ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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雪月下君忘時

古代兵器ビナー、全てが謎に包まれた存在である、何の為に在るのか、何を成す為に作り出されたのか、兵装以外の情報は明かされていない。

 

 

『浄化の嵐』

 

 

『大道の劫火』

 

 

『吹き荒れる砂塵』

 

 

それはキヴォトスに張られたテクスチャーの消去、分解、対物質において一切合切を粉塵と化す最強の兵装。

 

 

ビナーは守護者である。ウトナピシュテムの本船は砂に埋もれていた、あれだけ大規模な古代の遺産が残っていた近辺は、それ以外の痕跡を一切残さず砂になっていた。

 

 

ビナーは、セキリュティシステム(守護者)である。過去のキヴォトスと、現在のキヴォトスとの接触を防ぐ為の、テクスチャーの浄化を行う掃除屋。

 

 

大地を均し、新しいテクスチャー(文明)を打ち立てる為の基盤を築く存在。新しい世界を作る為に、文明を焼却し、分解し、ありとあらゆるものを灰塵にする。

 

 

『アツィルトの光』

 

 

破界光線、それは世界そのものである、世界を焼く光は、等しく世界の熱量を保有するものであらなけらばならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何あれ…」

 

 

「急に湧いて出てきたっすね」

 

 

イチカを支えつつ撤退したコハルは、地響きの音と共に振り返ると真っ黒いデカブツが現れるのを目撃した。

 

 

「…っ、ハスミ先輩とツルギ先輩は…!」

 

 

「大丈夫っすよ、コハルちゃん…あの二人が揃ってるならどんな相手でもーー」

 

 

イチカが急に押し黙る、いつもは飄々とした表情を崩さずにいる彼女、先程までもダメージが無い様に振舞っていたが、その顔が青ざめる。

 

 

「…何か、こっちみてないっすか?」

 

 

「……え?」

 

 

黒い、大きな蛇の顔がこちらを見つめていた。

 

 

口元に赤い光が集中する、ノータイムノンチャージ、本来放つ威力の何千分の一だろうが今の二人を気絶させるには十分の光線が襲おうとしていた。

 

 

 

一閃。

 

 

 

「ギャハハハハハ!!!!」

 

 

 

を、弾く紅い閃光。

 

 

 

「「ツルギ先輩!!」」

 

 

戦闘に参加し続けても尚変わらぬその身体能力、二丁構えた愛銃をクロスさせながら光線を弾き『返した』。黒い蛇の頭がモクモクと煙を立てて被弾を知らせている。

 

 

「ひょえ〜…」

 

 

「ツルギ先輩!みんなはどうなったんですか?」

 

 

「…ハスミは退避、ミネ団長は吹き飛ばされた、ミカ様も気絶している」

 

 

「そのずた袋みたいに引きずってんのミカ様なんすか…ちょっと頑丈過ぎません?」

 

 

よく見れば足に引っ掛けながら高速移動してきた事が分かる、あちこちぶつけてそうなものだが……無傷の様だ。

 

 

「首尾は」

 

 

「えっと、全員退避済み………あ、デミ先輩とハナコ…!!」

 

 

脳内で退避者を数える、すると一名だけ取り残されていた、というよりは……あの後どうなったかを知らない人物が居た。

 

 

『先に行ってください』

 

 

浦和ハナコ、既に補習授業部のメンバー……ヒフミとアズサは担ぎ出されたが、ハナコだけは消息不明だった。

 

 

「ハナコ…確か、補習授業部の……」

 

 

「は、はい!私の大切な友達で……」

 

 

「………分かった、コハル、全部後は任せろ」

 

 

思い返すと確かピンク髪の生徒も、後輩であるデミもあの場から消えていた、最後にハスミから叫び声が聞こえた事は覚えている……恐らく目の前の怪物が飲み込んだに違いない。

 

 

部長としての立場で『任せろ』と断言する、正実のトップとして、後輩と、後輩のお友達は助けなければ。

 

 

《おぉ………おぉぉぉぉ!!》

 

 

《証明を下せ!!不完全にして悪神たる主よ!》

 

 

蛇が何かを叫んでいる、それに共鳴するかの様に己の闘志を奮い立たせて突撃する。

 

