ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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メインディッシュの行方

「さて…これでようやく、ですわね」

 

 

「…なんで、わざわざこんな騒ぎ起こしてまで私に会いに来たんすか、呼べば行くっすよ?」

 

 

「この行動の是非を問うのならば、…ゴールドマグロさんを奪い取り、正義実現委員会のメンバーに喧嘩を売り、建物を壊し…まるでテロリストの様なものなのですが」

 

 

「え…驚いたっす、ハルナってちゃんと客観視出来たんすね?今までが今までなんで、てっきり無自覚だったのかと」

 

 

「…美食の為ならば、というものです」

 

 

拘束から解かれた彼女と向き合った、瓦礫が降り注ぐ中、軽口を言い合うが互いに目は笑ってない。

 

 

「本当に何がしたいんすか、美食の事以外に興味無いでしょうに」

 

 

「デミさん、私はこれからも貴方を襲い続けますよ、貴方が私たちを敵と思うまで…全てを賭けて」

 

 

「へ?ちょ、ハルナ何言ってんのよ?そもそも私たちゴールドマグロを食べに来て、それでデミって奴が邪魔だから……」

 

 

「ジュンコさん、あれ嘘ですから…今はハルナのワガママに付き合って下さい☆」

 

 

「は?嘘?ゴールドマグロは?」

 

 

「きっと今頃正義実現委員会の手の内ですね〜」

 

 

「えぇぇぇ!?」

 

 

「相変わらず騒がしいっすね、バカとバカとバカ」

 

 

「んんっ…何故、こんな事をするか、でしたね」

 

 

咳払いをして場を宥めて、あの言葉に対する返答をする。

 

 

「私の美食を肯定するためです」

 

 

「はい?」

 

 

「私が見定めた貴方が、自らその座を降りようとしている…腹が立ちませんこと?」

 

 

「そんなもの要らない、それは向けられるべき感情じゃないと、己の価値を認めぬ今の貴方は……たいそう腹が立つんです」

 

 

「だから貴方の目に、貴方自身が映るように…何度でもデミさんの敵になります、何度でも、貴方に危害を加えて…私を見てもらおうと思って」

 

 

「テロリスト思想隠さないようになってきたっすね?」

 

 

「茶化さないでください、デミさん……もう一度聞きます、私では、私たちでは、貴方の敵になれませんか?貴方の目に映れませんか?私の美食にはなってくれないのですか?」

 

 

想いもなにも、これが全て。確認したいのだ『私たちでは駄目なのか』と、デミを引き戻すには私では足りないのかと。

 

 

「………」

 

 

「…返事を下さいませんか?」

 

 

「……」

 

 

「…っ!返事をしなさい!羽音デミ!!」

 

 

ここで、ここで言葉に詰まってしまうのか、あの彼女が…この質問で。

 

 

『美食ぅ〜?何が何だか分かんないっすけど、みんなと一緒にご飯食べたら美味しいって話っすよね?別に良いっすよ、ハルナとご飯食べるのは……食べるだけなら楽しいし…これからも宜しくっす』

 

 

 

 

「……」

 

 

「無理っすね」

 

 

「……ぇ」

 

 

「だって、あんたらテロリストとご飯食べてたのも…来たるエデン条約で私の立場が悪くならない様にってだけっす、ティーパーティーの後ろ盾が欲しかっただけというか」

 

 

「あん?何よこいつ!性格悪いわね…!」

 

 

「……」

 

 

「敵だとかなんとかは……まぁ好き勝手やって下さいっす、なんなら私の方から敵になりに行くと思うんで」

 

 

「…イライラさせる為にわざといってます〜?」

 

 

アカリがイラつく原因、それは彼女のセリフに対してでは無い、嘘だと分かりやすすぎる演技にある。そんな事を…言いながら、人はそんな顔を出来ないから。

 

 

「…そのチグハグの正体…その言葉の真偽、教えて貰いましょうか」

 

 

「良いっすよ」

 

 

バン…!

