ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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見よ、神の子羊だ

空に浮かぶ怪物。

 

 

宙に張り付けにされながら血煙を立て、打ち上げられているのでは無く、飛んでいる。

 

 

身体の半身は普通の見た目をしているが、右手側はおぞましい事になっていた。

 

 

馬、牛、蛇、ありとあらゆる陸上生物の特徴が。

 

 

 

鷲、鴉、雀、大小問わない飛行生物の羽や爪、嘴が。

 

 

 

最早不格好とも思える水棲生物の部品が。

 

 

 

それら全てが纏まり、肉の触手に変化し、その種族の特徴が飛び出た状態となって暴風の如く振り回されている。

 

 

 

予備動作をミユが見切らねば、全ての生徒、先生を含めて胴体と泣き別れしていた所だろう。

 

 

 

「は、あはは!ははははは!!」

 

 

長期に渡る抑制から解放され、己に満ち足りていなかった欲望が満たされていくのが分かる。

 

 

触手が通った後は、そこだけが空白になったかのように食い潰されて消えていく。

 

 

「は、はは…夢の世界だからね……うん、大丈夫…大丈夫だって!!言ってるだろ!!!」

 

 

そこに合わさる狂乱。

 

 

心にずっと潜めていた狂気と衝動が暴れ出して止まらない。

 

 

頭の中に声が響くのはいつもの事、見たくもないみんなの死骸が見えるのもいつもの事、感じたくない痛みを感じてしまうのもいつもの事。

 

 

それが少し、緩むだけ。

 

 

“ワカモッ!!”

 

 

『ぐッ…!!』

 

 

飛ばされた腕は、無くなった。

 

 

接合出来るかと思考していたが直ぐに切り替え、救護騎士団の皆に介抱してもらう、そして切り離されたというよりは……。

 

 

『食い潰されたっ……貴方様…お気をつけて…!』

 

 

“……”

 

 

例のアレと似ている、闇だ。

 

 

考えるにこちら側からの攻撃は無効化されるが、逆にデミからの攻撃は防御を無視されて、食い破られる。

 

 

“ホシノ!受けようとしないで!!”

 

 

『…っ!』

 

 

盾を構えていたホシノに叫ぶ、それに呼応して盾を捨て、ギリギリの姿勢で触手を回避したが……。

 

 

『盾が…!』

 

 

ほおり投げた盾が…『無くなる』。

 

 

消えたと錯覚するほどの速さで喰われているのだろう、ホシノで受けきれなければ、あれは誰にも防げない。

 

 

「…大丈夫、まだ……まだ…ですから、大丈夫……」

 

 

「は、ははっ」

 

 

「少し、乱暴しますね」

 

 

またデミの身体に変化が訪れた。

 

 

肉体に翼が十二対で生える、足は鷹の爪、半身全てが肉の触手に、瞳は蛇のように。

 

 

ヘイローがブレ動き続け、生徒である指標をどんどん失っていっているのを……見ていられない。

彼女が一番忌避していた事がそれなのに、今はその全てを脱ぎ捨てて羽化しようとしていた、日常から離れ、模倣から離れ、人である事を止めて。

 

 

憂いを捨てる、優しさを捨てる、希望を、余分を無くす。

何処までも落ちていく様を見せつけて、羽音デミという存在を穢す事に心を痛める私は居なくなった。

 

 

歩んだ貴方を観てきた。哀しみながら笑って、虚ろぎながらも熱烈に、微睡みの中で歩き続ける、そんな姿を、そんな貴方を……最初から真似る事なんか出来ていなかったよ。

 

 

 

「わたし、わたしの形!気持ち悪いな、はは、はぁ」

 

 

身体に伝わる衝撃で分かる。

 

 

「ミカ様ちゃん、あんまり手酷くしないでね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミカ様ちゃーー」

 

 

グチュッ……。

 

 

「ミカ様…」

 

 

ドパァン!!

