ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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形骸化して擦られまくった夏のエモを書くのたのじいぃ……!





夏の終わり

「先生と飲み会にでも行ってみたいですねぇ…」

 

 

「お前急に何言っとると??」

 

 

「あ、いえ…先生が下戸である事が残念過ぎるあまり、脳内のセリフが漏れてしまいまして」

 

 

「きっ…つ、いやまぁ普通に食事処誘えば良いんじゃないっすか?」

 

 

「クククッ…生憎先生には嫌われていましてね」

 

 

「…一つ正論いいっすか?」

 

 

「なんでしょう?」

 

 

「嫌われるようなことするほうが悪い」

 

 

「クク…くっ……クックック……」

 

 

「……」(哀れな男を見る目×3)

 

 

 

ひゅるるるる~…

 

 

 

「ほぉ」

 

 

 

ドッパァン!!!

 

 

 

 

黒服が運転する車に乗っていると、遠くで燃えるように輝く花弁が咲き誇っているのが見える。

 

 

南国、というわけではないのだが、ここ一辺は全て海が見える場所であり南国の海のように綺麗な、それでいて南国の風を感じられ…そして夏の夜空に咲いた花、浮かぶ星空、この夏に足りないものはない。

 

 

遠出してきてよかった。特に星空は住宅の光でたやすく塗りつぶされ見えなくなってしまうから。

 

 

「綺麗っすね」

 

 

「そういうこった!!」

 

 

先生の趣味にひっぱられて黒服が運転している車もオープンカーになっていて、花火も星も、土地を無視した南国の街頭樹もよく見える。

 

 

「……」

 

 

夏だ。

 

 

夏の日の思い出。

 

 

今この瞬間だけは、あらゆる言葉の枕言葉に『夏の』を付けていいと思う。

 

 

「夏の花火、夏の…ふふっ…ゲマトリア、夏の風、夏の景色匂い暑さ…」

 

 

「夏の先生」

 

 

意味不明な言葉なのに、しっかりと私の心のウィッシュリスト、その空白欄にチェックが付けられていくのを感じる。

 

 

五感の満足を満たすには贅沢過ぎた、視界に映るもの、耳に届くさざ波の声だったりみんなの笑い声だったりは満腹以上に聞けたかな。量産的な潮の匂いもここまで特別感溢れるのは、きっとこうやって全身で夏を感じているからなんだろう。

 

 

ツルギ先輩は楽しめたのかな?…うーんまぁいうまでもなかったか!めちゃくちゃ楽しんでたな!

 

 

「誘うとしてもどこがいいですかね」

 

 

「先生麵好きだからパスタ…スパゲッティ辺り美味しく食べれる洋食店とか良いと思うっすよ、麺好きなのもカップヌードル食いすぎの弊害ですけど」

 

 

「…減塩のものも開発して……市場に流通させますか」

 

 

「かの者が我々より先に倒れてしまえば元も子もない」

 

 

「いっそのこと完全食として売り出してしまえばよろしいのでは?」

 

 

「…大の大人三人が真剣に先生の食生活心配してる絵面、なんか…嫌だな…そもそもの業務量無くしてあげればあんな食生活しなくても、って話っすけどね」

 

 

「一応それはできません、先生に与えられている『先生』という記号自体と業務には密接な関係があります、義務として迎え入れている事、一種先生を構築する『意味』の一つなんです」

 

 

「聞きたかったけどわざわざそんなこと聞いてねぇっすよ!!ったく」

 

 

おちおちドライブを楽しむこともできねえ!いやオープンカーにゲマトリアぎっちぎちな状況自体楽しめるラインのハードル上がりすぎだよね。

 

 

「…んんん??」

 

 

ため息をついて肘を窓際においてダレていると、急激に体が引っ張られる感覚に襲われた。

 

 

「まさか…黒服、黒服…おい麺トークで盛り上がってんじゃないっすよ、話聞け話」

 

 

「運転中に服を引っ張らないでください、横転してしまいます」

 

 

「先生ならこけない、それと捻じれてきてるっすよ…ここに集めすぎた(イベント)んで修正力がチラ見えしてきてる」

 

 

「分かりました、少し飛ばします」

 

 

私にだって出来ないことがある、ゲマトリアにも先生にも連邦生徒会長にも。

 

 

そして羽音デミにも。

 

 

