ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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癇癪

 

 

時は戻り……

 

 

ーー昨夜、先生がミカと会う前、廃校舎

 

 

 

「アズサ、首尾は」

 

「……今の所、計画通り」

 

「そうか」

 

「先生の様子は、どうだ?」

 

「…どう、とは?」

 

「マダムから、既に先生はアリウスの情報を得ている可能性があると」

 

「今の所は何も」

 

「…泳がされているのか、もしくは知らないか…」

 

互いに淡々とした情報交換が続く。

 

「アズサ、分かっているな?先生の手によって計画が露呈しそうになるならばーー」

 

「…………分かっている、先生の殺害…それを任されたのは私だ」

 

「………なら、いい」

 

ーー錠前サオリ、アリウススクワッドのリーダーである彼女から放たれる声には冷たさしかなかった。策略、暗殺…キヴォトスに存在する生徒の中で最も大人の悪意に触れ、また自身もそれに加担してきた人物。

アズサの耳に入ってくる情報は、全て冷えきっている、聞けば聞くほど耳が痛くなっていって、体温が無くなっていく。長く共に暮らしてきたアリウスのメンバーとの会話が、辛い。

 

「………」

 

補習授業部は皆、善良な人間ばかりだった。学び、気づき、異常であったはずの私も受け入れて共に……。

 

「…それと、アズサ……マダムから追加の指令が来た」

 

「っ…マ……ダムは、一体何と」

 

()()()()()()()

 

「な!?…………な…ぜ…!?」

 

「羽音デミは、マダムにとって先生と同レベルで警戒すべき相手だと説明された、彼女の殺害は計画の遂行に必須だと」

 

悪意を、これ以上重ねなければならないのか?スパイである私は……補習授業部の皆を…その信用を裏切ってここにいるというのに。

 

「この案件は、私達スクワッド全員で取り掛かる、指定のポイントに誘い込む形で行う。何としてもエデン条約には間に合わせなければならない」

 

どうすればいいというのだ?私は……私は、彼女達と…どう関わっていけば……。

 

「ーーなら、今やっちゃったら良いっすよ、サオリちゃん」

 

不意に、後ろから声が響く。闇夜に紛れ、その姿をゆっくりと表した。

 

真っ白な髪に、正義実現委員会の衣服を纏う……

 

「…貴様、羽音…デミ!!」

 

話の中心人物が、そこに居た。

 

「アズサ!!…っ!?」

 

「もう夜遅いっすから、良い子は寝なきゃダメっすよ」

 

目の前に居る羽音デミに、アズサが倒れ込み寝息を立てている。

 

「可愛いっすねぇ…おやすみ、アズサちゃん、あ…慌てなくても待つっすよ」

 

「くっ…」

 

アサルトライフルを構える手を、静止させられる。

 

「待つ、だと?」

 

「せっかくアズサちゃんが私の事、忘れた様に寝てるんだから起こしちゃダメっす、ほら、スクワッドのみんな呼んじゃってください」

 

「……」

 

トランシーバーに通信を入れて集合を促した、後数刻でミサキとヒヨリ、アツコも念の為に来てもらい、マダムにも連絡を送った。

 

「……な!?貴様、アズサは…」

 

目を離していないはずなのに、いつの間にかアズサが消えていた。

 

「大丈夫っすよ、今頃寝室でグースカしてるっす」

 

「……物質転移か?」

 

「ん?ん〜まぁ……よく原理は分かんないっすね、過程をよく知らないもんで」

 

ケラケラと笑いながら立っている羽音デミ(怪物)の能力は未知数、マダムがただの生徒を殺害対象にするはずが無い、百合園セイアも未来予知という規格外の能力を有していた。

 

「でも、ゲマおば……ベアトリーチェもやるもんすね、まさか神秘に対する干渉妨害ができるなんて……顔面殴りに行こうと思ったんすけど」

 

「………」

 

マダムの名前まで知っている……か、猶予はそこまで残されていなさそうだ。

 

《…羽音デミ、お久しぶりです》

 

「あ、ババア久しぶりっす」

 

《バッ……》

 

懐に入れておいた携帯用ドローンがホログラムを写し、マダムの姿と声が現れた。

 

《……ふぅっ…羽音デミ、黒服との協定には私との関係を明記しませんでしたね?お陰様で、成果だけは頂きましたよ……やはりあなたはまだ子供です、私達大人に搾取される…》

 

「うっさいっすね〜ババア、やっぱり歳とると口うるさくなるんすかね?それともババアの宿命?わざわざひけらかす必要も無いのに一々、姑じゃないんだから」

 

《…………》

 

「あっれ〜?やっぱりババアは嫌でした〜?じゃあ言い方変えてあげるっすよ、身長と胸だけデカいガキンチョ?舞台装置?婚期逃して先生に執着する残念な人?」

 

《こんのクソガキがァァァッ!!!!スクワッド!殺せ!!》

 

「ハッ!ガキの悪口に反応してんじゃねぇっすよ!!このクソババア、そんなんだからガキなんすよ!」

 

《バン!!!》

 

何かを思っきり叩く音と共に通信が切れた。

 

「ふぅ〜すっきり」

 

「……」

 

マダムがあそこまで取り乱すとは……何故だか、あぁやって生徒のただの癇癪を返してしまったマダムを見て、私の胸の溜飲も下がったのは、気にしないでおこう。

 

「リーダー」「サっちゃん」

 

「……ヒヨリは既に位置に着いているな」

 

「やっほーアツコちゃん、ミサキちゃん」

 

やはり、名前が既に知られている。アサルトライフルを構え、ミサキにも発射の指示待機をさせた。

 

「…こいつがターゲット?随分と……」

 

「随分と可愛いなんて言ってくれたら嬉しいっすね!」

 

「……随分とマヌケみたいだね」

 

「ぁーん…」

 

話している間にも、ヒヨリからのコールを受け取り、ゆっくりと引き金に込める力を強めた。

 

「よし!じゃあやりましっ」

 

不意をついて発砲し、その隙にヒヨリが放った弾頭が突っ立っているターゲットを貫いた…貫いた?

