ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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『正義執行』

「……違う、違う違うッ!そんな……そんな甘い言葉が許される訳、無い」

 

 

「先生が責任を負うもの?子供の責任を、大人が背負うって……私が、私を!私をここまで歩ませたのは、何の変哲もない現実だよ?」

 

 

「責任とかじゃない、責務とか…義務とかじゃなくて、現実っていう『真実』がこうなだけだったの」

 

 

“その…現、実を……ゲホッ、その現実が、真実が、世界が、君にとって苦しみに満ちていて…ここまで来たっていうのが、本来大人が背負うべき責任を、誰も見て見ぬふりをしてきた結果だ”

 

 

“だから、私は向き合うよ”

 

 

“生徒と、世界と、(ミカ)とね”

 

 

「………は、はは、無理だよ、そもそも先生はまだこの現状っていう現実から目を背けてるじゃん、補習授業部は逮捕、トリニティは怪物(リヴァイアサン)になって、貴方の大切な生徒達はーー」

 

 

“じゃあ、まずはその現実(理不尽)を覆そうか”

 

 

先生がゆっくりと片手を挙げる、ミカもナギサも動かない。この場においてどんなアクションを取ろうが非力な先生を制圧するのは容易い、そもそもここまで先生を連れ出してきたのは、彼から生徒を引き離す為。

 

 

先生の指揮能力は異常だ、たった数人で戦況を覆しかねない、まさしく『化け物』、その評価はミカとナギサ互いに相違は無かった、だから万全を期して先生を一人にし、戦力である生徒は別の戦力で囲む、ナギサの予測でハナコが動かすと予測したシスターフッドもあの男との契約で足止め中、今更どうしようも無い筈。

 

 

“ナギサ、シャーレがどういった部活動か…覚えてる?”

 

 

「覚えてるも何も、私が利用した独立連邦捜査部シャーレ、連邦生徒会長によって付与された権限のもとに…あらゆる規約や……自治区間の……」

 

 

気づく、先生の立場が起こし得るその奇跡を。

 

 

“そう、シャーレは私を顧問とした独立『捜査部』”

 

 

“他校の自治区であろうと、あらゆる制約を受けず活動を行え、現地の協力者には『日直』又は『同僚』として活動協力をも受けれる”

 

 

「ミカさん!!今すぐ補習授業部へのーー」

 

 

“ここに、正義実現委員会部長剣先ツルギ、副部長羽川ハスミ両者の『強制捜索了承書』署名を確認し……”

 

 

 

“連邦捜索部による正義実現委員会への強制捜査を開始する”

 

 

 

先生が右手を振り下ろす、何も無い空中を空振る様にでは無く、『そこ』に本当に何かが…押印を決める様に空を叩いた。

 

 

 

“そして、同時に、只今より部長不在時の部活権限代理副部長羽川ハスミの決定、調印をもって、正義実現委員会全名を『日直』として…協力を受ける”

 

 

“正義実現委員会はその活動権限を、捜索開始から半日失い…その時間の間のみ、シャーレに受け入れた、この捜索における全責任は”

 

 

“私にある”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞きなさい!今から正義実現委員会はシャーレの協同者として、正義実現委員会の活動の捜索……あぁもうややこしいですね!ともかくアリウス学徒を制圧しますよ!!イチカ!!」

 

 

「了解ッス!!!」

 

 

謎のゲヘナまでの出勤、犯人は取り逃すし…今はティーパーティーから仲間を撃てと命令された。

 

 

その鬱憤が溜まっていた分、一番槍として愛銃のレッドドラゴンと部下からサブマシンガンを借りて、部長の剣先ツルギと同じ様に二丁持ちで突撃していく。

 

 

「なっ!?貴様ら!…いや、桐藤ナギサと聖園ミカがしくじったか…?クソ、こんな事して今後トリニティで…グヘェッ!?」

 

 

「うっさいっすね、そもそも気に入らないんすよアンタら」

 

 

「げ、迎撃しろ!正義実現委員会も敵だ!向かい撃て!!」

 

 

混戦が始まる、見境無しに暴れ回るイチカを皮切りにマシロも体育館の窓から狙撃を通す等サポートを始め、正義実現委員会のメンバー全員が戦闘を始めた、ハスミも補習授業部の元へと駆け寄る。

 

 

「ハスミ先輩!こ、これって一体…」

 

 

「コハル、無事で良かった…これは先生の手配です、先生とは秘密の約束をしていて……正義実現委員会の立場が動きを邪魔するならと……」

 

 

 

 

『これは作戦が作動した後にサインしてね、こっちはハスミだけで動く場合、こっちに関しては…ツルギにもサインして貰わなくちゃいけないけど』

 

 

『……これらは一体?』

 

 

『えっとね……正義実現委員会の〜活動を、シャーレが捜査します、それで…うーんと、正義実現委員会の活動に関わったもの全部に対して、捜査権限を持つんだけど……ほにゃららこにゃらら…』

 

 

 

 

「……という訳でして」

 

 

