ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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しばらくリアルが立て込んでまして……更新ペース落ちます、申し訳無い。


夏の序章

 

 

窓から見てる青い葉。

 

 

そうか、もう夏かと思い出す。色々あり過ぎてすっかり忘れていたな。

 

 

虫かなんかが騒ぎ出す季節だ、シャーレに帰った後は残った業務を虫の音でサクサク終わらせてしまおう。

 

 

差し込む太陽は随分……眩しいよりも熱いが勝つ、別に熱いのが嫌いという訳では無いけれど、『熱い』事は、私の記憶を刺激するからね。

 

 

少し…歯がゆいものだ。

 

 

 

“……”

 

 

 

今日もまた、草葉の匂いを嗅いで枕の位置を調整する。

 

 

トリニティの病室はとても清潔な匂いが蔓延し、薬品のかすかな匂いがこれもまた病室に居る事を強調する。

 

 

白い部屋に、白い病服、白さというものは清潔感の現れとも言えるだろう。

 

 

色、匂い、景色に音。

 

 

シャーレ内では聞けない日常の音が耳に流れ込んでくる。自転車や徒歩での登校と雑談、昼休みの騒乱に部活動の活動音。

 

 

『学園』

 

 

やはり、良いものだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

“ほはゆ……おいしい…”

 

 

「ほら、ゆっくり食べるんだ」

 

 

“おか…おかゆ?白湯…ほぼほぼ白湯…”

 

 

「うへぇ〜…そうやって無茶ばっかするからだよ、先生」

 

 

“最後の最後は殆ど賭けだったからね……みんな無事で良かった”

 

 

「先生がッ!無事じゃッ!!無いじゃないか!」

 

 

「本当にね」

 

 

“あ、あはは……”

 

 

先生が倒れてから四週間、規格外の治癒スピードだがこれもアロナによる擬似心臓の全力稼働の賜物だ。

実際、先生は死にかけ…というよりほぼ死んでいたし、カード化によって時間を作らなければアロナが復元剤を制作するのも間に合わなかっただろう。

 

 

コンコン…。

 

 

また一人、病室の扉を叩く。生徒の来訪が多すぎる事もあり、病室は先生一人のみの専用室になっていた。

 

 

「先生」

 

 

“やぁ、イチカ”

 

 

「……良かったっす、それにしても沢山侍らせてるっすね」

 

 

“侍らせてるって…”

 

 

「普通は男の人が身辺に女の子をそれだけ置いておいたら、侍らせてるって言うんすよ」

 

 

先生が目覚めた報道は瞬く間にキヴォトス中に広がり、 既にあった量を超えた大量のお見舞い品と手紙や電話が届いた。

先生自体の怪我は重役と関係者以外に報じられておらず、騒ぎになった影響で一般の生徒にも知れ渡った結果、一時期軍隊とも思える量の生徒が押し掛けたこともあったが、大体落ち着いてきて……

 

 

「………」

 

 

“…”

 

 

「「「………」」」

 

 

“ミッ……”

 

 

…この有様。

 

 

押しかけてきたイズナやホシノや……ともかく大半の生徒が先生を見つめるだけで無言のまま立っており、冷や汗をタラタラと流し続けることしか出来ていない。

 

 

「先生」

 

 

続いてまた一人……。

 

 

“ヒナ…”

 

 

「………」

 

 

「……」

 

 

“…ヒナ?”

 

 

耳元にまで口を近づけて、囁くように話す。

 

 

「……アリウス」

 

 

「マコトがアリウスに関わってた」

 

 

“…!”

 

 

「責任は取らせたから、それで」

 

 

“…ごめんね、私のせいだ……またヒナに無茶をーー”

 

 

「先生」

 

 

人差し指を先生の口に当てて、先に黙らせる。

 

 

「貴方のせいじゃない、だから今は休んでて」

 

 

最近……そう、最近の事だ。

 

 

いつからかは分からないけれど、日々の業務上不良をなぎ倒す中で苛立つ事が多くなった。

何も変わっていない筈、なんの変化も……。

 

 

『こいつのせいだ!こいつが!こいつが誘ったから!』

 

 

いや、変わっていた。

 

 

責任に関して、大切にしている誰かさんを見続けていると言葉に対してイラつくようになっていた。

 

 

「それじゃ、先生」

 

 

“……またね、ヒナ”

 

 

一瞬の出来事ではあったが、ヒナが先生と会話をしてから沈黙がより冷たいものだと感じるようになったのは……

 

 

“…あ、あははは”

 

 

まぁ、気の所為だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼下がり、皆でワイワイと先生の前で昼食を広げ始める。といってもメンバーは補習授業部と放課後スイーツ部のみだが。

 

 

「皆さん、先生の負荷になるような事はなさらないで下さいね」

 

 

「勿論です♡」

 

 

“……う〜ん”

 

 

「どうしたんですか?先生」

 

 

“ん〜?いやぁ…”

 

 

うら若き少女達が何故かしょぼくれた病人の前で昼飯を過ごす事が不思議でならないが、彼女達が良いならそれでいいか。

 

 

“なんでも〜?”

