ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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陰鬱

「うぁぁぁぁぁ゛ぁ゛!」

 

(どにかしなきゃ…)

 

「デミちゃん!!起ぎで下さい゛!!お願い…また一年の時みたいに!!楽しく話しましょうってば……!ねぇ…起きて……お願い……」

 

(どうにか、どうにか……)

 

もう誤魔化しようのないこの状況を打開するには…

 

(みんなの……ためにも、まだ…)

 

まだ、もうちょっとだけ、平和でいなきゃ……

 

 

来たる虚空のサンクトゥムまで、どれほどのズレが許容されるのかは分からない。

 

一年の時…?とやらは分からないが、ハナコがここで私によって取り乱せば、ナギサ襲撃までの流れにどんな影響があるか…!

 

それにまだ、先生は世界に狙われつづけている。この世界は『機転になるその時』を待ち続けている。廃墟、デカグラマトン、カイザー、ゲマトリア……悪意は、まだ取り払われていない……!!

 

(…………やれるかな)

 

狙うは二度目の顕現、短期間での連続発動をこんな所で行ってしまうのが悔やまれるが……。

 

(……やるしかないか)

 

 

「ぅ……ぅぅ…」

 

既に脳を吹き飛ばされた状態で思考が出来るほど再び人外に近づいている私。頭のヘイローに意識を集め、発動させる。

 

(神秘解放……顕現開始)

 

 

 

行うは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ハナコ…!!”

 

「あら?先生…こんな夜遅くに、どうかなされましたか?」

 

叫び声が聞こえた方向に走ってきてみると、トイレの前でぼーっと立っていたハナコに出くわした。声の主はハナコだと思っていたが、何とも無い様子で返事を返してくるものだから、ひとまず安心といった所だろうか。

 

“…ふぅっ…はぁっ……良かった、何ともなかったみたいだね”

 

「……?ええ、はい」

 

特段、身体にも異常は無く、先生の聞き間違いだったのだろうか?と首を傾げる。

 

“叫び声が聞こえてね…無事いてくれて良かったよ”

 

「叫び声、ですか…この付近に居た私が聞こえていないのであれば、先生の聞き間違いかと…」

 

“あはは……慌てさせてごめんね、私も寝室に戻るよ、おやすみハナコ”

 

「はい、先生」

 

 

 

 

 

 

■トイレ内

 

 

 

「よし!なんとかなった〜!」

 

危ない危ない、深夜だからと油断していたツケが出た。

 

「ふぃ〜一年の時か……記憶に無いっすね…?そもそも初対面だったし…まぁ後々聞いてみますかぁ」

 

体調はすっかり良くなった、今は身体の中身全てが溶けて傷つく臓器も無いお陰で、痛みも無くなった。

 

「快便快便!寝室に戻ろーっと!」

 

トイレのドアを開けて、手を洗い通路へと足を踏み入れる。

 

「あら…」

 

「ゲッ!?」

 

通路の先に、まだハナコが居た。

 

(うわぁ〜もうちょっと待てば良かったな、まぁ今は大丈夫だし…)

 

「デミちゃん…」

 

さっきと同じように、しんみりと…それでいて夢うつつのような表情を見せるハナコ。私が行ったのは、数分間の記憶の削除…ハナコがトイレに足を踏み入れる一分前まで記憶を消した。副作用が無いと良いのだが…。

 

「トイレ行ってただけっすからね!?ピンクな事喋り始めたら頭ボコボコにするっすよ??」

 

そう話した瞬間、憂うような表情から…まるで噴火する前の活火山のような秘めた怒りを持った顔つきになり、冷たい視線がわちゃわちゃと話しているデミを貫く。

 

(…え、なんか変な事言ったか…?)

 

「…………」

 

「デミちゃんは…………」

 

「デミちゃんは、いつ…からそうなって、しまったのですか?」

 

冷たく、尚且つ熱く感情の籠った疑問が飛んでくる。何故?どうして?言葉に籠った痛みや苦しみがありありと伝わってきてしまう、デミには分からない、何故今彼女は苦しみながら話そうとしているのかが。

 

「……そう?私は私で変わってねぇっすよ、ほら寝室に…」

 

「貴方は!」

 

言葉を遮り、声量ではなく…覇気が強まった声が顔面を叩いた、思わず押し黙り、きょとんとした顔をしたデミに近づきその肩を掴む。

 

「貴方は……もっと、■■でした、私と話す時だって物凄い語彙で、■■■で■■な■■■な、それでいて■■■■■■■■を億さず話す■■な人で…」

 

「まてーーーーい!!?!?」

 

真剣な話をされるかと思ったら唐突に隠語を話しまくる目の前のどピンクに驚きを隠せない。

 