どうにも出来なかったのか?何もしなかったのか?ではなく、いつだってそこには()()()()()()()()()()()()があるもの。

 

 

「理由が分かれば現状も理解できる、コンテニューコンテニュー…頑張らなきゃなぁ」

 

 

「コンテニュー…面白い表現ですが、確かに的を得ていますね」

 

 

「そういうこったぁ!」

 

 

「デカちゃん声でかすぎ、花火よりでかくない??」

 

 

形骸化された夏を感じる。意義も意味も効率も無い、感受性という一遍に傾いた代物である花火の一部、その光景が歪んで見えた。

 

 

「…まぁ、無駄ではないか」

 

 

「ね、先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“うん、そう…ゆっくり”

 

 

「こ、こうかな…クロールって案外…ぷはっ、難しいね」

 

 

“ヒナは水慣れが早かったから息継ぎに慣れるのも早い、焦らなくても大丈夫」

 

 

「顔を真横に…腕を伸ばして」

 

 

“いつも銃を撃ってるときにしているリコイルと姿勢制御を思い浮かべて、うんうん、そう軸を張って真っすぐ……ツルギに聞いたけど羽で動きのバランスをとってるんだね、泳いでる最中にも意識できる?”

 

 

「やってみる」

 

 

さっきまでは泳ぎの邪魔をして減速の要因になっていたヒナの大きな羽が、今度は水を切るフィンの役目を果たしヒナの身体に加速をもたらした。

 

 

そうやって複数回沖と浅瀬を行き来する、もうそれで何時間かは経っているのだが…。

 

 

ヒナはとにかくセンスがいい、自身の肉体への理解度がずば抜けているのか『やり方』を知識として得れば格別に動きがよくなる。

 

泳ぎが苦手という割には水に対しての恐怖も少なくこの二人きりの時間も終わりが近づいているのだ、複数日経ってもマスターが難しい人も居るのに流石と言った所。

 

 

ただ、当の本人はというと。

 

 

「……はぁ」

 

 

先生に聞こえないようにため息をこっそりと漏らした、つくづく思う。

 

 

『どうして自分は毎回できるようになるのが早いのか』

 

 

確かに弱点だった泳げないことを克服している現状は良いのだろうけど、確かに先生の教えは的確でここまで成長できていることは喜ばしいことなのだろうけど…!

 

 

「先生、本当に良かったの?今頃はみんな集まって…花火を……」

 

 

“大丈夫、今日はヒナが先に私を選んでくれてたんだから気にしなくていいよ”

 

 

「……そう」

 

 

「…その、もう少し…このまま支えてて欲しい」

 

 

“うん”

 

 

どうしても皆の姿がちらつく、私がそうであるようにこのリゾート地に来た皆が先生と一緒に過ごしたいはずなのに、私だけ…こんな、こんな時間を過ごしても良いのだろうか。

 

 

イオリもチナツも、先生に会えて嬉しかった筈だし、小鳥遊ホシノも、あのワカモですら先生が寝かしつけなければここに乱入してもおかしく無い、後それとーー

 

 

“ヒナ”

 

 

“ありがとう、今日一日中ヒナのお陰で助かったし、楽しかったよ”

 

 

「っ…」

 

 

憂いの表情が漏れていた?気を遣わせてしまった?だって貴方の傍には私以外の人がずっと一緒に居て、笑顔で…。

 

 

「……あ…」

 

 

“どうかな、独り占めも悪くないでしょ?自分へのご褒美…なんだか恥ずかしいけど、そう思って貰えれば私も嬉しい”

 

 

「そう、ね…今はただ、貴方と二人きりで居るのも…」

 

 

独占欲の芽生えを自覚する、てっきりもう私にはそんな想いも残ってないものだと思ってた。人並みに欲しいものも無くて、人並みに目標をもって何かを為せる訳でも無い。

 

 

無自覚だった、欲望を抱いてみたのは初めてで…いや、何時だったか、入学したての頃は……何を望んでたんだっけ、それも忘れちゃった。

 

 

「良いわね…」

 

 

ひゅるるるる〜…

 

 

“おや”

 

 

 

ドンッッ!!!

 

 

 

腹の底に響く重低音、打ち上げ花火だ。

 

 

「こんなものまで作ってたのね」

 

 

“…ん?これ、本当に花火?なんかやけに…花というよりは、爆発…?”

