ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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絡まった紐

何かがおかしい。

 

 

“………”

 

 

最初に違和感を持ったのは先生だった。

 

 

「……先生?」

 

 

“……ナギサ、君が指示した事を一度全て教えてくれないかい?”

 

 

何かがおかしかった、何かが。

 

 

「…わかりました、が、何かありましたか?」

 

 

“何かと言われればこの状況が…って言いたい所だけど、少し気になってね”

 

 

“…アロナも補習授業部一週間の記録を全て整理してくれないかい?”

 

 

「は、はい!」

 

 

手持ちの情報を洗いざらい見直していく、『私達』が、私が…何故か歩みを踏み出せない、ミカの所へ向かおうとする気力が失われていく、つまり何かを見落としている。

 

 

 

アロナが端末に合宿場での全ての記録を映し出す、音声も映像も、私が知り得る全てを書き出していく、何せ現状は『知っている』事が逆に弱点になりうる。必ず違和感の正体を突き止めなくてはいけない。

 

 

再び脳内作業を分割し、ナギサとアロナの記録を平行処理していく。

 

 

 

■合宿場 活動記録

 

 

“…”

 

 

■合宿場 一日目

 

 

《私に予測出来なかった変数であり、私達の作為によるものでは無いと今ここで誓います》

 

 

“…ビナー起動の、報告”

 

 

(“…ビナーの起動……いや、いや違う!問題はビナーの起動じゃない、黒服は…私とは契約を口約束だとしても結ばない、『誓わない』”)

 

 

■三日目

 

 

“ハナコの失踪…合宿場における最大の謎”

 

 

(“デミが教室で発見……は嘘と見ていい、有り得ない…見落とす筈が無い、『私』が)

 

 

ヒフミからハナコ失踪の連絡を受け取った時には、合宿場にアロナの『神の目』を使って捜索をした、教室どころか合宿場、しいてはトリニティにすら浦和ハナコは居なかった。

 

 

(“失踪においてハナコは犯人の姿を見てすらいない、気絶したまま帰ってきた…………)

 

 

“……まってアロナ、今の部分もう一度”

 

 

「今の部分ですか?音声記録のみですが…再生します!」

 

 

《「大丈夫でしたか?ハナコちゃん」

 

「………すみません、意識を失ってしまっていたのか記憶が…」

 

「あれ?そうなんすか?」》

 

 

“……杞憂か?”

 

 

しかし、ここにきて積み重ねられた違和感が邪魔をする、デミが発見者である事、彼女独自の隠し事、そして元来の勘、記憶を頼りに考察を重ねるが一旦は保留として次の記録を観ていく。

 

 

■合宿場三日目

 

 

■合宿場四日目

 

 

“美食の子達…カード使用、謎の違法薬物…これの原因はミカか”

 

 

先程彼女が服用したのもそれに似通ったものだと思っていいだろう、黒服の名前が出てきた事でここの黒幕は分かった。

 

 

■合宿場 ■■■

 

 

「あれ!?」

 

 

“…アロナ?どうしたの?”

 

 

「記録が削除…?元から無い?あれれ?えーっと…?」

 

 

“……”

 

 

「せ、先生!」

 

 

ナギサの慌てふためいた声が聞こえる。

 

 

「お…思い出せないんです」

 

 

“ナギサも?”

 

 

「はい……えっと、私は…何故、羽音デミさんを……?…え?」

 

 

“……ナギサ?”

 

 

ナギサの顔が青く染って、今度は正真正銘の恐怖と震えが彼女の身体を支配していく。

 

 

「何が思い出せないのか…思い出せ、無い?何故…?」

 

 

“…まさか”

 

 

違和感が積み重なる、今日この日まで積み重ね続けられた不信が形を成していく。

 

 

それは全て羽音デミに関する事だ。

 

 

初日、彼女を迎えに行った際、ティーパーティーから命じられた彼女の入部理由は成績の不振。

 

 

それは合宿場の活動で否定された、成績不振を理由に入ってきた浦和ハナコの様に裏があるのとは違い、彼女には理由が無く狙った点数を取れていた。

 

 

正義実現委員会に対する牽制はコハルで済む筈、ヒフミを動かす為だけに本当に彼女までを補習授業部に入れようとしていたのか、その理由をナギサから聞こうと思っていたがそれも無理になってしまった。

 

 

次は黒服を装った誰かからの電話、あれは恐らく黒服では無い、黒服じゃ無いのにビナー起動のタイミングを知っていた、ビナー自身もヘイローが黒く変色し、想定外にも早期撃沈……これもおかしい、アロナの計算があそこまで大きくズレる事は無かった。

 

 

『小便行ってただけっすよ』

 

 

……硝煙の香り。

 

 

浦和ハナコの失踪、深夜謎の発砲音と悲鳴、アズサのスクワッドへの報告の痕跡の有無。

 

 

“……知っていた事で、見逃していた?”