 

「ケェヘヘヘヘ!!キャハハハァ!!」

 

 

ミカを引き渡されて、そのまま蛇の怪物と衝突するツルギ、イチカとコハルはその光景を目に焼き付けながら逃げていった。

 

 

コハルは胸に、違和感を抱きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“クラフトチェンバー最大稼働、シッテム経由で熱量を転換”

 

 

 

空が裂ける。

 

 

 

“対象指定は目視、ロックオン完了までは……アロナ、計測をお願い”

 

 

 

「はい!」

 

 

 

天が割れる。

 

 

 

“ツルギが足止めに尽力してくれている……本当に、ありがとうツルギ”

 

 

 

ミカが作り出した星空は、未だ宙に浮いている。

 

 

 

「……砕け……た」

 

 

 

夜空の星面が割れた、『風景』が砕けた。

 

 

 

“アロナ、ツルギに接続通達……退避の指示とサポートは私がする、アロナは軌道制御を”

 

 

 

黒い蛇を睨み続ける先生の表情は、この異常を引き起こしている本人なのにも関わらず焦りに満ちていた。

 

 

 

“ビナー…”

 

 

《オオォオオオ!!!》

 

 

何かを叫び続けている蛇は、その歩みを進めようとしている……ツルギがいなければ、この合宿場は既に呑まれていただろう。

 

 

「先生!」

 

 

“分かった”

 

 

さっきと同じ、空振りでは無い……先生が再び空を『叩いた』。

 

 

“抜錨、開始”

 

 

 

空から赤い光が一筋落ちてくる、細い細い一本線。

 

 

空を、天を、星を、割れた間に通り抜けて行く。

 

 

 

《…サンクトゥム》

 

 

《旅立ちの…邪魔をするかァァァ!!!》

 

 

黒い蛇の口元にも、爆絶な光が溜まっていく、その光の周辺が歪み砕け、風景すら飲み込まれていく。

 

 

蛇が天に昇り、節々から漏れ出す光と共に赤い閃光へ光を吐き出した。

 

 

 

“……世界焼却に足りうる熱量か”

 

 

 

押し負けていた、赤い光は、更に大きな紅い光に呑み込まれようとしている。

 

 

 

その光景を見た周辺に居た者は全員が怯えていた、あの蛇がこれ以上生き続けるのならば……トリニティは崩壊する、大切なものが全部消えてしまう、そんな恐怖に。

 

 

ナギサも例外では無かった。

 

 

 

「せん……せい」

 

 

 

先生の袖を掴む、震える身体の、その心が直に伝わった。

 

 

 

 

だから、それを手に取る事に迷いは無い、いや…元からずっと、そんなものは無い。

 

 

 

 

 

 

 

▶ 大人のカードを使う

 

 

 

 

 

 

 

 

《…………》

 

 

 

《サンクトゥムの…光》

 

 

 

《ベツレヘムの星、世界そのものに対しての……完全なる、証明》

 

 

 

《……証明を》

 

 

 

《この世は、不完全……で、あるが…故に》

 

 

 

《理解を》

 

 

 

 

聖槍は、ビナーを貫いた。

 

 

しかしビナーの身体には一切の損傷は無い。

 

 

変化したのは、色。

 

 

“私は、その不完全な世界を……信じているからね”

 

 

“罪深過ぎる、眩し過ぎる、だから、美しすぎるんだ”

 

 

“君たちの世界には、きっと『奇跡』なんてものは無いんだろうね”

 

 

白色に戻ったビナーが砂となり、アビドスの方向へと流れ去っていく。

 

 

“………おやすみ、守護者”

 

 

手元に握られた黒いカードは、鈍い光を発していた。

 

 

 

周囲の生徒達は歓喜の声をあげる、化け物は退治され、トリニティに仇なすアリウス派とミカは打ち倒され、誰も大きな怪我は無く勝利を手にし、追っかけっこをしていた自警団とゲリラライブ観戦者も手を取り合っている。

 

 

正義実現委員会も、このまま朝日を迎えれば活動を再開し、昼頃には仲良く昼ごはんを食べれるだろう。

 

 

