ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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まだ…まだ堪えろ…まだ平和なターンだ…という訳で今回も割と平和目。










ロウソクの火が消える時

 

結局何がしたいんだろう

 

世界を救いたい?皆の笑顔が見たい?……本当の所、全部捨てたかったんじゃないかなって思う時はある。

 

“うおおおおぉ!!どうだ!私のデッキブラシテクニックは!!”

 

「な、なんという身のこなし…!私はまだこちらのブロックをまだやり切れていないというのに……!終わり次第続けて速やかにそちらへ向かう」

 

「アズサちゃん……あんまり先生に乗っからなくてもいいんですよ…?」

 

“ははは!追いついてみなさい!ぶばぶぶっ!?”

 

「喰らえっす!握力を活かした水鉄砲!」

 

「あら……虹がかかりました!綺麗ですねコハルちゃん……そんなに離れていてはせっかくの綺麗な虹が見えないですよ?」

 

「うるさい!そんなバカみたいな事してる……ぅう…そもそも服装が過激過ぎ!」

 

こうやって、全てを忘れて日常の中に紛れていると、やっぱり死にたくなるんだ、逃げるなって声がまた聞こえてきて、ヒフミちゃんからの愛に答えなきゃって……。

 

日常に戻った瞬間に、私はまた元に戻ってしまったのだろうか?自己分析をするなら、思春期ってそんなもんだ!ってぐらいしか思いつかない、黒服との取引以来、ずっとふわふわした気持ちだ。

 

『後どれぐらい苦しみ続ければいいのか』

 

私の一つの本音だったもの、それのゴールが見えたお陰で最近はずっと楽しい、ふわふわふわふわ夢見心地の気分だ、先生の裸体も見れたし嬉しいことばかり。

 

「わっ!…っと、ありがとう、先生」

 

“大丈夫かい?アズサ…あんまり急ぎすぎても駄目だよ、怪我した分だけ私の寿命が縮んじゃうし……”

 

「それは困る」

 

寝ている時みたいだ、自分の事を考えようとすると何も思いつかないけど、周りの光景はまるで現実味が無い天国の様な場所。

幸せだ。

 

幸せな状況を幸せと言えない人間は居ない、『幸せな状況』なのだから。

 

「先生……そういえばその肩の古傷は?」

 

“ん?あぁ…これはね、ハナコ……昔階段で転んで裂けちゃったんだ……とほほ”

 

「……そうですか…」

 

“あ、見ててあんまり気分の良いものじゃなかったね……ちょっと待ってて上着を着てくるよ”

 

「私は平気っすよー」

 

「…すみません、別にそういう訳では無いのですが……お気遣いありがとうございます、先生」

 

“大丈夫だよ〜……というか、ハナコ…その服って…”

 

「うふふっ…先生、答え合わせは無粋ですよ…♡?」

 

(……いつか本当にヴァルキューレにでもぶち込まれそうっすね…)

 

 

最近は、みんなの事が愛おしくて堪らないのに、妙に現実感が無い。

口を動かしたつもりはないのに自然と言葉が出る、なんというか、『羽音デミ』を空から『私』が眺めているようで、泣きたくなる。幸せすぎて。私という存在が実寸大で馴染んでいるんだろう、きっと。

 

私は私の事がよく分かってないけど、絶対、絶対大丈夫だ。だって、みんな何も言ってないし、あれだけ私の事を分かってくれているヒフミちゃんも、先生も幸せそうな顔をして、私も幸せだ。先生は時々渋い顔をするけれど、多分先のエデン条約の事でも考えているんだろう。

 

 

それで…また一つ私は成長した事がある、合宿場に来る前に、一度自害してみたのだ、自分の頭を撃ち抜いて。

 

出てきたのは、ちゃんと血だった。赤い紅い血を見た瞬間に、背中に乗っていた重い重いものが途端に軽く感じて…『別に私が居なくても先生は大丈夫そうだし、私は幸せになろう!』なんて、今までスケールを世界と比較しちゃってたからか分からないけど、とってもシンプルに考える事も出来てきた。別にこれは私の人生なのだから楽しめばよくない?そんな図太い考えだ。

 

そうだ、羽音デミのお墓はちゃんと立てて、私が死ぬまでずっとお参りしよう、先生に頼めばその後もお参りしてくれる筈だし。

 

