ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

76 / 119
今回終わりの歯切れ悪し。










聖戦の始まり

行ってしまった、私を置き去りにして。

 

 

“…ナギサ、何処も怪我はしてないかい?”

 

 

「……はい」

 

 

既にグラウンドや合宿場別館、体育館は荒地になって今も爆発音が鳴り響いている。

 

 

ナギサの手は細かく震えていて、不安を隠しきれていない……。

 

 

 

が、その不安は己に蓋したものだ。

 

 

 

“ナギサ、君とも答え合わせの時間だ”

 

 

ーー答え合わせ、そう…まだ真実は吐き出されきってはいない。

 

 

「……」

 

 

押し黙る彼女から震えが消える、恐怖に染まった表情も、一人でいる孤独さも、不安から来る拒絶感も一切消えていた。

 

 

 

“君は……ミカに、わざと…自ら騙されていたね”

 

 

「はい」

 

 

 

頷いた君も、ミカと同じ顔をしていた。

 

 

 

 

 

ーー桐藤ナギサ、私のきっかけは、彼女にあの言葉を囁かれ……心を折り、そして彼女の自室に連れていかれた時だった。

 

 

『それじゃ、ちょっと待っててね……紅茶、取ってくるから』

 

 

『…はい』

 

 

あの日から軟禁気味の生活だったが、不自由は無いようにと準備はしてくれていた、ただ少し暇だったので……勝手には悪いと思いつつも部屋の掃除をしようと色々な物を物色している時だった。

 

 

『ミカさんの自室…ホコリが少し………ん…?これは…』

 

 

髪飾り、それもおもちゃの様にやけにキラキラした子供用のもの。

 

 

『………』

 

 

こんな趣味があったのかと意外に思っていたが、妙に見覚えのある見た目に記憶を探っていると、ふと思い出した。

 

 

『これ…私が小さい頃にミカさんに差し上げた……』

 

 

 

【ナギちゃん!ありがと!】

 

 

 

空耳だった。

 

 

 

けれど、その声にも聞き覚えがあって……。

 

 

 

『……』

 

 

他の部屋に置いてある物も手に取る。

 

 

 

『…これ、全部私やセイア…セイアさんが渡した……』

 

 

【貴方だけの味方になる】あの言葉にはきっと裏があって、私を利用したいとは薄々気づいていたけれど、私の心はとっくに疲れきってた。

 

 

【ミカちゃん】

 

 

遠い記憶が蘇って、私の幼い姿が陽炎の様に焼き付いた、それは私が彼女にこの髪飾りを…最も古い、そして一番最初の贈り物を渡した記憶。

 

 

『………』

 

 

 

折れた筈の…私の心は…………

 

 

 

 

 

 

“君も立ち上がったんだ、皆の様に”

 

 

もうどうでもいいなんて、少しも思ってなかった。

 

 

“諦めたく無かったから”

 

 

彼女の為に、トリニティの為に私ができる事を成すだけ。

 

 

「……」

 

 

“そして、誰が犠牲になろうとも…ミカが目指す目標を支えると決めた”

 

 

但し、最終目標は違ったのだろう。

 

 

“ミカとナギサ…二人の結論は同じだった、ミカはアリウスの暴走で、君はミカから得た情報で、何れ起きる『アリウスの叛逆』を止める事は厳しいと”

 

 

ミカはトリニティを私物化する事で、この一連の事態が終わった後にアリウスから権限と戦力を根元から引き抜くつもりだったのだろう。あらゆる汚名を被りながら皆を守るために。

 

 

逆にナギサは……

 

 

“ナギサは、この事件が終わればミカを逮捕しようとした、彼女の一番身近に居た君は裏を取っている証拠なんて腐るほどある、ミカが内政を始めればトリニティが瓦解する事も理解していたね?”

