ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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少し辛めの食前酒

■数ヶ月前 シャーレにデミを送り届けた後

 

 

 

「まずは……剣先ツルギを含む、彼女以外の正義実現委員会の無力化をどうするか、ですわね」

 

「……一番困る奴よね、特に剣先ツルギって【トリニティの戦術兵器】なんて呼ばれてる化け物でしょ?」

 

車の操縦席に座るフウカと、その助手席に座るハルナは作戦会議を行っていた。目下の問題は、最大の障壁である正義実現委員会全体をどうするか……元より爆破逃げに徹することで、様々な窮地を逃げきっているものだから真正面からぶつかり合うなど自殺に等しい。

 

「何か相手方を誘導できるものがあれば良いのですが…」

 

頭を悩ませながら携帯をいじっていると、トリニティのゴールドマグロの記事が目に入った。

 

「……」

 

「そんなものある訳無いわよねぇ…」

 

「ありましたわ!」

 

「有るの!?」

 

幸運か奇跡か、起死回生の一手を見つけたかのような気分になる。この食材ならば、確実に正実を誘導し、なおかつヘイト誘導もできる。

 

「なるほど、確かにこれなら……」

 

「囮役はイズミさんに任せるとして、出来る限り長く引きつけてもらう必要がありますね……離さない距離で、なおかつ捕まらない距離で」

 

「徒歩じゃ厳しいわよね、私の車使う?」

 

いつも勝手に持ち出されたり、使われたり、美食研究会に迷惑をかけられまくっているフウカだが、今だけは、彼女たちよりも思想がダイナミックな方向に向いている。

 

「フウカさんの車は、貴重な移動手段です。囮役も大切なのですが…そこに使ってしまえば、戦略の幅は縮まります」

 

シンプルな話、この戦いは正実を引き剥がさずとも彼女に私たちの想いを届けるだけのもの……ただそれが暴力的な手段であるということをを除いては平和ではあるのだ。

 

「そうですね……ここは一つ、先生をダシに使わせてもらいましょう…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(“ハルナに頼まれてはいる……詳細は聞いていないが、彼女の真剣な頼みだ、これでいい”)

 

現在、先生たち、補習授業部はハスミとは一旦離れ、挟み撃ちの形でゴールドマグロを抱え移動する美食研究会の一員を追っている。しかし今現在追いかけてる座標は先生がハッキングし送っている誤った位置情報、ハルナ達が待機する廃ビルを指している。

 

「またあの馬鹿共…しかもフウカちゃんまで連れてるらしいっすね」

 

「デミ先輩……フウカさんっていうのは、いつも話している、あの?」

 

「そうっすね、不憫な子っす」

 

「…デミちゃんは、ゲヘナとも関わりがあったのですね」

 

「不思議がることもないっすよ、ただの友達っす」

 

彼女からすれば、ただの友達。だがトリニティーとゲヘナの間柄を知っていて、なおかつ、彼女が正義実現委員会所属であることを知っているのならば、それがどれだけ異常なことなのかが分かる。ハナコやハスミが苦い顔をするのは不思議な事では無い。

 

「先生、こっちの方角で本当にいいのか?中々の外れに来ているようだが…」

 

“ん、ん〜…えーっとね…”

 

苦笑いをする先生を不思議そうにアズサが見つめる。

 

「…もう、分かりやすいっすね、今ので大体察したっす」

 

Brrrrrr…

 

先生の言葉が詰まると共に、後方の曲がり角からエンジン音が鳴り響いてきた。

 

「この時間帯に、こんな場所で車…?」

 

ヒフミが疑問を漏らす、他のメンバーもそれに気がついたようで、後方を振り返ってみると……。

 

ドドドドドド………!!!