 

 

「…いい加減、黙っててくれないかな?」

 

 

拳を、振るう。岩を、投げる。それだけでも人は殺せる。

 

 

壊れないだけのものなんて、幾らでも殺せる。

 

 

こうやって戦い続けて数分、そろそろ我慢の限界だ。

 

 

「…二人は離れたかな」

 

 

ほんっとうに、我慢するって大変。

 

 

「……死んでね」

 

 

シンプルな憎悪と、殺意、その純度が高ければ高い程、戦闘においては勝敗を決める、その点において、今のミカが放つ全ての攻撃は……美しい程に、殺意に塗れていた。

 

 

空が裂ける、空気が避ける、世界が悲鳴をあげている。今日だけで幾ら世界が泣き叫んだだろうか?

 

 

隕石が落ち始めた。ミカ自身はこの程度かすり傷にしかならないから、一切合切の容赦はないままに、その暴虐が振るわれる。

 

 

 

「ミーー」

 

 

ドゴォォォォォォォンン!!!!!

 

 

 

ずっと求めていた、私の羨望を打ち壊す時を。

その姿形を取ってくれるのなら……私の鬱憤晴らしに付き合ってね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「■…■■……」

 

 

 

「ねぇ、デミちゃん」

 

 

目の前の物体が羽音デミでない事は分かっているけれど、どうしても言いたいことがある。

ごめんねって言えばいいのかな、恨みを伝えればいいのかな、貴方が私の世界を広げたから、私は色んなことが目に入っちゃって……。

 

 

「英雄っていうんだっけ、そうやって自分の心の正しさに突き動かされる人の事、貴方の傍迷惑な行動で、私…沢山傷ついたんだ」

 

 

この世界は余りにも醜かった、見えるものが増えれば増える程に心を病む、見たいものだけを見て、見たくないものは見ない…それで良かった筈なのに、本当に色々見てきちゃって……それで…。

 

 

「貴方だけだよ、真っ直ぐに憎めるのは」

 

 

最近は色んなことがあったけど、それで学んだのは…憎むのも大変だって事。

白州アズサの事も、心の底から憎んでた……けど、結局セイアちゃんが生きていた話を『聞く前から』私はなんだか疲れちゃって。

知ってたから、貴方達がどんな人間だったのか、アリウスと手を組む以上こうなるかもって。

 

 

どこまで行っても、理屈と合理は私の世界から消えなくなってしまっていた。

 

 

「ナギちゃんや、セイアちゃんに馬鹿って沢山言われて…そして、貴方から世界の見方を変えられたら…ほら、こんなにひねくれて」

 

 

「どうしよっか」

 

 

「■■…■■■……」

 

 

「そんな所にへばりついても分かんないよ」

 

 

地面のシミになってしまった黒い塊に近づく。

 

 

「■…■■」

 

 

「……」

 

 

「■…私もどうしたらいいのかな、ミカ様ちゃん」

 

 

「……本当に、分かんなくなっちゃったね、お互いに」

 

 

「うん」

 

 

黒い塊に、口だけが現れて呟く。

 

 

『どうしたらいいのか』と。

 

 

「私は……もう、いいかな」

 

 

もういい、私の憎しみは、私が抱えて終わるのだ。見たいものがこの世界にまだ在ってくれるのなら、もうそれでいい。

 

 

「そっか、ゲヘナは嫌い?」

 

 

「うん」

 

 

「私は?」

 

 

「大嫌い」

 

 

「…ありがと」

 

 

それだけ言って、黒い塊は溶けて動かなくなった。

 

 

 

「…ありがとって」

 

 

 

ありがとう?ありがとうって、何?

 

 

 

「…私も、ありがとう……デミちゃん」

 

 

 

『何って…助けてもらったらお礼を言うのが普通っすよ?』

 

 

 

空耳だ。

 

 

 

誰も二人の関係は知らない、誰も二人の会話を聞いていない、誰も、誰一人として。

 

 

誰にも知られないままに、憎しみの螺旋は終わりを告げた。

 

 

残る種火は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そっか、終わったんだね」

 

 

私は知らない、羽音デミと聖園ミカの因縁は知らぬ内に終わっていた。

 

 

大嫌い、その言葉を聞けて良かったと思う。私が貴方なら、羽音デミの事なんて死ぬほど嫌いだ。

 

