ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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身に余る心

人はすべからく愚かである、人は皆、自身が愚かである事から目を逸らす為に、自身より愚かな者を探し求め、それに救われている事に気づかずに足踏みにする、それ故に自ずから破滅の道を築き、なおも気づけないままてある。

 

 

差であり、能力であり、心であり、自分自身を測っていくものは愚かさの表れだ。『自分自身』が愚かであるのだから。

 

 

ならば、それは享受されるだけに留まらなければいけないのか? そうでは無い、隣人をかねてより愛したまえ、知己を誇りたまえ、自らを賜れしものとして、赦したまえ。

 

 

愚かさとは、ただそれを認知せず、日々を享受していく己自身であると、自戒したまえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『善い事をする』

 

 

誰にとって?

 

 

『善い事をする』

 

 

どんなことを?

 

 

『善い事をする』

 

 

なんの為に?

 

 

『善い事をする』

 

 

『ただ、そうすべきだと、思ったから』

 

 

『私が、どのようなものであれ』

 

 

同じ記憶を持って、同じ行動をする、だけど決定的に違う人間。

 

 

虫が光に、炎に向かっていく情景は儚いとも言える『感情を与える』が、実際には本能的な、機能的な一面でしかない。

 

 

そして虫本人にも、そのような感情は無い。

 

 

『私は善い事をする』

 

 

人は色んな心を持っているから、色んな間違いを犯す事はあるけれど、それでも善い事をしたがるんだ。

 

 

『私は善い事をする(人である証明をする)

 

 

誰に言われる事でもなく、誰に必要とされるでもなく、誰に喜ばれる必要もない。

 

 

『私は善い事をする(私という生き物を証明する)

 

 

それが根底であった筈だ、それが皆を傷つけるとしったから、今こうしている。

 

 

『私は善い事をする(虫の反応だとしても)

 

 

「思い出せたっすか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリウススクワッドとの戦いが終わり、三日目の朝。

 

 

 

ーー代償なのだろう。

 

 

「うにゅっ…デ、デミちゃん…?」

 

 

ペタペタと彼女の顔を触る。

 

 

「…おはようっす、ヒフミちゃん」

 

 

「お、おはようございます?あ、あの…なんで顔を」

 

 

「………可愛いっすね」

 

 

「え!え、えへへ…」

 

 

新しく、夢を見た。死と血に塗れた夢から何が変わろうがもう……と思っていた。

 

 

グチャッ…!!

 

 

「ぁっ」

 

 

目の前のヒフミの顔が、今触っていた私の手で潰れて血の花を…

 

 

「デミちゃん?」

 

 

「ぁ…ヒフミ…ちゃん」

 

 

「またその顔…!」

 

 

ヒフミちゃんに近寄られて抱き寄せられそうになる。

 

 

「まっ…!」

 

 

抱き寄せられて、ヒフミちゃんと目を合わせた。

 

 

首が折れ、口から血を流し、光の無い目をする彼女と。

 

 

「……ぅ…」

 

 

「デミちゃんも抱き返して欲しいです」

 

 

「ぇ…あ、わ、わかったっす」

 

 

彼女の身体に腕を掛ける。

 

 

ゴキンッ!!!

 

 

ヒフミが口から血を吐き出して、身体を鯖折りにされた。

 

 

「どうですか?」

 

 

「……あったかいっすよ、ヒフミちゃん」

 

 

「あら…朝からお二人とも仲良しですね♡」

 

 

「ハナコ…」

 

 

視界に映ったハナコの身体が、上半身と下半身に真っ二つにちぎれた。

 

 

「下の名前で…デミちゃん、私達…もしかして■■■な関係に…?」

 

 

「ハナコちゃんん!!?」

 

 

「……脳内ピンクは朝からお盛んっすね…」

 

 

一人一人、丁寧に、慈しむように、殺した夢を見た。様々な方法で……あれは、本当は夢ではないのだろう。私の視界には常に屍が映る様になった、みんなを殺してしまった私が、築いた屍の山が。

 

感触が、手から離れない。

 

 

「あれ、アズサちゃんは?」

 