 

 

「…そうですね、概ね正解です…ミカさんは政治が苦手ですので」

 

 

トリニティの権利を乱用し、いづれにしても失脚する事は分かっていたが、その短い天下の間に何をしようとしていたのかは疑問だった……が、先生と彼女との会話でそれも判明した。

 

 

“そしてアリウスを全戦力を以て壊滅させる、場合によってはエデン条約締結後にゲヘナの戦力を使ってでもアリウスを滅ぼそうとしていた”

 

 

ミカが大切なものを守ろうとしていた事、それを理解したナギサはその役を引き継ごうとしていたのだ、ミカを犠牲にしてでも。きっとそれが彼女の望むことだと信じて。

 

 

「……アリウス分校に関しては、彼女達は必ずトリニティとゲヘナを恨んでいます、もはや癌と言っても差し支えません」

 

 

肩を伸ばし、ため息をつくように次の言葉を述べていく。

 

 

「……ですが、それも全て白紙になりかけていますが、先生のおかげで」

 

 

“あはは…恨み節に聞こえるのは気の所為にしとくよ…”

 

 

「事実ですので」

 

 

にへらと笑う先生を見ていると調子が狂う、もっと冷酷に、もっと血も涙もない……大人の様な人間になったと思っていたが、その大人である先生がこうもふにゃふにゃだと肩の力の入れようが無い。

 

 

「やはり先生は……最後まで味方してくれませんでしたか」

 

 

“うん、君たちの選択は尊いものだとは思ってるけど、やっぱり犠牲を伴うやり方は…いや、そうするしか出来なかった世界は許せなかったから”

 

 

私には優しい目を向けている彼が怒りを向ける対象は…ずっとそうだったのだろう、怪物だと忌避していた男はまるで聖母の様な心の持ち主だと気付かされる。

 

 

“さて…ナギサ、もう一度聞こうか”

 

 

また真剣な眼差しに変わって、しゃがんで目線を合わせられる。

 

 

「もう一度……ですか?」

 

 

“ナギサ”

 

 

“君はどうしたい?”

 

 

 

さし伸ばされる手に、私の目は釘付けになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体……何が…けほっ」

 

 

「…ヒフミちゃんは、ここに居てね」

 

 

「……けほっけほっ…デミ、ちゃん?」

 

 

 

 

 

蹂躙。

 

 

 

 

隕石の到来から一分でアリウス生徒も正義実現委員会も補習授業部も、立っているのは数人程度になった。

 

 

 

「KAITEN FX MK.1ッ!!」

 

 

「融資を受けた事で進んだ開発技術の賜物を喰らえぇぇ!!」

 

 

肩に取り付けられたミサイルランチャーを発射しながらライダーキックの形で、この荒地に降り立った怪物に攻撃していくカイテンジャー。

 

 

「邪魔」

 

 

「ぐぁぁぁぁっっ!!!?」

 

 

「…片手でなぎ払われとる」

 

 

爆発四散しながら彼方へと吹き飛ぶカイテンジャーに、敬礼…。

 

 

「せっかく作ったのにーー!!」

 

 

「またの振込をお待ちしてますぅーー!!」

 

 

「カイテンジャーは滅びん!何度でも甦るさーーグァァーー!」

 

 

「……呼んだのは私っすけど、最後までうるさかったなアイツら…」

 

 

まぁアリウスの撃滅には加担してくれたから良かった、ここで減らしておけばおくほど後の展開が楽になるだろうから。

 

 

「しっかし、結構死んじゃったな…」

 

 

三…四回程度だろうか?あの降り注ぐ流星群の中、一番最初に起き上がってミカの前に来れた費用とでも考えとこっと。

 

 

「デミちゃん」

 

 

「ミカ様ちゃん…随分と可愛くなったっすね」

 

 

「退いて」

 

 

一歩づつにじり寄られる。

 

 

「退かせて下さいっす」

 

 

退いて…つまり、彼女は私を超えるべきでは無い壁だと思っているのか?『退かせる』だろう?