「は〜…よく思いつくもんすねぇ……めちゃくちゃややこしい事してるんすか」

 

 

「……デミ、貴方も無事で良かった」

 

 

ふわりと羽で包まれ、デミを抱き寄せる、憂いが現実となった今では彼女達の無事が何よりも嬉しい。彼女のキヴォトス一と言ってもいい大きな羽の抱擁は、前身をくまなく包み込んで、安心してしまう。

 

 

「…ありがと、ハスミ先輩」

 

 

「デミ、次の世代は貴方が正義実現委員会を引率していくでしょう……その次も、コハルが居ます、私が後を託す皆を……貴方達を支える事が私の役目ですから」

 

 

心からの賛美を受け取り、コハルの頬が赤く染まって背筋を正した。直々に『その後』を託す者として名指しにしてくれた事を、誇りに感じ取る。

 

 

「補習授業部の皆さんもありがとうございました、コハルのテスト結果も耳に入りましたし、感謝してもしきれません」

 

 

「いえ、デミちゃんとコハルちゃん自身の努力の結果です!ハスミさんもありがとうございます!」

 

 

「…うん、まさしく形勢逆転っすね………あ、そういえばツルギ先輩は?」

 

 

「い、一応休みという体裁は取っているのですが……えっと、一番手強そうな所に行くと連絡が」

 

 

 

ドカァァァアアアン!!!

 

 

 

混沌と化していた戦場が爆発によってなぎ払われる、ある程度正実にも被害はあったがその数十倍アリウスの被害は大きい、戦闘音を上回る爆発音が炸裂して体育館の壁が爆発四散する。

 

 

「けほっ…けほっ……今日も皆さんに…けほっ…平和と安寧が共にあらんことを」

 

 

「シスターフッド、謎の襲撃者に対し、桐藤ナギサの現状確認を取れない為、聖園ミカに対して訪問を行おうと参戦致しました、道行く先に壁があるなら乗り越えましょう」

 

 

「マリーちゃん!サクラコさん!シスターフッドの皆さん!良かった、無事だったんですね!」

 

 

ハナコが少し怪我をしているマリーに駆け寄る、動員されたユスティナ聖徒が一番多かったのはシスターフッドであり、その戦闘も激しいものとなっていたのだが、何故ここまで来れたかを疑問に思う。

 

 

「剣先ツルギさんが、ここは任せて行け……と単身全てのユスティナ聖徒会を引き付けてくれました」

 

 

「ツルギさんが…」

 

 

「それにしても太古の教義…その守護者であり、私達の前身、ユスティナ聖徒会が現れるとは夢にも…ハナコさん!?」

 

 

「マリーちゃん、サクラコさん、ヒナタさん……本当に無事で良かった…」

 

 

いつの間にか、本当にいつの間にか脱いで水着になっていたハナコがマリーに抱きつく、あれほど苛烈な戦線で誰も脱落者無しにここに来れたのは僥倖と言っていいだろう。

 

 

「さぁ、行きましょう!最終決戦です!」

 

 

「ノリノリっすねぇ……」

 

 

場の雰囲気に押されて、つい必要の無い手札まで切ってしまいそうになるが……いや、きっとここはこうするのが正しいんだろう、きっと私ならそうするから、さっさと呼んでしまおう。

 

 

「それじゃダメ押しと行きますかァ!」

 

 

ポケットから小さなインカムと、体育館の隅に置いておいた黒いヘルメットを手に取り、肺に大きく空気を貯めて、張り裂ける程に叫ぶ。先生側が秘策を出したのならば、出血大サービスだ…!受け取れ私の貯金!

 

 

 

 

「助けてッ!カイテンジャーーーァァァ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠目で見える別館、その奥の体育館が騒がしくなっている、お祭りのような雰囲気を出しながら暴れ回るものがどんどん追加されていく。

 

 

《ゲリラライブの話は嘘だったのかーー!!責任者を!ティーパーティーを出せーー!!!》

 

 

《待ちなさい!トリニティ自警団です!止まりなさい!!くっ…先生からの要請でここら一帯のパトロールをしに来たのですが……なんですかこの状況は!?》

 

 

《無限回転寿司戦隊カイテンジャー、参上!!》

 

 

《突如現れ、世界の平和を守る為……》

 

 

《どちらかというと振り込まれた金と、いつも融資してくれているカイテンFXの開発資金の為…》

 

 

《何時もご利用ありがとうこざいます……あ、はい、その…誠心誠意頑張らせて頂きますので私達の活動範囲拡大を認めて貰えると…》

 

 

《ハッハッハ、寿司ネタでも無いのに入隊は難しいかな!レインボーカイテンジャーは諦めて貰えると助かる!!》

 

 

 

「………」

 

 

アリウスから様々な通信が入る、劣勢、撤退、壊滅。詰みだった筈の盤面が目の前に立つボロボロで無力な、何も出来ない筈の男に覆された。

 

 

「い、一体どうなって…!?なんですかこれは!きょ、強制捜査申請が受託…?これが大人の……先生のーー」

 

 

“違うよ、ナギサ……あくまでも私は、彼女達にきっかけを与えれるだけ、この選択を取ったのも、危険を犯してあの場に立ち続けたのも、ハスミの意思さ”

 

 

二人は最大限先生を警戒していた、先生を侮らず、過小評価もせず、この物語における最大の変数だとして詰みの盤面を用意し続けた。けれど、それを『先生』だけの力だと誤認していたのだ、誰も彼もが取るに足りない変数だと思い込み今以上に対策を施さなかった。

 

 

“……皆が頑張っている、私も気合い入れ直すか…!アロナ!”