 

 

「…な!?」

 

 

…撃った?撃ったのか?彼女が?

 

 

拳銃から放たれた弾丸は、ジュンコへと飛んでいき命中した。バタりと弾が当たった彼女は倒れ込んでしまう。ヘイローも消えていた。

 

 

「ジュンコさん…!?」

 

 

傍まで駆け寄ると…どうやら気絶していたようだ、高々小型の拳銃の弾一発だけなのだが…。

 

 

「ほら、アカリもハルナも抵抗しないと」

 

 

「くっ…!」

 

 

一歩一歩近づいてくるデミに対して、銃弾を放つが…結果は最初と同じ、全て避けられる。

 

 

「…あんまし口悪い事は言いたかないんすけど…美食研究会のみんなは、私以上の馬鹿っす、それともゲヘナじゃ策略とか謀略とかに出くわさないからっすかね?危機管理能力が無いっす」

 

 

「騙される方が悪い、中々クソみたいなセリフっすよ、本当」

 

 

…何故か分からないが、彼女は嫌われようとしているのか…?そんな演技力でか?

 

 

「…ふふっ、本当に不器用ですね、貴方は」

 

 

「ここ笑う場面じゃないと思うんすけど」

 

 

いや、笑う場面だ…世界一の大根役者が目の前でわざわざ下手な演技を見せつけているのだから、笑いが漏れだしてしまう。

 

 

そうこう話している間に、時間だ。

 

 

「アカリさん!ジュンコさんを連れて…!」

 

 

「…!離脱の時間ですか…!」

 

 

「…時間?」

 

ジュンコを連れて離れていくアカリ、そこを追撃しないのもなんというか…彼女らしい。

 

 

ズドドドドド…!!

 

 

「一体何を…」

 

 

地響きが鳴り響く、莫大な質量を持った何かが動いているかのような音だ。車か?戦車か?鳴り響く音は段々と近づいている。

 

 

「ハルナ、何をしたんすか?」

 

 

ずっと気にしていた時間、それの正体は……。

 

 

「ドミノ倒し、デミさんも知っていますよね?」

 

 

有名な遊び、ドミノ倒し。幾つものブロックを並べていきそれを倒すだけの遊びだ。

 

 

「あ、うん…それが?」

 

 

「それをしました」

 

 

「んん??」

 

 

ドゴォン…!!!

 

 

ゴゴゴゴゴゴ…!!

 

 

全方位から爆音が鳴り響いていく。

 

 

「…………なっ!?」

 

 

「こういう事です」

 

 

()()()()()()()

 

 

周囲の建物内全てにありったけの爆薬を仕込んできた、温泉開発部協力の元完璧な角度、完璧に全ての建物の残骸がここに一点集中して降り注いでくる。

 

 

「こ…れは…!流石に…っ!!ハルナァ!!」

 

 

痛々しい眼がハルナを見つめる、そう、流石にこの規模の崩落に巻き込まれればキヴォトス人でも重症、または…死ぬ危険性はある。今頃先生は全速力でここに向かってきているだろう…そういう人だ。

 

 

「『EAT or DIE』…私は、食べるか死ぬかしか、ありませんので」

 

 

「そういう問題じゃ…ぁ…これは…せ、先生の!」

 

 

私の視界にもここからの逃走ルートの最適解、そして身体の周りに薄く青白い膜の様なもの、バリアと思わしきものが展開されるが……彼女に邪魔される前に、手榴弾のピンを抜く。

 

 

「な、なにして…駄目!」

 

 

ボンッ…!!

