ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

84 / 119
腹が立つならとりあえず

「はぁぁ!!」

 

 

「ペロロ様!頑張って下さい!」

 

 

今現在、ある程度時間は稼げてはいるけれど…黒い塊と交戦を続けて弾薬はカツカツ、ペロロ様の在庫も切れて悪戦苦闘していた。

 

 

そこに、一人の足音が近付いてくるのを感じ取る。

 

 

「……聖園ミカ!起きたのか!!」

 

 

「ミカ様!?」

 

 

「……」

 

 

加勢に来てくれたのか、リベンジに来たのかは分からないが……どっちにしろ素手の彼女では黒い塊とは相性が悪い、先生の足を引きずり込んだり、こちらの攻撃が一切効かない所から見るに、素手では最悪腕を食いちぎられる。

 

 

「…………今は、いいや…白州アズサ」

 

 

「…っ」

 

 

「二人とも、退いて…邪魔」

 

 

「抑えてるから、早く」

 

 

「お、抑えてるって…」

 

 

脱力しながら近付いてくるミカ、交戦で体力を失いきった筈なのに重圧は戦闘中以上で、思わず後ずさってしまう……怖い、この恐怖はあの体育館の時と同じ感じの……!

 

 

「……ん?」

 

 

抑えてる、何を?

 

 

と思っていると、頭上に大きな影が差してきて黒い塊から逃げつつ見上げてみると……。

 

 

「ア、アズ、アズアズアズサちゃんんーー!!!」

 

 

「な、なんッ…だ!?」

 

 

隕石、それも特大級の。

 

 

空が開いて落ちてきた流星群の、砕ける前よりは大きくは無いのだけれど、あんなものが落ちてきてしまったらこの合宿場が丸ごと吹き飛んでしまう。

 

 

それ以前に流星群によって殆ど更地になってはいるのだけれど……一発の威力が違いすぎて、その被害を考えると青ざめてしまった。

 

 

「逃げましょうアズサちゃん!」

 

 

「あ…あぁ!でもあの黒い塊………」

 

 

手を引いて逃げようとしたその瞬間、黒い塊が急に機敏に動き始めてアズサちゃんに飛びついてきた。

 

 

「…っ!間に合わーー」

 

 

間に合わない、そう確信してしまうほどにいつの間にか距離を詰められていて、最後のペロロ様を投擲しようとバッグに手をかけると、目の前に壁がせり上がった……?

 

 

いやこれ、壁じゃなくて…!

 

 

「……コレ、壊すから……どっかいってて」

 

 

ミカ様が地面を踏み抜いて抉れた地面、それを黒い塊に蹴り飛ばしたんだ!

 

 

……え。

 

 

……あのサイズを?に、人間?人間なのかな?

 

 

「助かった!ヒフミ、行こう!」

 

 

「えぇぇぇ……あ、はい!行きましょう!」

 

 

口をあんぐりとしていたヒフミの手を取って、走り向かうは先生が運ばれた先の救護騎士団、この戦場をミカに任せて離脱する二人。

 

 

「■■■■ーー!!!」

 

 

ミカに邪魔された黒い塊が、人の形をとりはじめる。

 

 

「ふーん、変形…というか、怒ってるの?」

 

 

「■■■!!」

 

 

「感情あるんだ、それなのに先生の事傷つけて、私がどれだけ……いや、いいや」

 

 

どれだけ、躊躇をして、切り捨ててきて…それをコイツは……。

 

 

直接触れるのは危険と察知する、なら……さっきみたいに間に物を挟んで殴ればいい、あの二人が離脱したら……隕石を落とす。

 

 

「…あはっ、壊しやすい形になってくれて、ありがと」

 

 

今夜、今まで絶対に振るわれることの無かった聖園ミカの本気の殴り合い。

 

 

全力で暴れた、全力で抗った、けれど絶対に生徒に向くことの無かった全力全開、本気の暴力が、今はただ目の前の憎たらしいものへぶつけられる。

 

 

