ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

88 / 119
カーテンコール

「……はぁ」

 

 

「あ、あはは…大丈夫ですか…?」

 

 

ズキンッ!!

 

 

『あはは、ごめんね』

 

 

「ブフォッォ……!」

 

 

「ナ、ナギサ様ぁー!?」

 

 

「ゲホッ…ゲホッ……!だ、大丈夫です…申し訳ありません」

 

 

ティーパーティーの茶席に招かれたヒフミは、冷や汗をかいて青ざめるナギサの背中を摩っていた。

 

 

『…ナギサ、少しいいかい?』

 

 

事件後、私は……私の引き起こした事態の責任を取ろうと、先生に呼び出された後足を運んでいた。

 

 

『……その、あはは、ごめんね……コレ』

 

 

手渡されたのは、合宿場の修繕費、そして今回の騒動での被害合計額が乗った資料。テストが終わってすぐ後の事だったのだが、この短時間でもうまとめたのかと確認してみると……。

 

 

「……暫く…高級な紅茶は控えておきましょう」

 

 

血の気が引ける金額を見せられた。

お気に入りの一箱三十万程度しかしない紅茶を、毎日取り寄せれなくなるほどに……まさか週二まで抑えられる事になるとは。

 

 

「やはり、それでも先生は私から見たら怪物以外の何者でもありませんでしたが……」

 

 

もうそんな考えも捨てた、先生は先生で、表向きに彼は全ての報道と情報を管理、結局今回の騒動の終着点は……。

 

 

〔クロノス報道のお時間です〕

 

 

〔昨夜トリニティ別館、合宿場にて、とあるグッズ関連のライブがあると誤情報を受け取った……まぁ…過激な人達が押しかけて、偽情報に憤怒したファンが建物を爆破させたと、完全にとばっちりな事件がありました!〕

 

 

〔責任者であるナギサ氏を出せと叫びながら行進する様子はまさにレッドウィンターのデモ隊の様子を思い出させます!〕

 

 

流れ出す音声と、モザイクが掛かった映像、そして私からの表明……。

 

 

〔尚この事件の証人であるトリニティ自警団スズミ氏によると、通報を受け駆けつけた所、まるで鬼のような顔をしたファンの姿が確認できたとーー〕

 

 

今回の騒動は、誰の責任でも無く、出来る限り隠匿された状態で表向きには犯人は大衆という事になった。

 

 

キヴォトスではそう珍しくもない事件、明日には…いや、皆三時間程度したら忘れている事だろう。

 

 

但し表向きには、だ。

 

 

「ミカ様に会わせろッ!!」

 

 

ミカさんが作り上げた、『ゲヘナへの憎しみ』を募らせたパテル分派による秘密裏の内乱。

 

 

パテル分派『大衆の総意』であったミカさんの一時的な軟禁によって、実施寸前であったゲヘナとの全面戦争計画は消失、行き場の無くなった憎しみはトリニティを呑み込む勢いだった。

 

 

だった……が。

 

 

「あれー?みんなどうしちゃったのかな☆?」

 

 

ミカさんが全てのパテル分派の過激派を収め、そのヘイトを受け持った。

 

 

「魔女め」

 

 

「魔女、裏切り者の魔女、許す訳無いでしょ」

 

 

軟禁していなければどれだけの報復があるかは分からない、故にエデン条約締結を執り行い、ミカさんを公的な権力を以て保護できるようになるまでは私の部屋でロールケーキを食べてもらう事にした。

 

 

「どうでしょうか、ヒフミさん……補習授業部の皆とのご関係は」

 

 

「え、えっと…補習授業部の皆さんとは今でも一緒に遊んだり、お店に行ったり……毎日楽しんでます」

 

 

「羽音デミさんは」

 

 

「………療養中と、正実の方々が」

 

 

「…会えていませんか」

 

 

ハスミさんからも、そして私にもそんな届け出は来ていない。

今回の騒動、その中心に居た補習授業部の皆さんの中で、更に核となっていた存在。

 

 

失踪してしまった、と言っていいだろう。

 

 

「何故、今まで彼女の事を洗いざらい調べていなかったか不思議なくらいです」

 

 