 

大量の爆発を振りまきながら走ってくる。暴走車が目に入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まず作戦の第一段階はフウカさんに、特定のポイントまでデミさんを追い詰めて下さい』

 

「ふぅ……」

 

頭でハルナに指定されたポイント思い浮かべる、あそこまで誘い込めたのならば、後は離脱するだけ。

 

「行くわよ…!」

 

先ほど連絡があって、先生の協力によってこのはずれまで彼女たちがやってきた、ペダルを思いっきり踏み込み、車の後部座席に積み込んである大量の手榴弾をばらまく準備をする。

 

「フ、フウカちゃん!?何してんすか!」

 

「フウカって誰のこと!!今の私は謎の給食部員!食に迷える人の為!今はデミちゃんを吹っ飛ばす!!」

 

「無茶苦茶っすよ!?!?」

 

爆発によって分断した彼女を車で執拗に追いかけまわす、知ってるのだ、彼女は絶対に反撃しない、そういう子だから。今までも悪意や害意に対して、驚くほどの慈愛を見せてきた。

 

「それを私が一番近くで見ていたからね…!」

 

彼女が本気で怒ったり、怒りで人を傷つける時は、決して自分に拠るものではない、いつだって人のために怒っているのだ。この作戦はもともと彼女が反撃した時点で、崩壊する脆弱なものなのである。

 

「ど、どうしてこんなことを…?」

 

「それを分かってないから追いかけてんのよ!馬鹿!!」

 

相変わらず自分に向けられる感情に疎い人、彼女らしくもあり、逆にそれは私たちが見過ごせない部分でもある。確かに今行っていることを客観視すれば意味不明だが、これはなくてはならない貴方への愛なのだから。

 

「うりゃぁーー!!」

 

「ちょっと待ってーー!?」

 

追いかけ回し、やがてポイントの場所に着く。

 

「ハルナ!!」

 

《ナイスなドライブテクニックでしたわ!フウカさん!》

 

通信機から届いたと同時に、残りの爆弾を全てデミへと投げて一旦離脱、これから始まるショーは、ハルナの独壇場だ。

 

「任せるわよ…ハルナ……デミに、一発ぶちかましてやりなさい…!」

 

その言葉に含まれる、祈りと、羨望は……走り去っていく車を見つめる彼女にも届くのだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誘いこまれたのは、周囲がビル群で囲まれた広めの平地、暗闇からカツカツと、ハイヒールの音が聞こえてくる。

 

 

 

 

「お久しぶりです、デミさん」

 

「……久しぶりっすね、ばかちん」

 

「バカはお互い様です」

 

「先生までグルみたいっすね、ずいぶんと用意周到で一体何がしたいっていうんすか?」

 

「えぇ……少し目の前のおバカさんにショック療法を行いたいと思いまして」

 

「本当に意味がわからないよ!?」

 

「その意味を貴方に教えるためにっ……ここに居るのですから!!」

 

そうやって吐き捨てると同時に、ハルナは愛銃を構え撃ち込んでくる。唐突の戦闘開始だったが、その銃弾を全て避けられ、じわじわと彼女が近づいてくる。

 

「……何がやりたいかは知らないっすけど、このまま先生が来るまで耐えとくっすよ?」

 

「くっ…アカリさん!ジュンコさん!」

 

呼び声とともにデミのいる場所に、グレネードランチャーの弾が降り注ぐ、デミの後からも、サブマシンガンの掃射が襲っていった。

 

「…フウカちゃんには無理強いてないっすよね?」

 

「……えぇ、彼女本人の意思ですわ」

 

不意打ちだったのにもかかわらず、無傷。わかっていたことだが……一番問題視していた剣先ツルギより彼女は……

 

「厄介、ですわね」

 

「こっちが言いたいんすけど?」

 

話しながら銃弾を打ち込む、それをキャッチされた。

 

「………」

 

「もう!ハルナ!話に聞いてたよりずっと化け物じゃない!?どうするのよこれ!!」

 

「ジュンコさん…お話、ちゃんと聞いてなかったんですね?そもそも通常の戦闘で彼女に勝つ事は不可能だって」

 

「じゃあ本当にどうするのよ!?」

 

「…先手必勝、ですわね」

 