 

卑屈だから、陰鬱だから、人を信じれないから。

 

 

元気で、明るくて、人を信じきっている子を嫌うのだ。

 

 

愛しているから、嫌ってしまう。

 

 

「それは、罪なんすかね」

 

 

光に近づいた事自体を罪というのならば、運命なんて捨てさせてくれ。

 

 

「……」

 

 

辺りを見渡せば、既に戦いを続けれるものは数人しかいない、各校の最高戦力しか立ち上がれていない。

少しだけ、気分がいい。

 

 

「…先生」

 

 

“強いね、本当に”

 

 

この天から手を伸ばせば、先生は死ぬ。

 

 

「降参します?」

 

 

“まだ少し早いかな”

 

 

「…まだ、だべってくれるんすね、それとも会話だけが私の残ったものだから?」

 

 

“そんな事は無いよ、私だって生徒との会話が、私を構築しているものの一つだから”

 

 

そうやってまた、私をおちょくるんだから……。

 

 

「…光、強くなってるっすね」

 

 

先生の世界、その光の輝きが増している。このまま照らされ続ければ今の状態を維持するのは難しいだろう。

 

 

まだ、私を生徒だと思っていて、それを私も受け入れているからだ。

成熟していない私の心の弱点も…もう、受け入れた。

 

 

『余所見し過ぎよ』

 

 

「色んな目を付けすぎて余所見も出来ないっすよ」

 

 

ギョロりと肉の触手に付いている目が、ここまで跳んできたヒナに向けられ、ビーム、強酸、隕石にパンちゃん粘液……あらゆる神秘の原型を取れるが故の手数の暴力が襲いかかる。

 

 

『…チッ』

 

 

を、羽の羽ばたきだけで全てたたき落とすのが空崎ヒナ。

肉の触手の直撃だけは必ず避けて、デストロイヤーの引き金に指をかける、空から落とさなければ勝負の土台に立てない。

 

 

少しの間だが晒した隙、案内される最適のルートでここまで接近できた。

 

 

(落とした後は囲んで潰す…!)

 

 

『……!』

 

 

トリガーが引けない。

 

 

「銃の弱点、トリガーに指を挟むと撃てなくなる…ツルギ先輩から習った奴ですけれど、オススメはインファイト」

 

 

触手から伸びた細い棘のような鹿の角がトリガーを最後まで引かせずにいた。

 

 

『シッッ!!』

 

 

「モモイちゃんから教わった奴、スライムには魔法が有効らしいっす、私は違うけど」

 

 

素手でのCQCを行う、現状の空崎ヒナは現実世界の羽音デミ以上の怪物だが、それを真正面からは受け止めずに肉体強度を落とす事で強過ぎる威力の拳がその部分だけを消し飛ばす。

 

 

そして、再生。

 

 

先程から同じ事を繰り返しているのだが、対策が未だ見つかっていない。

肉体強度を自由自在に操れる事がこれ程までに厄介だとは思っていなかった。

 

 

ウタハとヒビキ、コユキによる改造された爆弾の砲撃はアリスのフルチャージと同等の火力であったが、それに対しては適切に耐えうる硬さに、逆に近接距離においては再生による回避が撃破における難題であった。

 

 

「再生限界、なんて無いっすよ」

 

 

肉の触手をヒナに伸ばす…前に、ヒナの姿が掻き消える。

 

 

『黒ヘル!舐めてんじゃねぇぞ!!』

 

 

「……ネルちゃん」

 

 

生徒に掛けられた強化で一番厄介なのが、『速度』だ。

退避に攻撃、回避に至っては制御できる速さのいやらしさを先程からずっと見せつけられているが、それに関しては対策が一つ。

 

 

「はは……やっぱり私スライムかも」

 

 

片足を溶かして地面を侵食させていく、光に焼かれながらでも足場を奪えればいい。

 

 

「あぁ……ハナコ、駄目だよ…出てきちゃ」

 

 

溶けた身体から黒い泥に塗れてハナコが落ちかけてしまった。

いけない、彼女は今日……この後にちゃんとテストを受けてもらわないと。

 