「■■……ミ、ミミミ」

 

 

「……?」

 

 

「ミ■…ミカ」

 

 

「ミカミカちゃんミカっちミカ様」

 

 

不定形を成していた黒い塊が、徐々にその見た目も変化させていく。

 

 

「ミカ様ちゃん」

 

 

「…………」

 

 

「か、かさまミカゃちん」

 

 

発音、音程、声色……何もかもが合っていない、ただ音を再生するテープレコーダーの様に名前を呼び続ける。

 

 

けれどそれも次第に全て…似通っていく、ついにはソレそのものになりきった。

 

 

黒い塊は羽音デミ、その姿形を取って立ち上がった……羽音デミの姿形に、『なってしまった』。

 

 

「ミカ様ちゃん」

 

 

「……」

 

 

「ミカ様ちゃーー」

 

 

そうして……

 

 

「本当に!殴りやすい形になってくれてありがと!!!」

 

 

躊躇いの欠片も無く、岩を使った拳の一閃がその不快な音を吐き出す頭を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

先生の世界から降り注ぐ光は、ビナーとケテルの固有能力を削り取っていて、砂嵐も兵隊も満足に働かない。

 

 

ビナーのビームをホシノが受け切る、ケテルとその兵隊の猛攻はアリスが全て吹き飛ばし、ネルがケテルを馬乗りにしながら射撃を叩き込む。

 

 

トリニティと万魔殿の迫撃砲、虎丸と並走する粛清君1号、先生の戦術指揮のサポートをするミレニアムの全知と全痴のピンク。

 

 

ビナーはツルギ、ヒナ、ホシノ、ミカの編成で、先生の指揮による完璧な連携で後衛に被害が出ないように破壊を続けていた。

 

 

ありとあらゆる学園、生徒が手を取り合って戦う。

 

 

そんな当たり前のようでいて夢物語だった世界が、広がっていた。

 

 

 

 

「先生」

 

 

“…なんだい?”

 

 

「カード、今日で何回目っすか?」

 

 

“…あはは、えっと……”

 

 

「……」

 

 

“い、一回”

 

 

「三回っすね」

 

 

“…あ、あはは”

 

 

「先生があははっていう時は、大抵言いづらい時で……コーヒーの砂糖幾ら入れるかって聞いた時も、めちゃくちゃ甘いのが好きなのにちょっと大人ぶって『い、一個で』って……」

 

 

「…そういう時は、プラス二個欲しい」

 

 

“………”

 

 

「三個も砂糖が入ったコーヒー、私には甘くて飲めませんよ」

 

 

“君がまた、入れてくれると嬉しいな”

 

 

「また零しちゃいますから、自分で入れて下さい」

 

 

会話する余裕なんて無いだろうに、私の戯言に付き合ってくれている。

 

 

複数人……所では無い、こちらはオートで動かしているが、先生は生徒一人一人への指示を的確にこなしている、本来であれば脳が焼き切れてもおかしくは無い。

 

 

私の戯言で勝てる確率が少しでも上がるのなら、幾らでも話そう。

 

 

「先生、帰ったら死にますよ」

 

 

“……そうかもしれないね”

 

 

「……はぁ、先生が濁す時は、確信している時」

 

 

「後、言葉の発音にタメが入る」

 

 

“私の事、良く知ってくれていて嬉しいよ”

 

 

「ずっと観てきましたから」

 

 

二人で座るベンチの傍にビナーのビームが掠る、けれど私達二人には絶対に当たらない、互いに確信しているから……この場を動かない。

 

 

「…多分、既に肉体は瀕死です」

 

 

先生のカード、原理は不明だけれど……使用限界がかなり遠い、恐ろしい程の神秘濃度だったあのカードを三回使おうとまだ大丈夫な筈だ。

 

 

けれど、それに肉体が耐え切れるかどうかは別の話、この短い期間に複数回使用してしまえば代償、そのフィードバックを受け切る前に死んでしまう。

 

 

「…でも、先生は…『先生』じゃない」

 

 

そう、貴方は本編の先生では無い。

 

 

「この無謀な賭け、絶対に貴方は保険を残してある」

 

 

言葉を受け取り、舌の上で転がしてから……先生から返事をもらった。

 

 

“本当に君は聡い”

 

 

…カッコつけて言っている所悪いのだが。

 

 

「知ってますよ?ユウカちゃんにバレないようにオモチャを買って、それがバレた時の為に……」

 

 

“ストップ!ストーーップ!!”