懐から起爆スイッチを取り出し、頭にはイズミとフウカの事を思い浮かべる。フウカには今逃げ回っている彼女の回収を頼んでいて、それが済み次第先生を妨害しながら、この場所に来てもらうことになっているのだ。

 

そう、まず通常の戦いであれば、私たちは彼女に敵うはずが無い。何度も捕まえられた経験から、それは重々承知している。しかし彼女最大の弱点と言って良いものを、その戦いの中でも学んだ。

 

「貴方は、優しいお方ですから」

 

『EAT and SAVE』そういったものの、この戦いにかける心の持ち様は『EAT or DIE』の方が近い。

 

「貴方の為なら…命を賭けれます」

 

起爆のセーフティーのために用意した十分間、それを耐える必要がある。実は言うと、彼女が到着してから既に押してしまってはいるのだ……故に...残り時間は、あと五分……!!

 

隣に立つ美食研究会の二人を見つめる、さすがにこれに巻き込むわけにはいけない…時間ギリギリには離脱をしてもらわなければ。

 

「なるほど…そうっすか、みんな…優しくて、本当に良い子なんすね」

 

「っ…!」

 

彼女の目の色が変わる、今の私たちの行為が…何がかは分からないが、自分の為のものであると察したのだろうか。急激に色を失って……また、あの悲しい目をし続けている。

 

「アカリさん!ジュンコさん!!」

 

「フウカさんのお寿司、楽しみにしときますよ〜!」

 

「先生から沢山ご飯奢って貰えるって約束は本当でしょうね!?むむむ…やるしかないじゃない!」

 

イライラが治まらない、彼女自身が己のその価値を下げているのだ、高級食材が自分の手で自分に泥を塗りたくったら、腹が立ちたくもなるだろう?自分を認めないということは、認められている自分を否定し、その評価を無駄にするという事……人に左右されないものも大事だが…彼女はそれが過ぎる…!!

 

「少しは…!」

 

棒立ちしているデミに三人で突っ込んでいく、あの目をしてから、彼女は避けることを止め、その身にすべての攻撃を受けていて更に腹が立つ。

 

「自覚してくれると、嬉しいのですが…!!」

 

貴方が自分を否定する度、貴方のことを思っている人を傷つけていることを自覚して欲しい。貴方への好意を、想いを、貴方の手で無駄にして欲しくない、それを言っても分からないから……!

 

「ハルナ…ジュンコ、アカリ…」

 

「イズミちゃん、フウカちゃん……」

 

「………優しいんだ、みんな…優しくて、賢くて…強いね」

 

ボソボソと呟くような声で聞こえるその言葉に、我を忘れてしまう。

 

「羽音デミさん!!」

 

「…急になんすか」

 

「私たちでは!貴方の敵にはなれませんか…!私では、貴方の美食にはなれませんか……?私と貴方は…友人では無かったのですか………」

 

「……友人っすよ、今までも、これからも」

 

「ハルナにそんな顔させておいて、のうのうと言ってくれますね〜…!!」

 

鬼のような顔して、アカリがデミに殴りかかっていく、暗い熱意が籠ったその目が未だ棒立ちのデミの目を捉えた。

 

バキッ…!

 

頬を殴りぬける。倒れ込んだ彼女を抑え抵抗をさせない。

 

「…でも、ハルナもまだまだっすね、舐めすぎっす」

 

「…貴方の事は別に……」

 

「違うっすよ、生徒が危険な目に合いそうな時…飛んでくるヒーローが今は居ますから」

 

「…!」

 

「まさか…!!」

 

彼女の目線が、私たちを外れていた。

 

Brrrrr……

 

“…ごめんね、ハルナ……君の頼みを叶えたいけれど、それが私の生徒を傷つけてしまうものなら……”

 

“一度、話し合うのが先決かな”

 

「…失態、ですわね」

 

「美食…研究会…!!デミを、離しなさい…!!!」

 

向かい側から給食部の車に乗り、簀巻きにされたイズミと、悔しそうな顔しているフウカ……そして補習授業部と、羽川ハスミが現れた。全てを話してこなかった弊害がここに出てきてしまった。

 

