ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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大人の交渉

「クックック、先生…こんばんは」

 

 

“……”

 

 

お辞儀をし、そして指を数え折りながら黒服は愉悦に浸る。

 

 

「此度の騒動は中身を暴けば実に……そう、実に簡単なものでした」

 

 

「私と、羽音デミさんの契約履行、その結果です」

 

 

“薬の件も?”

 

 

「えぇ、ティーパーティーであるミカさんとはとても良い契約相手として関わらせて頂きまして…ククッ…」

 

 

「…どういう事かな?黒服…デミちゃんとの契約って」

 

 

「契約外の事はお教えになれません、私から貴方への定期はあの薬と、アリウス派の抑制のみですので」

 

 

「……」

 

 

その言葉を聞いて黒服を拘束しようと本気で拳を握り込むミカ。

思いっきり地面を踏み込む事でグラウンドの土が爆散し、舞い上がる土埃を利用して死角を攻めた。

 

 

拳が届くまで後数歩。

 

 

「ヤルダバオト」

 

 

「っ!?」

 

 

ガクンとつまづいた様にコケてしまい、慌てて体勢を立て直すと共に視線は黒服から離さないままでいると、羽音デミが黒服を守るように立っている。

 

 

足元からは黒い……あの蛇が現れた時と同じようなものが染み出ている、足を取られたのはソレだろう。

 

 

「もしくはデミウルゴス、とある旧神の名前です」

 

 

「黒服ッ!!紐を返せ!!!」

 

 

胸ぐらを掴み、黒服に肉の触手を突きつけるデミ。

 

 

「おっと…それは契約次第です」

 

 

「け…いやく?契約ッ!?お前が奪っておいて……何故ここへ来た!!」

 

 

「それが貴方との約束ですので」

 

 

「……は…ぁ?」

 

 

「『羽音デミ』と私の契約はここに終了致しました、次は貴方と私の契約です」

 

 

「な、何を言って……羽音デミとの契約?私との契約にこんな状況は含まれていない!!早く、早く寄越せ!ここに来たという事は作り上げているんだろ!?」

 

 

「さて、何のことでしょうか?」

 

 

「とぼけるのもぉ……!!大概にしろよ黒服!!」

 

 

肉の触手の本数が増える、黒服を取り囲み、形は様々なものに変容し…その牙を向ける。

足元から溢れ出る闇も爆増し、グラウンドそのものを飲み込んでいく。

 

 

 

「早く、私を殺せ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“不味い、あそこまで近づけるか”

 

 

闇が広がっていない場所は黒服とデミの周辺とハナコが寝そべっている場所。

 

 

「先生」

 

 

“ミカ、おはよう”

 

 

「ふふっ、おはよう…って言ってる場合じゃないよね、どうしよっか」

 

 

“……そうだね、エスコート…お願いしてもいいかな?お姫様”

 

 

「うん、いいよ…先生」

 

 

手を取り合って、ミカが先生を抱っこして宙に跳ぶ、狙う着地点はまずハナコの所へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……んん…」

 

 

“ハナコ、起きれる?”

 

 

ぼやける目を擦って、少し肌寒さを感じながら瞼を開けると、空を飛んでいた。

 

 

しかも……

 

 

「ん…先生…ミカちゃん?…私…いや、デミちゃんは!?…というか、この状況は…」

 

 

ミカの背中に先生が、腕にハナコが……二人はミカに抱きつきながら空を駆けている。

 

 

目を覚ませば辺りは真っ暗……というには少しおかしく、まだ月明かりが照らしている筈なのに、地面まで光を一切通していない黒に染まっている。

 

 

体育館や別館は跡形もなく飲み込まれており、拡大し続ければあの蛇と同じ様にトリニティまで消し去ってしまうであろう勢いを持って、広がり続けていた。

 

 

「…いよいよもって世界の終わり地味てきましたね」

 

 

「ちょっと動かないでくれる?持ちにくいから」

 

 

「……ミカさんも、少し変わりましたか?」

 

 

「うるさいなー…手、離しちゃっても良いんだよ?」

 

 

「あら、先生はミカちゃんにそんな悪い子になって欲しくないですよね?」

 

 

“あ、あはは…”

 

 

バチバチと火花が散る中では、先生はいつも通り笑って誤魔化す事しか出来ないのか、苦笑いするのみである。

 