 

 

空中に表れた錠剤三つを手に取り飲み込む、すると死にそうだった血色の顔色と、小鹿のように震えていた足の揺れが止まる、吐血も一旦は収まった。

 

 

ミカが、プールから完全に出て先生へ歩み寄る。

 

 

「……なんで、先生はそこまで頑張るの?先生は結局は連邦生徒会所属、トリニティとゲヘナの結末がどうであれ関係無いでしょ?」

 

 

「ねぇ、どうしてかな」

 

 

もう二人の距離は手と手が触れ合える程近い、ここで組み付されれば終わりだが先生は拒まないし、ミカも襲おうとはしない。

 

 

“ふふっ…どうして、か……”

 

 

その返答を待つ。

 

 

 

“私は、生徒の味方だから”

 

 

 

「……変わらないなぁ…先生って」

 

 

一切今までと変わらない理由で、彼はここに居る。

 

 

「なら、いいや」

 

 

「…あはっ、先生って本当に抜けてるよね、有象無象で私に勝てるって…思ってたの?」

 

 

黒い炎が頭にある、あの男から渡された薬を取り出す。

トリニティでの違法薬物での暴走……あの事件の真相はただのブラックマーケットでの薬品流失じゃない、『実験』だったらしい、この完成品を作り出す為の。

 

 

『クックック……もし、貴方がどうしてもこれに頼る場面が来たのなら…制限時間は二十分です、お気をつけを』

 

 

「なんだっけ…色んな事言われた気がするけど…いいや」

 

 

“……ミカ、それは”

 

 

「先生、私達は『正義』側、貴方達が敵でトリニティの平和を脅かす悪」

 

 

そんな事、少しも思ってないけど。

 

 

「えっと、黒服…だっけ?あいつが言った名前は『アストライアの丸薬』」

 

 

神秘が何処に潜むのか?神秘の性質自体を紐解けても、その発生条件にはまだ未知の部分が多かった、『スーパーマダオ』、あれは一種の信仰対処になっていた、ミームというべきなのだろうか。

 

 

虹色に光り、無敵の音楽が流れ出す、けれどあれは別に無敵になった訳でも何でもない。確かに神秘を増幅させるが故に固くはなるが、あそこまでの無敵性は無かった筈だった。

 

 

ミーム、誰も彼もの共通認識…あの曲がかかり、あの色に光れば、知っていれば誰だって『無敵』になっていると思わせる。その集合意識が具現化した結果、本当に無敵になったのだ。逆にその知識が無い者に対しては効果が薄い。

 

 

“黒服ッ……!”

 

 

「悪い大人なんだっけ?先生からしたら……嬉しそうに話してたよ?」

 

 

「ミカさん何を…」

 

 

「ナギちゃんは先生の元に居てね、全部…片付けてくるから」

 

 

薬を飲み込む、『アストライアの丸薬』正義の神の名を冠するこの薬の効能は……。

 

 

「ふーん?こんな感じになるんだ」

 

 

ミカの羽が、もう一対増える、背中…その肩甲骨付近から服を突き破り、飛び出た羽が広げられる。大きな羽だ、神話に出てくる天使が如き白無垢の大きな羽。

 

 

「それじゃ、始めよっか」

 

 

ミカの頭上、ヘイローが渦巻き、輝きを増して辺りを照らしていく、聖園ミカは単純な実力だけでも正義実現委員会のトップ、剣先ツルギと同等の戦力を保有する怪物、更に彼女には他と一線を画す能力がある。

 

 

「ゴミやチリは、纏めてゴミ箱に捨てる、今ならその気持ちが分かるかも」

 

 

 

 

宙が開く。

 

 

そんな事が起きる訳が無いと知ってはいるが、『それ』が目に入ってしまえば、確かにそれは宇宙からのものだと『認識』する。

 

 

トリニティの空が、彼方星の海へと変わり、『それ』が降り注ぐ量は倍加していく。

 

 

この世界は不安定そのものだ、たった一人の少女の力が、見果てぬ人類の夢を引き寄せる。

 

 

 

“隕、石……”

 

 

開いた宙の奥に見える、小惑星ユスティティア、それが砕け散りながら小さな流星群となって合宿場を蹂躙し始める、敵も味方も等しく。

 

 

 

「先生、まだ現実は終わらないよ、私がいるから」

 

 

 

「私は……(魔女)は、現実(不条理)そのもの」

 

 

 

「止めてみなよ、先生」

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