ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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私の最後の戦い

「…イチカ先輩!私、ちょっと行ってきます!」

 

 

胸につかえた違和感が、コハルの足取りを邪魔していた。

 

 

みんなはもうボロボロだ、イチカ先輩が引き摺っているミカ様の流星群で殆どの仲間が気絶してしまった、それから畳み掛けるように色んな事が起きて取り残されている気分。

 

 

私は偶然にも傷を負っていなかった、崩落する体育館の瓦礫にも当たらずに……怖くて倒れちゃってたけど。

 

 

「行ってくるって……何処に?」

 

 

「えっと、あの、体育館に!」

 

 

「あ〜…お友達探しに行くんすか、もう敵は居ないから行っても大丈夫っすよ、私も空から降ってきた…ツルギ先輩、ハスミ先輩の所へ連れてくんで」

 

 

すごい形相をしながらツルギ先輩が空からここに降ってきたのは、あの蛇が消え去る瞬間の事で、奇声をあげつつ気絶して落ちて来たので慌ててキャッチしたのだった、幾らツルギ先輩といえど限界が来ていたみたいだ。

 

 

イチカ先輩に手を振る、先輩もそろそろ体力が戻ってきたみたいで二人を抱えて移動出来ていた。

 

 

「まってて、デミ先輩…ハナコ…!」

 

 

意気込み強く駆け出すと、後ろから…ドサッ……という何かが倒れた音が聞こえた。

 

 

「……?」

 

 

振り向くとそこには……。

 

 

「敵は、まだ……いるよ」

 

 

「私が」

 

 

聖園ミカが、イチカを壁に叩きつけ起き上がっていた。

 

 

 

「まだ、まだ何もかも中途半端」

 

 

「ミ、ミカ…様……」

 

 

「ゲヘナを滅ぼした後は……トリニティも、要らない、アリウスも何もかも」

 

 

それは恩讐、煮えたぎり今尚燃え尽きない憎しみの炎。

 

 

「何みんなハッピーエンドで終わろうとしてるの?」

 

 

先生の言ったことは合っていたのかもしれない、彼女の奥底には……そうやって、守る事で償うのが本心だったのかもしれない。

 

 

「変わらないよ?現実は」

 

 

憎しみを、噛む。

 

 

噛んで、噛んで噛んで噛み砕く、そうしないと余りの苦さに吐き出してしまいそうになるんだ、慣れたはずだったのにね。

 

 

「だからさぁ…ごめんね、コハルちゃん」

 

 

「そこ、退いて」

 

 

両手を広げて、ミカの前に立つ、臆病な私はそれしか出来ない。

 

 

「……」

 

 

もう消えかけて小さな憎しみの炎、手の平サイズぐらいしかないの、セイアちゃんは生きてたし、これ以上頑張る理由なんて無かった筈。

 

 

だから握りしめる、大切に大切に炎を囲って、私の身体を使って燃え上がらせる。燃やし尽くして、燃え尽きる。

 

 

忘れちゃダメなのはそれだけだから。

 

 

「分かんないよ、人の気持ちなんて、分かんない」

 

 

理由も、想いも、償いも罪も、何もかもが有耶無耶になりかけている、だから『中途半端』。

 

 

「黒幕…登場って所かな、コハルちゃん」

 

 

「……っ」

 

 

世界で一番無謀な戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

「逃げないの?」

 

 

「ミカ様が、みんなを傷つけるなら…退きません」

 

 

「そっか」

 

 

古い昔の話だ。

 

 

魔女と指を刺され、魔女と非難されて、魔女だと決められた女が居た。

 

 

籠の中、炎の中燃え尽きる魔女は……その最期の終わりまで……

 

 

魔法を使う事は無かったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幕が降りた後だからだろうか。

 

 

 

 

 

 

やけに雪が降っている。

 

 

 

 

 

「テスト」

 

 

「受けなくちゃ」

 

 

赤い、赤いペンだ、赤色のペンでどうやって試験をうけようかな。

 