 

 

よく見れば、テルミットの様に火炎の塊が此方に降り注いで来ている…!?!?

 

 

“ええええ!?!?”

 

 

「……はぁ、全く」

 

 

空に浮かび上がった爆発も、まだ中心に塊が見えておりそこから更に火花が分裂しようとしている、このまま膨張を続ければBBQと花火をしているアビドスのメンバーや補習授業部の皆に飛び火してしまう。

 

 

“ぜーーぇったいヤバい!!”

 

 

「…!? ちょ、ちょっと!?せ、先生!水着だから!抱きつかないで!?」

 

 

“本日二度目なんです!!トラウマ気味になっちゃって!”

 

 

スク水とは、その機能性を確保する為に圧倒的布と素肌の密着度を誇る衣服。

 

 

つまりほぼほぼ……

 

 

「ん、マシロ、イオリ頼んだ」

 

 

「夏の正義の名の元に、撃ちます」

 

 

「クソぉぉぉ!!何やってるんだ美食研共!なんでここまで来てアイツらの対処に!追われなきゃ!ならないんだよ!」

 

 

火の玉、その中心が撃ち抜かれ空で爆散する。ただの火の玉であったはずの爆発が更に四散し華々しく散ると、銃弾に込められた神秘に反応したのか空に色鮮やかな花が散る。

 

 

“ワ、ワァァ……”

 

 

空に開いた花に驚いていると、ヒナが先生の身体を押し返して来る。

 

 

「先生、事態は解決したんだから……離れて…」

 

 

“欲しい?”

 

 

「………欲しくない」

 

 

結局その後もレッスンを続けて、最早プロとも言える速度で泳げるようになったヒナなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏が終わる。

 

 

 

浜辺にはもう綺麗サッパリ騒乱の跡も無くなっていた。

 

 

BBQも終わり、花火も終わり、後片付けまでが夏の醍醐味だ。

 

 

深夜の海に響くのは弾んで楽しそうな声ではなく、静かで厳かな海からの声。

 

 

さざ波は幕引きを表し、また静けさも幕引きの演出に輪をかけている。

 

 

 

 

 

 

「終わるって訳じゃないんじゃない?この後も夏は続くんだしさ〜」

 

 

“でも、夜の海から上がった後ってなんだか…これで夏も終わりかぁ…って気分になるね”

 

 

「うへぇ〜それもそうだねぇ、私もシロコちゃん達と遊びすぎて疲れちゃったよ」

 

 

“私も”

 

 

「いろ〜んな人にもみくちゃにされてたもんね、そりゃぁ大変だったでしょ?」

 

 

“うん、大変で…それでいてここに来て良かったって思うよ?こうやってホシノとも海に入れたし”

 

 

「またそんな事言っちゃってぇ……おじさん照れちゃうなぁ」

 

 

“あ〜…楽しかったなぁ”

 

 

「うん、楽しかった」

 

 

ここに居るのはたった二人だけ、あれだけ騒がしかった浜辺も今では波の音の方が大きい。

 

皆はもう撤収し、これから先生もワカモを乗せてシャーレに帰る途中だった。

 

そうやって車のドアに手を伸ばした時。

 

 

『先生、ちょっと時間良いかな?』

 

 

 

 

「ねぇ、先生」

 

 

“……”

 

 

「私との約束、ちゃんと覚えてる?」

 

 

“うん”

 

 

「そっか、それなら………それなら、なんで無茶をしたの?」

 

 

また目の前で死にかける、多分こうやって問い詰めるのは私が一人目じゃない。

 

 

“…私は先生だからね、こういった選択しか取れなくてごめん”

 

 

当たり前の様に返される返答は、余計に心を刺激する要因。

 

 

「……っ…じゃあ、じゃあ辞めてよ!!」

 

 

“……ホシ…ーー”

 

 

先生を海側へと押し倒して、その両腕を拘束する。

 

 

絶対にこんなことが正しいとは思わない、私がこんな事をしたいとも思ってもいない、だけどいつか誰かはしなきゃならない。

 

 

「先生だから、先生だからってそんな風に……なら、先生なんて辞めて欲しい」

 

 

言葉に熱が入って行くのを感じる、目尻も段々と……。

 

 

「先生はさ、本当に自覚してるのかな?先生は凄い人なんだよ?今じゃこのキヴォトスで先生の事を知らない人なんか居ない」

 

 