 

離さないように、ハナコを両腕に抱えーー。

 

 

「あっ…」

 

 

溶けてしまった。そういえば腕も無いや。

 

 

「そっか」

 

 

ハナコは先生の元に置いてある、泥だこれ。

 

 

“……”

 

 

うん、やっぱり先生にはその顔が似合ってるよ。

 

 

「抱ける程の哀れみを、私に下さいね、先生」

 

 

『感傷に浸ってんじゃねぇ!!』

 

 

「おっとと」

 

 

先生曰く、私はまだ産まれてないらしい。

 

 

赤子ですらあげる産声、生きる為に行う最初の自己肯定。

 

 

それすら叫ばず、死んだ水子。

 

 

だからこそ、そんな赤子には憐憫こそが正しいと思う。

 

 

「お墓、お墓って、哀れむ為に作るんすかね、尊ぶ為に作るにしては…」

 

 

黒服には理解出来なかったロマンスを、先生ならきっと理解してくれるだろう。己の墓を立てる時ほどこだわりたい時は無い。

 

 

「尊ぶ為に…」

 

 

黒服……。

 

 

「…黒服、これでいいのか」

 

 

「これでいいのか!!」

 

 

“…黒服?”

 

 

唐突に叫びだし、発狂し始めたのを遠目から確認する。今までの比じゃない程の慌てように、苦い顔をして頭を抱えていた。

 

 

「やったぞ!全部やった!!まだなのか!まだ、私の望みは…!!

 

 

「早くしろ、早く……早くしてくれ……」

 

 

「頼むから、この地獄から………早く…」

 

 

良くも悪くも、怪物である少女の弱点はたった一つ。

 

 

いつだって、少女は思春期なのだから、心は不完全なものだから。

 

 

「お前が言ったんだぞ!!」

 

 

「全て捨てろと!!!」

 

 

壊れてから、またおかしくなるのも思春期というものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出血、止まりません」

 

 

「バイタル、意識レベル常に最低値!……体内に異常、血液が…凝結している?こ、こんな!?こ、抗血栓薬追加します!」

 

 

「今は軽傷の人には我慢して貰って下さい、先生の治療を最優先します」

 

 

救護騎士団、その待避所でシスターフッドと共に怪我人の治療をしていたら、セリナが先生をタンカーで運んで来た時は皆驚いていたが、すぐさま切り替えて治療にあたっていた。

 

 

それにしても、傷が深すぎる。

 

 

「…?セリナさん!これ!」

 

 

呼ばれて足の患部を見ると……。

 

 

「…これは、ヘドロ?」

 

 

「わか…りませんが、コレのお陰である程度足の出血と壊死が停止しています、まるで時間が止まっているかのような…」

 

 

先生が失ったのは膝より下、患部の毒素が回ってしまえば太もも付近までの切除も視野に入れていたが、これなら……!

 

 

「…とりあえず今は他の場所の手術に集中しましょう、原因不明の患者は放置、吐血量から見て内臓がーー」

 

 

下手に動かして壊死が再開すれば元も子も無い、今の先生には血も栄養も水も足りない、身体を構成している物質が失われ過ぎていて、手術を行う事すら怪しい状態だ。

 

それに加えて、奪われ方も異常……血液を失っているのでは無く、『血液を構築している物質』が無くなっている、身体のあちこちから出血しきれば、残るはドロの様に固まった血液が体内の蹂躙始めるだろう

 

 

衰弱死寸前の患者の身体にメスを入れる様なもの、ハナエの力を借りなければ現状維持すら困難、それ以外は私が指揮を取る。

 

 

 

ドゴォォォォォォォンン!!!!!

