「デミ!!!!」
居ても立ってもいられずに、今日の業務を全て放り出してシャーレを訪れてしまった。
「……ハスミ先輩!?ど、どうしてここに!?むぐぅ!」
「どうしてじゃ……ありません!!そこで、『どうして』なんて言葉が!出てしまうんですか貴方は!!」
(本当に馬鹿な子……!!自分を大切にしていないから向けられている気持ちも分からないのです…!)
「あ、あはは…ごめんなさい?」
「もうっ!私、貴方に言いましたよね?無茶はしないようにと、それがどうして…こんな風に……!」
「だ、大丈夫ですって……ほら怪我の一つも無いっすよ?」
また分かってない、何一つ分かっていない……。
「違います、怪我の問題ではありません」
「え、じゃあハスミ先輩はなんで……」
「本ッッッ当に怒らせたいようですね!?!」
己の存在に向けられている思いが、どれだけあるのか…有ることすら分かっていない、自分が軽すぎる……!!
「心配…!したんです!分かりませんか?心配!!したんですよ!!!」
「ごご、ごごごめんなさいっす!?」
「……そ…こ…は……!感謝の言葉を述べるものです…!!」
「あ、ありがとうございますっす!!」
何故貴方は日々の業務よりも自分が下なんですか?何故貴方は自分が倒れた話を聞かされて心配しない人が居ないと思っているんですか?
そんな疑問と罵倒が織り交じった言葉を吐き出しそうになって、飲み込む。
「……っ!はぁ……本当に身体に傷は無いようですね…デミ、貴方…何か隠していませんか?」
怒りに、募りに募った思いに流されて遂に踏み込んでいく。
「今の貴方は……見ていて、私の中の何かが締め付けられる様な感覚になるんです、貴方は一体何に苦しめられているのですか……?」
「……それは……うん、大丈夫っす、何もかも大丈夫なんすよ?ハスミ先輩」
まただ、いつもの様な軽口、以前も傷つき続ける彼女と喧嘩した事はある。その度、大丈夫と言いながら泣くのだ。分かりやすにも程がある…泣きながら大丈夫だなんて『大丈夫じゃない』と叫んでいるようなものなのに……
それを今は……感じない、泣かない……全てを仕舞いこんでいる様な違和感。
「……何が、何が大丈夫なのです?倒れて、そんな顔して……!」
「いや、もう本当に大丈夫なんすよ、人助けも精一杯頑張れて…その余韻っす」
分かってない理解していない、ならばそんな悲しい顔をするはずが無い、自分の状態すら理解していないのに大丈夫などと…!
「…やはり、許可するべきではありませんでしたね…デミ、今すぐ正実まで戻りますよ」
手元から離すべきでは、目を離すべきでは無かった。帰ったらツルギと相談してツルギと業務地帯と時間を被せよう、そうしたらイチカとマシロとも話し合って貴方から根掘り葉掘り聞けばいい。
「ま、待って下さい!!ま、まだ終わってないんす!まだ助ける…私が必要になる時があるんです!!」
「……」
「どうしても!どうしても助けたい人が居て……!」
「……」
「この通りっす!」
目の前で跪かれる、納得出来ない、このまま続けさせていいわけが無い。
「…助けたい人、というのは?」
「あ、えっと、アビドスの生徒達の事なんですけど……」
「貴方になんの関係が?貴方が傷つく理由になる訳……!」
「………それは……みんな、みんな不幸のどん底に落ちてしまうかもしれないからっす、一人は底無しの苦しみを既に味わって、それなのにまだ不幸になるかもしれないんです」
「私は、それを見過ごす訳にはいきません」
「……っ」
あぁ……ダメだ、許してはいけないのに、まだ私は彼女の『正義』に灼かれている。変わってしまったのかと思っていた貴方の『正義』は、未だ私を灼く太陽のように輝いている。
「……もう!!!分かりましたッ!本当に!本当に本当に次はありませんからね!!」
「ハイ!マジで肝に銘じるっす!すみませんでしたハスミ先輩!」
甘い毒だ、許しては、進ませてはいけないのに、それを救う手段を私は持っていないというのに歩ませ続ける。それは許されない罪だ。
「……私はこの後ツルギと少し話してきます」
「あっ、了解っす」
■
「……ハスミ…………」
「…何ですか、ツルギ」
「…………話せ」
…やはりツルギには敵わない、私が深い悩みを抱えている時ほど、彼女は私を支えてくれる。
「……最近の業務で、明らかに消費弾薬、負傷者……被害者数も増えてきました……理由は……」
「……」
理由は……
「デミが、居ないからです」
