ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

59 / 119
そしてまた一歩

「せ、先生…あの二人の怒った所を初めて見たのだが……先生?」

 

 

向かい側で苛烈に絞られているデミを見て、アズサは先生に話しかけるが、先生はアスファルトと向き合って深く集中している。

 

 

“……ん、あぁアズサは知らなかったね、デミはよく無茶をし過ぎて怒られてるんだけど、未だにそれが治らないから……みんなあんな風に叱ってるんだ”

 

 

先生はそういって、何の変哲もないアスファルトを撫でる。

 

 

“…即蒸発したか、これは……アロナ、記録を” 「既に撮影してますよ!先生!」

 

 

今先生が言っていたことはよく分からないが、皆が怒っている理由を理解したアズサは納得、といった表情でデミの方向へ駆けていく。

 

 

「…… ふむ、そもそも彼女の強さなら怪我をする事は無い筈だが…あの無茶の仕方は私も腹が立ったな…行ってくるよ先生」

 

 

“あ、あはは、手加減してあげてねー…”

 

 

アズサと入れ替わりで、狼狽えて脂汗をかきまくっているハルカがトコトコと先生の元へと歩いてくる。

 

 

「せ、先生…わた、わたし…」

 

 

“大丈夫だよハルカ……君が悪い訳じゃ無い…それより、ほらみんなが迎えに来てくれてるから、そんな顔しちゃダメだよ”

 

 

片手をハルカの頭に重ね、涙目になっている彼女を慰める先生、ハルカが罪の意識を持つ事がないように優しく胸へ抱き寄せて、そのままの形で便利屋に引きずっていく。

 

 

「ハルカ!良かった…」

 

 

「先生、ありがと」

 

 

“ハルカを助けてくれたのはデミだから、お礼なら彼女に”

 

 

「…ごめん、その様子を見るに、怪我させちゃったのかな……それに先生って今、トリニティに出張中なんでしょ?私達ゲヘナ生が迷惑をかけたら…」

 

 

“大丈夫だよ、この件は別にカヨコ達が悪いわけじゃない、ハルカの他にも暴走している生徒は居るし、少なくとも害意を持った誰かの責任だ”

 

 

「先生は本当に優しいね……これ以上私達がここにいたら、トリニティに目を付けられちゃうから、撤退させてもらうよ……またね?先生」

 

 

“うん、またね、カヨコ”

 

 

カヨコと先生が会話をする裏で、ハルカをアルが抑えていた、またもや暴走しそうになっているハルカをみかねて、カヨコは会話を切り上げて帰っていく。

 

 

“みんな〜!またね〜!”

 

 

「ちょ、ちょっとハルカ、私は大丈夫だから……え?もう帰るの?せっかく先生に会えたのに……」

 

 

「くふふ、またねー!先生♡」

 

 

「社長、正実がもう向かってきてるから早く行くよ」

 

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“……さて”

 

 

先生が首元をさする、ヒナに心配されて以降アロナのホログラムによってチョーカーを上から隠しているのだが便利屋の皆にもバレてはいなかったようだ。

 

 

“アロナ、クラフトチェンバーから試薬品を、今回は…七番かな”

 

 

「了解しました、前方二メートルの範囲に転移させます」

 

 

一歩後ろに引いて、電子音と共に現れたアタッシュケースから錠剤が入ったビンを取り出す。

 

 

“恐らく……これでいける筈”

 

 

ドガァァァァン……!

 

 

ずっと鳴り響いている爆発音、暴れ回っている生徒に身一つで向かっていく。

 

 

「せ、先生!?危ないですよ!」

 

 

アロナが慌てながら私の身体の周りに青白い膜、原理不明のバリアを張ってくれている、それを盾にしながら暴れ回っているゲヘナ生の元へ飛び込み、抱きつく形で錠剤を口に流し込んだ。

 

 

「@dt@p@b)"ja&nkーーぅ…ううん…?むにゃ……」

 

 

“良かった、やっぱりデミの様に完璧とはいかないけど……これなら元に戻るか”

 

 

腕と胸の合間で眠ってしまったゲヘナ生を正実に引き渡して、アロナに語り掛ける。

 

 

「先生!もう…危ない事は止めて下さい!」

 

 

“あはは…ごめんね、アロナ……更にごめんなんだけど、黒服に連絡をつけておいてくれるかい?”