「■■■■だって!貴方が教えてくれた■■■ですよ…!■■■を今日のコハルちゃんみたいに持ちだして…猥談して…■■■の仕方はどうだとか、話し合ったじゃないですか」

 

「忘れていたとしても、人の根底は変わりません…!!なのに、今の貴方は…!!」

 

淫語を包み隠さず話し出すようになってしまったハナコ、しかしそれら全てが真剣に、かつ本心を吐き出すかの様に絞り出して声を出す。

 

 

 

「貴方は一体誰ですか!!」

 

 

 

疑問、そして問い。

 

 

知らない私を求められるのは、初めての事だ。頭がパニックになってしまう、みんなも私とハナコが初対面だと言った時に納得していたものだから、本当に初めての経験だ。

 

「わ…私は私っすよ?」

 

困ってしまう、分からないのだから……なんの言葉を返していいか分からない、『答え』が無い。知らないし、今私が持っているのは、『今の私』しかない。

 

「…………貴方は一体何を隠して…」

 

『何を隠しているのか』その言葉で少し…揺らいでしまった。

 

「…ハナコちゃんは、もし私が宇宙人で、中身が変わって使命として、今世界の危機に立ち向かっているって言ったらどうします…?」

 

「……はい?」

 

巫山戯てる様にしか聞こえない言葉、ゆっくりと鎮まっていた怒りが再噴出するようにハナコの顔が強ばっていく。

 

「本気で言ってるっす」

 

「…っ!!巫山戯ないでください!そんな冗談も大概に…!!」

 

「冗談でも無いっす」

 

「…そんな…嘘をついて!貴方がそんなに辛そうにしていて、冗談で話さなければいけない程、貴方が隠していることは…大きいのですか…?」

 

賢いからこそ、今のデミの言葉がはっきり嘘だと、理屈的には脳が告げる。けれど……。

 

(…違和感が、何か…)

 

また、心が相違を始める、最近はずっとこれだ。現状を観察し、理解して問題を解き明かそうとする、己の知能があれば探偵じみたこともできる。しなければいけない事、『正解』である行動を脳内で計算し弾き出す。それは出来るのだ、けれど心が違うと話す。

 

『正解』は正しさでは無い、それを理解はしている、だから苦しい。

 

 

「…ハナコちゃんは本当に賢いっすね……うん、また私が全て話せるようになったら、また猥談でもなんでもしましょう、ごめんね…ハナコちゃん」

 

「……っ!」

 

認識のズレを使ってハナコを納得させる、私は悲壮な何かを隠している悲劇のヒロインだと、悪い何かに絡まっているのだと、彼女が『解決できる物語』だと思ってくれるように、ハナコが話した言葉の端々を拾って自分のセリフを作り上げる。

 

「今は、部屋で寝るっすよ、ハナコちゃん」

 

「…デミちゃん」

 

また、あの憂うような表情に戻った事を確認して、ハナコと部屋に戻っていく。

 

 

(……はは、冗談、冗談ね)

 

 

感情に任せて言ってしまったあのセリフ、何故か心に重く響いて…?なんでだろう。自分で言ったんだろう?

 

 

 

分からないから、今日は寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン……

 

 

 

 

 

 

 

“さて……こんにちは、だね…ミカ”

 

「こんにちは〜先生!プールに水が入ってるじゃん!久しぶりだなぁ…ここに水が入ってるなんて、これからプールパーティーでも開くの?」

 

“おっ…プールパーティーか…良いね、合宿が終わったらナギサに頼んで開いてみようかな?勿論、ミカもナギサも正実のみんなも誘ってね”

 

「あはは、うん…楽しみにしとこっかな〜」

 

“…ふふっ、やっぱりミカは笑顔が素敵だね……よし、それじゃ聞こうか、何の用件かい?”

 

「先生は上手くやっているかな~、って、思って」

 

“今のところは大丈夫だよ、必要な設備もあるし……みんな私のようなおじいちゃん脳じゃないからね……吸収率の違いに驚いてるよ、若いって良いね……”

 

「あはは!先生もまだ若いじゃん!まぁ…そっか、なら良かった! それにしてもナギちゃん、随分と入れ込んでいるみたいだねー、こんな施設まで貸し出しちゃって……ここの合宿場って、割と借りるのに高めの権限必要なんだよ?」

 

“最初は清掃地獄で、てんやわんやしてたけどね…全身ズタボロになったよ”

 

「あはは、まぁね、トリニティは大きいから管理の手は届いても、景観とかは二の次になっちゃうんだ」

 

“こんな良い場所をねぇ…なんだか勿体ないね”

 

