ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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ハイウェイの激戦

「あ、あはは…し、失礼しますね…」

 

 

震える不良生徒の合間を抜けて、補習授業部の皆は更に繁華街を突き進む、戦闘が無い分早く進む事が出来た。その中で異変に気づく。

 

 

「…深夜とはいえ、人っけが無さすぎませんか?」

 

 

そう、余りにも人が少ない、ゲヘナの中心部近くに差し掛かっているというのに、未だ不良以外の人影が見えない。一般生徒や巡回の風紀委員会とのいざこざを想定していたハナコからすると肩透かしを喰らった気分だ。

 

 

「ゲヘナという場所はこんなに静かなのか?」

 

 

「いえ、ここまで静かなのは……」

 

 

ドゴォォォオオオン……!!!

 

 

ダダダダダダ……!

 

 

ハナコが周囲を警戒すると同時に、遠くから爆発音と大量の銃声、大規模な戦闘音が街中に鳴り響き始める。

 

 

「凄まじい、これは……連隊規模の戦闘音だぞ?」

 

 

「この先から聞こえますけど……目的地に行く為にはこのまま進むしかないんですよね……」

 

 

「…とりあえず、行ってみましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲヘナのハイウェイに差し掛かる頃、補習授業部の目に飛び込んできた光景は驚愕に値するものだった。

 

 

ドガァァァン!!

 

 

『イオリ隊長に続けーー!!』

 

 

『風紀委員会を撲滅しろー!!』

 

 

 

 

「…なんで、風紀委員会と正義実現委員会が戦ってんすか」

 

 

“これ…は、みんな一旦隠れようか”

 

 

ハイウェイ上で、ヒナ率いる風紀委員会全員と、ツルギ率いる正義実現委員会の八割程度が戦闘を起こしていた、ツルギやハスミ、マシロやイチカまで戦線に出ている。対してヒナは後方で戦場を俯瞰して動かない。

 

 

「ど、どうなってるのよ、風紀委員会はともかく、なんで正義実現委員会のみんなまで…!」

 

 

「…流石に、エデン条約が始まる前に正実がゲヘナに攻め込む、だなんて事態は有り得ません、恐らくナギサさんの妨害でしょうが…どのような言い分であれ、これでは和平交渉が遠のくだけです、一体何が目的で……」

 

 

“それに、このままだと戦場をつっきらないと目的地にも到着できない、コハルとデミが見つかれば風紀委員会と敵対してしまう…”

 

 

「そうっすね、極力見つからない様に通り過ぎたいもんすけど…」

 

 

更に苛烈になっていく戦場を見ていると、見つからない様に突破する等不可能と思える程混沌と化していた。戦線の概念が無くなり、もはや喧嘩と変わらぬ距離感で互いに撃ち合っている。

 

 

“…ヒナに事情を聞いてみようか、風紀委員会が出張ってるのも違和感がある”

 

 

「それなら正実のメンバーに聞けば良いのではないでしょうか?」

 

 

“ハナコ、良く見て……正実の兵隊、あそこの一部分”

 

 

てーてーてれっててっててれてーーー……

 

 

「…光って、ますね」

 

 

あれは今日見た暴徒と同じ、つまりこの戦場の状態は……。

 

 

“何者かが両者をぶつけ合わせた、多分互いにこの戦闘には違和感、もしくは不信感を持っているに違いない、業務に忠実なヒナが動いてないのがいい証拠だね、薬を届けなくちゃいけない”

 

 

しかも良く見ると両軍に光っている者がいる、恐らく暴走した互いの一部の軍が衝突し、望まぬ形でここまで大規模な戦闘になってしまったのだろう、

 

 

「なるほど、あの事件の詳細の報告書を知っているのは、私たちとティーパーティーの桐藤ナギサ、ならばあの薬を流用した可能性があるのはナギサ傘下の正実側という事か」

 

 

「そ、そんな!先輩達がそんな事する訳…!」

 

 

「コハルちゃん大丈夫っすよ、みんながそんな事する訳無いのは私たちが一番分かってるんすから」

 

 

“うん、デミの言う通りだよ、……私が懸念しているのは正実に紛れ込んでいるだろうスパイ、かな”

 

 

「スパイ…スパイですか?」

 

 

“ハナコはさっき言ってたよね、どのような言い分であれ…って、先生なりに正実がここ、ゲヘナの自治区まで侵入し、戦闘まで起こせる言い分を考えてみたんだ”