 

 

「全く反省してないじゃないですか!戦ってる時にいつもここから眺める事しか出来ない私の気持ちにもなって下さい」

 

 

“ぐっ…本当にごめんよ…気をつけるから、それに今度また教室で遊ぼうか…”

 

 

都合のいい事ばかり言っている自覚はあるが、それでも私は動かねばならない責任を持つものだ、アロナには頭を下げてばかりで本当に申し訳ない。

 

 

“さて……”

 

 

先程の錠剤、あれはデミから没収した針を解析した結果を元に生み出した、対神秘装甲の対策だ。錠剤という形に収めてはいるが、いつか別の形に……銃弾の形等に出来るようにしなくてはならない。

 

 

あの針は、傷つけれもしないし破壊も出来なかった、あの針自体が強力な神秘を有し、『物質化した神秘』をほんの少しだけ、0.01ミリにすら満たない薄い薄いものを纏っていた、それですら破壊出来ない。私のカードと同じ様に。

 

 

という訳で私のカードに刺してみたのだ、そうすると針側が破壊され、カードの表面が少しだけ、ほんの少しだけ削れた。破壊された針は…生暖かく、まるで命をもっていたかの様だった。原料は不明、作り方も不明、用途は……生徒の殺害。もう既に全てを破壊して残っているものは無い。

 

 

“肝となるのは、人間性か、それとも…”

 

 

「しなしな…」

 

 

“おや、デミ…随分とやつれたね”

 

 

「わかってんなら助けて欲しいっす…」

 

 

「デミちゃん!お説教はまだまだありますよ!逃げないで下さい!」

 

 

「えー…とりあえず事件解決しましょうって〜…もう十分反省したんすよ……」

 

 

漸く、彼女に近づいてきた気がする、その目の先に何を見ているのか、私のすべき事は何か。

 

 

“よし、じゃあみんなこれを持って、間違えても飲んじゃダメだよ?”

 

 

「これは……」

 

 

“鎮静剤って所かな、特にデミは誤飲御法度ね”

 

 

「あ〜……なるほど?そういう事っすか」

 

 

……やはり、私より格段に察しが良いな…困ったものだ。

 

 

“それじゃぁ改めて、補習授業部、出撃”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でした、先生」

 

 

“お疲れ様、みんな”

 

 

「中々良い実践だった、試験前とはいえ程よい訓練になったよ」

 

 

「確かに、アズサちゃんに関してはヘルメット団のヘルメットを脱がすのが上手になってましたね……脱がすのが、お上手に…♡」

 

 

「なんでそこを強調するのよ!エッチなのは…」

 

 

「あら、あらあら、私はヘルメットを脱がすのが上手だと話しただけなのですが、エッチだなんて……コハルさん、一体何がエッチなのかを…」

 

 

「え、えっと、いや、その…」

 

 

「いい加減にしろピンク馬鹿」

 

 

一通り鎮圧が終わり、皆が合宿場まで戻り教室へ戻った頃、土埃にまみれてしまったので、お風呂に入ることにしたようだ。

 

 

「お説教は、また明日に置いときますね」

 

 

「げえっ!?まだやるんすか?」

 

 

「反省が見えてない間は、怒り続けますからね!」

 

 

「しなしな……」

 

 

ぷんすこと顔を赤くするヒフミ、あの時の事に関してはコハルもアズサもハナコも怒っているようで、伝統の正義実現委員会直伝コハルのビンタ講座も行われていた。……アズサが目を輝かせながら。

 

 

そんな中、ピロン…と、先生の携帯に着信が入る、ミカからだ。

 