「シャーレの活動でどれだけの生徒が助けられたのかな?どれだけ先生に恩を返したい子が産まれたのかな、それこそ星の数程居る」

 

 

どれだけ先生が、大切なものになっているのかを二度繰り返して伝えても…それを先生は自分に当てはめられない。

 

 

「アビドスは救われた、借金も無くなった、誰も不幸な道を歩まなくて良くなった」

 

 

「先生の活動で沢山の人が救われてる、不良達が頭を下げるのも先生だけ、ヘルメット団の子でさえ先生には感謝の言葉を投げかける」

 

 

“……”

 

 

「それを先生は受け取らない」

 

 

“それは……そんな事無いよ、ホシノ、生徒の皆の善意を無下に…”

 

 

「違う、先生は目を逸らしているだけ、それを受け取るのは自分じゃないって顔をしてさ」

 

 

トリニティの病室に居た時もそうだった、雨の様な見舞い品が先生に送られて、その一品一品に対して先生はお礼を返しに行ってしまった。

 

それでいてその見舞い品を、わざわざその生徒の前で使ってあげて感謝と感想を述べる。

 

 

「最初は、ちょっと変な人なんだな……ぐらいに思ってたけどね、違うかった、先生は自分に向けられたあらゆる想いを、自分に当てはめられないんだ」

 

 

倫理と道徳を身に付けた上で、テロリストが産まれるように。

 

先生も又、感情と倫理を理解した上で自分に当てはめられない。

 

 

「大切に扱って、無下には絶対に扱わない、生徒の為だもんね?」

 

 

“……”

 

 

「自分の為にした事はあるのかな?」

 

 

キツい物言い、だけど誰かはいつかこの問題に触れなきゃならない…そう。

 

 

『貴方は誰なのか』と。

 

 

自分を示す何かを全て生徒に託している貴方の本当の姿は、一体どんな人なのか。

 

 

「私は先生が大好き、私の命よりも大切……失いたくない、傷つきたくない、だから改めて『私の為に』言わせてもらうね」

 

 

息を飲み、吐き出す。

 

 

「先生は、どうして先生の真似を続けているの?」

 

 

それは私だけが触れれる秘密、ユメ先輩の背中を追っかけて惨めにも見苦しくもアビドスの生徒会長である私だけが触れれた、先生の違和感。

 

 

私もそうだった、私に届く感謝の言葉や想い、アビドスの皆との会話を何処か遠くに見てしまう、本来ならユメ先輩が……って。

 

 

だから気づいた、先生も『誰か』の真似をしている。

 

 

「ねぇ先生、そのせいで自分を大切に出来ないのなら先生なんて辞めてよ、お願いだからさ」

 

 

矛盾しているのは分かっている、先生であるから『生徒のお願い』を見逃さないのに、先生じゃない貴方に生徒として頼んでいる。

 

 

“ごめんねホシノ、一つ、話したい事があるんだ”

 

 

「……何かな」

 

 

“私は、私がどうであれ、きっと同じ選択を取ると思う”

 

 

“私がどんな存在でも、本性があったとしても、本当の自分も先生としての私も、同じ選択をする……大切なのはどう在るべきかじゃなくて、どんな選択を取るかだから…だから、違うんだ”

 

 

“当てはめられないんじゃない、『それでも』私は生徒の為に選択を取り続けたいんだ、それもこれも……”

 

 

“私は、生徒の皆に救われてここに在るから、だから私も同じ選択を取りたい、大人として先生として”

 

 

「……」

 

 

“あはは…普通の人から見たら、『どうして?』ってちょっと思われるかも、理由としては薄く見えちゃうからね……でも、私にとってはそれが星より輝いて見えるんだ”

 

 

“だからごめん、先生は辞められないし、先生を辞めても私は同じ道を歩むと思う”

 

 

「ッ!!だったらせめて!…せめて…………約束は、守って」

 

 

“勿論、約束を反故にして生徒を泣かして…そうまでして私は先生で居るつもりは無いからね”

 

 

「……そっか、ごめんね?話したい事はこれだけだからさ、ありがと先生」

 

 

“うん”

 

 

「貴方様ぁぁぁーー!!」

 

 

遠くからワカモが先生を呼ぶ声が聞こえる、きっと目覚めたら先生が居なくなっていたからパニックになっているのだろう。

 

 

「ほら、厄災の子も呼んでるから……後はおじさんも帰るだけなんだけど」

 

 

“ありがとうホシノ、心配してくれて……今日は楽しかったよ!また今度!それじゃ!”