 

「ねぇハナコ」

 

 

「…………どう、でしょうか」

 

 

ハナコにも分からないんだったら、私にもわかんないか。

 

 

「ハナコ」

 

 

「……」

 

 

「私の事、好きだった?」

 

 

「………」

 

 

目を閉じて、私の手を握って、弱く頷いて……微笑んでいる。

 

 

「私もね、きっと好きだったんだと思う」

 

 

「…………」

 

 

「大好き」

 

 

膝の上に横たわる彼女、綺麗なものが彼女の目から流れて、私が流した汚いものと混ざった。

 

 

「分からない、わかんないんだ、私って誰だっけ」

 

 

「貴方がこんなに大好きだった筈で」

 

 

「みんながあんなに大好きだった筈の私」

 

 

「……それ、誰?」

 

 

人の気持ちなんてわかんない、私がなんでこんなに苦しんでるのかも分かりたくなかった。だって目覚めたら知らない人の知らない人生を、知らずに奪ってたって、どうしろと?

 

 

「……馬鹿ですね」

 

 

そして、また知らない内に傷だらけになった。

 

 

 

血の池が広がるのを、手で掬って彼女に戻そう。

 

 

 

「…………分かんないよ、馬鹿だし」

 

 

「私もです」

 

 

呼吸が弱まっていく、顔が青ざめて、体温を失って、雨みたいに顔が濡れてる。

 

 

「…どうしたら、いいか……どうすれば良かった、なんて」

 

 

「結局、分かりませんでした」

 

 

「さいごの、最後まで」

 

 

彼女なりの本音だったんだろう、ここに辿り着くまで、全部見ておきながら何も出来なかったと思ってる……そんな浦和ハナコとしての自戒。

 

 

「……馬鹿……でも、賢くても……」

 

 

「分かりませんよ、何をしたら良かったかなんて」

 

 

「でも……どうしたいか…って、ずっと……」

 

 

柔らかな手、可愛くて小さくて優しい手、真っ赤に染まった二人の手。

 

 

「こうしたかった……」

 

 

もう握力も無いけれど。

 

 

「ずっと……」

 

 

握りしめるよ、こうしたかった。

 

 

「ずっと」

 

 

本当は、もう叶ってる。抱き締めてもらって…それで良かったけど、もうちょっとだけ。

 

 

「分かんないよ……どうしたいかなんて」

 

 

「……」

 

 

「世界を滅ぼしたくない、『私』の償いをする、生きていたいけど、もういいや」

 

 

「しなきゃいけないことはあったけど、したい事なんか無い」

 

 

死ななきゃいけない筈だった、でもやりたくは無かった、生きたいと思ってた筈だった、でも生きていたく無くなった、本当は私を先生に救って貰おうとか考えてた、そこには『私』が居た。

 

 

「……本当は、嬉しかったよ」

 

 

「貴方は誰って言ってくれて」

 

 

「死ぬほど、嬉しかった」

 

 

だから、私が世界で初めて好きになったのはハナコなんだ。

 

 

「……勝手な人」

 

 

「…うん」

 

 

雪が積もってきた、それでも赤い、赤に染まって、私の見える世界は赤色ばっかり、毎日…毎日そうなのに、いつまでも慣れないんだね。

 

 

「恋の色かな、赤ってさ」

 

 

「…うふふ、恋バナ、します?」

 

 

「告白になっちゃうよ」

 

 

「…………ふふ」

 

 

嫌になる、嫌いになりそう、大好き。

 

 

私だって初恋が終わった後に、知らない人から告白されそうになってる。

 

 

「…………」

 

 

「ハナコ」

 

 

「……」

 

 

「ハナコ」

 

 

雪で、握った手が見えなくなった。

 

 

「…ハナコ」

 

 

雪で、赤色が見えなくなった。

 

 

「…………」

 

 

雪で、顔が見えなくなった。

 

 

 

 

雪でーー……

 

 

「……?」

 

 

雪が、止まった?