 

「……は?」

 

頭が弾け飛んでそのまま風穴が空いた身体が倒れ込む。

 

「……死んだのか……?」

 

初めて、人を殺してしまった……それが、こんな呆気なく?

急に湧いてきた冷や汗が、タラりと目に差し掛かって手で拭う。

 

「大丈夫っすよ、もう…そんな顔しないで下さいっす、貴方達を人殺しにさせる為に来た訳じゃないんすから」

 

「っ!アツコ!!」

 

そうした瞬間に、アツコの傍に羽音デミが立っていた。

 

「貴方は……」

 

「こんばんは、アツコちゃん…またいつか友達になりアベベベベ」

 

「アツコから離れろ!」

 

油断していた、予想の数倍こいつは……!

 

「ミサキ!」

 

「分かってる…!」

 

ミサキのセイントプレデターが、サオリの銃撃によって吹きとび、壁に打ち付けられたデミに照準を合わせて、発射される。

 

ドガァァァン…!!

 

爆風に包まれ、その衝撃波が顔を叩く中、建物の崩落が起き瓦礫が爆発を更に上から埋め立てた。

 

「…………」

 

誰がどう見ても重傷、又は死を疑わない光景……だが。

 

「よいしょ、さて…隠れてたヒヨリちゃんも出てきてもらったし、やりましょっか」

 

「……化け物が」

 

気絶したヒヨリを抱えて、私の目の前に立っていた。

 

「はい、正しく化け物っすよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三日目の朝。

 

 

「……っ!」

 

目が覚めた。

 

「……」

 

辺りを見渡すと、いつもの寝室…皆寝静まっている。確か、サオリと話していた途中…?

 

いや、サオリと話を終えてそのままここに帰ってきたのだった……確か、計画の露呈の可能性があれば、()()()()()を行う、その指令を。

 

「…………先生」

 

憂うまま目を擦る。

 

「… Vanitas vanitatum et omnia vanitas」

 

「全ては虚しい、どこまで行こうとも全ては虚しいもの……抗うことも、ただ虚しいだけかもしれない…けれど、それをやめてはいけない」

 

「皆、私は…抗い続けたい」

 

 

 

 

先生が用事があると、朝には居なかった時、私は何故か安心してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“なるほど、セイアが……”

 

「うん」

 

“…………”

 

「先生、アズサを転入させたのも私、ナギちゃんがエデン条約の為に躍起になれば、きっと彼女にもそんな結末が、いや…いつか武力集団『ETO』を作るナギちゃんにもセイアちゃんの様になってしまうかもしれない」

 

「こんな混迷した時期に、新しく中立した武力集団……『シャーレ』の先生なら、これが正しく使われない、もしくは扱う者のリスクは分かる筈」

 

“そして……ナギサが今、大きな力を持てば…”

 

「先生が話した通り、疑心暗鬼の病に食い潰されるかもしれないし、その矛先が何処に向くか分からない」

 

「トリニティは今、ナギちゃんだけじゃない、エデン条約に向けて…トリニティ総合学園が一丸となって怪物(リヴァイアサン)に変わろうとしてるんだ」

 

ヘイローが破壊されたという事、補習授業部が作られた理由…それに連なり芋づる式に出てきた陰謀。先生は、ここから全てを救う選択肢を取らねばならない。

 

“……ありがとう、ミカ…話してくれて”

 

「…大丈夫だよ、その…実はね?先生が『私の味方だ』なんて、言ってくれた時……嬉しかったんだ」

 

「建前でも、嘘でも……そう言ってくれた事が、とっても嬉しくて………初めてなんだよ?それでもって、思えたの」

 

“……うん”

 

「それから、私に『全部』を預けるなんて言われて……どうしたら良いか分かんなくなっちゃうぐらい、嬉しくてたまらなかった」

 

“うん”

 

「お願い、先生……皆の味方なら、私の味方なら……みんなの事、助けてあげて欲しいな」

 

“ーー勿論”

 

「……ふふ、先生、今とってもカッコイイね…それじゃ私は帰るよ、またね!先生!」

 

“またね、ミカ”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“本当に全てを話せる時が来たら、またお茶でもしようか”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ミカの自室

 

 

『“ 本当に全てを話せる時が来たら、またお茶でもしようか ”』

 

 

 

 

「………な…んで…」

 

「なんで」

 

「見捨ててくれないの…?」

 

手元にある黒ずんだカードを撫でる。

 

「全部話してないって………分かってて…………なんで私に預けたの…?」

 

賭けられた想いに、応えることなく自分の為に利用した。

 

「先生っ…!先生……せん…せぃ……私、分かんないよ……どうすればいいかなんて……!」

 

『“ 私は、ミカの味方なんだからさ” 』

 

魔女になりたかった、ゲヘナを滅ぼしたかった、皆を救って…それから見放されたかった、本当の私を晒して。

 

「………」

 

私が流していい筈の無い、涙が零れて止まらない。本音を叫びたくて、先生の前だと打ち立てられた『魔女()』の姿が、隠れ蓑にすらなってくれない。

 

「……先生」

 

全てを見透かす様に放たれたあの言葉は、きっとそれっぽく言っただけ、カッコつけただけだ、だって分かりようが無いんだから、そうやって生徒を騙してきたんだ、きっと。

 

「……それでも…嬉しかったな…」

 

「……」

 

「先生、頑張るよ、私」

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