 

「それで、先生……一体何が、というのは省きましょう、デミちゃんですね?」

 

 

“そうだね”

 

 

「止めに行きましょう」

 

 

「…なに?浦和ハナコもデミちゃんと何か?」

 

 

「いえ、特に、何も」

 

 

「「………」」

 

 

…怖い、無言がひたすらに怖い。

 

 

“と、とりあえず一度着地しようか”

 

 

「オッケー!先生、私に任せて!」

 

 

“う、うん”

 

 

羽根を広げて滑空している現状、足場がある場所へ戻らなければデミの元へ辿り着く事すら不可能だ。

 

 

彼女が居たグラウンドは今、闇の波の爆心地であり、壁になっているせいで上空からしか侵入が出来ないが、今以上への高度の飛翔は難しい。

 

 

「よっ……と、大丈夫だった?痛くない?」

 

 

“優しい着地、ありがとうミカ”

 

 

「うん!」

 

 

言葉を返すと同時にハナコを地面へと放り投げようとするのを、後一歩手前で踏みとどまる、そんな姿先生に見せられないからだ。

 

 

「…ありがとうございます、ミカさん」

 

 

「別にー?」

 

 

「…先生、それと今気づきましたが、私の格好…」

 

 

先生のコートを肌一枚に羽織って止めている状態だ、つまりコートを脱いだら裸。

 

 

「……うふふ♡」

 

 

「ハナコちゃ〜ん?」

 

 

「どうしましたか?脱ぎませんし返しませんよ?これなら先生に■■■な妄想をしてくれるので」

 

 

「…………コート返さないって、迷惑だと思わない?」

 

 

「あらあら、では先生の前で裸になるしかありませんね」

 

 

「「………」」

 

 

もはや捻じ切れそうな視線を両者から貰って…先生は…タジタジと宥めと褒め言葉を繰り返してなんとか場を保とうとしていた、そんな所に……。

 

 

「「先生!」」

 

 

「先生、ってハナコ!!良かった!……ハナコ!?!?ふ、ふふふ、服装!エッチ!駄目!死刑!」

 

 

ヒフミとコハル、そしてアズサがやってくる。

 

 

“みんな…!よし、状況説明はかくかくしかじか!デミ!助ける!”

 

 

「えぇぇぇぇ…?そんな説明でわかるわけないでしょ、馬鹿なの?」

 

 

「分かりました!早く行きましょう!」

 

 

「了解した、作戦はあるか?」

 

 

「……なんで?」

 

 

とりあえず安全な場所まで皆で走り出す、そうしなければおちおち作戦を話し合える時間も無い。

 

 

 

ある程度離れ、開けた場所で先生が中心に立ち、五人が集まって座る。

 

 

 

先生からはある程度の過程の話と、現状を説明を受け……補習授業部の皆の眉が顰まった。

 

 

 

“侵入経路は上空から、途中対空防御をされる可能性が高い、黒いのはガード不可、干渉不可、出来る限り触れないで”

 

 

「何その強すぎるの…」

 

 

「そして戦力は私達六人、時間制限アリ、武器無し体力無し増援無しの無理ゲーです、これを突破するキーマンは…ミカさん一人」

 

 

「私?」

 

 

「ミカさんは全力で先生を送り届ける、私達はそれをサポートする、作戦は以上!本当に時間がありません、テキパキ行きましょう」

 

 

ハナコの指揮と共に皆が配置へ向かう、そしてキーパーソンであるミカに向かって……

 

 

「ミカさん、先生を任せました」

 

 

そう、言い放った。

 

 

「……オッケー」

 

 

「行きましょう!!これも青春っぽいですね!先生!」

 

 

“……うん、そしてここにデミも居る、彼女に……”

 

 

言い切る前に口を紡ぐ、話し切ってはいけない事なのだろうか、それとも胸に潜めるべき想いなのか。

 

 

“よし、補習授業部!ティーパーティー!出撃!行こう!”