 

 

「………それが、スパイがいるという結論…」

 

 

ハナコの脳内で、この現状を納得させられるだけの着地点を考える、まず第一に両者どちらかに非があっては駄目、第二に薬の出処、第三に正実の大部分のメンバーが総動員されここまで来ている理由……。

 

 

“あいにく、姿を自由自在に隠す事の出来る技術を目の前で、身に染みて苦渋を味わった事があってね、あれなら正実にも紛れ込める”

 

 

「…!アイツらっすか!確かに姿変えられちゃヤバいっすね」

 

 

デミの脳裏に浮かんだのは、あのアビドスでのアリウス生徒達、光学迷彩による姿形の可変さ、熟練された隠密部隊の実力、重要なのはアリウス生徒、という所だ。現状アリウス生徒はミカの手足、この試験に合わせて動かすことができる。

 

 

“……トリニティで問題を起こし、ナギサが正実を動員……囮を動かしゲヘナ自治区に差し掛かる所で紛れ込んだ、そうだね…仮想敵Aが薬を盛った、って所かな”

 

 

「…そして、それでは始まったばかりの戦闘に風紀委員会側が既に構えていた理由が分からない」

 

 

“うん、だから先にヒナに聞きに行こうかなって、それと…あってるかどうかは分からないけど……どっちにしたって正実側には近づいちゃいけなさそうだね”

 

 

「な、なんでそんな事…………あ」

 

 

コハルが目を凝らして戦線を見つめていると、もはや爆散といったレベルで生徒が吹き飛ばされている部分がある。

 

 

「ツ、ツルギ先輩……光ってる……」

 

 

「あちゃ〜…」

 

 

普段との戦い方や狂気度にあまり変わりは無さそうなのだが、ピッカピカに光り輝いているツルギを見て、補習授業部の皆の顔色が悪くなる。

 

 

「潰れたトマト缶量産機っすね、こりゃぁ…」

 

 

試験開始までの残り時間は少ない、突っ切ろうにもこの事態を見過ごせば明日にはゲヘナが血の海に沈む。無敵化したツルギを止めるのは流石のヒナといえど厳しいだろう。無視して試験後に止めに入るのが最善手ではあろうが…。

 

 

「…なるほど、本当に、本っ当にナギサさんは私達に退学になってもらいたいようですね」

 

 

理解する、恐らくこの状況を先生が見過ごさない事も計算の内といった所だろう、その証拠に先生の発言から既に薬を届ける気マンマンといった様子だ。

 

 

「……出番っすかねぇ…」

 

 

胸ポケットに潜ませている針のケースを撫でるデミ、そこでふと違和感に気づく、針のケース以外にも何か別のものが…。

 

 

「………ぁ」

 

 

ヘアゴムが入ったピンクのケース、中には髪留めも入れてあった。思い出してみれば取り外した後、数日ほっぽり出していたのだが、出発前、何処かに入れっぱなしにして探していて…ここに入れて置いたのだった。

 

 

「…やめときますか、先生頼めます?」

 

 

“任せて、アロナ…迷彩起動”

 

 

補習授業部の皆の見た目がゲヘナの風紀委員の姿へと変わっていく。

 

 

「わ!え、これって見た目だけ変わって…?」

 

 

急激な変化に驚き自身の体をぺたぺたと触るヒフミ、迷彩で見えなくなっているがしっかりと背負っているペロロバッグを触る事ができて安心する。持っている銃器の見た目も変更されておりゲヘナで使用されている一般的な小銃に変化していた。

細部まで完璧に再現されており、動きに合わせて服のシワまで作られている。バレる可能性は万に1つもない。

 

 

「凄まじいな…この技術があれば戦地において諜報、闇討ち、情報操作…ほぼ無敵の力だ、電磁パルスでの妨害で解除はされるのか?」

 

 

“私の相棒は凄いからね、そう簡単には解けないさ”

 

 

「…はぁ、凄いのは良いんすけど……先生、これ電力バカ喰いしてますよね?」

 

 

“あ、あはは……なんのことかな〜?”

 

 

戦場において、アロナの残電力=先生のライフポイントだ、バリアの強度、貼れる回数…先生の身を守る術そのものと言っていいリソースを猛烈に削りながら成立しているインチキである。

 

 

「頼りなくてごめんなさいっす」

 

 

“そんなこと無い、デミが落ち込むことは無いさ、さて…行こうかみんな!”