 

 

彼女達の表裏含め、その主軸となる物語を『教えてくれて』知った事で、見逃していたのか……?有るはずのものが無くなったとしても、展開が地続きだった事で…。

 

 

ゲヘナでの騒動、内臓を失っていたデミ、違法薬物の生徒の制圧を行えた彼女……消えないヘイロー、ハナコとデミの話し合いや五日目以降の消えた記録。

 

 

失われたナギサの記憶と、現れた教義外の聖徒、無尽では無く、複製でも無く、例の鎮静薬の銃弾で消滅した……。

 

 

“羽音デミ”

 

 

今一度自分に問う、彼女の軌跡の一部だった己自身の経験を信じろ。

 

 

“…………”

 

 

彼女は…

 

 

彼女はーー

 

 

“彼女は、優しさ故に…”

 

 

羽音デミは……!

 

 

“…違う”

 

 

“…知らない、私は…『羽音デミ』という生徒を知らない?”

 

 

ファクターが解かれる、知っていた事で見逃していた事、それは胸を貫かれ殺されたのは『彼女』であって、『羽音デミ』という生徒を私は知らなかった。

 

 

正確に言うならば、私は羽音デミの記憶を回帰出来ていない、故に一番スキンシップとコミュニケーションを多くとってきた、何が鍵になって思い出すかは分からないから。

 

 

その中で……自然と、重ねていたのだろう、余りにも『彼女』に似通っていたから、いつの間にか『羽音デミ』という生徒へのフィルターになっていた。

 

 

考察が、振り出しに戻りかける。

 

 

 

“………………”

 

 

ただ、一つ……一つ言える事は…

 

 

“私は…間違えたか?”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご馳走様」

 

 

便利な強化フォームになったこの身体の私は、基本的に『取り込む』事にして、余計な物を食べる事で後片付けを省略した。

 

 

「……後はミカちゃんの羽を…」

 

 

標準を合わせて『神秘』の部分のみを喰らい尽くす、そうすればいつものミカ様ちゃんに戻る筈、あ…アンブロジウスに引っ付いてたツルギ先輩が地面に転がってる…。

 

 

この戦いに決着をつけるにはあの羽の破壊は必須、黒服謹製のもんなんて百害あるが一利はある、そんなもんだ。

 

 

「あー…ん」

 

 

遠くで人外級の戦いを繰り広げているミネ団長とミカちゃん、ミネ団長には当てない様に上手く摘んであげたいものだが……いけるか?

 

 

丁度離れた瞬間に……

 

 

「ーーん、よし……ォゲェッ!!?」

 

 

マッッッズ!!いや味は分かんないけど不快感の塊だこれ……なんだ…?自壊の作用か?

 

 

まぁとりあえずは良かった、見れば急激に失った力に困惑してミカが押され始めている、けれど既にみんなボロボロにされた後だからここから簡単に捲られはするだろうな。

 

 

「……よし、行くか!」

 

 

立ち上がって、ツルギ先輩を回収してから参戦して、この物語の幕が降りたと同時に、『例の計画』を始める。

 

 

その為にも、皆には起きて貰ってしっかりその瞬間を見てもらわなくちゃいけない。黒服から提案されたあの件にも決着をつけなければ……。

 

 

ミカに先程ああやって言ったばかりだが、私だって皆に知ってもらわなくちゃいけないからさ……。

 

 

「……」

 

 

……?

 

 

「……ん…?」

 

 

…なんか、変だ。何かが違うような?

 

 

「……んん?」

 

 

 

違和感、変な気分。

 

 

 

ーー何かがおかしい。

 

 

 

「…なんか違和感あるんすよね」

 

 

 

…ミネ団長か?ミネ団長がここに来ているのがおかしいのか?

