ブルーアーカイブの隅っこで   作:カピバラバラ

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パンドラの匣のラプソディー
凡人の牙


 

 

「っは…ぁ……」

 

 

 

 

 

「……ぁぅ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『主犯は……ゲヘナ、トリニティ、両校の者達です…』

 

 

『……は?』

 

 

『え…?待って、待ってよ…この子達って、確かどっちもあの子に助けられた事が…』

 

 

『…こちらが、供述した犯行動機で…』

 

 

【生意気だった】【腹が立ったから】

 

 

『…以上になります』

 

 

『…は?…これだけ?え、もっと…何か無いの?』

 

 

『政治的な背景だったりさ、あの子ってそこら辺無頓着だったりするじゃん?ナギちゃんが何か言ってなかったの?まだ捜索は続けてるんだよね』

 

 

『…ナギサ様はこの件を黙認、ゲヘナの万魔殿も関係性はないと……すでに捜索から一週間、けれど未だ手掛かりは…』

 

 

『い、一週間…そんな、そんなに経ってたんだ…は、は…そっか、ありがと、もう下がっていいよ』

 

 

『しかし』

 

 

『良いって良いって、後は私がやっとくからさ…帰りにカフェでも寄ってきなよ、ほら、あの子オススメの所』

 

 

『……承知しました』

 

 

『はは、それじゃまた明日ね~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!!」

 

 

ベッドから飛び起きる。

 

 

「……そっか」

 

 

ここはナギサの部屋だ、私の執務室じゃない。軟禁途中だった。

 

 

最近は毎日の様に夢を見る、悪夢じゃない……ただの日常の夢、それでいて滲むような這いよる悪夢の日常。

 

 

「ナギちゃんは…そうだ、今日がエデン条約締結の日だっけ」

 

 

「…ゲヘナとの平和条約、字面だけでもばかばかしいのに実現しちゃうなんてな~」

 

 

「そうそう、やっぱりバカばっかり、こんなに馬鹿みたいな言葉が実現するんだ」

 

 

感情とは器に収まっているもの。

 

 

「……」

 

 

そして入れ物に入っている液体のようなもの、一つ一つの感情それぞれに個別の容量が決まっていて、その容量を超えて注がれば他の入れ物(感情)に零れ落ちていく。

 

 

聖園ミカは器の蓋を閉じていた、機械的に人形として感情を抑制することで魔女として変性した。

 

 

「終わったんだよね…本当に、全部…何もかも、そうなんだよね?」

 

 

()()()

 

 

「先生は私がしたいこと、なりたいようになっていいって言ってたけど…」

 

 

先生が手を差し伸べたことで、彼女は再び変性の兆しを見せる。

 

 

「デミちゃん…これからどうしよっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エデン条約 当日

 

 

 

 

 

「ヒフミさんの水着……」

 

 

「後こちらも、これでナギサ様がツルギに懲罰として課された課題の提出は終わりです」

 

 

ティーパーティーの客室、ナギサの机の上に並べられたのは大量の写真。どれもこれもみんな楽しげに遊んでいる写真で、これが業務かと聞かれれば首を横に振るものだが……。

 

 

ナギサが融通を効かせてわざわざ補習授業部の皆の夏休みと、ツルギの夏休み両方を並行して行わせた、その結果である。

 

本音を言えば、ヒフミの水着写真を手に入れたかっただけなのだが……丁度良かったと言う奴だ。

 

 

「それでは失礼します、ナギサ様」

 

 

「ええ、ハスミさんご苦労さまでした」

 

 

エデン条約会議が数時間後に控える中、このお守り(ヒフミの笑顔写真)が私を守ってくれることだろう、胸ポケットに忍ばせておこう。

 

 

紅茶を飲み、ティーカップを唇で優しく一撫で。

 

 

そうやって香りを楽しんでいると、また一人ここへ足を運んでくる、それは私にとって視界に入れるだけで…『嬉しく』なってしまう人。

 

 

“……ーー失礼するよ、少し時間大丈夫かな?ナギサ”

 

 

「先生、お早うございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生のおかげでこの間は助かりました、色々工夫を凝らしてどうにかツルギさんには休んでもらいたいと思っていた所に、ヒフミさん方が問題を起こし、最終的には先生の私的な時間を巻き込んでしまったものですから…最初はなんて謝罪をしようかと」

 

 

“あはは、どうにかこうにか何とかなって良かった、ハスミから聞いたよ?ミカの件で迷惑をかけた正実皆にそれ相応の謝礼をしているって…お疲れ様、ナギサ”

 

 

先生が来てくれた理由は、労いとエデン条約前の励ましに来た、という理由らしい。

 

 

「ええ…特にツルギさんは、その…コミュニケーションが中々難しいお相手で、本人も何か見返りを求める素振りもなかったので、上手くかみ合った結果ですね」

 

 

先生からお土産としてもらった南海クッキーを並べておいた、特別変わった味でも何でもないのだけれど、肩の力を抜いてティータイムを過ごせばその味もまた変わる。

 

 

味を楽しむ余地があるというのは随分と…幸せなものだ。

 

 

“今日この後は通功の古聖堂にかな?”