 

 

「もう暴れ回る必要も無いんじゃないっすか?大概のメンバーダウン中っすよ」

 

 

「………」

 

 

「それとも…全員に自分がやったって、わざわざ言いに行かなきゃいけないんすか?」

 

 

「魔女だって」

 

 

「……ッ」

 

 

地面が砕ける程の力を込めて近づいてくるミカ、何故羽が生えているのか、何故ここまで強くなっているのか……まぁ、その疑問は直ぐに解消した、なんてったって見た事ある状態だったから。

 

 

「……元々神秘が強い人だと増幅される分も多いんすかね、黒服との契約に何を差し出したんすか?」

 

 

「なんで知ってるの?黒服の事を知ってるのは……」

 

 

「隙あり!」

 

 

驚いて目を見開いている途中に射撃をぶちかましてやる、その羽、明らかに黒服の実験の産物だろう?つまり私のせいだ、卑怯だが……尽きる事の無い掛け金()を張らせ続けてもらう…!

 

 

「………はぁ、変わってるのか変わってないのかハッキリしてよ、デミちゃん」

 

 

「き、効いてない…」

 

 

撃った箇所を一瞥すらしない、ミリもダメージが無い、硬すぎる。

 

 

「いい、分かった、退かせるね」

 

 

あの大きな羽がパタパタと動きはじめる、まるで天使の様だ。

 

 

ハスミ先輩よりも大きい羽がゆっくり広げられ、同時に姿勢を前のめりにしてクラウチングスタートの様な格好になる。

 

 

「…ッ!こんにゃろッ…!!」

 

 

パラパラと銃弾を打ち込むが……全て避けられた、掻き消えるような風の音と共に目視が不能なレベルで高速移動している。

 

 

ゴウッ……という風切り音と共に、借りていたアサルトライフルが鉄塊となって破壊された。

 

 

「ガッ……」

 

 

「バイバイ、起きたら全部終わってるから…その時にまた話そうね、デミちゃん」

 

 

拳が腹に突き刺さり、意識が飛んでいく……。

 

 

「…手加減し過ぎっすよ!!」

 

 

ことは無く、絶妙に手加減されすぎたパンチは逆に目覚めの一発として受け取った。

 

 

が、こちらが伸ばした拳も簡単に受け止められて反対方向に捻じ曲げ折られる、そのままもう一発お腹に拳をねじ込まられた。

 

 

「き゛ッ……」

 

 

「……」

 

 

ただの殴りが人体を吹き飛ばす、まだ銃も使われていないのに満身創痍にさせられる……元より捨て気味なこの身体だったが、道端の石程度には足止めになってくれないかなぁ……。

 

 

「がふっ……ゲホッ…」

 

 

びちゃびちゃと血を吐き出す、ただの怪我だと治ってくれないのは本当に不便だ。

 

 

「…まだ立つんだ」

 

 

「ゲホッゲホッ…し゛、知り合いに……潰れたトマト缶みたいになっても動いてた奴も居たっすから」

 

 

「……あはっ何それ」

 

 

片膝立ちで何とか向き直って、吹き飛ばされて切れてしまった額の血を拭いミカが向かおうとしている所を遠目に見れば、体育館周辺の瓦礫から正実のメンバーが数人起き上がっているのも見える、ハナコもコハルもボロボロだが何とか立ち上がっできているようだ。

 

 

「私は…先生のようには上手くミカ様ちゃんを止められないっす」

 

 

また近寄ろうとする私に向けて、ミカが銃を構える。

 

 

「ふぅ…私に出来るのは、先生が手の届かない……生徒同士の殴り合いぐらい」

 

 

「赦される事を苦痛に感じるなら、私が()ってあげます」

 

 

「あははッ…!無理だよ、デミちゃんには…」

 

 

ゆっくりと引き金が引かれ、今度こそ意識を奪い去る弾丸が私に到来しようとーー

 

 

 

ズドォン!!!

