ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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閑話 『浦和ハナコと■■』

「デミちゃん!」

 

 

「こんばんはっすね、ハナコちゃん」

 

 

浦和ハナコ、一年生の夜。

 

 

「お昼の時はありがとうございました……」

 

 

「あはは、そんな他人行儀にしなくてもいいっすよ?業務の一環だったし」

 

 

私の友人。

 

 

「うん…!ありがとう、デミちゃん!」

 

 

「もう…可愛いっすねぇハナコちゃんは…」

 

 

「昨日紹介した本、読んでくれた…?」

 

 

「『カーマスートラ』っすね、うん…良い本なんすけど……エッチっすね」

 

 

「あら…♡神聖な本なのに…エッチって、何処がどうエッチなのか手取り足取り教えてくれる…?デミちゃん…♡」

 

 

「分かって言ってるっすよね!?……そ、その…あれって全部…////」

 

 

「そうですね、文字通りのエッチ、ですね♡」

 

 

「うがーー!堂々と猥談ふっかけてるんじゃねえっす!もうちょっとワビサビってものを………」

 

 

大切な、とっても大切な私の友達。

 

 

「聞いてもらえます?デミちゃん……最近…みんな私が高い点数取ったからって寄って集って分派に取り入れようとしてきて……政治には関わりたく無いのに……」

 

 

「はぁ……またアイツらっすか?マジでしょーもない事ばっかするっすねぇ……」

 

 

「本当、突き返したい本心が漏れ出そうです……」

 

 

「そもそもあんなに私性格悪いですよ!みたいな事して好かれると思ってんすかね??」

 

 

「は、あはは…!酷いね…ふふっ…!」

 

 

ただの陰口、ただの愚痴漏らし…ただそれだけの稚戯。

 

 

「今日の業務で、こんなもん押収したんすけど……ふっふっふ、見ちゃいます?」

 

 

「……?こ、これは……▓▓本!?」

 

 

「ハナコちゃんの好きな猥談……はッハァ!一歩踏み込んじゃいますかい…?」

 

 

「う、うん……」

 

 

趣味を共有したり、猥談を楽しんだり、剥き出しの私を見てくれている。幸せを、与えてくれる存在。私が、私だと叫べる瞬間。

 

 

「あ〜身体痛いなぁ……撫でてよ〜」

 

 

「また活動で無茶したんですね?もう!」

 

 

「そう言いながら撫でてくれるんだからぁ〜」

 

 

彼女も私に対して弱さを見してくれる、私の本心を向けている相手でいて欲しいという醜い欲望を受け止めてくれている。

本心とは、他者からは証明不可能なモノだ、幾ら本心を叫んだとしても……それには『今までの自分』が付きまとってしまう。

 

 

建前の、仮初の…社交的な自分。本心とは、自分が信じて話す言葉を、相手が『自分の信じる本心を話した時の反応を返してくれる』時に成立する歪なものなのだ。

 

 

つまり甘えている、剥き出しの私というのは、醜さの表れだ。

 

 

「ハナコちゃん、またそんな顔しちゃって……」

 

 

「…?そんな顔って…」

 

 

「『罪悪感』に包まれた顔っす、幸せだけど、苦しいよ〜!って言ってる顔」

 

 

…あぁ、そんな醜さが許される様に彼女は語りかけてくれる。

 

 

「自分を許さなきゃダメっすよ?別に私はハナコちゃんが幸せであることを否定しないっす」

 

 

「デミちゃん…」

 

 

「ハナコちゃんは賢いっすからね、考え込む事は多いいと思うけど……一人で出来ることは限られてるよ?」

 

 

彼女との時間は、まるで甘い夢の様だ、現実がこんなに幸せであるはずが無い……私はこの時間を夢だと思うくらいには、満たされ、赦されている。

 

 

彼女は、成績は良くないからと良く自分を卑下しているのだが…私にとって、『賢い』とされている自分が『分からない事』を教えてくれている。現実味の無さが加速する。まるで私と彼女だけは世界には見られていない空間に居るようだ……。

 

 

「また明日!バイバイハナコちゃん!」

 

 

「さようならデミちゃん!」

 

 

そうして、また現実に引き戻される。

 

 

 

 

 

 

 

 

幸せとは、無自覚に享受すべきだと思う。

 

 

幸せを自覚してしまうと、『望んだ幸せの形』以外を幸せだと思えなくなってしまう。

 

 

いつまでも変わらないものは無いのに、形を崩れるのを恐れ、それを不幸だと感じ、そこから離れられない。

 

 

『分かる』事は苦痛だ。『理解』してしまう事は嫌だ。

 

 

他人の傲慢さを卑下して、私は人より『分かる』など…傲慢さの極地にいるのにも関わらず棚に上げる。

 

 

心理とは考えれば考える程矛盾し、苦しみを産む筈だった。けれどその苦しみを彼女は共有し、思案する形で解決してくれた。

 

 

「ん〜そうっすね、考えれば考える程、現実って虚しいものなのかもしれないけど……」

 

 

「けど…?」

 

 

「自己肯定は、辞めちゃダメっす」

 

 

「……」

 

 

「自分が幸せでいいって、こんな自分でいいって……人から言われたり、見られたりして許されるんじゃなくて」

 

 

「ハナコちゃん自身が、許さなきゃダメ」

 

