキヴォトスのありとあらゆる古文書を読み漁りましたが……無かったのです…誰も、あの空に浮かぶ模様について述べたものが」

 

「一体何時からどんな風に、どうやって……一言もそれに対する記述は無いのにも関わらず、誰も不思議に思わないあの模様」

 

「…きっと私がいま言及できるのは、羽音デミのお陰かも知れませんね…あれはヘイローです、この世界は意思を持っていた」

 

突拍子が無さすぎるし、何故そこで羽音デミの名が出てくるのかも分からない。

 

「この世界の意思は大きく分けて二つ、『破滅』と『存続』……言うなれば『恐怖』と『神秘』です」

 

「貴方達に神秘を見出し、文言でしかない文章に力を持たせる…未来へ進みたいという肯定の意思」

 

黒服が指を一本立てる。

 

「破壊を、破滅を、自死を望み、それ相応の破滅を呼び寄せる…ホシノさんには言及出来ませんが、私は知っています。この世界の終末の意思を」

 

もう片方の手の指がまた一本上がり話し続ける。

 

「この二つのバランスは、どちらにも傾きうります…私の研究、『神秘』と『恐怖』の共生の果て…『混沌(カオス)』とでも言いましょうか」

 

「この世界は私が目指した果てだったんです、ありとあらゆる可能性を内包した『混沌』という」

 

「そしてこの世界は究極の演算装置でもある、楽園の証明…それを果たすまで永遠に回帰と滅亡を繰り返す…『全ての奇跡の終着点』を目指す箱舟」

 

いうなれば、神名十文字(デカグラマトン)に近いもの

 

「…妄想も大概にしろ!!第一それが羽音デミと一体何の関係が…!!」

 

「彼女は神です」

 

そう言われ、ついポカンとしてしまう。

 

「クックック…少し言葉が足りませんでしたね、彼女はこのキヴォトスの偽の救いの神…偽神とでも言っておきましょう」

 

「先生の様に、彼女はとあるものを救う使命を持っています」

 

「それは………もしかして……この世界?」

 

先程述べた虚言を信じるなら、この世界が望む『神秘』そのものであると……

 

「ククッ…おそらく…ですが。しかし、ホシノさんがお考えになっているものとはまた違います」

 

「彼女はこのキヴォトスに生きている者を救う存在でも無ければ、世界の『終末機構』でもない…更にその先……」

 

「『終幕』である……と」

 

頭が痛い、理解しきれない言葉の羅列に脳が茹で上がるようだ。

 

「『終末機構』自体、この世界の意思なのです、キヴォトスが滅んだとて『自死』には至らない。……過ぎた後も生き続けるこの世界の為に、救う為にこの世界を『終幕』させ、回帰へと繋げる」

 

「……それだと、私達に協力してくれた事と辻褄が合わない。その終末が来るまでじっとしていたらいいはず」

 

「それに関しては、彼女はそういう存在というだけで、その意思にも行動にも終幕には関係しない…純粋な善意でしょうね」

 

「…ッッ!」

 

絶句してしまう、まさか、そんな事実を背負ってるかもしれない少女の本質が、善性であるとは。

 

「じゃああの目は…あの子が抱いている感情は……」

 

「それについては測りかねます、しかし確実に『終幕』を背負った際に、何かを知ってしまったのかと」

 

「そして恐らく…彼女が現れた時点で、この世界の結末は決まっています」

 

「……じゃあ、なんだ?私の…ユメ先輩の今までは、そんな訳の分からないものに全て否定されるのか?全て無駄だと!!」

 

「……」

 

妄想の類でしかない、信じるに値しない虚言だという事は分かっている、なのに心から湧き出る恐怖は、それが真実だと告げる様に蝕んでくる。

 

「…………私がこの世界に対して思案出来た事、それ自体が『終幕』を肯定する証拠です。」

 

「先生と同じ様に彼女と接触した事で私は影響され、認知に関する制限が解放されたのでしょう…何故?何故何故何故何故?何故私はこの様な事を考える様になったのか?…クックック…本当にこの世界は興味が尽きない」

 

冷たい沈黙が心をどんどん冷やしていく、先程まで飲んでいたコーヒーも冷めてしまった。

 

「…ですが、一つだけ」

 

「先生がいます」

 

「は…!?先生…?」

 

「あらゆる存在の救世主、永劫たる輪廻を解放し終幕を否定する真のキヴォトスの救いの神です」

 

「……!」

 

ならば…協力関係というのは…

 

「ですが、あくまでもこれは私の妄想にすぎません、私は貴方を追い詰める悪い大人、貴方は先生を頼る生徒、それは何ら変わりありません」

 

「カイザーコーポレーションの協定もある事です、勘違いはなさらぬ様に」

 

「ならこっちも返事は断る、だ。お前を信じる事なんかもう無い」

 

「クックック…よろしい、暁のホルス、貴方の事はまだ見守っておきましょうか、それとお気をつけ下さい…『破滅』たる意思は常に先生を狙っています」

 

「帰る」

 

 

足早に扉を開けてオフィスから飛び出す。

 

 

「さようなら、願わくば私の妄想叶うことが無いように…と祈っておきましょうか……?クックック…先生とはいえ彼女からの信用を簡単に取られると妬けるものですね…」

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