 

 

 

合宿場から爆音と地鳴りが伝わってくるが、手は一切休めない、冷や汗をかいている暇があれば治さなくてはいけない。

 

 

「……」

 

 

吐血は内臓の断裂、出血は肉体が裂け始めている、原因は分からないが『どうなるのか』は分かる、だからこの手が砕けようとも休める事をする訳にはいけないんだ。

 

 

パリン!とまた何かが壊れる音が治療室に響く。

 

 

「貴方様!!」

 

 

「…っ!?災厄の狐!?」

 

 

「退きなさい!」

 

 

何やら怪しい注射器を大切に抱えて、あの災厄の狐が飛び込んで来ていた。

 

 

「何を……!!」

 

 

「今は説明している暇がありません!早く!!」

 

 

騎士団総出で取り押さえにかかるが、間をすり抜けて注射器を刺され、中身を注入される瞬間に手首を掴んだ。

けれどその慌てようと必死さについ手が緩んでしまって……。

 

 

「あぁ…貴方様……このワカモ、役目は果たしました」

 

 

「だからどうか、目覚めて下さい」

 

 

 

ーー祈る。

 

 

両手を組んで頭を下げ、膝座りなりながら天に祈る。

 

 

祈る事でしか今は先生の為に動けないから……どうか、早く目を覚まして…。

 

 

 

“……ゴボッ…”

 

 

「…!?目覚め…いや、皆さん!吸引器を早く!」

 

 

「貴方様ぁ!!」

 

 

肺に溜まった血を吐き出させなければすぐさま瀕死へ逆戻りだ、咳をした、ということは呼吸を出来るほどにこの一瞬で回復できたという事。

 

 

そんな有り得ない事態だとしても柔軟に、怪我人の命を救うのが救護騎士団たる私の役目だ。

 

 

“………”

 

 

“戻された?”

 

 

「え!?」

 

 

喋った!?有り得無い、あの傷なら話す事さえ出来ない筈……!

 

 

“…行かないと”

 

 

話して、立って、歩き始める。医療に従事してきたものだから分かる、先生は私達とは違い銃弾一発が致命傷になってしまう人、それが今こうしてあの致命傷の数々から急激に回復し、立ち上がったのは異常としか思えない。

 

 

“ありがとう、ワカモ…最後まで見ていてくれたんだね”

 

 

「はい…!貴方様が望む事ならば、私は如何様にもこの身を…!」

 

 

“私の命、ワカモに託して良かった”

 

 

「〜〜っ!はいっ!貴方様!!」

 

 

“…繋がらないか、ワカモ…ごめんね、私の事を背負えるかい?”

 

 

「喜んでお運び致します!」

 

 

失われた足もいつの間にか現れていたが、先生が歩こうとしても引き摺るばかりな所を見るに、不完全な状態で元に戻ったと感じ取れた。

 

 

「先生!まだ動いては…!!」

 

 

“ごめん、みんな…ありがとうね、行ってくるよ”

 

 

「先生!!!」

 

 

ワカモが先生を背負ってその姿を消す、動いていい筈がない、話していい筈がない、なのに行ってしまう。

 

 

「…先生」

 

 

「……せん、せい…」

 

 

一瞬の出来事だったが、絶対に変わることの無いあの人を見てしまって涙が止まらない、いつもそうで、今日も同じだ。

ああやって自分のことを無視して動く時は、生徒の為。

生徒の為に、命を投げ捨ててでも動こうとする彼を……鷲見セリナは、見送る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ありがとうワカモ、ここまでで”

 

 

グラウンドに再到着する、ワカモにこれ以上関わらせては彼女自身が迷惑を被るかもしれない。

 

 

「…最後までお供させて貰えませんか?」

 

 

“気持ちは本当に有難いけれど、ごめん、これから先は私の役目だから”

 

 

「……分かりました、貴方様が守る、その生徒に貴方様が傷つけられるのを……いつまでも私の眼に映させないで……下さい」

 

 

“……ありがとう、ワカモ”

 

 

 

仮面を付けて茂みに入り、再び潜伏する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“……デミ、ハナコ、ミカ”

 

 

 

歩みを進めた先で見え始めたのは、裸に剥かれたハナコと、頭を抱えながら発狂しているデミ。

 

 

 

そして……

 

 

 

“…黒服!!!”

 

 

 

「ククッ…それでは最後の契約に参りましょう、羽音デミさん」

 

 

 

 

黒服に睨みをつけるミカと、デミに片手を差し出す黒服が居た。

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