ナギサも先生の手を取った、いざこざはありすぎたが……もはや彼女の病は消えて無くなっていて、残るは親友の身柄を保護するのみ、補習授業部の事も今から………。

 

 

「補習授業部………」

 

 

先生の顔は、未だ焦りがこびりついている。

 

 

「先生、補習授業部のテストの事ですが……」

 

 

“…………ごめん、ナギサ、また後で”

 

 

引き止める暇も無く、先生が走り去ってしまう、向かう先は……グラウンド。

 

 

「…いえ、先生の事ですからまだ気になる事があるんでしょう」

 

 

ナギサは手元の端末に目を向け、いつものお得意技を使おうとしていたが……。

 

 

「……」

 

 

ピタッ、と止まった、それは補習授業部のテストの範囲変更、元の範囲に戻し、点数も六十点ラインに、時刻も十分休憩して望める明後日、そうした変更を加えようとしていた。

 

 

沢山謝るべき人が居て、恥ずべき己も自覚して、大切なものも定まった。

 

 

けれど……。

 

 

「ナギサ…様」

 

 

「ヒフミさん」

 

 

もう一人の想い人が、そこに居たのだ。

 

 

「私は……間違えてしまいました、間違えて、間違え続けて、ここに居ます……まずは謝らせて下さい」

 

 

「……」

 

 

「ごめんなさい、申し訳ありませんでした」

 

 

どんな非難が飛んでくるのかは分からない、けれどもまずは頭を下げる事から。

 

 

「補習授業部の皆さんを傷つけて、ごめんなさい、皆さんの努力を踏みにじるような真似をして、本当に申し訳ありませんでした」

 

 

「……はい」

 

 

「償います、ティーパーティーホストの名をかけて」

 

 

「分かりました」

 

 

淡々とした受け答えだったが、両者放つ言葉に込められた決意と思いの力は大きかった。

 

 

「ナギサ様、私からも一つお願いしても大丈夫ですか?」

 

 

「如何様にも」

 

 

「テストは、そのまま受けさせて下さい」

 

 

「……!?」

 

 

衝撃が脳を叩く、不合格にさせる為に用意したものなのに、それを受けさせろと言う。

 

 

「約束したんです、補習授業部のみんなと一緒に真正面から胸を張って補習授業部を卒業するって」

 

 

「…………」

 

 

「だから、そのままで」

 

 

「…わか…り、ました」

 

 

失敗すればどうなるのか、私が撤回できる範囲内なのか、そんな考えは全て消し飛んだ、その強い意志を持った瞳を見せられて。

 

 

「ありがとうございます!…後、先生は何処に…」

 

 

「グラウンドの方へ向かいました」

 

 

「グラウンド……っ!まさか!」

 

 

 

そしてまた少女は走り出す、命を燃やす程に早く、速く、もっと素早く。

 

 

 

 

手を取ると誓った、少女の手を握るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハナコ」

 

 

「……ん」

 

 

「ハナコ、起きて」

 

 

「…………んんっ」

 

 

「ハナコ!」

 

 

「…ッ!いた、痛たた……」

 

 

「ねぼすけ、一人で■■ってたりでもしてたんすか?」

 

 

「……そのドギツイ下ネタは…」

 

 

雪が降りしきる夜闇

 

 

「おはよ、ハナコ」

 

 

月光に照らされた二人が

 

 

「……デミ、ちゃん」

 

 

「デミちゃんっすよ」

 

 

再会する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひーっ…w、お腹痛い、『貴方は誰なんですか!?』って、心配し過ぎ!マジで……お腹…いた、痛たた!ごめん!ごめんなさい!」

 

 

「もう!もうもうもう!!この!このこの!」

 

 

夢の中に居る様だ。

 

 

「……それで、ここは…トリニティの、噴水公園?」

 

 

「ん〜まぁ深く考えなくて大丈夫っすよ」

 

 

深く考えなくて良いと言われたから、特段現状を不思議がる必要も無くなった。

 

 

何か大切な事を忘れている気も……別にしない、目の前に大切な人が居るから。

 

 

「…別に、寂しかった……なんて言うつもりは無いですけど、また…私とお話してくれますか?」

 

 