 

 

周りを見渡すと、まだ雪は降りしきっているままなのに。

 

 

私と、ハナコの所だけ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“迎えに来たよ”

 

 

 

 

 

 

 

傘を差した先生が、私の傍に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

“したい事、みつけよっか”

 

 

 

「………何度目っすかね、迷惑かけんの」

 

 

 

“まずは……恋バナかな”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

起きて、先生。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ……え、先生!?」

 

 

グラウンドにまで走っていくと、その道半ばで先生が倒れていた。しかも前のめりに倒れたのか顔面が地面に擦っている。

 

 

寝息をたてているのか、気絶しているのか分からないほどに静かだった為、すぐに寄って確認してみる。

 

 

“…よく寝た”

 

 

「うわぁぁぁ!?急に起き上がらないでください!?」

 

 

“ごめんね、ちょっと答え合わせをしてきたんだ”

 

 

「答え合わせ?」

 

 

“さぁ、行こっか”

 

 

ボンッ!!

 

 

身体についた土埃を払い、タブレットを持って走り出そうとする……が、またもや爆発音、今日何度目かという呆れが来る程に、ヒフミの表情はげんなりとしたものになる。

 

 

「うわぁぁぁ先生ーー!助けてぇぇーー!!!」

 

 

“コハル…それに、ミカ”

 

 

「………」

 

 

逃げてきた……というよりは、戦闘を繰り広げながらここまでやって来たのだろうコハルがボロボロになりながら先生の足元に転がり込んできた。

 

 

それを追いかけるミカには傷一つ無い、あの激しい戦闘の中でも彼女はずっと余力を残していたのだろう、誰も太刀打ち出来ない強さなのに、誰にも知られる事無く。

 

 

イメージだ、彼女の中で誰にも負けない自分(現実)が居るのなら、どう足掻いても負ける要素は無かった。

 

 

“ねぇ、ミカ”

 

 

「まだ…」

 

 

“ミカ”

 

 

「まだ、残ってる!私が!」

 

 

先生に飛び掛かり、二人から引き離した上で銃を首元に近づける。

 

 

トリガーに指をかけて、見せつけるように先生を盾にしながら二人に話しかける。

 

 

「動かないでね、誰一人として」

 

 

そんな状況で、まさかの本人が勝手に動き出した。

 

 

“…今度は、見逃さないよ?”

 

 

先生はミカの事を放置してシッテムを操作し、また何処かから器具が割れる音がした。

 

 

同じだ、あの時と……アリウスはどうしてもミカに罪を被せて逃げられなくしたいみたいだ。

 

 

「先生ッ!動かないで!!」

 

 

グッと服を引っ張られて、血管が締まる程に銃を首に突きつける、泣きながら……震えながら。

 

 

「もう動かないで……もうこれ以上……私から…」

 

 

何のために暴れているのかも、その理由も失っちゃう……。

 

 

“……”

 

 

震えるその手を、握られる。

 

 

支えている、支えられた、自分に銃を突きつけている相手の手を支えている。

 

 

…どこまでも、どこまでも勘違いしてる人、自分の命を天秤に掛けてもピクリともしない。

 

 

「せんーー」

 

 

“私は、君の拠り所に成れない、だから後少し……もうちょっとだけ、頑張れるかい?”

 

 

握られている手は、銃を持っている側の手、それを包み込まれた。

 

 

憎しみの炎が、先生の手に握られてしまって、どんどん火が弱まってる。

 

 

燃え尽きる筈だった私が……収まって……。

 

 

「……ぁう……ぁ」

 

 

ボロボロ、もう果てしなく傷だらけで取り繕う事も出来ないのに、頑張れって……頑張れ……か…。

 

 

“元々、預けたものだからね、終わるその時までは……握っていて欲しい”

 

 

先生は、命を天秤に掛けているなんて思ってはいない、それは敵との『交渉』でする事だから、生徒の為に使うもので、乗ってすらいない……だから別に、その気の無い彼女は気負う必要は無い。

 