 

『先生とまた会いたい』

 

 

“ミカから、また会いたい…か”

 

 

“『良いよ、場所は?』”

 

 

『今日は…私の部屋に来て欲しいな☆ それじゃまた夜にね、先生』

 

 

“『うん、またね』”

 

 

「おんやぁ?先生、また誰かタラシてんすか?」

 

 

“……アズサ、コハル、ヒフミ、連れていきなさい”

 

 

「え?」

 

 

水戸黄門の様に話すと、三人がデミを抱えて寝室へと向かっていく、ニコニコしながらハナコも着いて行った。

 

 

「たすけてーー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『先生とまた会いたい』

 

 

“……”

 

 

電子に浮かぶその言葉を眺め、ピッと、携帯の電源を切ってから戦闘で土埃に塗れた衣服を着替えておく。皆も今はお風呂に入っているタイミングだろう、私は…濡れたタオルで軽く拭いておこう。

 

 

“よいしょっと”

 

 

服を脱ぎ、自分の身体を眺める、首元のチョーカーは外さずに上裸となった先生の身体の中心…その心臓がある場所が、火傷に覆われていた。これは、恐らく私の死因の一つだろう。彼女に貫かれて灼かれた……。

 

 

“……”

 

 

火傷跡を軽く摩る、カードの使用の代償、それは有り得ざることを起こす奇跡の反対、有り得た未来の事象を身体に刻み込む事だろう。誰かに首を絞めらながら胸を貫かれた、それが数多ある未来での私の結末。

 

 

“もう少し、頑張らなきゃなぁ、まだまだ足りないや…”

 

 

「せんせー!覗きに……きた…っすよ」

 

 

“あ…”

 

 

とてつもなく最悪のタイミングで見られたくない人に見られてしまった。というか覗きといったか?

 

 

「ぁ…そ……れ、カードの、代償」

 

 

“はは、何の事かな!ほら、デミもみんなとシャワーを……”

 

 

急いで上着を来てアロナに隠してもらう、私の事で彼女が気を負う事は無いというのに、心配してくれるのだ……その善意は無駄にしたくない。

 

 

「……」

 

 

“ちょっ!?”

 

 

するりと、彼女が上着を脱ぎ出し上だけ下着の姿になる。

 

 

「……先生」

 

 

“ちか、近いです、デミさん……近いよ!?”

 

 

「私がミスって先生の秘密を見ちゃったんで、代わりに私の秘密も一つ」

 

 

“見えてるから!ちょっと、近いってばぁ!”

 

 

「スケベっすね、それより目瞑って下さい」

 

 

“……?”

 

 

言われた通り、というよりこれ以上目を開けてはいけないのでサッと顔を逸らして目を瞑る。

 

 

ベチョッ…

 

 

「はぁ、やっぱりっすか…元に戻ったと思ったんすけどね…目開けていいっすよ」

 

 

“う、うん”

 

 

ゆっくりと目を開けて……良いものかは分からないが、彼女の方から許可が出たので、開けてみると…。

 

 

“…ッ!その傷は……あの時の……”

 

 

あの時見た、胸に空いた傷、それが再びデミの身体に空いていた。

 

 

「今付けた傷っすけどね、ほら…治る前に確かめて下さい、私の命を」

 

 

手を引っ張られて、グチュグチュと蠢いている彼女の胸の中に手を突っ込まされる。

 

 

“……デミ”

 

 

「これで……お互い様って事っす、まぁ見ちゃって悪かったっすね」

 

 

本来あるべきものはそこに無く、ただただ血と肉のみがあるだけ。そこにある命の温もりは感じられ無かった。

 

 

「……先生は温かいっすね」

 

 

“……”

 

 

彼女の身体が再生すると共に、手が引き抜かれる。赤い糸を引いて私の手と彼女の身体が繋がっていた、引き抜いて数秒後、手に付いた様々な赤黒い何かは蒸発して消えていった。

 

 

