ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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魔女の手

 

■ 合宿場

 

 

アロナによる転移が済み、合宿場近くの草むらにほっぽり出される二人、上手く先生を抱えた為、貧血で倒れそうな先生をデミはしっかりと支えられた。

 

 

「……」

 

 

先生の胸元には、滲んだ血が広がりどす黒く変色している、口元に付いた血も未だほんの少し生暖かい。恐らく…致命傷、だがこうして話せている。

 

 

“ゲホッゲホッ…”

 

 

「……遅くまで仕事してるんすから、身体は大事にして下さい、身体は資本っすよ?」

 

 

“すまないね…私のポケットに入ってるケースの中の錠剤を飲ませてくれないかい…?”

 

 

「はぁ、気力だけで動いてたんすか、仕方ないっすね」

 

 

言われた通りにケースを取り出し、中を開く。

 

 

「これは…補血剤っすか、ほれ」

 

 

たまたまポッケに入れておいたお茶とセットで先生の口に流し込んであげる、しかし先生の顔が青白くなると共に、それらは全て押し戻された。

 

 

“ゴホッ……ぅ…ゲボッ…”

 

 

「あーほらほら、まだ血残ってたんすね、全部吐けます?」

 

 

せっかく薬を飲んだ所だが、制服を使って吐き出す血を受け止める。こうなると全て吐かせてから飲ませる方が良いので指を二本、喉奥に差し込むと、勢い良く全部吐き出した。

 

 

“オエッ……゛ゲホッ…ぅ、オエェッ…!”

 

 

「アロナ、聞こえてるなら点滴と栄養剤、飲み物出して欲しいっす、後、先生の着替えとタオル大量に」

 

 

言葉に応える様にタブレットが光り、デミの傍に話した通りの物資と幾つかの薬剤が現れる。

 

 

「さて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“う……”

 

 

「お、起きたっすか」

 

 

“デ…ミ、そうだ、あれからどれくらい…”

 

 

「まぁパッと一時間は寝てましたかね、どうっすか?体調」

 

 

“ありがとう、ある程度は……おっとと”

 

 

立ち上がろうとする先生、だが未だ体力は回復しておらずフラフラとよろめいていまうのを、デミがキャッチする。

 

 

「さて、肩を借りないと立てないぐらいヘボヘボの先生に問題っす、今、私はどんな気持ちでしょうか〜?」

 

 

“あ、え、えっと…お…こってる?”

 

 

「お〜!正解っす、パチパチパチ〜」

 

 

“……”

 

 

「……」

 

 

「第二の問題!危なそ〜な薬品を使って、危ないことして、変な薬使って血反吐吐いてる先生を見た私は、どんな気持ちでしょ〜か?」

 

 

“お、怒ってます?”

 

 

「ピンポンピンポンピンポン!大正解っす!」

 

 

“……”

 

 

「……」

 

 

「最後の問題!」

 

 

“本当にごめんなさいっ!”

 

 

「……最後の問題っす、私は先生じゃない、私は罪人で……選択を誤る、必ず…みんなを傷つける、ミカちゃん以上に間違った道を歩む、そんな私の面倒見るって言った先生の事、どう思ってるでしょうか」

 

 

“………まだ、私にはそれを答えられないし、応える資格は無いよ”

 

 

「問題っすよ、それでも答えるのが道理っす」

 

 

詰め寄り、答えを求む、これは質問であり……既に握ってある答えを吐き出させるためだけのものだ。

 

 

“………憎い、かな”

 

 

「……うん、正解っす、流石先生、ならその生徒の気持ちを裏切る様に傷ついていくのは止めて下さい、貴方の事を愛しているものの気持ちを、裏切らないで、私の憎悪(『私』)を消さないで」

 

 

“それを言うならお互い様だよ、私の可愛い生徒(問題児)

 

 

互いの黒い目の視線は、先程のミカとの対話とはまた違い、吸い付き合いながら互いに反発しあっている。

 

 

「はぁ、まぁ良かったっす、それでぇ、カッコつけてミカちゃんの前で立ってたけど、気を抜くと死んでしまいそうになっていた馬鹿は、そのまま抵抗すら出来ずに丸裸にされましたと、その写真がこちらに」

 

 

“は、え、ちょっとまってーー!?”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ ロビー

 

 

 

 

 

少し体力が回復した、その後。

 

 

 

 

「正座」

 

 

“う、うぅ”

 

 

「全く、無茶、無謀、馬鹿阿呆オタンコナス、私が行かなきゃあそこでミカちゃんが先生の事、ボコボコにしてたっすよ?死んでたかもしれないんす」

 

 

般若の表情をするデミにタジタジな先生、かれこれ数十分は正座させられているが立ち上がれないでいる。

 

 

“は、はひ…”

 

 

「なに正座解こうとしてんすか、もう数時間はそのままっす」

 

 

“( ◜ཫ◝)”

 

 

「さて、どうするんすか?」

 

 

どうすると聞かれても、私はこうすることしか出来ない。

 

 

“……あー!頭と顔を叩かれ過ぎてさっきの事忘れちゃったな!!”