 

 

『『「了解!」』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今思えば、全てはあの少女の掌の上だったのかもしれない。

 

 

『黒服さん』

 

 

動いた。

 

 

羽音デミから採取した肉片を秘密裏に加工途中、ゲマトリアのメンバー……私とマエストロの前で彼女は声を発した。

 

 

『マエストロさん』

 

 

『有り得ませんね、ククッ…全く、興味が尽きないお方だ』

 

 

『契約をするっすよ』

 

 

そうしてあの日、私達は怪物の口の上に立ってしまっていたのだろう。

 

 

あんな形で契約を利用されるとは思いもしなかった。まるで先生の様な理解不能、不可解な存在。

 

 

確信してしまった、旧神の神秘を身に宿し、世界の魔の手に犯される『以前』から怪物であった規格外の人物、それが……

 

 

 

羽音デミ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、いえいえいえ、とぼけてはいませんよ、羽音デミさん」

 

 

「殺すぞ」

 

 

首元に更に肉の触手を近づけるが、何事も無い様に話を続けられる。

 

 

「確かに私は、貴方の肉体……その神秘に興味を持ち、協力させて頂きました」

 

 

「……」

 

 

「しかし、私は貴方には興味がありません、羽音デミさん」

 

 

「……ぁ?」

 

 

「既に彼女からは契約の対価を頂いています、そして『好きにしろ』ともお言葉を頂きました…………さて、何も無い、名前も無い、ただの少女である貴方から私への契約の対価は、如何なる物で支払いますか?」

 

 

「な……にを…ぁ……え…?」

 

 

対価?そんなものもう支払って……

 

 

「その身体は、以前から羽音デミさんのものでしょう?」

 

 

 

「……ぁ」

 

 

 

「ですので、契約の履行の義務と対価の受け渡しは……彼女とのものです」

 

 

黒服がキラリと黒い塊を胸元から出すと、周辺の肉の触手は全てソレに吸収されてしまう。

 

 

「ぇ…ぁ…ち、違う、じゃああの話は!あの話は何?自殺を……殺してくれるって…!」

 

 

「それについては、貴方……元い羽音デミさんと私とで契約破棄となりまして…」

 

 

「…は?」

 

 

「さて」

 

 

「し、神性顕現!!……で、出来ない?なんで、ここまで来て!!ここまで苦しんできて何が!?何をこれ以上…!?」

 

 

黒服から、紙の様なものを手渡された。

 

 

「………砂漠で水を求めて苦しむものに、水を提供する、代わりに一生奴隷として」

 

 

「そして貴方は、決して拒まないであろう提案を一つ」

 

 

「興味深い提案です、どうか、どうかご清聴をーー」

 

 

 

一息を付き、クックックックッ…といつもの様に、『大人』として……。

知識を持たぬもの、弱き者から搾取し続ける、大人として目の前の少女に語りかける。

 

 

 

「名も無き少女、最後の契約へと参りましょう」

 

 

 

「貴方から、私へ」

 

 

 

「契約の対価は?」

 

 

 

「ぁ……ぁあ…あ……は、はは…あははは…」

 

 

 

「はは」

 

 

 

………わたしの、わたしのもっているもの…?

 

 

 

「……ぜ…んぶ」

 

 

 

そんなもの、ある…訳……が…

 

 

……。

 

 

「わた…わたし、わたしの……はは、わたしの!!捨てたもの全部あげる!!全部全部全部!今の私のも、未来の私も全部あげる!全部だ!!」

 

 

「先生からわたしにくれたものも全部ッ!!」

 

 

「……!ククッ、宜しいでしょう、では何をお望みで?」

 

 

「居場所」

 

 

「わたしの居場所を……」

 

 

縋る、縋る事しか出来ない。

 

 

ただの紙に縋る、悪に縋る、裏切り者に縋る。

 

 

死に場所でもいいから、縋らせてください。

 

 

「ねむらせて……」

 

 

もう、眠りたい。

 

 

幻覚なんて見たくない、夢なんか見たくない、幻聴なんか聴きたくない。

 

 

明日の為に、今日を生きていたくない。

 

 

「死なせて、下さい」

 

 

「お願いします…」

 

 

「言う事に従います、わたしに何をしてもいいです、わたしは、もう…」

 

 

黒服の足が目の前まで来るぐらい、頭を下げる。

 

 

「選びたく……ないんです」

 

 

「ククッ…!宜しいでしょう、それではーー」

 

 

 

契約のサインを、そう囁こうと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

“待て”

 

 

 

 

 

 

空から舞い降りてきたのは、死神か、それとも救世主か。

 

 

 

 

 


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