 

 

「バイバイー先生〜!服濡らしちゃってごめんねーー!」

 

 

走り去っていく先生を眺めて、ホシノも帰っていく。

 

 

 

砂浜の貝殻に籠った二人の会話も、波に流されて……。

 

 

 

 

また、何事も無かったかのように

 

 

 

波は夏を奏で始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海辺で水をバシャバシャとかける。

 

 

足りない。

 

 

ビーチバレーを皆と楽しむ。

 

 

ちょっと足りない。

 

 

 

BBQをした、お肉美味しかったしあのアズサという子がいちいち私なんかの面倒を見てくれて、私のお皿に肉が絶えることは無かった。

 

 

ほんの少しだけ足りない。

 

 

花火をした、何枚も写真を撮ってくれたし、マシロも楽しそうでよかった。

何枚も何枚もいろんな写真を撮って、その写真を愛おしく眺める。

 

 

『いい、懲罰もなしだ、私が許可を出そう』

 

 

『ツルギ!?』

 

 

『アズサ、マシロ、ヒフミ、青春を楽しんで来い』

 

 

海に行ったことが無い、青春を送ったことが無い、そんな少女(アズサ)

 

 

最初は行くつもりはなかったんだ、私の青春日記(ウィッシュリスト)はもう沢山埋まっていて、今ではチェックがついていない欄のほうが少なかった。

 

 

だから私はよかったんだ、何かに縛られることなくアズサにはアズサなりの『ウィッシュリスト』を作って欲しい。きっとこの夏は特別なものになるだろうから。

 

 

私がそうであったように。

 

 

ずっと追い求めてきた一般的な青春は、思ったよりもずっと特別だったらしい。

 

 

『ツルギ、貴方も行ってきなさい』

 

 

『きゃははぁ…?』

 

 

『丁度夏期休みの日数が足りていません、それと無罪放免の件もこのままでは管理不足としてナギサ様にお叱りを受けるので、業務として彼女たちと共に』

 

 

『...』

 

 

良い同僚を持ったものだ、私の戦闘についてこれる上に互いに顔色を窺って……?

 

 

…行きたそうな顔をしていたのだろうか、私は。

 

 

「……」

 

 

私の部屋は、元々生活に必要なものしかなかった。オシャレを共有する友達もいない、趣味を話し合える友人が作れない、いやだいやだと思いながら一年生はあっという間に過ぎ去った。

 

 

自分のもの以外がない部屋は、案外寂しい。

 

 

「………」

 

 

今は違う。

 

 

写真が沢山張られたフォトフレーム、そこにまた新しい思い出(写真)を張り付ける。

 

 

愛でるものが沢山増えた、守るべきものが沢山増えた、正義委実現委員会に所属する意義が、部長である事すら青春の一部だと誇れるほどに。

 

 

また私の部屋の空白が埋まる。もう私の部屋は私だけの世界じゃない。

 

 

「先生」

 

 

一枚一枚、重ならないように貼っていく、ツーショット写真をとれちゃった、レストランの件といい…先生を見るとドキドキしてしまう。

 

 

上手く撮れていないのは残念だけど、貴重な先生の笑顔写真だ、枕元に印刷したやつを入れて……。

 

 

「ああああああああぁぁぁ!!!?!?」

 

 

何考えてるの私ーー!?恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!sygbふぉううれ委dsぶw!?!?!?!?

 

 

「お゛オオオオ!?ア゛アアア…!!!」

 

 

私はミジンコ私はミジンコ私はミジンコ私はミジンコ私はミジンコ。

 

 

 

「……カッ…」

 

 

危うくベッドを破壊しかけたが、あと一歩のところで目を覚ました。視界に入ってきたからだ、後輩からのプレゼントが。

 

 

「……」

 

 

綺麗でかわいいマグカップ、あの子とカフェをめぐる中でプレゼントしてもらった物で抽選で当てたらしい限定品。

 

 

「……デミ」

 

 

夏の写真、そこに愛いらしい皆の姿はあっても、その周りに貼ってある過去の思い出に映る少女はいない。

 

 

考えうる限り、彼女の行きそうなカフェ、連れ去られそうな相手、犯罪組織を虱潰しに探した。

 

