sideフウカ
不思議な人だった
「あ、おはようございますデミさん」
「おはよ〜っす、いい匂いっすね…手作り弁当っすか?」
「はい、配給が終わった後に食べようかと」
「何から何まで本当に食事関連っすねぇ……食べることが好きなんすか?」
一年生の時に出会い(攫われてる途中に助けてもらった)それからは良く談笑する様になった。
トリニティ学生であるにも関わらず、通学路の最初に鉢合わせる彼女は、ゲヘナ学生である私を毛嫌いはしなかった。
「いや食べることというより……食べてもらえる人達が居る事が嬉しい…筈だったんですけどね…」
「…?何かあったんすか?」
「日々四千人前を作ったり…美食研究会に攫われたり……」
「あぁ……馬鹿共に振り回されてるんすね…お気の毒っす」
「本当……お昼ご飯も落ち着いて食べることも出来ませんよ、はぁ」
「……なら、お昼ご飯どっかで一緒に食べます?私が守ってあげるっす!」
「……え?あ、いやデミさんが良いのなら……」
「やった〜!フウカちゃんとは以前から一緒にご飯食べたかったんすよ!……こっちが一方的に友達と思ってたら恥ずかしくて堪らないし…」
本当に不思議な人、一般的な感性を……まぁ一応は持っている私からすれば、ゲヘナの争いに絡まれておきながら、こうやって言ってくれる事は驚きに値する事だった。
「あの馬鹿共三人組がまたフウカちゃんを付け狙ってたら言ってくださいっす!トリニティからでもすっ飛んでボコボコにしに行くんで!」
「…はい!ありがとう、デミさん!」
「ちゃん付けでも良いっすよ!」
「え、え〜と…デ、デミさ…ちゃん?」
「やっぱり無理して言うもんじゃないっすね!!デミさんで良いっす!!」
やっぱり不思議な人だ。
■
「…あ、デミさ〜ん!こっちです!」
話して決めた場所……トリニティとゲヘナを繋ぐ駅近くの広場で一緒に食べる事になった。
「うぇぇぇん…!フウカちゃん〜!」
彼女を呼んでみると、ぐずりながらやってきたので事情を聞いてみると…
「え!?お弁当もお財布も無くしちゃったんですか!?…駅で転んで…人混みの中に消えちゃった……そうなんですか……」
「せっがぐのふうがちゃんどのごばんが…」
…普通はお弁当と財布を無くした悲しみの方が大きいのでは?とかすかに思いつつ、そこまで楽しみに思っていてくれた事に喜びを感じる。
「財布はどうにもならないけど……お昼ご飯なら私が給食で作った余りがありますけど……食べます?」
「マジっすか!?食べる!食べます食べます!やっほい!棚からぼたもちっす!」
(そんなに喜びます…?)
「うっひょー!手作り頂くっす!うんまそ〜!!」
「デミさん!?顔が!顔がなんかスゴくグルメな顔になってますよ!?」
「フウカちゃんの手作り…この世の全ての食材に感謝して……」
「わー!わー!不味いですって!何が不味いか分からないけどスゴくヤバい感じがします!!」
「はっ、焦り過ぎたっす……ごめんなさいフウカちゃん…つい舞い上がり過ぎちゃって……落ち着いて食べたいのに悪いっすね」
「ははは……大丈夫ですよ、さぁ手を合して……」
「「いただきます」」
ゲヘナの騒がしさにはあんなにうんざりしていたのに、彼女と過ごす騒がしさは……とても楽しくて、いつもよりご飯が美味しく感じた。
「これは…!手作りミートボール…だと!?今や市販で売られまくっているミートボールを敢えて手作り…!?ハンパねぇ…!!……ソースまで手作りだとぉ!!?!?」
「な、なんだ!?この卵焼き……わずかだが出汁の風味を感じる…!!混ぜてある………白ダシ!!そしてシャキシャキのネギ!!簡素でありながら一工夫感じさせる一品だ…」