「ナギちゃん派閥だとか、私派閥の政治的立場の問題も色々あるらしいし…ここも部活派閥の取り合いに巻き込まれる前に取れたらしいよ?」

 

何とも堅苦しい話だ、学び舎である学校でそういった派閥だ、立場だ、と日常に制限をかけられながら過ごすのは学生には酷な話、苦笑いをするミカからも苦労が見てとれる。

 

“皆、とてもいい子なのは分かっているんだけどね……苦労をさせる不甲斐なさがあるよ”

 

「先生のせいじゃないよ〜……久しぶりに足だけでもプールに入ろっかな?良いよね、先生」

 

“うん、それなら私も入ろうかな”

 

互いに靴と靴下を脱いで、プールサイドに腰掛け、足を浸ける。

 

「みんなは楽しんでる?せっかく合宿なんてイベントで、本校舎から離れた場所なのに、何もしてないなんて事ない?皆でパジャマパーティーとかさ……」

 

“まだ合宿が終わるまではダメだよ…みんな、守るべきラインはしっかり守ってるからね”

 

「え〜勿体ない、こんな機会そうそうないよ?先生だってさ〜…」

 

“ミカ”

 

浸けた足をパチャパチャと跳ねさせて、唇を尖らせて話すミカを遮り、声をかける、ミカを見つめる先生の目は、優しく包み込む様な慈愛を感じさせた。

 

“本当に聞きたい事、言ってもいいよ、こうやって雑談する為だけに来たんじゃないんだろう?”

 

「……あはっ」

 

その言葉に、張り裂けそうな笑顔をする。

 

どこか、嬉しそうに、悲しそうに、苦しそうに。

 

或いは、救いを求めるように。

 

「そこまで警戒されちゃうのは心外だなー、私こう見えても繊細で、傷つきやすいんだよ?」

 

“……うん…解っているよ”

 

小さく呟いたその言葉は、誰にも聞かれる事は無かった。

 

プールサイドから足を戻し、軽く水を払ってから話し始める。

 

「…ここは食事とか大丈夫?美味しいもの送った方が良いかな?ケーキとか紅茶とか」

 

“……大丈夫だよ”

 

言葉を話す事が彼女にとっての間のとり方、落ち着き方なのだろう、話しながら、揺れ動いていた視線がゆっくりと落ち着いていく。

 

“ミカこそ、大丈夫かい?顔色、悪いよ?”

 

「えっ…ぁ、そう?」

 

先生にそう言われて、自分の顔を手でぺたぺたと触りだすミカ、自分の顔だというのに、制御できていないかのような所作を見せる。

 

“何かあったのかい?”

 

「えっと……大丈夫、ほんの少しだけ夢見が悪かっただけだよ、先生」

 

“……”

 

誤魔化している、それを見抜くように見つめ続ける先生に対して、微笑み返すミカだが、次第に観念したのかポツリと声を漏らす。

 

「うん、本当に夢見が悪いだけだよ……先生」

 

「…………」

 

「…先生は、後悔したこと…どれぐらいあるかな?…私は沢山あって……積み重なった後悔が夢に出てきて、とっても怖くてたまらなかった」

 

掠れるような声で、『自供』とも言える様子で押し出されるように不安を吐き出すミカ。

 

「……先生」

 

“うん”

 

「先生は、どうかな?」

 

“あるよ、数え切れない位”

 

“辛くて、悲しくて……それでいて、一番憎いのは自分って思ってしまう…”

 

“後悔を”

 

「……」

 

共感でもない、慰めでもない、瞳の奥に見えるのは、途方もない『責務』の重さ。その由来が後悔であることを、ミカは感じる。

 

「そっ……か…」

 

“うん、不甲斐ない大人だけどね、…生徒の悩みを解決するのも先生としての役目さ”

 

“ミカ、誰だって大なり小なり後悔は抱く”

 

“大切なのは、ミカが、ミカ自身を、その後悔を……償いによるものでもいい、『許す』事だよ”

 

「……」

 

愚かさには贖罪を、罪には罰を、後悔には償いを、そうして許しを得た時に、『自分』を自分で許せていなければ、それは無意味な自罰になってしまう。

 

“ふふっ…元気に生きるには図太さも大事だよってだけさ”

 

「…うん、ありがとう先生……さて」

 

「先生にお悩み相談するのもいいけど、本題に入ろっか!あっ、因みに私がここに居る事について、ナギちゃんは知らないから、見ての通り、付き添いもなしの単独行動!」

 

“おっけ〜”

 

「(≧▽≦)」

 

「それで、本題だけど――」

 

 

「ナギちゃんから何か取引を提案されたりした?」




一応前編!続きは書いておりますので、少しだけお待ちを
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