 

 

 

 

 

■夜 プール場

 

 

 

 

「綺麗……」

 

「結局、プールには入れませんでしたけど……」

 

「楽しかったっすね」

 

水が一面に張り巡らされたプールは、夜の街頭を反射し、この場所自体が人気の少ないのも相まって、六人しか居ないこの場は何か神秘的なものに包まれていた。皆、足だけをちゃぷちゃぷと浸からしている。

 

「実際に水を入れるとなると時間がかかるのを失念していました……ごめんなさい」

 

「いや、謝ることは無い、十分楽しかったᓀvᓂ」

 

「真夜中のプールなんて、なかなか見られませんし……」

 

“綺麗だね……”

 

雰囲気もそうだが、今この六人を包む、『六人だけの静寂』が皆に心地よい時間を与える。プール掃除も努力の甲斐あり、座っているプールサイドの隅々まで綺麗だ。清潔感も今の『良い感じ』に一味加えていて、清掃に懐疑的だったアズサとヒフミも、今では雰囲気に酔いしれている。

 

 

パシャッ…………パシャッ……

 

 

足で軽く水を弾く音だけが、響く。

 

 

「…………z」

 

「あら……コハルちゃんが…………」

 

ウトウトを超えて、絶賛デミにもたれ掛かりながらコハルが寝落ちしてしまった。皆起こさないようにゆっくりプールから上がっていく。

 

“頑張って掃除したからね……疲れたんだろう、背負えるかい?”

 

「任せろっす、可愛いでしょ?コハルちゃん……コラッ、ほっぺ触ろうとしない」

 

「朝から大掃除でしたからね……そろそろ帰って休みましょうか?でないと明日からの勉強に支障がでるかもしれません」

 

「そうですね、では今日はこれくらいで」

 

部屋に帰ろうとするみんなを見て、先生は一つ思い返した様に引き止める。

 

“…ごめん、背負ってって頼んだ所だけど…デミ、少し残れるかい?”

 

「ん?良いっすよ、よし、ハナコちゃん」

 

ゆっくりと背中に背負ったコハルをハナコに受け渡す。丁度お姫様抱っこの形となった。

 

「起こさないようにゆっくりお願いするっす」

 

「分かりました、うふふ…可愛らしいですね…」

 

「……ん…ぅ……」

 

「あはは……帰って私たちもゆっくりしましょうか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゃぷ……ちゃぷ………

 

 

また互いにプールに足だけつけてプールサイドに座っている。

 

 

「んで、どうしたんすか?先生」

 

“デミは、この補習授業部の正体は……うん、分かった…知ってるんだね”

 

「うげぇっ、だから顔だけで察するの止めて欲しいっす……まぁ知ってますけど」

 

“私に任せて”

 

「……任せました、聞きたいのはそれだけっすか?」

 

“まだ少しあってね、もう一ヶ月程度経ったけど、本当に大丈夫かい?”

 

「まーじで心配性っすねぇ……大丈夫っすよ」

 

“個人的には、『大丈夫』って言葉は呪いにもなるからね……何度だって、君の戦いが終わるその時まで言い続けるよ、何時までもね……”

 

「……はぁ、駄目っすよ?私なんかに時間使ってちゃ…もう本当に大丈夫なんですから」

 

“うん……実際今のデミからは、無理を感じないけど……”

 

“私が犯した罪は消えないからね”

 

「それを言うなら先生にやった首絞めでお互い様っす、今絞めてるのはお互いに自分のですけど」

 

“ははは、ブラックジョークの腕が上がったかい?”

 

「たはは!一本取られたって奴っすね!」

 

二人の笑い声が夜の静かなプールに吸い込まれていく。

 

“……………大丈夫って言葉はね、別に『今までの痛み』を消してる訳じゃないんだ、思い返せば未だ心を抉る痛みを、心が死んでしまうような傷も、『大丈夫』って言葉で消える訳じゃない”

 

“『大丈夫』は意思表示であると共に、自分の意志を隠すものでもあるからさ”

 

「……それは大人として私に?」

 

“先生としてかな、経験則だよ……だから私は君にしてはいけない事をしたと思っている”

 