「おいし〜!全部美味しいっすね!フウカちゃんの料理!次は…このサバ味噌を……」
……一々グルメな顔になりながら解説しているのは、まぁ彼女も変わった人なんだと思った。
けれど、デミさんは私の努力や工夫を全部おいしいって言ってくれて……ゲヘナでは、ハルナ以外に言われてこなかった『自分の料理を肯定する言葉』に、私の心は温まっていったのだった。
■
「ふんふふんふふ〜ん……何作ろっかな〜」
あの後、定期的に私の手作りを食べさせて欲しいとまで言われてしまって…
『お金は払うんでお願いするっす!!』
断る気はさらさら無かったが、やっぱり不思議な人だった。ゲヘナ、それもトラブルに巻き込まれやすい私と好き好んで友達になってくれる人は少なかったから。
今日もゲヘナ学園全体の食事を用意しながら考える、彼女においしいと言って貰えるメニューを出したい…きっと何を出してもデミさんは『おいしいっす!!』と返してくれるのだろうが。
「ふふ、美味しく作れたかな〜?」
今日はカレーだ、数日煮込む方が美味しくはあるが、私お手製の調理方法で時短をしている為、味は最高潮に達している自信はある。
デミさんとお昼の会を開いて…既に二ヶ月、いつの間にか私の料理の腕もメキメキと上達していた。
「…随分と美味しそうな匂いですね……?」
「そうね、頑張って作った……ハルナ!?」
「こんにちは、フウカさん」
「何、また連れ回しに……」
「いえ、今はただ単に美味しそうな匂いに釣られて…そのカレー頂けます?」
「あぁ、なんだ…はいはい、今取り分けますよ」
ただの客としての彼女なら何も心配する必要は無い……多分…味覚感覚が色々駄目なイズミや、今ある鍋のカレー全てを食べ切りそうなアカリも居ない事だし。
「…いただきます…………」
「どう?」
「…美味しいです、とっても…以前に比べて更に美味しくなっています、単に味だけじゃない、フウカさんの優しい気持ちが沢山籠った素晴らしい料理です」
「ははは…カレーだけでそんな」
「いえ、純粋な想いですよ、フウカさん…貴方はやはり究極の味に近い様ですね……『美食』、その道が何か掴めた気がします」
「そ、そう…ありがとうございます…?」
ハルナもまた不思議な人だった、というより基本的に食について話すとイカれてはいるが、清純な『食』に対する姿勢は…私も聞いてて思わず感心してしまうほどだ。
「……残るは環境ですね」
ハルナの目がギラつき、今食堂の真ん中で争いが起こっている場所に向けて発砲する。
「……お静かに」
「「「は、はい!!」」」
本当に『食』に対しては真摯なのだ、その真摯さがあらゆる方向へ向くだけで……私にも少しは真摯さを見せて欲しいのだが…。
「それにしても…優しい気持ちかぁ……」
思い浮かべるはデミさんの事、そっか…人に美味しいって言われながら食べて貰えるのって、こんなにも嬉しいのか…。ずっとずっと、ここ最近は目の前でそう言って貰えたから、ハルナに言われるまで自分の料理の上達具合もあまり考えた事が無かった。
当たり前だが、この環境で忘れかけていた事、『おいしい』って、『感謝』と『楽しさ』と『喜び』を分かち合える言葉だったんだ。
「ふふっ…次は何を作って持っていこうかな〜?」
今カレーを作ったばかりなのに、既に次の会の事を考えている、まるで給食作りに似た考え方…けれど全く別物の気持ちが湧いてきて…………そんな私は、喜びが身体に満ちていた。
■
とある日
「お前、愛清フウカだな?」
「え?あ、はいそうですけど」
「…やれ」
「キャッ、ちょ、何…!」
私は連れ去られた事がある。