 

 

「…何かまた、不安になることが?」

 

 

“え!?いや、いやいや別に何も?”

 

 

「そ、そんなに否定しなくても…先生が何もというのなら気にしないでおきます」

 

 

一度デミにそのままそっくり『何で?』と聞いてみたら激烈に叱られたことを覚えているので、ゆっくりと口を噤むのであった。

 

 

病室で先生を取り囲みながらお昼ご飯、お弁当を広げるみんなは中身の見せ合いをしていた。

 

放課後スイーツ部の皆はお弁当に加え、普段からお気に入りの食後のデザート、といえる代物を持ちあってきている。

 

 

「え!?チョコミント!?」

 

 

「コ、コハルちゃん!!」

 

 

何やら一悶着ありそうな…事態も色々ありつつ。

 

 

そうしていると……。

 

 

コンコン。

 

 

「お昼時に…先生に対してですかね?」

 

 

「そうかもね、先生と一緒に昼飯を食べたい人なんて沢山いると思うし」

 

 

「あ、じゃあ先生が良ければスペースを空けておきまーー…」

 

 

 

ガチャッ……。

 

 

「…え?」

 

 

“……!?”

 

 

「先生」

 

 

「…デミ、ちゃん」

 

 

「デミ先輩、何しにきたの?」

 

 

失踪が噂された人物が現れてしまった。

 

 

事件の最終、トリニティを破壊しかけた実行犯。その事実は先生を問い詰めたカズサと補習授業部、ミカしか知ってはいないが、その実態を知っている人物がここに丁度五人居る。

 

 

「お見舞いに来たっす」

 

 

“うん、ありがと”

 

 

けれど先生の態度は何も変わらない、デミからは確かに休暇を取ると言われた為、ずっと待っていたのだから。

 

 

「…酷い血の匂い、アイリ、ナツ、ヨシミ…下がってて、デミ先輩……動かないでね」

 

 

“カズサ、大丈夫”

 

 

立て掛けておいた銃を手に取って、先生の前に立って構える。

 

 

カズサや補習授業部の皆はデミから視線を外さないが……デミは先生しか見ない。

 

 

「……ッ!!」

 

 

どろりと影が伸び、そこに向かって射撃するが効果は無い、影が起き上がって現れたのは……。

 

 

「クックック……先生、私もいますよ」

 

 

“黒服も!?!?”

 

 

「アハハ、ヒーッ……びっくりしたでしょ?私が行くなら大人の礼儀として同伴するって……アハハ…」

 

 

「ククッ…見る所おかゆしか食べれない病人に固形物も失礼かと思い、コチラを…」

 

 

握られているプレゼント包装された大きな包みを優しく手渡される。

 

 

敵かと思えばプレゼント、影から出て来た悪そうな黒炎の大人……先生が言う敵対者の一人だとデミから聞かされていたハナコはこの状況に困惑を隠せないでいた。

 

 

危機的な状況なのは分かってはいるのだが……先生を攻撃する気が無いのかどうなのか何も分からないのだ、どうしようも無い…だから今は肉壁として先生の傍に立つし、銃もデミに向けておく。

 

 

「…先生、こいつは?」

 

 

“…悪い大人、私にプロレス負けたよわよわ大人”

 

 

「……ん?」

 

 

「え?今なんて」

 

 

「クックック……クククッ………」

 

 

「せめて言い返してくれないっすか?というかなんで少し嬉しそうなんだよ」

 

 

デミが黒服の頭を何処から取り出したのかも分からないハリセンでパチンと叩く、そんな光景も相まって病室のメンバー全員から肩の力が抜けてしまった。

 

 

“……物騒なものだったら封印するからね”

 

 

「…ククッ……クックック…ホシノさんとデミさんのアドバイスで選ばせて貰ったものです、今お確かめになりますか?」

 

 

“ホシノ……嫌なら嫌って言えばいいのに”

 

 

包装を丁寧に解きながらぶつくさと文句を言う、それもそうで絶対に迷惑にしかなっていないと簡単に予想がつく。

 

 

といっても……こういう所で普通の感性を持っているのが、なんかヤダ、

絶対に私の好みに合ったものを見舞いの品に選ぶだろう。記憶が正しければ年賀状も一番早く入れて来た奴だ、大人として、あまりにも『大人』過ぎて……。

 

 

“……うーーーーーん、まぁ有難く貰っておくね”

 

 

「そちらの片方の品はデミさんからです、是非枕元にでも」

 

 

中に入っていたのは可愛らしい水飲み鳥と、ワイン瓶らしきもの数本。

 

 

「私からは体調が完全に戻った後にお召し上がりください、アルコールは入っておりませんので……果汁酒に近い、ただのジュースです」

 

 

“あー!これ、前にデミと一緒に飲んだ奴!?”