 

 

「は、はい」

 

 

「うふふ…♡光学迷彩で隠されているという事は、今服を脱いだとして、誰も分からないという事ですよね…?」

 

 

「ハ、ハァ!?急に何言ってんのよ!変態!えっち!」

 

 

「ふふ、コハルちゃん、脱いだとして……本当に脱いだかどうか分かるのは、この迷彩が切れなければ分からないのですよ?つまり、今の私は服を着たまま脱いでいるとも言えるんです」

 

 

「へ??ん、ん〜…?ご、誤魔化そうとしてもダメだからね!?」

 

 

「はいはい、もうその阿呆はほっといて行くっすよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぐへっ、やったなー!!』

 

 

『うるせぇ!そっちが先に仕掛けてきたんだろ!』

 

 

 

「……ソロリソロリ…」

 

 

 

『ヤバい!イオリ隊長が光り出したぞーー!!逃げろー!』

 

 

『ハァ!?まだ温泉開発部も相手にしなくちゃいけないのに!?』

 

 

 

「センセイ、アブナイカラワタシタチヨリナカニ…」

 

 

“う、うん……後、別に小声で話す必要無いんじゃないかな…?銃声で誰にも聞こえてないよ?”

 

 

「あら、雰囲気は大切ですよ?」

 

 

「ソーユーコトッス」

 

 

「デミちゃんは昔からこういう所とか変わりませんね……」

 

 

「隠密行動は通信機での会話が基本だ、デミ」

 

 

アズサがトランシーバーをデミに投げ渡す。

 

 

「う、うっひょー!!トランシーバーっす!え、えーっと……《チームアルファ、現状先生の胸の内に潜入中》」

 

 

“あ、ちょっと、まって…あはは、ひひ、くすぐったいってば”

 

 

ロマンがあるものはわかるだろう、トランシーバーと言う機器の素晴らしさを……。砂嵐混じりの機械音を通した肉声がここまでかっこいいとは、文明と素晴らしいものである……それはそれとして先生に抱きつこう。

 

 

「おい!そこ!何じゃれあってる!」

 

 

走りながらも、ある程度遊んでいると明らかに隊のリーダーらしき人物に声をかけられた。

 

 

「“へ?”」

 

 

「へ、じゃない、へじゃ…さっさとイオリ隊長を止めに行くぞ!」

 

 

「あ、いやその…」

 

 

「私の目は誤魔化せん、貴様ら五人でサボりやがって…こっちだって終わんない戦いにさっさと帰りたいんだよ!何時だと思ってやがる?深夜だぞ?クソッタレ!」

 

 

よくよく見てみると、正義実現委員会も奥側から迫っている。

 

 

「……っすー…」

 

 

補習授業部のみんなの顔を見渡して、全員が頷いたのを確認し、一度深呼吸をしてから………。

 

 

「行くぞォォォォ!!!」

 

 

「な!待て!貴様らァ!狡いぞーー!!」

 

 

全速力で走り出し、ハナコとアズサ、ヒフミとコハル、先生とデミに別れる結果となってバラバラに散開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ハァ、ハァ…ヒィ…”

 

 

「ゼーハー…ゼーハー……」

 

 

一般人×2と化した二人は逃げ切る為に全力で走りながら来たもので、情けない顔をしながら粘液という粘液を振りまきまくって走っている。

 

 

“い、いつぶりかな……こんなに走るの……”

 

 

「アビドスの、はぁ、時、以来っすかね、はぁ、ひぃ…」

 

 

「い、いつの間にかみんな居なくなっちゃったし……」

 

 

ドン!

 

 

“わ…っぷ”

 

 

がむしゃらに走り続けていると、先生が生徒にぶつかって転けてしまった。顔を上げるとそこには……。

 

 

「この匂い……先生?じゃ、無い………ん、気をつけなさい」

 

 

無表情で歩いていた空崎ヒナと、運命的な出会いをした。

 

 

“ヒナ!丁度良かった”

 

 

「……?」

 

 

立ち上がった先生が顔だけ光学迷彩を解除し、姿を現す。

 

 

「……先生、何してるの」

 

 

“ごめんね、あ、デミも居るよ”

 

 

「こんばんは、久しぶりっすヒナちゃん……てか先生、その姿やめて下さい、ツボっす、マジメにキツい、疲れた所にやめて…」

 

 