 

足りないものが何なのかは、理解している。

 

 

『どこだあぁぁぁぁl!!!???どこにもない!どごにもぉぉぉぉl!!』

 

 

『きへぁぁぁぁぁああああ!!海ぃいぃいぃぃいいあぁぁぁ!!夏ぅぅぅ!!!!』

 

 

『それじゃ、行きます?海』

 

 

『......ギャハはぁ…?』

 

 

 

「此処に、私の青春がある」

 

 

 

だから早く帰ってこい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」ツヤツヤ

 

 

「…………」シナシナ

 

 

「「………」」

 

 

風紀委員会 委員長室

 

 

「な、なぁ…チナツ、アコちゃんはなんであんな事に…」

 

 

委員長を取られた委員長を取られた委員長を取られた委員長を取られた委員長を取られた…

 

 

「……先生」ツヤツヤ

 

 

天国と地獄、部屋の隅に蹲って爪を齧り、ブツブツと呪詛を吐き続けるアコと…

自分の机に立て掛けた写真立てを大切に撫でるヒナ。

 

 

アコが委員長に対して先生をダシにして休暇を提供をした所までは良かった、エデン条約締結が数日後に迫る中で少しだけでも休んで欲しいというアコなりの最大の配慮。

 

 

けれど問題は、効果があり過ぎた事。

 

 

「どうやら……私達が花火の後始末をしている間にヒナ委員長と先生が密かに泳ぎの練習をしていたらしくて…」

 

 

先生如きに先生如きに先生如きに先生如きに先生如き……

 

 

帰ってきてからのヒナは正に暴虐、最強、無敵…。一時的にあのアビドスの生徒会長をも超えた圧倒的暴。

 

業務である治安維持開始は早朝8時から、対する空崎ヒナはベストコンディション。

 

十分な睡眠による睡眠不足解消 ストレス解消によるメンタル負荷無し 先生との思い出 珍しくアコが迷惑を引き起こさなかった 先生との写真 十分な食事

 

 

空崎ヒナ、キヴォトス人生における最高到達点を更新し、ゲヘナを蹂躙し尽くしたのであった。

 

 

 

そうして昼時にこの絵面が完成する。

 

 

「アコちゃん…なんで自分がやった事で死にかけてるんだよ」

 

 

「うるさいですねぇ!?イオリには分からないでしょう!私が出来た事も無いヒナ委員長の全力を引き出された上に昼間から委員長は先生しか見えていない!これだけ騒いでもヒナ委員長の目線は写真立てにしかいかない!もう私なんて見てくれないんですぅぅ!!!」

 

 

「……羽音デミ」

 

 

発狂し始めてしまったアコに近づいて、チナツがボソッと耳元でその名前を囁く。

 

 

「ひぃぃぃっ!」

 

 

「……どうする?エデン条約が明日だっていうのにアコちゃんがこれじゃぁ…」

 

 

「アコ」

 

 

そんな様子を見かねてか、ヒナが崩れ落ちたアコに視線を合わせて感謝の言葉を述べ始めた。

 

 

「委員長ぉ…?」

 

 

「ありがとうアコ、貴方のお陰でとても楽しい夏を過ごせた」

 

 

「い、委員長!いえ、そんな褒められる程の事では…いや、褒めて頂けるのなら存分に甘やかして……アヘアヘアヘぁ…」

 

 

「貴方のお陰で……」

 

 

 

 

 

 

「先生と大切な時間を、一緒に歩めたから」

 

 

伏し目がちに、そして麗しくお淑やかに語るその声は……アコの視界に、ウエディングロードを先生と歩くヒナの姿をハッッッキリと映し出して

 

 

「」

 

 

鮮やかにアコのヘイローを打ち壊した。

 

 

「アコちゃぁぁぁぁん!!?!」

 

 

「ヒ、ヒナ委員長!どうしてそんな死体蹴りの様な事を!?」

 

 

「あ、えっと…何か変な事を言ってしまったかしら、単純に感謝の言葉を…」

 

 

「」メキョグチャガバゲボォ

 

 

「む、無自覚!不味いこのままじゃアコちゃんが死んじゃう!チナツ!!」

 

 

「はい!救急搬送します!!セナさんにも連絡を入れておいて下さい!」

 

 

「…??」

 

 

※この後無事にアコは意識を取り戻しました。

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