 

 

 

目の前に、ライオットシールドが突き刺さり弾丸を防ぐ。

 

 

 

「……はえ?」

 

 

「ーー救護ッ!!」

 

 

「ミ、ミネ団長!?!」

 

 

空から降ってきたミネ団長が地面を粉砕しながら着地していた。

 

 

刺そうとしていた針をすぐさまポケットに直し入れる。

 

 

「セ、セイアちゃんのお守りは?」

 

 

「セイアさんの置き手紙を見つけて、『あの馬鹿を起こしてこい』と……私には誰か分かりませんでしたが、騒ぎを聞きつけ参上致しました、セイアさん程のお方が『馬鹿』と称す者…つまり、一番多くの『救護』が必要な者」

 

 

突き刺さったライオットシールドを手に取って、ミカへ歩みを進める、…え、別に何か服用とかしていないはずなのに地面砕けてる、何あれ……。

 

 

「ミカさん」

 

 

「……」

 

 

目を瞑り、タメを作って話し出す。

 

 

「貴方は貴方なりの正義があるのでしょう、多くの人を傷つけ、馬鹿と称される貴方は優しい、その正義の優しさが暴走してしまった事を哀しく思います」

 

 

「ーー故に!『救護』はあらゆる存在に対して与えられ無ければなりません!聖園ミカ、貴方を救護します……その蟠りを断ちましょう!!」

 

 

そのまま殴り掛かって、それに反応してミカも拳を突き出した事で互いの拳がぶつかりあった。

 

 

「せぇぇいッ!!!」

 

 

衝撃波が顔を叩き、更に何処からともなく銃撃も飛んでくる。

 

 

「あは、アハハ、アハハハハッ!!」

 

 

「…イチカちゃんまで………人生、ままならないもんっすね」

 

 

一人で決着をつけようと思っていたが……やっぱり、私はとことん必要無いなぁ…。

 

 

だって……

 

 

「ミカさん!!」

 

 

「…浦和、ハナコ」

 

 

「セイアさんは…生きています、セイアさん襲撃の実行犯は……はぁっ…アズサちゃん、そうですよね」

 

 

遠くから大きな声でハナコが叫ぶ。

 

 

「……セイアちゃんが?」

 

 

「そうです!貴方はまだ何も失ってはいない!まだ……何も…けほっ…」

 

 

「…だから?だから何?だから止まってって?」

 

 

競り合いをしていたミネ団長とイチカちゃんを吹き飛ばして、轟速でハナコの元へと飛ぶ。

 

 

「理由、ちゃんと言ってなかったね、私…ゲヘナが憎いの、あんな角付き尻尾付きの奴らなんかと同じ世界を生きていたくない、だから滅ぼすの」

 

 

「…っそれだけが理由では無い筈です」

 

 

「ううん、それだけ」

 

 

さっさと気絶させてしまおうと銃を向けるミカ、その二人の間に挟まり込む者がいた。

 

 

「コハルちゃん…!?」

 

 

「わた…私は正義実現委員会のエリート!仲間を…守るの…!」

 

 

怯えながらも前に立って身代わりとなるコハルに……引き金を、引けない。

 

 

「救護ォッ!!」

 

 

「無視してんじゃ無いっすよ!!」

 

 

「もう…邪魔だなぁッ!!」

 

 

「ーー撃ちますッ!」

 

 

戦闘は激化し、遂にハスミまで参戦しレイドボスの様になっていく。

 

 

「やっぱり、みんなは強い(美しい)なぁ……」

 

 

「ーーーーGaaaaaaaa!!!!」

 

 

「……次はなんすか………って、アンブロジウスにツルギ先輩!?」

 

 

ボロボロになって消滅しかけのアンブロジウスに喰らいつきながら互いにボコボコに撃ち合ってミカとの戦闘に参入してくる。

 

 

どちらの叫び声か分からない獣声を上げながら血塗れになってアンブロジウスを壊していくツルギ先輩。

 

 

「ん……まぁ、でも…やっぱり余分っすね、コイツらは」

 

 

こうやって皆の強さを味わう度に、今の余分が本当に余計なものでしかない、イライラする。

 

 

「よし…」

 

 

余分、というよりは私が招いたズレは、やっぱり私の手で決着をつけなければならない。

 

 

再度針を取り出し、肌に刺す、神秘を壊すこの針は、やはり変身っぽいものとして最適だ。

 

 

 

傷が癒えて立ち上がれる様になったので、『右手』だけを使わせてもらう。

 

 

 

 

「いただきます」

 

 

 

 

誰にも観測できない速さで、アンブロジウスはこの世から消えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。