「よし、それじゃ私も風呂入ってくるっす、先生は覗いちゃ駄目っすよ?私は別に今更っすけど、覗かれて喜ぶのあのピンクしか居ないんで」

 

 

“……分かったよ”

 

 

トテトテと上着を着直してシャワールームに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“……本当に、足りないなぁ…”

 

 

グッパグッパと、手を握っては離して、握っては離して、さっきの感覚を忘れないようにする、彼女から貰ったプレゼントを、決して忘れないように。

 

 

時刻は五時、シャーレに残してある大量の仕事をここでリモートしながら処理し、明日に控えるテストの範囲変更と、受ける場所、温泉開発部の対策を考えておく。

 

 

“……もしもし”

 

 

《もしもし先生〜?おじさんに何か用〜?》

 

 

“ふふっ、ホシノの声が聞きたかっただけなんて言ってしまったら怒られそうだから、本題を早めに話すね”

 

 

《…本当に先生って、私以外、そんなふうに話してちゃダメだよ?》

 

 

“う、うん……それで、デミの事なんだけど”

 

 

《……デミちゃんの事?》

 

 

“恐らく、黒服と繋がってる可能性がある、ホシノは何か聞いた事あるかい?”

 

 

《あ〜…うん、そっ…か、黒服からは色々…先生、デミちゃんに何かされちゃったの?》

 

 

“いや、何も……だけど、悪い大人との繋がりは早めに切って欲しくてね、今回の出来事、そして……いや、ともかくデミが知ってるには不自然な知識があってね…多分、というか絶対にゲマトリアが関わってる”

 

 

《…………ふーん》

 

 

“来週にはプロレス技(大人の戦い)かけに行くから、そうなるとデミが黒服側に立つと思う、それを防ぐ為に私が出掛けるその間…デミを見張ってて欲しいんだ”

 

 

《…うん、良いよ〜先生の頼みだからね、おじさん頑張らせて貰うよ》

 

 

“ありがとうホシノ、補習授業部の件が終わったら、ビナーの事といい、絶対そっちにお礼に行くから楽しみに待っててね”

 

 

《うん、うん……うん………でも、先生…》

 

 

《無茶は、しないで欲しいな、今度は居なくならないで欲しいから……あんまり、私を怖がらせることはしないで……ね?》

 

 

“それは……ホシノ…”

 

 

《ッ…!…また、またそこで言い淀むんだ》

 

 

“うん……ごめんね、分かった…無茶はし過ぎないよ”

 

 

《……うん、それじゃ先生、またね》

 

 

“またね、ホシノ”

 

 

プツリと通話が切れた。差し込む夕日が視界を染め抜いていく。その色は決意と闘志の色、どのような事があろうと、生徒を救うという。彼に己か生徒かの二者択一を迫れば、必ず生徒を取る、そういう人間である。

 

 

“……さて、明日は気をつけなくちゃね”

 

 

独り言をポツリと呟いて、出掛ける格好をして皆が騒いでいるロビーに入る。

 

 

「あら、先生」

 

 

“少し出掛けてくるよ、また何かあったらいけないからね、渡しておきたい物があるんだ”

 

 

ハナコから順に皆に小さくて黒い、一見すれば黒い紐にしか見えないものを手渡していく。

 

 

「……?先生、これって何?」

 

 

“前みたいな事があっても嫌だから、それを身につけておいてくれないかい?お守りみたいなものさ”

 

 

「分かりました、先生のお気遣い…丁重に頂いておきます」

 

 

ハナコが大事そうに髪に括って付けたのを見て、他の皆も首に掛けたり手首に付けたりしてくれた。

 

 

「……」

 

 

“デミも付けてくれたら嬉しいな”

 

 

「…はぁ、分かったっすよ」

 

 

デミが付けたのを確認してから部屋を後にする。

 

 

「気をつけて行ってらっしゃいっす、先生」

 

 

“行ってきます、みんな”






絆3ストーリーっぽい何か、そしてハナコポニーテール化。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。