ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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等身大の心

「そ、れは…本気で言ってるのか?」

 

「はい、これからの必須条件になるかと……それと、貴方の力もそろそろ抑えるのが難しくなっているのでは?」

 

「……さては、ここまで分かっていて?」

 

「ククッ…!私からはなんとも」

 

濁した返ししかされないのが腹立つ、ただ事実でもあるのが更に腹立たしい。

中々に長い期間行ってきた処置も、この前ので全て台無しになった。この無垢金の針の力もいつまで効力があるか。

 

「………」

 

路地裏の壁に手を付ける。

 

「っ、おぉ…!!なんという……!漏れ出す一欠片でさえ現実が歪み……いや、侵食されている…!」

 

触れた部分に、私の肉が侵食し、爆縮するとその部分だけが喰い潰された様に無くなった。肉体の再生機能の流用だけでこの有様だ。シンプルな身体能力だけでなく、恐怖に犯され、また神秘で形作られる私の肉体はどうなってしまっているのだ。

 

「…なるほど、先生達が死力を尽くして勝てない訳っすね」

 

夢で幾度も見た光景、ネルが、ヒナが、ホシノが、キヴォトスにおけるトップクラスの実力者が先生の手の中にある状況で、私は全てを壊した。つまり今のままではあの光景は……実際に訪れてしまうだろう。

 

きっと私の意思に関わらず世界は求める筈だ、世界にとっての『善い事(終わり)』を。それは私であって、私でない肉人形になるだろうけど。

 

「……」

 

帰って刺そうと思っていたが、気が変わった。

 

「っふぅ…………」

 

針を取り出し、何本も刺していく。

 

「ふぅ゛っー……ふぅ゛っー……!!ぐぅぅぅ゛…!」

 

「くろっ…ふく゛!」

 

「ククッ…いかがいたしましたか?」

 

「再契約だ…!! 全部…見せろ……!!」

 

「私を、早く殺してくれ、さっき言った事もする、お前からの条件を幾らでも呑もう、早く…頼む…!」

 

頭の中で想像してしまった、思い出してしまった、朝の光景を。

 

「…私は構いませんが……そうですね、計り知れない苦痛が待ち受けていますよ、肉体的にも、精神的にも」

 

「……ふぅっー…はぁ、黒服にしては珍しいっすね、そんな事話す様な人間じゃなかったっすよ」

 

「ククッ……いえ、そうでしたね…以前の契約書は燃やしておきましょう、今の貴方には必要ないご様子だ」

 

 

 

 

そうだ、そうだった!元よりなりふりかまってる暇など無かった…!!

 

 

 

『善い事をしたい』

 

誰にとっての?

 

『誰かにとっての』

 

何の為に?

 

『そうすべきだから』

 

何をするの?

 

『誰にも知られず、この世界の…隅っこで、消えて無くなる』

 

なんで?

 

『それが私の、善い事だから』

 

 

「皆に向けたこの感情も、この想いも、死体に宿った残り火でしかないから」

 

 

この行為に理由は無く、ただの電気信号だとしても。

 

 

「……ヒフミちゃん、ありがとう…!!」

 

 

彼女の献身が、私の背中を押してくれたのだ。そして思い出させてくれた。 そうだ、あの時私は自分に問いた、これから行う事を、自身の罪深さを…!自分の愚かさを!!

 

 

『私の全部を知ってもらって、そしてみんなと一緒に居たい』

 

 

『みんなが大好きだから』

 

 

あの時は、私は何故こんな事を言えるのか分からなかった、ただヒフミちゃんからの愛に溺れて、私も愛を叫んだ。

 

 

今なら言える、漏れだしたこの言葉以上に、私は、私は…!自分の信じる正義を、『善い事』をしたい!!