 

 

「おkっす、後は先生がやりたい様に、それじゃ一時間正座っすね」

 

 

“酷くない?”

 

 

「これでも短縮したっすよ、てか、なんというか、普段の威厳というか、ギャグに振り切ると先生の面影も無いっすね、本当……」

 

 

“ははは!茶目っ気こそ私の本性だからね!”

 

 

「はい反省」

 

 

ゴチンッ!

 

 

“うぐぁぁぁぁぁ!”

 

 

「あら、デミちゃん……お帰り、なさい?」

 

 

ロビーでデミが先生をボコボコにしている所に、ハナコが入って来る、聞いていた時間より早く帰ってきた事、何故か正座でボコボコにされている事、一瞬ハナコの脳回路がショートしたが現実に戻ってくる。

 

 

“た、ただいま……何事も無くて良かった、言い忘れてたけど、ポニーテール似合ってるよ、ハナコ”

 

 

「ありがとうございます…?先生までお帰りになっていましたか、外出と仰っていましたが、二時間程度でお戻りになるとは…」

 

 

“いてて、いやなに…少しだけハプニングがあってね、流れで解散になっちゃったんだ”

 

 

「それでしたら良いのですが……」

 

 

「あ、お帰りなさい先生」

 

 

ハナコの後にヒフミもロビーに来て会釈をする、手元をよく見てみると勉強道具を抱えていて、ハナコも筆箱やら持ってきていたので、どうやら皆、自室で学習してた所、ロビーに位置替えしようとしていたみたいだ。

 

 

「先生、お帰り」

 

 

「あ、デミ先輩と先生、帰ってきてたの?チャイムが鳴らなかったから気づかなかったわ……なんで正座?」

 

 

“あ、あはは……みんな、勉強は順調かな?”

 

 

その後もゾロゾロとメンバーが集まり、皆で自習する事になったのだが、先生の正座は解かれなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日もお疲れ様でした!」

 

 

部長であるヒフミがいつも通りの時間で点呼をして、区切りを付けて勉強を終える。

 

 

「この一週間の合宿で、私たちは合格出来るだけの実力は身につけられた筈です!」

 

 

「うん」

 

 

「はい♡」

 

 

「そうねっ!」

 

 

“みんな、本当に良く頑張ったね…”

 

 

「先生もよく頑張ったっすね、プリントと授業、資料作成とか、お疲れ様っす」

 

 

「はい!後はしっかり試験に合格して、堂々と補習授業部を卒業するだけです…今までの勉強が無駄じゃない事を証明して、最後にみんなで笑ってお別れ出来るように…!」

 

 

お別れ、その単語を聞いたアズサの顔が、少ししょげた風に変わって落ち込んだ雰囲気でポツリと呟く。

 

 

「そ、うか…お別れ、か」

 

 

「ちょ、ちょっとアズサ…どうしたのよ急にしんみりしちゃって…」

 

 

「…なるほど♡合宿も含めて、何だかんだとっても楽しかったですもんね?」

 

 

「……そうだな、分かっている…でも、それでもやっぱり、出会いがあれば別れもある、全ては、虚しいものだ」

 

 

「アズサちゃん…大丈夫ですよ、そこまで思い詰める必要はありません、アズサちゃん含めて皆、試験が終わったらどこかに行ってしまう訳ではありません、補習授業部が解散しても同じ学園に居るんですから、逢おうと思えばいつでも会えますよ」

 

 

「ほ、ほら!私はいつも正義実現委員会の教室にいるからさ!ひ、暇な時があったら来れば……?」

 

 

「あの、私も気持ちとしては私も同じなんですけれど……まずは試験に合格してからというか、既に青春ドラマの最終話みたいになっているというか」

 

 

皆は優しく愉快な雰囲気でいるが、アズサの表情の裏にドロドロとこびり付いた罪悪感がある事が分かった者は、この中では先生とデミにしか分からなかった、裏切り者が、この様な平穏を享受されるべきでは無い……そんな自己嫌悪にも似た感情が、アズサの中にはグツグツと煮えたぎっていた。

 

 

“…とりあえず、今日はもう休んで明日に備えようか”

 

 

「そういえば、明日の試験の会場って前と同じで良いのよね?」

 

 

「あっ、そうですね、確認は大事ですし……えっと、掲示板での告知は…………え…?」

 

 

補習授業部の二次試験の明細が載ってある掲示板をチェックするヒフミ、そこに書いてある内容に思わず硬直してしまう。

 

 

「……ヒフミちゃん、どうしましたか?」

 

「ヒフミ?」

 

「え、嘘っ!? 嘘ですよね……ッ!?」

 