丁度顔だけ迷彩を解除しているので、風紀委員会の服装…スカートを履いた先生が疲れてぐちゃぐちゃになった顔で居るものだから腹筋に悪い。

 

 

キュラキュラと光学迷彩を貼り直した先生、解除した所を誰にもバレていないのは幸運だといえる。

 

 

“補習授業部の事情でね、試験の妨害で受験会場をゲヘナにされて……”

 

 

「…なるほど、この状況にも関わりありそうね」

 

 

「恐らく第三陣営の仕業っす、出来れば兵隊を引かせて欲しいんすけど…」

 

 

見るに、立て直した戦線の維持でいっぱいいっぱいの様で、それすらも崩壊気味の現状では厳しいと言わざるを得ない。

 

 

“ヒナはどうしてここに?”

 

 

「温泉開発部の追跡と、脱走した美食研究会の逮捕、両方とも万魔殿からわざわざ命令として………私を名指しに出撃させた理由が今分かった、誘き寄せられた訳…か」

 

 

“……なるほど、マコトの仕業か、ヒナ…今皆が光ってるあの状態を解除するにはこの薬が必要なんだ、頼まれてくれるかい?”

 

 

胸元から錠剤を取り出し、ヒナに手渡す先生

 

 

「……分かったわ、ありがとう先生…」

 

 

しんみりと手渡された錠剤……いや、先生を見つめるヒナ、この深夜に駆り出された事に対して不満を口に出さず活動を続けるメンタルは流石だが、ストレスと疲労を重ねる事には間違いない。

 

 

“すまないね、ヒナに頼ることしか出来なくて…ありがとう、ヒナ”

 

 

「ううん、大丈夫」

 

 

「……父性、っすかね〜…」

 

 

抱えているストレスを先生で解消する様に、口調も甘くなるヒナを見て先生の包容力に舌鼓を打つ、見た目関係無しにセラピー効果があるのだろうか。

 

 

「@a&s"@&_##,sーー!?!?」

 

 

その平穏の中に、暴走した風紀委員が突撃してくる。

 

 

“っ!ヒナ!危なーー”

 

 

ガゴォォォン!!!

 

 

“ーーわ、わぉ”

 

 

身を捻り、掴みかかろうとした風紀委員を回転の勢いのまま地面へと殴りつけた。殴られた人体から鳴る音では無い異音を響かせながら、風紀委員が地面に埋まる。

 

 

「……ふぅ」

 

 

「…いや、無敵の上から潰してんすか…これ…なんか前より強くなってません?」

 

 

気絶し、尚も光る風紀委員を指でつついていると、ヒナから鋭い視線が届いた。

 

 

「ーー羽音、デミ」

 

 

「な、なんすか?」

 

 

「次は、負けない」

 

 

『貴方は勝てないよ、ヒナちゃん』

 

 

あの事件以来、楔となった言葉がヒナの喉に詰まる、それを押し返して話す、次は負けない…と。

 

 

「い、いやいや、ほとんどあの時もボコられっぱなしっすけど……いや、うん……」

 

 

「期待、はしときますよ……ヒナちゃん」

 

 

「ええ、貴方の期待に答えれる様に、努力したから……さて」

 

 

「ヒナ委員長!ご無事ですか!」

 

 

風紀委員の一人が駆け寄ってくる。

 

 

「何をしているの、ラインの維持は?」

 

 

「申し訳ありません!急激に風紀委員会側にも光り出すものが……!」

 

 

「…なるほど、分かったわ、私が対処する、……行ってきます、先生」

 

 

“頑張って、ヒナ”

 

 

「先生?…その者共は…いえ!何も!」

 

 

眼光を受けて、慌てて飛び出していく風紀委員を見送り、ヒナもついに戦場に降り立っていく、羽を駆使したヒナの高速移動は周囲のモブを吹き飛ばしながら駆けていく、あっという間に見えなくなってしまった。

 

 

「……あれは…本当に、次は負けるかもしれないっすね」

 

 

“その割には嬉しそうだね”

 

 

「……そうっすか?ん、まぁ……負けないっすよ、私は」

 

 

一言目の肯定を、即座に否定しなおす。

 

 

「ヒナちゃん一人で勝てるなら、苦労しなくて済むんすけどね」

 

 

“……”

 

 

「ふふん、苦い顔しちゃって……」

 

 

“じゃあ、勝つよ…私の全てを使ってね”

 

 

「…やってみろ、っす」

 






一般人二人、但し…最強。
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