「ムーッ!ムーッ!」
「よし、羽音デミに対する交渉材料………普段から仲良かったよな?お前ら、ゲヘナとトリニティの癖して」
「…!」
普段、美食研究会の三人組に連れ去られるとは訳の違う…確かな悪意を持った誘拐は、私の心に恐怖を植え付けるには十分だった。
「馬鹿だよな〜!あいつも、トリニティに通ってる癖してゲヘナと仲良しこよしなんて、利用されるに決まってるだろ!」
「マジアタマ足りて無いわ、ハハハハ!」
「そもそもトリニティの正実がゲヘナと絡んでるっつーのは大体何か裏があんだよ、フウカ…だっけ、お前もお前で馬鹿だわ〜」
ただ、その恐怖も怒りによって直ぐに打ち消された。
今、馬鹿だと言ったか?私と、デミちゃんの事を。
『やっぱり工夫が凝ってて、フウカちゃんらしい優しくて繊細な料理っすね!』
『これを食べれる事に感謝してない馬鹿共…あ、美食の奴らじゃないっすよ?ゲヘナの食堂を利用してる奴らっす、感謝してないヤツら全員フウカちゃんの目の前で『美味しかったです、ありがとうございました』まで言わせてやるっすよ!』
『本当に美味しいっす!!私、フウカちゃんの料理を食べれて幸せですよ!』
あの言葉達に卑しい裏があると?何も知らないお前らが、そんな言葉を吐いて言い訳ない、怒りで頭が割れてしまうほどイライラする。
「ムーッ!ムーッ!!!」
「あん?何暴れてんだよ、おい誰かこいつ眠らしとけ」
キレたいのは此方だ、私の料理を食べたことも無い、『おいしい』って気持ちを伝えた事も無いような奴らに馬鹿にされて……。
せめて、せめて食べてから馬鹿だのなんだの言え!!!
怒りで涙目になりキレた瞬間、私を積んで走っていた車に大穴が空いた
「ムーッ〜!?」
「「「えぇぇぇ!!??!!」」」
「……お前ら」
現れたのは…デミちゃんだった。
「お前ら、泣かせたな?フウカちゃんを……」
「は、はぁ!?それがどうした?馬鹿なお前らに現実を……ブゲェッ!!」
「黙れ」
デミちゃんがヘルメット団を殴り飛ばしてくれた……とても怒った顔をして、まるで私の怒りを代弁するかのように吹き飛ばしてくれるものだから、心がスッキリとして喜びに満ち溢れる寸前だった。
「大丈夫っすか、フウカちゃん」
「んっ〜プハァ……ありがとう…!デミさん、助けに来てくれたんですか…?ここゲヘナですよ?」
「おバカ、フウカちゃんが危険な目に合ってるって聞いて来ない友人が何処にいるんすか」
嬉しい、顔の微笑みが止まらない。
「…?あ、でも…どうやって私が危険な目に合ってるって?」
そういえばそうだった、どうやって気づいたんだろう?
「三馬鹿…いや、ハルナ…アカリ…イズミのおかげっす、どうやらフウカちゃんを狙っていた所、先に攫う輩が居たと」
(攫うつもりではあったんだ…)
「言ったじゃないっすか、守るって…でも…フウカちゃん……ごめんなさい」
「私が…私がフウカちゃんに絡んじゃったから、フウカちゃんが私の事で危ない目に……合わせる顔が無いっす、今直ぐ自分の顔面殴りたい……」
「もう…フウカちゃんとは、お昼一緒に食べてはいけないんじゃないかって、せっかく安心して…楽しく食べれる時間だったのに」
落ち込む彼女を遮るように、言葉を紡ぐ。
「大丈夫、私は大丈夫ですよデミさん……逆にコイツらに言われて気が付きました……私、デミさんと食べるお昼ご飯がとっても、とってもとっても大切なんだ……って!」
「……フウカちゃん…!」
「だから…これからも一緒にお昼ご飯、食べませんか?」
『おいしい』は『感謝』と『楽しさ』と『喜び』を分かち合える言葉、なら『食』って?『食』とはなんなのか…?