今改めて調べると、補習授業部どころかあの時の私ならば即刻休学にさせるように動いていたと思う程に不穏分子だった。

 

 

エデン条約そのものを破壊しかねない人物、トリニティ、ゲヘナ両校の和平という点において爆弾に近い立ち位置……いや、正確に表すなら…………。

 

 

アリウス分校、ゲヘナとトリニティ両校の手によってこの世界から姿を消した、あの時と同じ存在だという事実。

 

 

「ともかく、私が補習授業部の皆さんに行った事の精算は出来ていません、ヒフミさん……貴方が良ければ何でも申し付けて構いませんよ」

 

 

「何でも……は、申し訳無いので、いつか不手際があった時にナギサ様の力を借りれたらと」

 

 

「分かりました」

 

 

紅茶のカップを置いて、漂う匂いを楽しむ。

節約の為に街で買った少し安めの葉だったが、香りが良く、好みに合っていて、下手に高い物よりは格別に美味しい。

 

 

ただ、この香りを楽しめるのは私の心が落ち着いてからだ。

 

 

「…先生のお見舞いには行かれましたか?」

 

 

「……はい、もう何度も」

 

 

先生は今、救護騎士団の寝室で眠り続けている。

 

 

先生はセイアさんが生きていた事実を公表し、補習授業部のテストが終わりきる前にミネ団長に案内され、セイアさんの元へ訪れた。

 

そこで何があったのかは分からないが先生が倒れた代わりにセイアさんが起き上がり、先生の身体は再び瀕死の状態に戻ってしまったらしい。

 

 

『貴方という人はッ…!!自分をそうやって犠牲にしか出来ないのか!?』

 

 

傍に居たミネ団長のお陰で一命は取り留めたのだが……。

 

 

目覚めたセイアさんは今でも眠っている先生の傍でその手を握っている。

毎朝訪れては誰かが声をかけるまで、先生の顔を見つめながらずっとだ。

 

 

食事もせず、殆どの時間を先生の傍で過ごしている。

 

 

「ティーパーティーホストとして復帰してもらうのはもう少し後になりそうですが、あの様子だと……」

 

 

先生が倒れてしまった、という話は瞬く間に広がり、一時期騎士団の寝室には人が溢れかえっていた。

全ての用事を投げ出して来ていたのか、あのゲヘナの風紀委員長や危険思想、危険人物であるテロリストの温泉開発部部長、美食研究会までもが訪れていて、追い出そうとしていたトリニティ生も先生の状態を鑑みて、例外的にゲヘナ生を受け入れている。

 

 

先生が関わると、学園間のいざこざは起きない。私も訪れた時にゲヘナの危険人物が居た時は心臓が止まるかと思ったが、先生を見つめるその顔を見ると思わず押し黙ってしまった、特に危険な行動も起こさないので受け入れたが………それからもミレニアムや山海経、アビドスやヴァルキューレからの来賓が止まることは無かった。

 

 

騎士団のメンバーも泣きそうな顔をしながら先生の身体を癒しているのだが、傷が深すぎていつ目覚めるのかは分からないとセリナさんが話していて、セイアさんだけでなく、最近は空崎ヒナや浦和ハナコ、セリナさんやイチカさん、小鳥遊ホシノ等、常駐しているメンバーが増えてきているのだ。

 

 

「ミカさんも毎日死にそうな顔をしながらお見舞いと寝込むのを繰り返して、大変です」

 

 

「ナギサ様お一人で頑張っている事は、誰もが知っています!」

 

 

「えぇ、こういう時だからこそ私が頑張らねばなりません」

 

 

……噂によると、他の学園の主要人物が軒並み先生へのお見舞いと看病に訪れているらしく、トリニティだけでなく全ての学園で政務が滞っていると。

 

しかも主要な中でもトップに立つ……例えば早瀬ユウカや生塩ノアといった中核のモチベーションが軒並み死んでいる様子で、更に言えば一般生徒や部活動中の生徒が大勢ここへ訪れるせいで学園の運行そのものが麻痺しかけている。

 

 

「……先生が起きたら、私が一から上に立つ者としての責務と身の振り方をお教えしなければなりませんね」

 

 

「あはは……色々と、頑張って下さい」

 