「ど、どど、どどどどうすんのよ…!?」

 

彼女を誘い出し、時間にして、たった、たった五分…!それでここまで事態を収めている先生は、今はデミをも超える最大の壁として立っていた。時間が間に合うのか、話せば納得してくれるのか、どうすればいいのか最大限考える。

 

「……ハルナさん」

 

「……」

 

思いつけ、今だけでもいい、何か起死回生の一手を………

戦力差は既に負け戦を超え、敗北が秒読み…尚且つ時間もまだ…四分はある。

 

「…」

 

“ハルナ、君がデミを襲った理由は……デミの為だね?”

 

「え、デミちゃんの為…?先生、一体どういう…」

 

「……!!」

 

彼女の為、そうだ、彼女の為…!

 

「今!ここに居るものに問います!!」

 

大声を出して叫ぶは、いつも通りの危機に訪れた起死回生の策…!

 

既に怒りに満ち溢れ、デミを拘束している美食研究会へと走り出しているハスミの足が止まる。

 

「デミさんに、腹が立ってはいませんか?」

 

「何を…」

 

「彼女に!見て貰えなくなっていませんか!」

 

「…ぁ…っ!」

 

この中で、ヒフミだけが声を漏らす。ヒフミだけは既に彼女と話し合った仲だからだ。

 

「本当は、しっかりと目を覚ましてもらいたいけれど、足踏みしている方…いらっしゃいますよね?」

 

一か八か、ただの煽り文句だが…それに対しての反応は……。

 

「………」

 

「っ…」

 

「あ、あぅぅ…」

 

三名

 

顔を顰めたのは、ヒフミ、ハスミ……ハナコ。

 

「美食家として…先に…私たちが頂きますわよ?」

 

ゲヘナ生からの煽り、それは容易くハスミとハナコの琴線に触れた。

 

「貴方達…!!」

 

「…デミちゃんを離して貰えると、良いのですが」

 

“…っ!待って、二人共”

 

先生は生徒の感情を良く理解している、が故に…そこに銃を向け合わなければいけない程の怒りが含まれれば、止めざるを得ない。

 

「隙あり、です☆」

 

サププランに用意しておいた、『彼女が納得するまでボコボコにし続ける』為に用意しておいた、逃げられない為に建物を崩して周りを埋める為の爆弾のスイッチを、アカリが押した。

 

ドガァァァァァン!!!

 

「キャッ…!」

 

「っ、先生!」

 

「ここまでするとは…!美食研究会…!!」

 

“くっ…やるね、ハルナ…!”

 

ここまで私たちが暴走するとは先生も想定外だったのだろう、生徒を庇いながら瓦礫が落ちてくるこの場から退却させている。

 

「先生…!退いて下さい!!」

 

それでも突っ込もうとしているハスミを先生が引き留めている。

 

“……ハルナ”

 

「はい、先生」

 

“良いんだね?”

 

「頑張ります」

 

“頑張って…!”

 

「はい!先生!」

 

タブレットを取り出し、先生はハスミをこれ以上止められない事を察知して気絶させる。

 

“アロナ”

 

「ぐっ…!?」

 

瓦礫の向こう側、先生に手を振って感謝を伝える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“……”

 

「せ、先生」

 

“なんだい?フウカ”

 

「えっと…その」

 

“大丈夫、私も一緒に謝るから…今は、ハルナに、美食研究会に任せよう”

 

「っ、はい!」

 

フウカの表情を見れば、彼女達がやりたい事の輪郭が分かった。

 

「…先生」

 

“ハナコ……”

 

「……いえ、すみません…何でも…」

 

“君がそう望むのなら、良いよ”

 

「…………本当に、先生はエスパーなのでしょうか?」

 

“エスパーでもなんでもないさ、未だたった一人の生徒の顔色さえ伺えないからね”

 

「……」

 

『私も、ああやって本音をぶつけたい』

 

本音を先読みされたのは、人生で初めての経験だった。

 

“ただ、今だけ、今だけは…”

 

“ハルナの、独壇場だね”

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