 

 

「そうっすよ、それじゃ渡すもんも渡したし、見たいもんも見たし、さよなら……」

 

 

“まって”

 

 

トビラに手をかけて帰ろうとするデミを呼び止める。

 

 

“デミ、あの時…喧嘩するしか無いって言ってたよね”

 

 

「……」

 

 

“自分の信じるモノをぶつけ合うしか無い喧嘩”

 

 

「そうっすね」

 

 

“降参”

 

 

「……へぇ?」

 

 

耳を疑うような言葉が、入ってくる。

 

 

“降参するよ、降参して、君の考えを受け入れて……それでも抗うさ”

 

 

「…何も変わってないっすよ」

 

 

“私は別に特別な人間じゃないからね、君の世界に対する憎しみを取り除ける訳じゃない、ましてや当たり前の感情を否定する裁定者でも無い”

 

 

“君のように忘れられる、忘れられてしまった人生に寄り添うだけ、だから君をもう否定はしないし、それでも私は抗って、君に幸せになってって言うよ”

 

 

“私が、幸せになる為に”

 

 

「…………」

 

 

「…本当に、ガキなんですから」

 

 

言われなくても分かっていることを、改めて意思表示されてしまった。

だから私は、私の幸せを否定し続けなければいけない。

 

 

「先生!銃声がしましたが……!!」

 

 

遠くから叫び声が聞こえてきた、恐らく先程の銃声を聞きつけたのだろう、セリナの声は遠い廊下からでも良く聞こえる。

 

 

「おっと、それでは先生…失礼します、また夏空の元で」

 

 

「ほいじゃバイなら〜」

 

 

“黒服に関しては何も変わらないからね??身体治ったらパイルドライバーするから”

 

 

「ククッ…先ーー…」

 

 

“本当に、よくも私の生徒に手を出してくれたな……黒服”

 

 

 

「……っ」

 

 

 

初めて露出した先生の純粋な感情が、ただ一人に向けられ、それを感じる本人は冷や汗ともいえぬ焦りの脂汗を沸き立たせていた。

 

 

 

「……やはり貴方は特別な人間ですよ」

 

 

 

 

黒服の手で、ドアが閉められていく。

 

 

向かい側に立つデミの姿が見えなくなっていって…。

 

 

 

「不審者発見!!」

 

 

「おげぼばぁぁぁ!!?」

 

 

見えなくなる瞬間にセリナにボコボコにされている姿が目に入ってしまった。

 

 

“……”

 

 

「先生!!大丈夫でしたか!?安心してくださいね!!この!こんな!この不審者……あれ?」

 

 

「わたし……わだじでず…はおとでみ……」

 

 

「キャーッ!?あれ?あ、あの黒い塊みたいな人は…ご、ごめんなさい!」

 

 

“ん…あ〜…セリナ、せっかくだからデミをこっちに連れ込んでくれないかい?セリナも良かったらお昼ご飯、どうかな?”

 

 

「ぼ、ぼんばがなじぞうなわがれがだしで……」(こ、こんな悲しそうな別れ方して……)

 

 

「え、あ、はい!御一緒させていただきます!」

 

 

 

 

この後、誰もデミには言及せず、今ある時間を楽しんで昼飯を終えた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、先生……一番会わなくちゃいけない一人、忘れちゃダメっすよ?」

 

 

“勿論さ、忘れる訳無いからね”

 

 

「…分かってるなら…それじゃ、オマケっすよ」

 

 

本当に何事も無く、ある程度の詮索と質問はありながらも昼飯を終えてしまった。出来なかったのか、しなかったのか。

 

 

それは……恐らく、彼女達の間だけのものだ。先生である私が踏み込む場所じゃない。

 

 

 

黒い塊が、先生の身体を覆う。それに対して悲鳴や警戒をする事も無く、部屋に居る八人は黙ったままだ。

 

 

会話して分かることは、あまりにも『普通の生徒』である事。今はもはやヒフミにすら、その奥にあるものが……普通の羽音デミの日常光景である以上の事は分からない。

 

しかめっ面は増えたが、それでも羽音デミは先生しか見えていない。

 

 

“暖かいね”

 

 

「戻すのは体力だけですから、あの子に会ったらすぐ病室に戻って下さいね」

 

 

“うん”

 

 

立ち上がれるようになった、そうなれば行く先は一つだけ。

 

 

恥ずかしくて、申し訳なくて、自分を絶対に許せないお姫様に会いに行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かちゃん。

 

 

 

「……」

 

 

 

かちゃん、かちゃん…。

 

 

「……はぁ」

 

 

“久しぶり、ミカ”

 

 

「……あは☆久しぶり、先生」

 

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