 

「私自身が……?」

 

 

「まぁ図太く生きろって事っすよ!ガハハ!」

 

 

そんなことを言われて、そういうのを自分で考え出さなきゃいけないのに……私はまた彼女に甘えてしまって、つい……。

 

 

『私は貴方が赦してくれたらそれでいい』

 

 

だなんて、考えてしまったり。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、ハナコさん」

 

 

「おはようございます」

 

 

朝が始まる。いつもの朝、いつもの現実。

 

 

「ハナコさん、昨日のお話ーーーー」

 

 

「ーーーーーーーーーー」「■■■■■■■■■」「$€々€<%<・:♪€」

 

 

次第に、皆が何を言っているのか聞こえなくなってしまった。

 

 

 

 

………。

 

 

 

 

 

 

……いつの間にか、夜になっていた。

 

 

「…………」

 

 

「……」

 

■■■■■■■■ーーーー■■ーーー■■■■■■■■■■■■■■。

 

 

■■■■……。

 

 

■■■■■■■。

 

 

ハナコちゃん。

 

 

聞こえてきた声が、私を引き上げてくれた。

 

 

「…!デミちゃん?」

 

 

「お寝坊さんっすね、…そうだ、『おはよう』ハナコちゃん」

 

 

…あぁ……なんて……優しい……。

 

 

「……っ!うん…!!『おはよう』!デミちゃん…!!」

 

 

 

『私は貴方だけが赦してくれたらいい』

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どうしたんですか、その傷」

 

 

「あ〜その……まぁ、色々あって」

 

 

現実が、夢に侵食してくる。

 

 

「色々って…!その傷は………なるほど……そういう」

 

 

ぺちゃん!

 

 

ほっぺを両手で挟まれる。

 

 

「ふ、ふぐっ……にゃ、にゃんですか…デミちゃん」

 

 

「コラ、そんな顔しちゃダメ」

 

 

顔って……私は一体どんな顔を……。…っ!

 

 

「…自分で分からない…?」

 

 

「賢いっすね、本当に……分かったならそんなへちゃむくれた顔をしないで下さいっす」

 

 

「………うん」

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

『やっほーハナコちゃん』

 

『ん?大丈夫っすよ』

 

 

「……」

 

『おはよう、夜中っすけど…おはようハナコちゃん』

 

『あはは、大丈夫っすよ〜』

 

 

「………………」

 

 

『ハナコちゃん』

 

 

「だ、誰か!助けて!もごっ…!」

 

 

「……」

 

 

無言で…誰だか忘れたが、連れ去られるのを見送る。現実を私の夢に持ち込ませた女、ここは監獄だ、汚い穢い暗さに塗れた監獄。

 

 

「ティーパーティーの推薦、でしたか……」

 

 

彼女が生きやすい、そんな学園を作りたい…けれど、本音は政治に関わりたくない。私は彼女からあんなに優しさを、赦しを施されたというのに、自分の優先度が高い。

 

 

醜い、醜い醜い自分。

 

 

「醜…い…ですか………」

 

 

誰しもが持つ、自分の肯定…それは同時に美しい醜さでもある。だが、今の私は、ただ足掻いているだけ。

 

 

『私は貴方だけが赦してくれたらいい』

 

 

私の本心が、張り付いて取れなくなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

「…こんばんは、デミさん」

 

 

「…………むー!」

 

 

「その……」

 

 

「やだ」

 

 

「…………」

 

 

「私も言ってやりましょうか?ハナコさん」

 

 

「……っ!」

 

 

ささやかなケンカだった、ただそれも怒りというよりは……。

 

 

「私、ハナコちゃんを甘やかし過ぎたっす、このままじゃハナコちゃんは自分を見つけれない、だから今日からハナコちゃんの呼び方はハナコさんっす!!!」

 

 

「……そんな事言わなくても…!!」

 

 

私の癇癪に、それ相応に付き合ってくれてるような……当時の私は分からなかったけど……。

 

 

「ケンカっす!ハナコさんなんてしーらない!」

 

 

「………」

 

 

今日の夢は、それで終わり。

 

 

何日もそれが続いて……。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

「ハナコさん?大丈夫ですか?」

 

 

「あ、あぁはい、大丈夫です」

 

 

いつの間にか、朝の声が聞こえていた。

 

 

(……猥談、したいな…)

 

 

思考停止していた私は、いつの間にか欲望もこぼれ落ちていた、彼女と合わなくなって……私がしたい事を思い出してきた。青春がしたい。その望みを……。私は、『いつの間にか』彼女といる時間しか求めなくなっていた事を自覚した。

 

 

結局、一年次が終わるギリギリで始まったケンカは、二年次に引きづってしまった…。

 

 

(…うん、よし……!)

 

 

心を決め、モモトークを送って、今夜彼女と会う事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー夜、トリニティの中庭

 

 

 

「……よし」

 

 

話したいことを頭に浮かべて、中庭にいた彼女に話しかける。

 

 

「デミちゃん…!」

 

 

「……お、こんばんは」

 

 

……?何か…違和感が…。

 

 

「いやぁ〜急に知らない子から連絡来た時はビックリしたっすよ」

 

 

「……え?」

 

…し、知らない子?

 

 

「初めましてっすね、浦和…ハナコさん?」

 

 

 

 

 

え?

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