 

「早く起きたらしく、グラウンドでマラソンをしてくると」

 

 

何度も、何度も何度も何度も、分かっていた事だが、私は罪深いな、と思う。全てを知っていてここに居る、だから全てを守れると驕っているし、それでいて手を出す事をはばかっている。アズサみたいに抗い続けてる訳でも無いのに、多くを望み、ハナコの様に賢くも無いのに、自分の能力を使う事を恐れて策略で何とかしようとして、ヒフミちゃんの様にヒーローでもなく、救える人間でも無いのに手を伸ばす。

先生のようになりたくて、その真反対の方向に走っている。

 

 

「ハナコちゃん」

 

 

「なんでしょうか?」

 

 

「絶対、本番の試験合格するっすよ」

 

 

 

そして、この抑圧を振り払って、全てを壊したい私が居た。皆の死に、暗い愉悦を得る、私が。

 

 

 

幸せな筈なんだ、毎日を過ごせるというのは。幸せな筈なんだ、みんなと生きていけるのは。幸せな状況を、幸せだって肯定出来ないことは無い筈だ、幸せな状況なのだから。

 

 

 

 

私は善い事をする(全てを壊してしまえばいい)

 

 

 

 

夢で言われたあの言葉が、頭から離れない…………いや、元からあった一つの答えが大きくなっただけだ。

 

早く処置をして、元に戻らなきゃ、今のままだときっと皆を傷つける。やっぱり今はおかしくなっている。

 

 

 

『私は正しく、化け物なんすよ』

 

 

 

能力を使う度に元の身体に戻っていく……?

 

 

 

 

 

心も?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ただいま〜遅れてごめんね”

 

「いえいえ、用事、お疲れ様です……あ、そうでした、先生、こちらを」

 

そう言われて差し出されたプリントは、よく馴染みのある感触をしていた。

 

「先程受けた模試の結果です!」

 

“お、先に済ませてくれたんだね、ありがとう”

 

模試の内容、難易度もしっかり本番用に調整されている事を確認する、点数をあらためると、そこには、喜び跳ね上がってしまう程の結果が待っていた。

 

第二次補習授業部模試、結果――

 

 ハナコ――八点 不合格

 アズサ――六十点 合格

デミ――五十二点 不合格

 コハル――五十五点 不合格

 ヒフミ――六十四点 合格

 

“…本当に…!よく頑張ってるね、皆!”

 

「……紙一重だったが、何とか合格出来た」

 

「はい!なんと!アズサちゃんは合格点まで届いたんです!!ピッタリの合格なのでまだまだ油断は出来ませんけど……アズサちゃんは本当に良く頑張りました!」

 

「いや、私だけじゃない、みんなの協力があってこそだ…運良く直前に学んだ場所がテストに出てきたこともある、ありがとう……みんな」

 

「はい!」

 

アズサの言葉に、嬉しそうに返事を返すヒフミ、皆の献身が実を結び、今すぐにでも飛び跳ねて喜びそうな雰囲気だ。アズサも六十点というラインを踏めて一安心といった様子で、胸を張っている。

 

「先生!わ、私のも見て!頑張ったんだよ!?」

 

“コハルも本当に良く頑張ったね!前の十五点から五十五点だなんて……四十点アップは皆の中で一番伸び幅がいいよ?本当に……良く頑張ってる”

 

「う、うん!先生が…私だけに分かりやすく授業とか、プリント作ってくれたから…ありがと、先生」

 

“うん、やっぱりコハルはエリートだよ、吸収が早いね”

 

「そうなの!私、本当にエリートなんだから!」

 

コハルはなんと、五十点台を超え補習授業部の中でもトップの伸び幅を見せた。皆が一番重点的に教え合った事もあり、全員が温かい目でコハルを見ている。

 

「ッス〜…」

 

“うん、まぁ…デミは、そういう事だよね?”