業務には差し支えないと啖呵を切ったのに、この有様でますます私の不甲斐なさと惨めさが増えたような…。
「…………あまり私情を混ぜるな」
分かっている、彼女程の戦力が抜けた業務はより消耗が大きくなるなど、当たり前の事なのだ。そのために活動範囲等を調整すれば良かったというのに。
「分かって……います、明日からは修正して活動を……」
いつの間にか、私も身の丈に合わない『救助』を行うようになっていた気がする、目の前で負傷者が、ヘルメット団による被害が出る度に感じる……『私ではなく、ここにあの子が居れば』と。太陽だったのだ、あの子は。
とある日、ヘルメット団から救助したトリニティ学生からこう言われたのだ。
『どうしてもっと早く来れなかったの!?そのせいで……みんな怪我して、怯えて…攫われただけでも恐ろしかったのに!』
身勝手な言い分だ、私たち正義実現委員会の治安にも限界はある、ただそれは純粋たる事実でもあり…
『……噂の鬼神が居れば…』
そうポツリと呟いたのを聞いてしまった。
『私がいるからもうそれ以上は不幸にならない』
彼女の言葉は、私の心に絡みついて離れない。
「…………」
「きひっ……ひひひ……暴れるのは私の仕事だ、ハスミ」
それも見抜かれている、長年の付き合いを持つ彼女は私の思考を読んでくれている。不甲斐なさ、私自身を締め付ける……罪悪感を。身の丈に合わない所まで手を伸ばしても待っているのは破綻だ。
「ツルギ…ありがとうございます………彼女が戻ってきた時の業務時間を貴方と被せても良いですか?」
「きひひ!ヘへへへェ…!」
「分かりました、重ねて感謝を…ツルギ」
以前、『イカロスの翼』という本を読んだ事がある……コハルが読んでいたものだったが、自身の能力と父の翼に過信して太陽に近づきすぎてしまったイカロスは、その羽が溶け落ちて溺死……それは無謀と勇気の境界線であった。
私は今、無謀にも彼女の『何か』に近づきたくて堪らない、私に携わった全ての力、そして皆の協力があれば届くと、そう信じて。
■
〜羽音デミ夢遊病ゲヘナ抗争事件勃発後〜
「はぁ、もう!」
ガツガツとスイーツを口の中に放り投げてしまう、ダイエット決行五日目にして終了した日だった。一通りの折檻をして救護団のベッドで寝ていた彼女の姿を思い出す。帰ってきて一週間が経つが、未だ腹立たしい。
「ハ、ハスミ先輩…!ダメですよ!?せっかくの最高記録が…」
「構いません、コハル」
「えっと…わ、私もご一緒させていただきます!」
気づいてしまった、彼女もまたイカロスだったのだ…己の能力に過信し『
「……!あぁ………はぁ………」
もっと早く気づけば良かった、彼女の透き通るような心と強さに目を奪われて、それが『蝋の翼』であったと。
「美味しいですねコハル!!」
「ひゃ!ひゃい!」
ムカムカとイライラをスイーツにぶつけてしまうのはイケナイ事だが、これもそれもあの大バカ者が悪いので今は特に気にしていない。
ただ…嬉しくもある、今まで見えなかった暗闇が晴れた様に私の中の違和感は消え去った、ズレが合っただけなのだ…彼女と私が認識するものに。
バクバクとスイーツを平らげていると、携帯から着信音が鳴った。
「…!ティーパーティーからの着信…!」
急いで通話を受け取る。ナギサ様からだ。
《…こんにちは、羽川ハスミさん……用件はお分かりで?》
「はい、羽音デミの処遇についてですね、しかし彼女の活動はシャーレ下のものであり、トリニティに仇なすものでは……」
《いえ、それは理解しています……しかし、結果は結果…本来は一時的に一定期間の出席停止としたい所ですが……》
「っ!それはあまりにも…!」
《大丈夫ですよハスミさん、本来は、です。それを取り止めまして…彼女にはとある部活に入部してもらいます……補習授業部へと》
「補習授業部……?」
《ふふっ…シャーレの先生がやった事と同じですよ?一時的に強制的な編入を行える超法務機関シャーレ…その力をお借りするだけです……》
「………」
《…後、コハルさん…でしたか?》
「……?は、はい!私が何か…?」
「……っ!ナギサ様……」
《いえ、なに…ハスミさんもゲヘナを嫌ってらっしゃったので……羽音デミの活動に何かしら……思うところがあっては私も困ってしまいますのでね……?まぁまだ先の話です…安心して下さい》
「……わかり、ました」
《それでは》
ギリッ…と歯噛みしてしまう、ティーパーティー…来たるエデン条約への警戒心がこうやって事態として現れるとは…。