 

 

『私は善い事をする』それは皆が、これ以上不幸にならないように、私という最大の不幸を消す事で、私は『善い事』を、自分だけが持つアイデンティティの終わりを迎えられる。

 

 

 

「…やっぱり、大好きだよ、ヒフミちゃん!」

 

「クックック、なんとも酷い表情をしながら明るく話すものですね、デミさん」

 

「あ、そうだ…お墓、作らなきゃ」

 

「私が手配致しましょうか?」

 

「黒服はそこら辺ワビサビが無いっすよね〜……ロマンに欠けるって奴っす、先生は分かってくれるのになー…なんていうか黒服って良い男ではあるけど、そこ止まりで進展しないタイプというか…」

 

「ククッ…………クックック……」

 

「……傷ついてる?今度カイテンロボのプラモ一緒に作ります?とりあえず帰るっすね」

 

「最後にもう一つだけ」

 

「…まだあるんすか?」

 

「これを」

 

ハンカチを手渡される。

 

「…?」

 

 

「顔を拭いて下さい、今の貴方は弾みで生徒を殺してしまうでしょう、表情にお気を付けて」

 

 

言われる通り顔を拭う。

 

 

「…………あれ、濡れてる」

 

 

流れた涙の理由は、知らないけど。

 

 

「………」

 

 

その機能が働いただけなのだろう。

 

 

「ありがとっす」

 

 

 

 

 

なんともまぁ、哀れなものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーれか」

 

「ん?」

 

帰り道、路地の向こう側から声が聞こえた。

 

「誰か!」

 

駆けつけてきてみると、ヘルメット団の子が二人、片方は倒れている様だった。

 

「大丈夫っすか?」

 

「…っ!?鬼神……!!」

 

「あ、大丈夫っすよ、今は活動外っす」

 

「…な、なら、助けて欲しい!コイツが急に倒れちまって…」

 

「ほいほい」

 

倒れている子のヘルメットを脱がして、身体を診察する。

 

「……」

 

こうやって『肉体』の実感を得てしまうと、つい潰してしまいたくなる。

 

触診を続けてみたが、外傷も、違和感も無かった。

 

「ヘルメットの上から何か強い衝撃とか加えられる事ありました?」

 

「い、いや…何も」

 

「倒れ方は?」

 

「急にフラフラとしたと思ったら、私にもたれかかってきて……」

 

「ふーむ、最近この子何か食べました?」

 

「いや……最近は…」

 

「ん〜栄養失調と過労での気絶っすかね」

 

診断は、野良の子だとよくある栄養失調だ、食事にありつけることなく働いていたのだろう。

 

人体の構造は詳しく無い、無理に顕現を使ってこの子にどんな影響があるのかは分からないし、対応も出来ないので、1ヶ月分の栄養食品と飲み物、お金を顕現で出しておく、後で沢山…針ぶっ刺しとくか…。

 

倒れている子を膝に乗せて、頭を手で支え口に消毒した指を突っ込んで経口補水液を伝わせて軽く中に流し込んであげる。本来は点滴とかがいいんだろうけれど、生憎私は救護騎士団じゃないからやり方を知らん。

 

「うっ…ゲホッ!ゲホッ…!!」

 

「ちょっと起きたっすね、ほらこれをゆっくり飲んで下さいっす」

 

「ゴホッ…」

 

「あぁ…良かった…!!」

 

その後もある程度面倒を見て、立ち上がれる程に回復したみたいなので、出しておいた物資を渡して帰ろうとする。

 

「あ、おい!ちょっとまってくれ……えっと、名前は…」

 

「そういや鬼神って名称しか広まってないんすかね?まぁ…名前は…………鬼神で覚えておいて下さいっす」

 

「それでいいのか……と、とりあえず本当にありがとう…!!助かった、おま…アンタが通りかかって助けてくれなきゃ、私はこいつの傍で見殺しにするとこだった」

 

「別に良いっすよ」

 

「…アンタは何で助けてくれたんだ?『血に塗れた殺戮マシーン』の噂は嘘だったのか?」

 