 

「っす」

 

「なんで下がっちゃってるんですか…デミちゃん」

 

デミは五十二点、既にコハルに上回られ初期の五十九点から段々と下がっている。恐らく……わざとだ、『そういう事』とはハナコの点数と照らし合わせれば分かる、ハナコが最初一点に対し、デミは五十九点。次は二点に対し、五十八点………私に対して、『ハナコと合わせて六十点』に調整しているという事は……。

 

「ハナコちゃんは……」

 

「あら…何故ヒフミさんはここで声のトーンが下がってしまって…?最初の試験が二点、次の模試が四点、そして今回が八点ですよ?」

 

「えっ、あ、確かに点数は、その、上がっているのですが……」

 

「ふふっ、安心してくださいヒフミさん――一、二、八、このまま倍々に増えていけば十六点や、六十四点を取って、合格圏内に届く筈です♪」

 

「え、えぇ……? いえ、確かにそう考えたらそうかもしれませんけれど……」

 

ハナコに渡したボイスレコーダーでは、『不合格の末、どうなるか』という事は分からない。持ち前の頭脳で結末を推測したとするならば…ハナコとデミは、既に二人で繋がっていてこの点数を取っているか、デミから、『早くハナコに言え』とでも言われている様だ。

 

“うん、まぁともかく……皆、本当に良く頑張ってくれているから第二次特別試験も大丈夫そうだね”

 

「はい……!」

 

「うん、必ずや任務を成功させて、あの可愛い奴を受け取ってみせる、それが私が此処に居る理由で在り、戦う目的だ」

 

「え、あ、アズサちゃん!? 私達が此処に居る理由は試験と勉強であって、目的は落第を免れる事ですよ!? 目的がすり替わっていませんか……!?」

 

「ん? ……あぁ、そんな事もあったな、ついでにそれもやっておこう」

 

「ついで!?あうぅ……も、モモフレンズファンとしては嬉しくもあるのですが……」

 

嬉しさと困惑の感情が混ざった顔をするヒフミ、アズサのモチベーションを引き上げれた事は良いのだが、どうやら目的が入れ替わってしまったようで……。

 

 

ピーンポーン…

 

ふとインターフォンからの電子音が教室に鳴り響いた。

 

「……?」

 

「あら?」

 

唐突に聞こえたチャイムは、耳馴染みがないものだ。基本的にこの離の別館に来客は少なく、しかもこの時間帯であればそもそも来る人等……

 

「来客でしょうか?」

 

「みたいですね、食材の配達は頼んでいませんし、一体……」

 

「…あ、しまった」

 

“あ…まさか、アズサ?”

 

「うん?」

 

デミの声に引き続いて、先生が勘づく。アズサの悪癖、というよりは染み付いてしまった行動故なのだが……確か…。

 

 

「あぁ、心配するな先生――侵入者対策に、ちゃんとトラップは仕掛けてあるぞ」

 

「へ?」

 

『し、失礼致します……あの、どなたかいらっしゃいますか?』

 

「あら、この声は――」

 

ハナコが聞き覚えのある声に反応した直後に……。

 

ドゴォォォォォン……!

 

『きゃあぁああッ!?』

 

「うん、ちゃんと起動したみたいだ、良かった」

 

「アズサちゃんん!!?一体何を!?」

 

「クレイモア地雷によって体勢を崩した相手に引っかかる様、ワイヤートラップを…」

 

「アズサちゃんンンンンンン!!!???!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も平和と安寧が貴方と共にありますように、シスターフッドの礼拝堂に通って、幾度も聞いたあの言葉。

 

特にマリーとは良く関わっていたから、親しみがあった言葉だ。

 

「はい、お水」

 

「ありがとうございます…」

 

実は言うと、マリーが爆発に巻き込まれる前にここら一帯のクレイモアは排除して、手製の虚仮威し爆弾を置いといてあった。

 

「…ごめん、てっきり襲撃かと」

 

回収したクレイモアを自身で起爆し試してみると、『複製』によってすり替えられ、威力が数倍にもなっていてこれを喰らえばキヴォトス人でも大きな怪我を負っていた所だろう。

 

(ふーむむむ……誰がどうしてどうやって…探偵ものみたいに……)

 

「補習授業部には白州アズサさんとーーーーさんを訪ねに……」

 