「……」
これ以上の迂闊な行動は避けなければいけない。
そう考える頭に驚きの情報が入り込んでくる。
「ハスミ先輩!!」
「おや、イチカ…どうしましたか?」
「デミが居なくなったっす!」
「……はい?」
■
「はい……そうですか…分かりました」
“ごめん、私じゃ引き止められなかった…”
「……大丈夫です、先生が止められなかったのなら誰にも出来ませんよ」
“…不甲斐ないばかりだ、既にヴァルキューレには捜索願いを出してる、私も努力させてもらうよ”
「…ありがとうございます、先生」
何が嫌だったのだろう?何が駄目だったのだろうか?理由は目の前にあった。
「……」
デミがいつも大切にしていたノート、それが泥水に塗れて捨てられていた。
「……………」
頭の中が沸騰する感覚に襲われる、せっかく…私の手を何処へ伸ばせばいいのか分かった所なのに、こんな…
「……」
「ハスミ」
「………ツルギ」
やはりツルギは優しくて…私の理解者だった、私が今したい事を…彼女は代わりにしようとしている、汚名を被ってまで。
「落ち着け、それは私の仕事だ」
「…はい」
任せていいのだろうか、私が振り上げようとした拳は止めてくれたが、私はどうすればいいのだろうか?…イジメはトリニティでは少しであるが散見される……今まで見逃してきた事も多い。
ツルギが武装して出ていった。
「……」
あの言葉が頭で反響する。
『…えっと、みんな酷い目や、嫌な目に合った時って…これ以上不幸にはなりたくない!…って思うじゃないですか?』
『そんな時、大体はそれ以上に不幸になる人ばっかなんす、誰も落ちていくのを止めてくれないから……そんな人を、少しでも減らしたくて、『私がいるからもうそれ以上は不幸にならない』って自信を持ってみんなを助ける人になりたいなって』
「……私もそういう風に…なりたかったんです」
「…………何故、貴方は……自分を『みんな』に入れられ……ないの…ですか…!!!」
また失望してしまう、自分の弱さに、何も出来ない私自身に。
「私では……貴方の『その人』に…なれないと………」
「そう…言うのですか…………デミ…」
(後日)
「…これが聞き出した結果だ」
「…こ…れは…」
ツルギに渡された供述文、読み進めていくほど吐き気がしていく。
ありとあらゆる暴行、精神的脅迫、恐喝…ヘルメット団に対して依頼まで…。極めつけは…
「何故!何故これが見逃されて…!!何故私は見逃して……!」
彼女の身体にナイフで文字を刻んだという、彼女はその様子をおくびにも出さなかった
「何故…?何故……!!」
ティーパーティーまで処遇に関して直談判しようと席を立つが
「ハスミ、もう処遇は決まった……既に罰は下っている」
「……っそれでも……!!っっっっ…!」
我慢しきれない、こうやってツルギが目の前に立っていてくれないと我を失ってしまいそうだ。
「…………」
ツルギが目を合わしてくる、慰めるように、落ち着かせるように。
「…っはぁっ…!!……ありがとう…ツルギ」
「いい」
そうだ、今私がしなくてはいけないのはデミの捜索、理解はしているのに振り上げた拳が私の心を殴り続けている。
報復を…復讐を求める心、下手人をこの手で同じ目に合わせたい気持ちが、溢れて止まらない、
席を立って早速業務活動の範囲をまず捜索しようとした時に、自分のバックに入ってあったチラシが目に入る。
「……この前の……ジャンボアイスのお店……」
『ハスミ先輩と一緒がいい〜!なんならみんなもハスミ先輩と一緒に行きたがるっすよ?』
『マジっすか!?やったーー!みんなも誘って……』
在りし過去の思い出……それが蘇ってきた。
「……っ……グスッ………何故…貴方は……頼ると…っ…そう言って…」
感情が入り交じりすぎて、涙を流している理由すら把握できずに喚いてしまう。
「……っはぁ…行きましょう、ツルギ…!…彼女が戻ってくると信じて……トリニティの治安は維持しなければ…」
「…あぁ……きひっ…キヘヘヘヘ…!」
私に出来るのは、彼女に手を伸ばす事ではなかった、彼女が居る場所になる事だったのだ。
そのためにも……
「待ってますからね…デミ…」
ハスミ視点の振り返りでした、ヒフミちゃんは本編でたくさん話すと思うので、次はカズサちゃんか、正義実現委員会③か、美食研究会&フウカちゃんです。誰にするかは未定!
デミ本人自体はイジメに関してなんも思ってませんね、まぁ妥当か、ぐらいの気持ちです。