 

「………」

 

 

カードはまだ、握ってる、ずっとずっとしまい込んでる。

 

 

…そっか、頑張れか、私の事……まだ見ててくれるんだ。

 

 

「あ、あはは……あはは!はは、ほらどうしたの二人とも、先生を助けないと、私を倒せるのはもう先生しか残ってないよ?」

 

 

「正実の部長も、シスターフッドも、ミネも居ない、貴方達が止めないと、ほらほら!」

 

 

“………ふふっ”

 

 

わざとらしく、両手を上げて……

 

 

“助けて、二人とも”

 

 

「もう!先生!どっちの味方なのよ!!」

 

 

“勿論”

 

 

勿論、それは

 

 

“生徒の味方だよ”

 

 

こんな時にも、綺麗事は、綺麗なままだった。

 

 

「やっぱり、先生っておかしいんだね」

 

 

“はは!今はコハルとヒフミ、顧問である私の生徒の味方だけどね!”

 

 

ずっと険しい顔をしていた先生の調子が戻ってくる、それはさっき話していた答え合わせ……が要因だろうか?

 

 

「で、でも先生……私じゃミカ様に勝てませんよ?」

 

 

一刻も早くデミとハナコを見つけに行って、みんなでテストを受けなければいけない、けれど一般的な生徒である私ではミカ様には勝てない……。

 

 

“渡した紐、付けてる?”

 

 

「え?あ、はい」

 

 

「う、うん……それが何…って、あ!結局あの事の説明ーー」

 

 

「「きゃっ!?」」

 

 

二人が身につけている紐が光り出す、極光ともいえる光を放ちながら三人の視界を埋めつくして輝き解ける。

 

 

「これ…っ!あの時の!」

 

 

「…先生、何をしたの?」

 

 

“私は何も、皆が応えてくれただけだよ”

 

 

光が晴れればそこには……。

 

 

 

「うへぇ〜……先生、助けに来たよ」

 

 

「ふふふ、素晴らしい選択よ、先生!便利屋の社長である私に任せておけば良いのよ!」

 

 

奇跡は、自らの手で引き起こすもの。

 

 

魔女が裁かれれるのも……もう、御伽噺。

 

 

“今は……そうだね、色んな人の憧れでもあるんだよ?”

 

 

“素敵な…魔女っ子さん”

 

 

魔法が無くても、悪い事をしなくても、ミカはミカだから。

 

 

「…お姫様なのか、魔女なのか…どっちなの?先生」

 

 

“お姫様の本当の正体が魔女だったり、森の魔女の本当の姿がお姫様だったり、今は割と何でもアリだよね〜……ミカはそんなアニメ見てたりする?”

 

 

懐から、スっとキラキラなカードが出てくる、子供向けホビーの変身カードだ、二、三枚あるそれには……『騎士姫』だったり、『王女』だったり……魔法少女の姿をしたお姫様が書いてあった。

 

 

「…あはっ、何それ」

 

 

“ふふっ…私の密かな趣味、色々あるけどね”

 

 

遠くから聞こえたカイテンジャーの登場音も、実はドキドキ楽しみながら聞いていたり……。

 

 

「先生、またユウカちゃんに怒られたりしてない〜?」

 

 

“うっっ゛……”

 

 

「……うへぇ」

 

 

「それで、結局貴方達…誰?片方はゲヘナなのは分かるけど」

 

 

「う〜んとね、先生に助けてもらったから…その恩返しに来た人かなぁ、水着なのは気にしないでね?」

 

 

「私は便利屋のーー」

 

 

「貴方はいい」

 

 

「……どうしてよ!」

 

 

“ありがとう…二人とも、頼めるかな”

 

 

「「勿論!」」

 

 

四対一、人質あり、相手はトリニティ最強(聖園ミカ)

 

 

「………」

 

 

けれどこれは聖園ミカにとって、世界で一番無謀で無様な戦い。

 

 

「かかってきなよ」

 

 

それを、自らの手で、始めた。

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