(まぁ十中八九、ゲマオバの仕業だけど)

 

「いじめの……」

 

(にしても……どうしようかな、一回〆に行くか…確かマリーが来た後に……)

 

“……デミ”

 

「ん?あ、はい」

 

“呼ばれてるよ”

 

「はい?」

 

「いじめの被害者から御礼を二人にと」

 

「あざっす?」

 

「数に物を言わせ、ただ理由も無く弱い対象を虐げる行為が目に余っただけだ」

 

「その後、アズサさんに腹を立てた方が正義実現委員会に連絡を取り……どこで情報が歪曲したのか、正義実現委員会とアズサさんのそれなりの規模の戦闘に」

 

困り顔で話すマリー、それもそうだ、いじめから救った張本人が何の因果か正実に追われる等と、理不尽もいい所である。

 

「んーー? ……なるほど、あの時っすか」

 

思い出してみれば、腹立つ顔をした上級生共を、活動中の『事故』でぶっ飛ばした気がする。

 

「ああ、初めて会ったデミに『一緒にボコボコにしよう』と提案された時だな、何やら携帯を触ったと思ったら襲いかかってきたのはそういう事だったのか」

 

「な、何やってるんですか…」

 

「まぁ成り行きっす……それとその子には言っておいて下さいっす、マリーちゃん」

 

「例え虚しくても」

 

「抗う事はやめてはいけない、だな?デミ」

 

お互いに目を伏し、共通認識かの様に暗黙の形で繋がりあっていた。

 

「分かりました、そのように伝えさせて貰います…」

 

軽く会釈をするマリー、礼儀作法の一動作が美しく見えるのは、それほど普段から身に染みる程行っていることなのだろうと思う。

 

「…マリーちゃんも元気そうで何よりっす」

 

「はい…デミさんも……それに、ハナコさん……」

 

「マリーさん……お元気そうで、何より………玄関までは私がお送りしますね、さぁ一緒に行きましょう」

 

「あ、は、はい…それでは皆さんお邪魔致しました、先生も急に訪ねてきてしまってごめんなさい、それではまた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー夕方

 

 

皆に『少し外出する』と言って、合宿場から遠く離れた裏路地に私は今来ている。

 

 

「……黒服」

 

「ククッ…お呼びで?」

 

名を呼べばどこからともなく黒服が表れた、私の神秘の研究結果らしいが不気味なものだ。暗くなってきた路地裏に黒服の妖しく燃える炎が妖艶に映る、まさしく『密会』の雰囲気を醸し出している。

 

「今すぐにでも私を殺せる、もしくは神秘を堕とすものはあるか」

 

「……いえ、まだ完成とは言い難いものしか」

 

「…協定に添えなければ、こちらもやることはやらせてもらうぞ」

 

黒服との協定、それは相互不干渉の契約だ。私が研究に協力する限り、黒服からは研究成果の定期と、私に対する余計な干渉を止める事、同じく私もなのだが……ベアトリーチェに下手に活用されると面倒臭い事になる。さっさと切ってしまいたい。

 

「クックック…お待ちを、デミさん…未完成とはいえ、『どのようなリスクがあるか分からない』というだけで、ある程度形には出来ました』

 

「寄越せ」

 

「どうぞ」

 

手渡されたのは、無垢金の針の様なもの…感じる気配も特に特異なものは無い。ただ丁寧に装飾の施されたその針は、一目で『特別品』だと理解させられる。

 

「クックック、そのご様子ですと、中々に無茶を致したようで?口調も随分とお変わりになって」

 

軽口を流して質問をする。

 

「……これは」

 

「『固定』のテクストを付与することが出来る代物です、肌に刺してもらえれば、『処置』の最終段階まで進めれるかと」

 

「助かる、マエストロとゴルコンダにも成果は共有はしているのか?」

 

「えぇ、私だけでは解しきれない貴方という存在の解釈を、互いに議論し『崇高』に近づく…貴方という『在り方』に魅せられたマエストロは、彼なりの『崇高』の形を掴めた様で…」

 

「ベアトリーチェとの交渉は」

 

「…クックック、彼女とは………えぇ、まぁ……」

 