「なんすかその通り名……恥ずかし、あ、いやまぁ…貴方が困ってたから、じゃ駄目っすかね」

 

「……アンタ、マジで良い奴だな…何度でも言わせてもらうが、本当にありがとう、この物資も…」

 

「私がやりたかっただけっすから、持って帰って下さいっす、誰かに奪われそうになったら私のお墨付きって言っといて下さい」

 

「恩にきるよ!これだけの恩を返せるあてはないけど……そうだ、これぐらいなら」

 

キラキラしたピンク色のケースに入った髪ゴムセットを手渡される。

 

「普段からヘルメットの中に長髪入れる為に必要なんだ、アンタも髪長いし、必要なら使ってくれ」

 

「…ありがとう」

 

…せっかくだし、使ってみるか。

 

「………」

 

「…………ぷふっ…」

 

留めれない、というかした事なかった。

 

「…………どうっすかね」

 

「ぷっ…!あはははは!鬼神の…ふひっw、出来ない事が……髪留め……w、ゲフン、済まなかった、笑うような事じゃねえ、貸してみな」

 

ぐちゃっとした完成を見せると爆笑された、やってくれるらしいので背中を預ける。

 

「………」

 

「せっかくだし三つ編みポニテにしとくか」

 

胸ポケットから取り出されたクシで髪をとかされて、触られ続ける。

 

「…常備してんすか?」

 

「ったりめぇだろ、髪は女の命、髪は何があっても綺麗にしとけ」

 

髪、か……髪の事を言われると、そういえば、と思い出す事がある。私の身体は基本原形から変わることは無い、爪が伸びない、身長も体重も変わらない。その中で髪もそうだと思っていたのだが……伸び続けているのだ、吹き飛ばしても爆発に巻き込まれても、変わらずゆっくりと伸びている。

 

「というか、お前…髪染めてんだな、何かボロボロ落ちてるぞ?」

 

「え?」

 

慌てて後ろ髪を触ってみると、ボロボロと髪染めがクシを通すにつれ落ちている。

 

「あ、おい動くな動くな」

 

「ちょちょ…」

 

制止され、半ば諦めながら髪を結われる、別にこの後も合う機会なんて無いのだから別に良いのだが。

 

「……へぇ〜地毛って白なんだな、スゲェサラサラしてるし……なんか良いシャンプーリンス使ってんのか?」

 

「特に…」

 

「天然物かァ……羨ましいな…………ほれ、出来たぞ」

 

手鏡を渡されて結われた自分の髪を確認する。何やら綺麗な髪飾りも着けてあった。

 

「……これは…」

 

「お返しのプレゼントその2だ、可愛いじゃねえか、普段からそうしたら良いのに」

 

「出来ないんすよ」

 

「……教えて貰え」

 

「うん、じゃ帰るっす」

 

「おう、本当に何度も言わせてもらうが感謝するぜ、私もこいつ背負って帰るわ」

 

「気を付けて帰るんすよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

髪飾りを触る。

 

「……」

 

溢れ、流れ出す涙の理由(ワケ)を知らず、顔を濡らし続けている。

 

名も知らぬ、誰かからのものなのに…

 

流れ出す涙の量は増える一方だ。

 

「……雨、か」

 

ポツポツと、冷たい水が顔を濡らした、先程まで暖かい水が流れていた分、余計冷たく感じる。

 

「あ……髪、濡れちゃう」

 

せっかく……なんだ、分からないけど、今の私はこの髪型を崩したくない。

 

「…………」

 

顔の上で、流れる温もりと当たってくる冷たさが攻防を繰り広げる。雨に紛れる事無く私の涙は主張を続けていた。

 

「…帰るか」

 

手で頭を隠しながら帰った。

 

髪飾りが手に当たる度、流れる涙は増えていった。

 

 




最近スランプ気味なので短めです……文章書くのって難しいね……シナシナ……。


純粋な感謝を伝えられただけで、泣いてしまう、無自覚に、理由を知らずに。
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