「言わなきゃ分かんない事を、言っても分かんないだなんて駄々こねてた私が悪いんす、だから大丈夫なんすよ」

 

“あはは……まぁいつか君がそんな顔をせずにその言葉を言える様に頑張らさせてもらおうかな”

 

「何時になりますかね〜」

 

 

 

少し話した後はまたちゃぷちゃぷと、水が跳ねる音だけが響く。

 

 

 

「……」

 

“………”

 

「絶対まだ聞きたい事ありますよね?」

 

“…あはは、分かっちゃうか”

 

「はぁ〜先生こそ、こういう時は顔に出やすいっすよねぇ……なんすか?良いっすよ?」

 

 

先生の黒い瞳とデミの瞳が重なり合う程に、心の底から向き合う。

 

 

 

 

 

“隠してること、ある?”

 

 

 

 

「あります」

 

 

 

 

“……そっか、ありがとう”

 

「それ以上は良いんすか?」

 

“うん、私だって隠し事を知られるのは嫌だからね……【自分がされて嫌な事は人にするな】良く言われる事だよ”

 

「それだったら先生の隠し事も話したら平等になるんじゃないっすかね〜なんて、あはは」

 

“………聞くかい?”

 

「…………お互い、似た者同士っすよ、聞かせないでください」

 

 

 

何度も何度も静寂が訪れ、いつしか真夜中に近くなってきたのにも関わらずまだ二人はプール際に居た。

 

 

 

「あ、ちなみにヒフミちゃんとは?」

 

“もう聞いたよ、テスト終わりに話してくれた”

 

「そうっすか……ナギちゃんももうちょい頼る事覚えたら良いんすけどね」

 

“この前話してきたよ、エデン条約で頭を悩ませ過ぎてたからね……私としても生徒に政治を任せてるっていうのはどうかと思うけど……”

 

「そうっすよね〜ナギちゃんがあんな感じになっちゃうのも仕方ないって奴っす」

 

“………そうだ、ナギサにも聞いたんだけど…デミはさ、何かしたいこと……というより、自分が『どうしたい』っていうのはある?”

 

「…………」

 

“………”

 

「ん、まぁ……無いっすね、今幸せですし……強いて言うなら」

 

「お墓、立てたいっすね」

 

“……墓?一体誰の……”

 

「それを聞くのは無粋っすよ、まぁいつか先生にも世話をお願いしたいっす」

 

羽音デミ()が眠り、いつか(羽音デミ)が眠る場所を、作りたい。

 

「先生!デミちゃん!」

 

“おや……ハナコ、どうしたんだい?”

 

「どうしたもこうしたも……少し、と言ったのにこんな時間までお二人が戻らないから何かあったのかと…」

 

「あっ!?もうこんな時間っすか!?」

 

“え?うわぁしまったぁ……”

 

時刻は十二時半、明日の事を考えれば遅すぎる時間帯だ。

 

「早く帰って寝ましょうか、お二人とも」

 

「ふぁ〜い……ねむねむっす」

 

“ごめんね……生徒の模範であるべきなんだけど、やっぱりまだまだ未熟だね…”

 

「こらぁ〜すぐ卑下しない事っす、馬鹿ちん」

 

駄べりながら帰っていく三人、ただ……迎えに行ったハナコが、夜空の月の下、在りし日のデミの姿を幻視するほど、今の彼女からは憑き物が落ちているような気がしていた。ただし、向いている方向も太陽のような輝きは、未だ感じ取れなかったが。

 

 

 

 

 

 

■ 寝室

 

 

 

 

「…………」

 

未だ夢見心地だ、幸せで消えてしまいそうな儚さが身体を包む。思考がボヤけ、眠たさが脳を支配している。

 

黒服のお陰で、一歩一歩だが、私は死に近づいている。あの実験は実に有意義だった。

 

「…………」

 

ボヤけ続ける頭で、ちょっと考えた。

 

『消えた炎は消えた瞬間を炎自身さえ認識しない』

 

外から見た人間が初めて認識して、炎は消えた事になる。ならば、箱に覆われて、誰にも見えない状態の炎は、いつ自分が消えた事に気づくのだろうか?

 

 

いつ、私の心は、壊れているのかどうか、私は分かるのだろうか。

 

 

きっと、永遠に気づかない。

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