 

先生の悪い所は、自分の影響力を知った上で自分の事に無頓着な事、倒れたという事だけでキヴォトス全域がこうなるのに、全く……。

 

 

「……はぁ」

 

 

溜息が尽きない、人生最多を更新してしまいそうだ。勿論最多はエデン条約の事に対してだが。

 

 

「ヒフミさん……報告、ありがとうございました、今日はこの辺りで構いません、お疲れ様です」

 

 

「分かりました、失礼します!」

 

 

頭をペコりと下げて帰るヒフミさんを眺めながら、クッキーをひとつまみ。

 

 

扉の開閉音が聞こえたと同時に、思考を冷ます。

 

 

「………」

 

 

未だ残っている問題は多い、アリウス分校に未知の敵…ユスティナ聖徒会、パテル分派にエデン条約。

 

 

そして羽音デミ。

 

 

電話を持ち出して、とある人物に声をかける。

 

 

「古関ウイさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

動かない手を握る。

 

 

「……」

 

 

動かない顔を見つめる。

 

 

「…」

 

 

開かない目、心音図の音が夜闇に響くだけで、貴方は動かない。

 

 

「…先生」

 

 

私の夢の中までズカズカと入り込んできた時はびっくりしたよ、どうやったのかって。

 

 

『あはは、まぁ…後は任せて行ってらっしゃい、なんて言ったからにはね』

 

 

夢の世界から解放されず、暗闇の中に居た私を光が貫いた。

暖かさに包まれて目を覚ませば……これだ、先生は結局自己犠牲を貫き通してしまった。

 

 

貴方が傷つけば傷つくほど、同じく苦しんでしまうのは、貴方を愛している者の数だけ存在すると言ったのに。

 

 

ベッドの周りには、溢れるほどの見舞い品が置いてある。

 

 

「あぁ…」

 

 

今日もまた、目を覚まさない。

 

 

「………」

 

 

「……」

 

 

「…………!」

 

 

私は、いつから貴方に夢中だったのだろうか、羽音デミが貴方を頼っていたから興味深くて、記憶を覗いた時?それとも夢の中での会遇?それともーー。

 

 

「いつのまに、だなんてロマンに欠けるね」

 

 

貴方の手を握る、その手を握り返してくれて、私も一生懸命握り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…へぁ…へぁっくしょん!!」

 

 

「う〜…よ、ようやく……終わった……」

 

 

真夜中のトリニティ大古書館でひたすらに紙と向き合う生徒が居た。

 

 

「急な依頼……はぁ…これも先生の為……」

 

 

ナギサに依頼されて、先生の為だととある物品を復元していた。

バラバラにされてシュレッダーにでもかけたのか?と思うほどにグチャグチャな手帳を手渡された時は何事かと思ったが、これを復元しろなんて無茶な依頼だったとは……。

 

 

夜なべしてずっと作業して来たが、今ようやく終わったのだ。

 

 

「途中からある程度の文章を読めると思ったけど……」

 

 

あまりにもバラバラ過ぎて完全に復元しなければ文字すら読み取れない、集中しすぎて目が疲れたので目薬をさして、ホットアイマスクを数分やってから文章を見てみることにした。

 

 

「ぁ゛〜…」

 

 

頼まれた手帳は二つ、片方はある程度のバラバラグチャグチャ具合で、もう片方が今復元し終わった細切れの方。

どちらも黒色の手帳だったらしく、手帳カバーはそのままボロきれになっていた。

 

 

「さて」

 

 

古書でも無いのに復元に協力した理由は、これがトリニティ、又は先生の利益になりうるとナギサ様から説明され、そのまま押し切られたからなのだが、それ程大切なものだと分かれば今私が確認してもバチは当たらないだろう。

 

 

眼鏡を掛けて、文章を読み取ってみる。

 

 

「…………?」

 

 

「これが先生の為に…?本当に?」

 

 

どう捉えても意味不明な文章、滲んで見えにくいとはいえ、騙された気分になる。

 

 

だが、これは……

 

 

 

《全てを忘れよ 全てを受け入れよ 導き 天命を下せ》

 

 

 

何か、とてつもなく気持ち悪い感覚に襲われるものだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。