 

 

バリアが壊れる。崩壊したビルが既にこちらに向かって傾き始めていた。

 

 

「うふふっ…ようやく、貴方らしい目になってきましたね」

 

 

「ぅ…ど、どうすれば…いや、出来る、なんとかできる…!」

 

 

分かっていないのだろう、既に貴方(羽音デミ)というメインディッシュに対して、(黒舘ハルナ)という代金を、支払っているのだ。貴方はもう私の美食の卓上の上、後は貴方が…応えるだけ。この支払いに、先生の賭け金は乗せられない、今、この状況は文字通り…私だけの独壇場だ、誰にも邪魔させやしない。

 

 

「本当に分かってなかったのですね?私は命を賭けれる、全てを賭けれると言った筈」

 

 

恐らく、助かったとしても矯正局送り…何があっても許される事も無いし、エデン条約にも大きな影響がある、それは大きな悪名が響き渡るだろう。

 

 

これから先、一体どうなるかは分からない……元より、『先』まで賭けてここに居る、私の命を、私の…本当に全てを。それを察したのかデミの顔は更に青ざめていく。

 

 

「な、なんでここまでして…!!」

 

 

「私は同じ事を三度は言いません、羽音デミ、貴方の返事を聞かせて下さい」

 

 

「だからそれは…!」

 

 

「逃げないで下さい!!!」

 

 

「…ぅ」

 

 

「私の全ては、貴方にとってどれほどの価値があるんでしょうか?その様子を見るに、端金とでも言いたそうですね?」

 

 

「そ、そんな事ないってば!」

 

 

「ならば、どれほどの価値があるのか……証明してください、貴方の中の、代金を私に」

 

 

その言葉を聞いたデミは、苦虫を噛み潰したような…いや、まるで今実際にかみ潰しているかと錯覚するほどの表情を見せる。

 

 

「…本当に違うんだよ、ハルナ……価値だとか、要るとか要らないとか、なれるなれないんじゃないんだ」

 

 

「大切なんだよ、みんなが、本当に大切で、大好きで……ただただ……それだけだからさ?本当にそれだけなんだ」

 

 

「だから、今だけは降参して欲しいっす、ハルナ……全て、元通りになるから」

 

 

いつまでも分かってない、それを逃げているというのだ。それだけのはずが無い、そうやって言いたいことをお腹の中に隠して…苦しくないよって、バカなのだろうか、バカだった。

 

 

先生は…あのカードに射程があるかは分からないけど、絶対使う…!

 

 

「デミさん、ここに来て私以外の話ですか?」

 

 

倒れかけているビルが目に映る、こんな状況で、タイムリミットは少ないというのにまたうだうだとしている彼女に腹が…………なるほど?

 

 

「………デミさん、もしかしなくても…身に不相応な何かしらの力を、手に入れてしまって…【何とかできるから】そうなってしまったのですね」

 

 

「ぁ?は、いやそんな」

 

 

「なるほど、貴方がそんなにも苦しがってるのは何か理由があるかと思っていましたが……心が、その身に宿る力に釣り合っていませんでしたか、私はここに全てを賭けて来たとしても、貴方は【その後】を考えている」

 

 

「今から目を逸らす事の代償を、貴方は無視できる力を手に入れたのですね?恐らく、貴方の知る友人が全員命を懸けたとしても、貴方は向き合わないでしょう、貴方一人だけが【ここにいない】」

 

 

「それを自覚していないから、貴方自身が己を見失う……やはり私の方法は正解でしたか……貴方のようなお馬鹿さんは、叩く事でしか治らなさそうです」

 

 

「……ぁ…い……いや、違う…」

 

 

その言葉達は、デミの頭にクリティカルヒットしたらしい。こんな表情をするのは…フウカが攫われた時以来だろうか。

 

 

「……違わなく、ないのか…そうか、先生は………わざわざ…終わるまで付き添うって、そういう事…?」

 

 

「…デミさん」

 

 

「…うん、ごめん、ハルナ……言う通りっす、だからこそ…私は止まれッ…!?」

 

 

「…っ!」

 

 

ガラガラガラガラッ…

 

 

もう頭上にまで迫っていたビルから崩落した瓦礫がハルナを襲った、窓ガラスや鉄骨等が高速で降り落ちてくる、ハルナはこの中で傷を負えばおそらく倒れ込んでくるビルまで耐えられやしないだろう。

 

 

ガゴォン…!!