 

 

「はいはい」

 

 

普段の貴方から、全て学んできた。

 

 

貴方の弱点は多い、多すぎる、敵に背を向けるな、敵に微笑むな、敵に情報を与えるな、敵になるって知っていて、それを赦すな。

 

 

それを出来ないから、利用するしかない。

 

 

「Type.V、アツィルトの光チャージのサポート」

 

 

“……!!”

 

 

「兵隊は全てルキフグス周辺に、砲撃は全てアリスを狙え、ネルを守衛に傾けさせろ、後衛の雑多な攻撃はルキフグスに吸わせていい」

 

 

オートから手動に切り替える、これ以上生徒が増える前に最大火力で戦力差を付ければ押し勝てる。

 

 

マシロちゃんの火力も、ハスミ先輩の火力も底上げはされているが、装甲を貫ける程では無い、あの二人が無理なら他の学園の狙撃もたかが知れている、アルちゃんだけは注意配分多めに見た方が良さそうだ。

 

 

ヒナは…知らない、あれは止めようがない、強過ぎる。恐らく先生から見た生徒への想いの力といえば良いのだろうか、全生徒の基本性能が何十倍にも上がっていて、しかもそれぞれが最高のポテンシャルを発揮している、ベルゼブブを経由した兵隊の物量が無ければとっくに押されきっているだろう。

 

 

「チャージ完了まで、口で言った方が良いっすか?先生」

 

 

“……”

 

 

“ミカ”

 

 

『私の出番?』

 

 

“お願い”

 

 

「…これは」

 

 

私の世界、雪が降り注ぐ空が…裂けた。

 

 

空が、宙がそこに現れる。

 

 

そしてその宙が開いた、これは、この光景は…!

 

 

あの時の(流星群)…!」

 

 

一度あることは…二度あると言う、それをこんなもので味わいたくは無かった。

 

 

そして、それを行えてしまった原因は…結局は私だ、アストライアの丸薬は私から作られたもの、あの光景を見せた事でこうなってしまったのだから。

 

 

「チャージ中断、放て」

 

 

隕石…いや、最早隕石とは言えないサイズの小惑星を砕く為に、直感を頼りにルキフグスにアツィルトの光を撃たせる……が、これで盤面がまた一からに……。

 

 

「ならないよね、知ってた」

 

 

砕けた小惑星の破片が全てこちら側に流れ込んでくる、ミカが行う隕石の呼び込み、それ即ち引き寄せる引力だ。

 

 

ミカの神秘は、呼び込む事が本質……隕石が本体じゃ無い、あの渦巻くヘイローが発する引力そのものがある限りこちらはボロボロにされ続ける。

 

 

 

「……」

 

 

分かっていた事だけど、勝てないな。手数に差がありすぎだ。

 

 

「便利屋の皆強いっすね、C&Cも、エンジニア部も……カズサちゃん…さすがキャスパリ」

 

 

ホシノは一人でルキフグスとタイマンを張り始めたし、ヒナはType.Cをデストロイヤーでぶち抜いてる。

 

 

最悪だ…アリスがネルを振り回しながら進軍してきてる…。

 

 

うわ、なんだあの大爆発…美食と温泉開発部か、治安終わってない?

 

 

「…楽しいなぁ」

 

 

見る事なんて叶わないと思ってた大決戦を目の前で繰り広げてくれると、心が潤ってくる。

 

 

「ねぇ、先生」

 

 

“はは、そう思うのなら顔はもっと楽しげにしよっか”

 

 

「そっすか」

 

 

顔なんて…もう……あ、ルキフ…ビナー沈んだ。

 

 

「うわー」

 

 

“どうする?降参する?”