私なりの答えだが、『食』とは想いの繋がりなんだと思う。『ありがとう』『おいしかった』『いただきます』『ごちそうさま』……沢山の気持ちの分かち合いの上に『食』は成り立っている、一人では満たしきれない『想い』の分かち合い、それが私にとっての『食』、または『食事』だったのだ。
「ぅう゛〜…ありがとうっす!これからも一緒に食べましょう!作ってるのフウカちゃんっすけど!!」
それでもやっぱりどこか不思議な人だった、愉快で、元気で…幸せな顔をしている人、それがデミちゃん。
「フウカさん!良かったご無事で…」
「ハルナ…!ありがとう、その…助けてくれて」
「例には及びません、さて…この下手人の身柄は私が預からせてもらいます、良いですか?デミさん」
「手温くやっちっちゃ、ダメっすよ?」
「分かっています、スコヴィル値1000万級の処罰、期待していて下さい」
「了解っす、後…フウカちゃんの事教えてくれて……ありがとう……ん、ん〜なんだか癪に障るっすね、私もう帰るっす」
「あら……うふふ、どういたしまして、デミさん」
「うがーー!!腹立つー!!」
二人がわちゃわちゃしているのを見ると、普段の治乱が嘘のように……
「まぁ恥ずかしがって」
「…あはは、あんまし巫山戯た事言わないで欲しいな〜?」
「うふふ、純然たる事実ですよ?」
……いや、目が笑っていない、怖い……。
■
そして……
二年次になって、三馬鹿が四馬鹿になったり、後輩としてジュリが入ってきてくれたりと、新学期は色々あって彼女とはまだ会えていなかった。
私が四馬鹿に攫われて、それを助けて貰って新学期初めて出会ったが……
「……」
何だか…雰囲気が変わっていた、髪の色も変化し本人はイメチェン失敗だと言っていたが……どうしても心に残っていた。
そして…
「…わから……ないけど……」
感じなかった、彼女との食事、その時に感じる『食』を。
「……本当に…大丈夫…なのかな」
私の心にはしこりが産まれた、いつも楽しかった給食作りが、今は鉛を付けた様に鍋をかき混ぜる手が重かった。
「先生に相談…してみよっかな」
最近訪れてきてくれる様になったシャーレの先生、あの人もまた、デミちゃんと同じ様な人だった、私の料理をあんなに喜んで……。
「……」
考えすぎだろうか…?
「そんな事、ないか」
デミちゃんは私の友人、それだけで私が頑張る理由になっていた。
「よし!今日も張り切って作った後は…先生に相談して…」
「フウカさん」
「キャァ…!?ってハルナ、ビックリさせないでよ」
「…私が驚かせたというより、フウカさんが深く何かについて考えてなさった様なのでお声がけした所ですが…」
「え!?あれ、そうだったのね…」
いつの間にか、振り切ったつもりが周りが見えていなかった。
「デミさんの事ですね」
「……!なんで分かって……いや、ハルナも私とデミさんと付き合いはもう一年経つか…」
ならば私の違和感も、彼女も抱いているはず。
「えぇ、腹立たしい事に、彼女との食事が…美味しくありませんでしたので、すぐ分かりました…何かあると……彼女から感じていた『美味』を、穢されていたので」
「じゃあハルナも先生に相談しに行く?」
「えぇ、先生のお力をお借りすれば、きっと何が彼女から『美味しく食べる』事を奪ったのか分かるはず」
食に一層真摯になったハルナの言葉は、彼女から『美味しく食べる』事を何かが奪ったという。
「…それで……」
心に残ったしこり、それを私は取り除く事ができるのだろうか…彼女を、また『おいしい』と言わせたい。
「よし!!気合い気合い!ハルナ、給食作るからまた後で!」
「えぇ…ではまた」
関係ない、一体何が彼女から『おいしい』を奪っているのかは知らないが、私の料理で思い出させてあげればいいのだ、何度も何度も、心の底から『おいしい』と言える料理を…!
「おいしくなぁれ、おいしくなぁれ……なんてね」
「聞こえてますよフウカさん、いい言葉ですね」
「……( 눈_눈)」
次回!『フウカwithハルナ!』美食研究会のみんなの出番は…未定!!書くの難しいよぉ…。