「うん、まぁそれで分かったよ、ベアトリーチェ、先生の事嫌いっすよね〜『敵対者』としてうんたらかんたらって、別にアイツの性格の悪さが変わるわけでも無いのに」

 

「……貴方の歯に衣着せぬ言い方は、時々私でさえ困惑してしまいますね」

 

「事実、お前らゲマトリアは、生徒を観測する立場ではあるが、その逆…己自身の観察を誰かにしてもらわなければ神秘に近づけない『可能性』を失った者たちだろ?だから『恐怖』側に近づくしかなかった」

 

「それは醜悪さと愚かさと力を兼ね備えた、正に大人っす。シンプルに性格悪いのはそこっすよね〜…まっ、先生が来たからアンタ達も漸く報われるんじゃないっすかね?」

 

「報われる…と、私達がですか…?」

 

「先生は、アンタらの終着点だという事は薄々分かってるっすよね?『大人』であり、世界からの愛を一身に受ける『先生』であり、ゲマトリアが答えを得る為のテクストでもある」

 

「恐らく、アンタら先生が居なきゃ、私に殺されて終わりなだけの人生だった。『先生』に対する『敵対者』である事、それに付随して崇高に対する知見を得る事は貴方達が選んだ事じゃない、与えられたものだ……先生は、この世界における『救世主(答え)』なんだから」

 

「それで漸くって事っす、貴方達は方舟(希望)を見つけたんじゃない、見つけられた……どこまであの連邦生徒会長が理解していたかは分かんないっすけど」

 

ゲマトリアとは、先生と明確に敵対してしまえば、物語上必ず打ち倒される『舞台装置』に成り下がる。ベアトリーチェはそうやって先生を理解しようとしたのが運の尽きだ。実際、ストーリー上、ベアトリーチェ以外のゲマトリアは戦闘を起こす事は無かった。『先生』というテキストに呑まれた時点でゲマトリアには対抗する手段は無い、あくまで『大人の戦い』を続けなければ負けが確定しているのだから。『悪人』であって、『悪役』になってはならない、ベアトリーチェはそこを違えた。

 

「……………なるほど、私達は『観測される側』になったと」

 

深く思案する様子を見せ、顔…?を顰め、上の空を見続ける黒服を横目に、針を肌に刺す。

 

「がッ…!!痛ったぁ……ぉ…な、これ……ぎぃっ…」

 

魂が直接削られたかのような痛み、毒虫にゆっくりと溶かされ、齧られるような気分だ。

 

「ぉっえっ…!! はっ…はっ……はぁっ…まぁ…これぐらいなら、大丈夫っすね」

 

「…効きが薄すぎる……?デミさん、貴方はどれほど…」

 

私の反応を見て黒服が怪訝な様子を見せた。

 

「え?これで効き薄い?」

 

割と痛いし面倒臭いこれをまだやらなきゃならないかと思うとため息がでる。

 

「………………ククッ、本数はありますので御安心を」

 

「へぁー…」

 

黒服から大量の針を貰い、それを保管するホルスターも貰って帰る事にした。

 

「デミさん」

 

帰り際に呼びかけられた。

 

「なんすか?」

 

「貴方の神秘と肉体を切り離す方法、つまり自害の目処が一応は立ちました、鍵は貴方が未だひた隠しにしている何か……恐らく、記憶でしょうか」

 

「………」

 

「ゴルコンダによると、貴方は何重ものテクストが重なり合った状態にあり、それを紐解く事は私達では不可能でした……ただ、議論を重ねる内に、テキストの重なりの原因は『ズレ』にあるかと思いまして」

 

「貴方自身が保有しているその記憶と、キヴォトスの生徒から向けられるテクストにズレ、そして…貴方自身の神秘が自己定義を常に行い、その証明をし続けているならば……今、貴方の肉体に向けられている意思を切り離せさえすれば、貴方の『記憶』は正しく顕現し、それを破壊できるかと」

 

「……何が言いたい?」

 

「簡単なお話です、デミさん」

 

「ーーーーーーーーしてください」

 

「……………は?」

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