 

 

そう言われると、もう少し意地を張りたくなる。ベンチから立ち上がって……雪を落とし、先生に向けてサプライズをプレゼントしてあげたいんだ。

 

 

「新コンテンツ、超大総力決戦を突破出来たら、白旗あげてあげるっすよ」

 

 

“何その楽しそうな奴”

 

 

「なんと〜敵は私」

 

 

“……はは”

 

 

遂にケテルまでスクラップにされてしまった、世界を滅ぼすデカグラマトンの預言者達……つよつよトマトレベルに強くしたのに、全部鉄クズになっちゃった。

 

 

何かしら叫びながら壊れていったけど、私の預かり知る所では無い、役目を果たせない機械はいつだってお役御免になる運命だ。

 

 

「デカグラマトンも、どう動く事やら」

 

 

己の命題を果たす為に、己に問われた…あの質問の答えを得る為に、水の底に沈んだあの自動販売機、今頃何してるだろうな……ここじゃまだ生きてるけど。

 

 

更地になったトリニティを生徒達が踏み歩いて、私の所へ向かってくるのが見える。

 

 

その先陣を切り、面で隠れても分かるほどの狂気と殺意を込めて歩いてきているのは……。

 

 

『羽音デミ…!」

 

 

“ワカモ…”

 

 

「ワカモちゃん」

 

 

『…ッ!!この害虫!すり潰してあげましょう!!』

 

 

お面を付けて、前屈みになり獣の様に飛び込んでくるワカモ。

 

 

強化された生徒の身体能力は、戦闘が得意なものでも無くてもヒナに比肩しうる程のもの、それがワカモに付与されているとなれば全力で走るだけで地形が変わる。

 

 

地面を砕く反動でミサイルよりも早く駆ける、このままのスピードで腕を振り抜けば、眼前の害虫を殺すことは余裕……それは先生の望むことでは無いのを知っているが、殺意にブレーキを効かせれずに走り抜けた。

 

 

バスンッ!!

 

 

音の壁を突き破った破裂音を響かせて、自壊しかける腕を振り抜き……。

 

 

「…はは」

 

 

それを、無傷……いや、ぶち抜いた感覚が手に残る事から、再生ですり抜けられた。

 

 

「いつまでも強度ポップコーンじゃないんすよ?感触があるくらいにちょっとは硬くなってるーー」

 

 

掌底。

 

 

顎に打ち付けられる暴力が、デミを空高く打ち飛ばす。

 

 

『救護ォォ!!』

 

 

「ゴ…ゴリラがマウンテンゴリラに……がふっ…」

 

 

心の底で、最高戦力とゴリラ達を相手した預言者達を哀れに思いつつ……開いた宙から隕石がデミに降り注ぐ、宙に浮いた隙を逃さず全方向から爆撃と射撃を飛ばされていた。

 

 

それぞれの弾から感じるのは、殺意。

 

 

私が先生にどれだけの迷惑をかけているのか知られているからこそ、純度の高い敵意を以て攻撃されている。

 

 

このまま永遠の眠りについてしまいそう、痛くて眠くて苦しくて……。

 

 

 

そう、あの夜みたいに。

 

 

 

 

 

 

 

『…』

 

 

『っ!先生!!』

 

 

 

一人、群を抜いて目の良い生徒であるミユだけが気づく。

 

 

 

そして気づいてしまったが故に、いつもの卑屈さを全て抑え、己の命を掛けて先生を押し倒した。

 

 

 

“どうしっ……”

 

 

 

『伏せて下さい!』

 

 

 

後にも先にも、これよりは出ない大声を出して叫ぶ、その一声に反応して皆が身体ごと伏せる中……。

 

 

 

視界の端、手傷により一人反応が遅れてしまったワカモ。

 

 

 

その腕が飛ぶのを見てしまった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。