 

そのあまりの慌てようにハナコがヒフミの携帯を覗きこむ。

 

 

「…これは、ヒフミちゃん、ちょっと借りますね『補習授業部、第二次特別学力試験に関する変更事項のお知らせ』……試験範囲を、事前に掲示した内容より約三倍に拡大」

 

 

「は、はぁっ!?」

 

 

「また、合格ラインを六十点から九十点に引き上げとする――……」

 

 

「きゅ、九十点なんて……わ、私も、超えた事なんてないのに……」

 

 

「ど、どういう事よ、これ……!?」

 

 

「日付を見るに、先刻アップされたばかりみたいですね……試験直前になって、こんな――」

 

 

「…来たっすね、先生」

 

 

“……あぁ”

 

 

未だ正座をしたままであるが、そう呟き考え込む先生、掲載の日時は今から三十分前程度、こういった告知は基本的には第一次試験が終わってから即出され無ければいけないものであり、内容も無茶苦茶を超えている。

 

 

そこに隠れた黒い手に、ハナコも気づく。

 

 

「――成程、私達の模擬試験の結果を、ナギサさんが何かしらの手段で把握しましたか、どうしても退学にさせたいみたいですね…!」

 

 

ハナコの表情がピリついていく、そして退学という言葉を聞いたアズサが驚きと疑問の顔をしてハナコに質問をする。

 

 

「――退学?」

 

 

「…その事を話す前に、試験会場の変更…そこも話しておきます、試験会場の場所と時間、それは……ゲヘナ自治区第十五エリア七十七番街、廃墟の一階、時刻は深夜三時」

 

 

「ゲ、ゲヘナッ!?」

 

 

「というか、深夜三時って…!今からじゃないと間に合わないじゃない!そもそも退学って何!?初耳の事が多すぎるわよ!」

 

 

“私から、話そうか”

 

 

苦い顔をするハナコより先に立ち上がり、一から説明を行う先生。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…試験に、三回落ちたら……退学?」

 

 

「成程…」

 

 

「隠していてごめんなさい……こんな事になるなんて…」

 

 

先生の話を聞き、補習授業部四人が向き合って事態の全容を話し合う。

その片隅で先生とデミがボソボソと話していた。

 

 

「せんせー…あの時みたいにヘリコプター出せないんすか?」

 

 

“ごめんね…あれはシャーレ管轄のヘリコプターじゃなくて、ミレニアム所有のものをヴェリタスに偽造してもらって借りた奴だから…”

 

 

「裏でとんでもない事してたんすね!?…アロナちゃんワープも多分この人数だと無理っすよね」

 

 

“そもそもゲヘナまでは遠すぎるかな……車借りてこれれば良かったんだけど……”

 

 

「駄目っすよ、今ティーパーティーはトリニティを掌握してるのと同じ、どうせ無理っす、また襲われて監禁がオチっす」

 

 

“…そうだね、とりあえず準備して出発しようか…残り時間も無さそうだ”

 

 

四人の話し合いが終わり、二人とも立ち上がって補習授業部六人で出発の準備を進める、銃弾で貫かれた先生の体力はまだ全快とはなってないが、立ち上がる姿に一切の疲労を感じさせない。

 

 

「……はぁ〜…最高にカッコつけっすね、そしてカッコイイっすよ、先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ゲヘナ スラム街

 

 

 

「おいおい、嬢ちゃん達…見慣れない顔だけど、そんなに急いでどこいくのさ」

 

 

「おい!よく見ろよ、こいつらトリニティの制服だぜ?お嬢様共だ、身代金が弾むぜこりゃぁ…!」

 

 

「あ、あぅぅ…」

 

 

ヒフミにメンチを切る不良生徒達、ポンポン、とチンピラとヘルメット団の肩が叩かれる。

 

 

「あぁん?誰だ…よ…」

 

 

「誰でしょうか〜」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「「「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」」」

 

 

「…あのさ、私、謝れなんか言いましたっけ?私はみんなの事が大好きだから、通してくれないかなって、頼んだだけなんすけど、なぁ、聞こえてるか?」

 

 

ゲヘナのスラム街、自治区に到着して速攻に出会ったチンピラとヘルメット団。周りに居た数人も、デミに連れてかれてから謝ることしか出来なくなっていた。

 

 

「ゆ、幽鬼だ…じつ…ざいしたのか…!」

 

 

「…幽鬼?デミさん、一体…」

 

 

「おい」

 

 

苛烈な視線が不良を貫く。

 

 

「ひ、ひゃいっ!!」

 

 

「……大丈夫っすよ、ハナコちゃん…特に何もねーっす」

 

 

(((((“絶対何かあったんだ…”)))))






チンピラすぎぃ!?素の口調が荒すぎて普通に話すだけでチンピラと化すデミなのであった。めでたくないめでたくない。
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