「寂しかったって、ずっと一緒に居たじゃん、それにお話もいつも通りしようね、ハナコ」

 

 

貴方が消えたと思ってたのは、夢だったみたいで

 

 

「新しいお友達が出来たんです、とっても純粋で、優しくて可愛い子なのに……ちょっぴりスケベな事に興味のある、可愛い子」

 

 

「興味のある…って、まさかハナコ、教えちゃったりしてないよね?■■■■とか■■■■とか■■■とか」

 

 

貴方が自殺をしていたのも、夢だったみたいで

 

 

「なんで補習授業部なんかに入っちゃったの?」

 

 

「そ、それは…まぁ色々ありまして、でも!補習授業部での日常で……私にも大切にしたいものが見つかったんです、デミちゃんが教えてくれたみたいに、私の力を振るう事を、私自身が許せる位に、大切なものに」

 

 

……あれ?

 

 

貴方も、補習授業部のみんなと一緒に…。

 

 

「ハナコ」

 

 

「………なんですか?デミちゃん」

 

 

「見つけれた?」

 

 

「……」

 

 

「自分を許せる理由」

 

 

「…………それは、だから補習授業部の皆さんのーー」

 

 

「誰かの為に、罪悪感を償う事で?」

 

 

「……」

 

 

償う、そんな……

 

 

「そんなつもりじゃ」

 

 

「自分の為に、生きる事は難しいっす」

 

 

「ハナコちゃん、結局それは誰かの為にした事に過ぎないよ」

 

 

「自己犠牲じゃない、自己満足で生きなきゃ」

 

 

「それ、は…」

 

 

出来ない、そう言いかけた。

 

 

「出来ない、分かってるよ……ハナコちゃんはアタマ固いから」

 

 

……また、私は醜くなっていたのだろうか?

 

 

「違う、ハナコちゃんが認めれないのは、自分自身」

 

 

「私の為に…手を汚した事もあったんすね」

 

 

首を縦に振る、醜い私の、愚かな姿。

 

 

「…認めちゃえば?別に醜いって、私がイラついたから、イラついた分だけ仕返ししたって」

 

 

そんなの認めるわけには

 

 

「それが、自分の為に生きる……って事なんだからさ、醜い醜いって突っぱねたハナコも含めて、ハナコの一部分なんだよ?」

 

 

ーー。

 

 

「……まぁ、ハナコは賢いから、そこら辺自覚した上で私がだらしないから、足引っ張っちゃっただけなんすけど」

 

 

「そんな事、無いですよ」

 

 

否と返す、そんな事思った瞬間なんて……。

 

 

 

 

 

「ハナコ」

 

 

 

 

「補習授業部の時の私を一度でも」

 

 

 

 

「私だって、思った事、ある?」

 

 

 

 

それはーー

 

 

 

それは、致命的な質問。

 

 

 

「だから何度も言ってるんすよ、認めていい、自分の為に生きる事をって、『寂しくなんて…また私とお話』なんて……古くっさいツンデレ、今まで補習授業部での日常の私は、私じゃないって言ってるようなもんよ?」

 

 

笑いながら話す彼女と目を合わせられない。

 

 

 

それは、事実だから。それが、醜いと思っていたから。それを今、許していいと言われたから。

 

 

 

「あ〜、そういえば仲直りのハグ、してなかったね」

 

 

「…えぇ、貴方に叱られて、それっきり」

 

 

あの日から、結局私は何一つ変わってなかったのかもしれない、でも……それでいい。

 

 

「する?」

 

 

両手を広げられる、られている。

 

 

 

「……はい♡」

 

 

 

それを受け入れている。

 

 

 

 

大切なものを見つけれた、大切なものが帰ってきた、自分を大切に出来たのだ。

 

 

 

 

幕引きの拍手が聞こえてきた

 

 

 

 

雪の幕が降りる

 

 

 

 

 

月下、月光を浴びるのは二人だけ

 

 

 

 

 

 

貴方を知っているのは私だけでいい

 

 

 

 

 

 

初めて伝えられた、本当の本音は

 

 

 

 

 

 

「あぁ」

 

 

 

 

「暖かい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血の味がした。

 

 

 

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