 

 

「よくご存じで、『第一回公会議』が行われた神聖な場所、取り急ぎで復旧を間に合わせましたが…事件の復興費のせいで危うく間に合わないところだったんです、全くミカさんは些か、いや、とてつもなくガサツな所は変わってないですね!まぁ昔からそうでしたし私がちゃんと支えてあげないと計画性は無いしで、本当に昔から…ーー」

 

 

“…あはは、そうだね…(来るたびに愚痴ってるけれど、毎回殆どが惚気話に変わっていっちちゃうんだよね…)」

 

 

部屋の食事は殆どロールケーキにされたり、軟禁場所がナギサの部屋というところもあり大分もみくちゃにされているようで、周囲からはむしろミカのほうが付き合わされているように見えるみたいだ。

 

 

“…ねぇナギサ”

 

 

「何でしょうか?」

 

 

“以前、ナギサがいろいろ苦労しているときに対談したのを覚えているかい?”

 

 

「ああ、あの私のちょっとした自尊心を粉々に砕いてくれた…」

 

 

“ゲホッ、ゲホッ…そ、そんなつもりは無かったよ!?”

 

 

「では何故幼少期から続けている趣味であるチェスの、それも完膚なきまでに私が有利な状態で負けてしまったのか……ふふふ、言い戻してみると余計に腹が立ってきましたね、言論でも負けて……」

 

 

“ま、まぁまぁ…私はあの時にナギサにどうしたいかを聞いたよね、そしてあの時も”

 

 

思い返すのはあの合宿所での事。どうしたいのか、私は世界をどう生きていきたいのか、『どうしていくのか』

 

それを問われたとき、人はその場ですぐに答えを返せるだろうか?

 

 

「ーーそうですね、私は…」

 

 

先生の目の前に、私なりの『答え』を提示する。

 

 

「こうしたい、と思いました」

 

 

その差し出された資料を手に取って、一言一句見逃さず目を通していく。

 

 

内容はエデン条約の細かな改定とトリニティ学園、その運営の根本的な変革。

それは実質的に今の立場を地位を権力を賭けに出て行われる『互いを信じあう』為の政策だった。

 

 

“ナギサ”

 

 

「何でしょうか?先生」

 

 

“ありがとう、私にこれを見せてくれて”

 

 

「当然のことです」

 

 

政治的な背景を考えれば、この私とナギサの雑談さえ世間の目は逃してくれない、それを踏まえた上で更に機密文書を見せるというのは以前のナギサでは考えられないこと。

 

心を許して懐柔されている?シャーレの権限を理解しているのか?

 

補佐官がここにいれば憂いの感情は大きくなることだろう。

 

 

「全てを御してこそ、ティーパーティーですので」

 

 

“うん、やっぱりナギサは凄いね…最初からそうだったけど掌で踊らされっぱなしだったよ、今もナギサの手の上かな?”

 

 

「からかわないで下さい先生、それを言うのなら私のセリフです…私達子供は無数にある選択の中で、必ずも最良の道を歩めるわけではありません」

 

 

「それを導く立場にある先生こそ、平凡な私を手の上で踊らせていると言えるのでは?」

 

 

先生は時々自分自身の脅威度を理解していない、策や計を練るものとして先生と対峙すれば誰だって分かる。

 

奇妙と言えるほどに、私たちが歩む道の最後には私たちの選択を取れる場面が待っている、それは当たり前のようで当たり前ではないのだ。

特に人の上に立つ者であれば、人に狙った選択を取らさせることも多い。

 

 

その自由を先生は握ったうえで、生徒に手渡しているということは…尋常の事ではない、それも『大人』なら尚更だ。

 

 

“ナギサ、自分のことを平凡なんて言わないでいいんだ、君たちは一人一人が特別な大切な生徒だし、その生を全うできる様にするのが私達大人の役目だから”

 

 

“その最低限を果たすことしかできない私こそ平凡で凡人な人間だよ、私がナギサの立場なら、そもそもエデン条約っていう幾年も続く確執の終わり、それを目指すなんて選択は取れない”

 

 

“ナギサも私の大切な生徒の一人だからね、君が選択したこの道を、私は全力で支えるだけ”

 

 

「……はぁ、先生は本当にやりずらい人ですね」

 

 

“そう?”

 

 

「『そう』です!」

 

 

 

“あはは、まぁもう一度言うけれど、エデン条約…この選択を取ったことは誰にでもできるものじゃない、それを支えさせてもらうよ、だからね…”

 

 

 

“胸を張って、いってらっしゃい”

 

 

 

そう言われてしまったのならば

 

 

 

憂う事はきっと、何も無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

 

 

 

 

 

誰の目にもつかない場所で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《リーダー!!捕捉された!!!》

 

 

《(スッス…スッスス…)姫様、お下がりを!リーダーこちらチームⅠ、Ⅴ、契約相手が裏切りました!!》

 

 

《チームⅡ、Ⅲ、半壊!撤退の指示を!》

 

 

 

「通信を遮断しろ!そっちにすぐ向かう、姫を死守しろ!」

 

 

 

計画に想定される限り、最悪最低の存在に

 

 

 

《うわぁーーーん!もう終わりですぅ!!》

 

 

 

「なんだ、どうなっている…!クソ、これが例の…ーー」

 

 

 

《こいつが、マダムの言う例の…ーー》

 

 

 

 

 

 

 

“初めまして、アリウススクワッド”

 

 

 

「先生の力か…!!」

 

 

 

 

 

 

『『久しぶりっすかね、あ、覚えてないんだった…初めまして、アリウススクワッド』』

 

 

 

《羽音デミ…!》

 

 

《終わりですぅぅ!!このまま恐ろしい拷問を受けちゃうんですぅぅ!!!》

 

 

 

 

 

 

「こんにちは、ロイヤルブラッドの末裔」

 

 

 

《…………》

 

 

 

 

 

各々が会合してしまう

 

 

 

この虚しい人生の審判を下す者たちに、再び。

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