 

 

「それも一つの要素…何がどうであれ、ミネ団長はセイアちゃんの元を離れないはず」

 

 

ただこれは違和感の根本では無い、また別の『何か』の違和感だ。

 

 

「…あ!あの黒い紐が無い!」

 

 

手首に巻いていた筈のあの紐が無い。

 

 

「えーっと…行く時にはあったから……黒服かぁ、マジでアイツ…」

 

 

また一つ違和感が見つかり、消える、けれどそれも根源じゃない、ゾワゾワと鳥肌が収まらない。

 

 

「…なんかあったっけなぁ…思い出せるかな」

 

 

ここまで来るのに必要な要素は揃っている、少しは異なっていたが皆が補習授業部に入り、テストを受け、妨害されて、美食とはいざこざがあったが……補習授業部の皆は打ち解けて、ここまで辿り着いた。

 

 

襲撃にも予想外の事は多くあった、ナギサが居なかった事、襲撃時間がズレていた事、最初から増援含めたアリウス学生が動員されていた事。

 

 

「…これもおかしい、結構必死だったから考える暇無かったけど……私は何を見落としているんだ?いや、何を見過ごしてきた?」

 

 

知っている筈だ、ゲマトリアがどんな手を取るか、この一連の騒動が行き着く先を、エデン条約編はしっかり頭に叩き込んでおいた。

 

 

頭にもやが掛かる、思考が邪魔される、考えている事が『考えられない』事で埋まっている。

 

 

何かがおかしい。

 

 

「…エデン条約一章二章、知ってるよね?私って」

 

 

…思い出せない。

 

 

「……あれ?」

 

 

「……いや、ある程度は覚えてた筈、それにこんな事忘れる筈が無い」

 

 

ゆっくりと思い出していけば、かすかにこの先の展開が頭に浮かんでいく、それは確かにケータイで見ていたブルアカの世界。

 

 

「…違和感を拾っていけ、私に関係ない違和感を……」

 

 

私が関われば物語が全てズレる、それは先生がシャーレに来た時から前提にしておいた事の一つだ。

 

 

「……」

 

 

『事情は分かってる?』

 

 

『全く!』

 

 

……うん?

 

 

『そう!ユスティナという敵に行く手を阻まれています!けほっ』

 

 

………浦和ハナコは、ユスティナ聖徒会をしっている筈だろ?

 

 

そうだ、浦和ハナコ関連の事が上手く頭に浮かばない、何かがおかしい。

 

 

「そうだ、メモ帳メモ帳…っと」

 

 

あの日ヒフミちゃんから渡されたメモ帳を見る。

 

 

《◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️》

 

 

「……は?何も書いてない?」

 

 

目に映るのは、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「そんな筈がある訳……」

 

 

頭を捻り、唸る……私が把握出来ていない事が多すぎる。

 

 

「…セイアちゃんの仕業っすね…!!」

 

 

彼女の力は、未来を観測した後に現世に干渉できる、私が巻き起こす騒動でも見たのか、ここでズラしに来たのか、ミネ団長がやってきたのはそういう事だ。

 

 

「うーん、ハナコちゃんには後で問い詰める、手帳の謎は……どうしよっかなぁ、全然分からん!とりあえず後々に〜……?」

 

 

ーーん?

 

 

「いや、思考放棄しちゃいけないっすよね?」

 

 

何故か分からないが、思考が纏まらない、とりあえずあの戦線に参加したくて堪らない。

 

 

「まぁいっか!行くぞぉー!」

 

 

 

一歩踏み出したその瞬間ーー

 

 

「ぞぉー…お?」

 

 

顔面に、戦闘の余波によって吹き飛ばされたライオットシールドが飛んできた。

 

 

「まず…」

 

 

避けれない事を悟る、偶然にも程があるライオットシールドの飛翔、これはどう考えても……。

 

 

(あのクソセイアァ!許さな…)

 

 

カコォォォォォン!と、頭蓋骨を勢い良く叩いた音は響き渡り、最速でデミの意識を奪い去っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コハルちゃん、何処も怪我はしていませんか?」

 

 

「うん…それよりも…!」

 

 

余りの圧力と戦闘の余波でコケてしまったコハルに手を差し伸べ立ち上がると戦場に走り出した、彼女の怒りは正当なもの、ミカが全ての黒幕だと台頭するのなら『正義』を持つものとして立ち向かわなくてはならない。

 

 

コハルが盾となったのも、その折れない信条からだ。

 

 

「…私も、ミカさんと話をッ…!?」

 

 