 

 

「大丈夫っすか!!ハルナ……怪我は…良かった、何処にも無い、身体のどっか強くぶつけたり…」

 

 

私の身の丈程の瓦礫を殴り飛ばして助けてくれる、降り注ぐ鉄筋やガラスからも身を呈して庇ってくれていて、彼女の身体からは鮮血も流れている、それが今は悲しい。

 

 

「デミさん、今…どんな思いで助けたのですか?」

 

 

「何を馬鹿な事言って…!!大切なハルナが危険な目に合いそうで…どんな思いとか関係無いっす!なんで怪我しそうになってまで…!!」

 

 

「…何故、分からないのですか……?それが貴方でしょうに…目を背けて……貴方がそうやって、自分を犠牲にしてまで人を助けるのは、何も貴方だけではありません…!」

 

 

「デミさんが救ってきた皆さんも、今貴方が述べた事と同じ様に、貴方を想っているのですよ?無視しているのは貴方だけです!分からないのですか!!」

 

 

この場にあの巨大な質量が落ちてくるまで、残り数秒と言った所か、その数秒で少しでもいい…少しでもいいから、貴方に…想って欲しい、貴方が生きてる理由を、貴方が存在している価値を……!

 

 

「最期にもう一度聞きます」

 

 

「貴方は、私にとっての美食、私は貴方にとって、なんですか?」

 

 

「ぅ……ぐ…」

 

 

「応えなさい!羽音デミ!!私は貴方にとって、居る意味は無いと言いますか!!!」

 

 

「っ…ハルナ!ハルナは、私の友達…!馬鹿な事ばっかりするし、迷惑ばっかかけられるし、美食とか訳わかんないし…!」

 

「けど!ハルナは私の大切で、大好きな、親友だと…思ってるっす、フウカちゃんも、美食研究会の全員……!覚えてない訳無いじゃないっすか…ハルナとの思い出を、分かってないわけ…!!どれだけ大切だと思って…こんなバカなことして!!」

 

 

「……ふふっ」

 

 

やっと引き出せたと思った、私の美食を。

 

 

「…だから」

 

 

「…?」

 

 

「だから、止まれないっす、その想いの分だけ、私は罪深い」

 

 

「私が想う、皆が想う『私』は…とてもとっても大切な宝物、けれど、私は愚かな罪人なんだ、その咎を今、支払っているだけ…だから、心配しなくても大丈夫」

 

 

「デミさ…ッ!?」

 

 

輝き出す彼女のヘイロー、そして気づく。

 

 

「それでしたか…!!それが貴方に付いて離れない、害悪ッ!!」

 

 

彼女に向かって銃弾を放つ。

 

 

「ごめんね、ハルナ…私の大切な宝物…神秘、解放」

 

 

 

 

 

「神性顕現ーー開始」






本当は親友だと思っていた子からの、熱烈なアプローチ。そして本来の自分は、皆からの想いを無駄にし、羽音デミを食い潰す害悪、偶然にもハルナの放った言葉は…確かに本来の『私』を指し示していた。この世界で最初で最後かもしれない、唯一届いた言葉であった。


何でもできれば、視野は当然広くなる。その分見落とすものも増える。何でもできるというものは、使うだけに非ず、その心、その在り方に甚大な影響をもたらすものだ、元から変わっていたものだとしても、確実にデミは歪み、壊れていっている。いつか誰かが目の前で死んでも何も思わなくなるだろう。【何とかできる】のだから、貴方一人だけが。
その醜悪な心は、すぐに見つかるだろう。

故に、全てを晒せない、愚かな貴方は、変われない。止められるのは、走りきった後だ。いつしか皆、すぐにその変容に気づく、今は感の鋭かったハルナやヒフミに言われたが、きっと皆から話されるようになるだろう、【どうして】と。このステージは確かにハルナの独壇場だったが…先生とデミは、元よりこの世界での二人芝居、二人は認めないだろうけれど…選択はすぐそこまで来ている。


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