彼女にとって戦う理由は、『戻れない』と思っているから、それを取り除けば…と考えている最中に、頭痛が訪れた。

 

 

原因不明、正体不明の頭痛…それはあの日…ゲヘナに行った時から続いている、今気にする程のものでも無いが、それでも痛いものは痛い。

 

 

「ハナコ先輩!大丈夫!?」

 

 

「大丈夫です……!コハルちゃんは先に行って下さい」

 

 

「う、うん!本当に大丈夫なのよね?」

 

 

「はい、ミカさんを止めなくてはいけない……ので!」

 

 

「ぅ〜…分かった!行ってくる!」

 

 

コハルの先輩呼びが心に沁みる、こちらを伺いながら戦場へ走っていった彼女の後に続かなくては、想定外にもミカは強すぎる。補習授業部の皆の為にもこの頭痛から早く立ち直って…。

 

 

「……?」

 

 

ぽたぽたと何かが垂れる感覚。

 

 

「鼻血……?」

 

 

垂れる何かを手で抑えると、血が付いていた、どうやら鼻血が出ているようだ。

 

 

「…………」

 

 

違和感を持ちながらも抑えながら近くで倒れているアズサの元へと移動する。

 

 

 

 

けれど……

 

 

 

 

「…たて……ない」

 

 

頭痛が増して、膝から崩れ落ちた。

 

 

不味いと思う、このままでは彼女を…羽音デミの為に仕掛けておいたものが不発に終わる。

 

 

「アズサちゃん……」

 

 

暗く堕ちていく視界に、ひと踏ん張りと手を伸ばすが……届かない。

 

 

 

そのまま、意識を失い…浦和ハナコは地に伏した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ…駄目か!」

 

 

「……ここは…」

 

 

意識が目覚めると、ティーパーティーの茶会席に座っていた。

 

 

「足りない……届かない…!!」

 

 

「…セイアさん!?」

 

 

そこにはテーブルを叩き、滝のような汗を流しながら歯ぎしりをしている百合園セイアが居た。

 

 

「…浦和ハナコか、君も失敗したようだね」

 

 

「失敗…?」

 

 

「そうだ、羽音デミに何か仕掛けようとしていたのだろう?」

 

 

「………」

 

 

失敗という言葉への理解が進まない、それは敵に対する言葉だ。

 

 

「…ここまでしても未来は変わらなかった、無駄な足掻きだった……そうなのか…?先生…私は、頑張ったよ…」

 

 

「未来…」

 

 

「……そもそもこの戦況は複数の思惑が重なって出来たものだ」

 

 

セイアが指を折りながら説明を始める、この状況を受け入れているのもそうだが、何か…取り返しのつかない事が進んでいる事だけは分かる、故に耳を傾けなければいけない。

 

 

「まず、『私』の干渉、次に『アリウス』根本は…『ゲマトリア』だが『黒服』と呼ばれている者と、『ベアトリーチェ』、そこに『浦和ハナコ』と『先生』」

 

 

指折りに数えるそれは、思惑と称す様に何かを企てた者達だろう。

 

 

「私は未来を、あの最悪の地獄を変える為に……白州アズサとミネ…彼女に動いてもらった……白州アズサは無駄に終わったが」

 

 

「アリウス、元いベアトリーチェはトリニティの掌握とエデン条約の破壊だろう、どっちにしろそれも無駄になった」

 

 

「黒服…奴はどうしても手に入れたいものがあったのだろう、既に手に入れられた、浦和ハナコと羽音デミが出会う前の事だ……あれは防ぎようが無かった」

 

 

「君は、羽音デミの正体を知ろうとした、彼女の異常性を見てしまった君は、皆の面前……信頼できる仲間と先生に知らせる事でね」

 

 

「先生は……シンプルだ、補習授業部の皆を救う為に奔走する、ただそれだけ…策の弄し方は色々あっただろうけれど」

 

 

「…多くの奇跡が重なって尚、ここまでだ、ここまでで終わりだ、届かなかった」

 

 

 

全て数え終わって、収めた指をゆっくりと一本立て直す、嫌な予感がする。

 

 

そして放たれた言葉は、最悪にも想定内だった。

 

 

 

「羽音デミ、マスターピースたる彼女は未だ、この物語の手綱を握っている」

 

 

そうして、分かっていた筈の親友の名前が耳に入ってきた瞬間、私はその音を拒絶したくてたまらなかった。

 

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