ニコは戦闘に参加しないことでバランスとってます。
……そしてNPCは基本的に『別のシステム』で動いてます。
どうやらすでに話は通っていたらしく、オレたちは旭川市警の本庁にある一室に案内される。
「いやはや。申し訳ありませんねえ。せっかくの休日のデート中でしたのに」
オレたちを出迎えたのは、黒髪でちんちくりんな『悪魔人間』の警官であった。
「お初にお目にかかります、クマさん。私は『旭川市警生活安全課合法都市対策係係長』を勤めております
合歓垣でもフブキでもお好きなように、お気軽にお呼びください。これから何度かお世話になることもあるでしょうからよろしくお願いいたします」
「あ、ああ。よろしくな。フブキ」
胡散臭い笑顔を浮かべてあの長ったらしい肩書を完全に言うフブキは、オレにはすげえ『大人』に見える。働いてるからか余計に。
合法都市にはいなかった『まともな社会人』という奴だ。
……まともならそもそも旭川市警にいないとか言ってはいけない。
「あ、そっか。今の担当、フブキさんか。それでお兄ちゃんから連絡来たのね」
「まあ使えるものは何でも使うのが旭川ですから、折角の同級生のコネ、使わないと損でしょう」
呼ばれた理由も判明した。なるほど、ニコの個人的な伝手の一つか。
ダードの息子でもあるアイツは顔が広い。そりゃあ旭川市警にもコネの一つや二つはあるだろう。
「コネか……つまりニコの個人的な関係者ってことか。同級生ってのは?」
「うん。フブキさんね、東京留学してたお兄ちゃんと同じ『聖華学園』って学校に通ってたの。確かお兄ちゃんとは退魔生徒会の同期だって」
同級生とかいう、合法都市で聞きなれない言葉について聞いたら、わっと情報が返ってきた。
……とりあえず覚えるだけ覚えて後で手帳に書いておこう。今は知らんでもいい情報のはずだ。
「ま、お互い恋愛感情は無いんで普通の友人関係なんですがね。いやあ青春してて羨ましいですねタナちゃんは」
「も、もうからかわないで!フブキさん!」
そして、そのつながりもあるからか明らかに知り合い同士の空気。それを微笑ましくも、少し寂しくも思う。
思えばキラキラもニコもオレの知らない人生をオレよりも長く生きてるんだ。
そりゃあオレの知らない人間のが多いだろう。
「さて、世間話はここまでにして、お仕事しましょうかね……面倒ですが」
フブキが小粋なジョークと共に居住まいを正して、本題に入る。
「昨晩のことです。旭川中央公園で不審な人物を見かけ、補導いたしました。今は拘置所にて過ごしてもらっているのですが……明らかに日本人としての『常識』が無さすぎるようなのです」
フブキの言葉に頷いて質問する。
「どこで判断した?それを教えてくれ」
聞かれるのは分かっていたらしく、フブキは一つ頷いて理路整然と根拠を上げていく。
「はい。まず補導されたときの状況ですが『旭川中央公園で、捕まえた鴉を解体し、焚火で焼いて食べているところを捕獲』されました。
こちらが姿を見せたときは、一瞬驚いたようですが、抵抗する様子は見せなかったようです。
また拘置所において『電気と水道と水洗トイレの存在を今まで知らなかった』という供述を得ています。
……彼女に言わせれば『拘置所は伝説の太陽の国みたい』だそうで。後は少々食欲が旺盛なようです」
「ええ……それは確かに合法都市の人っぽい。それもクマのいた『無名地区』だよね明らかに」
キラキラが失礼なことをいう。流石に無名地区の人間でも電気は知ってるわ。水道はちょっと荒れてるところにはなかったけど。
……これはむしろ。
「一つ確認なんですが、その焼いた鴉って『味付け』されてましたかね?」
これは判定に重要だが、多分合法都市に詳しくない人間なら多分『未確認』だろう。
オレだってジンから『御伽噺』で聞いてなかったら想像すらできん。
「……確認せずに廃棄処分されてますね。それが重要な判断材料になり得る、と?」
オレの確認に、フブキがすっとこちらをにらむ。やはりプロだな。伊達にニコの友達やってねえ。
そしてオレは、オレなりの推理を述べる。
「まだ確証は持てないが、その女……『地底人』の可能性が高いと思う」
「「ち、地底人……!?」」
二人が驚いた声を上げるのも無理はない。
『無名地区よりはるかに危険』と言われていた、合法都市『最大の闇』の住人。
独特過ぎて『こちらの常識が一切通じない』と言われていた連中。
オレですらたまに無名地区に現れたのを『処分』されてるところしか見たことがない。
合法都市ですら他の地域の連中からは『都市伝説』扱いされていた存在。
それが、姿を見せたのだ。
*
フブキに案内されながら、拘置所に向かって歩く。
道すがらには、様々な拘置所送りになった連中が見える……
「こちらは『合法都市の住人』と判断された方々専用の拘置所となっています」
「へえ……旭川だからあるとは思ってたけど、本当にあったね」
フブキの説明に、キラキラが感心したように言う。どうやらキラキラも知らなかったらしい。
(いや、むしろあえて関わらせないようにしてるのか?)
そんなことを思いながら、懐にしまっていた『おたから』を漁る。
「で、クマは何を読んでるの……なにそれ、手帳?」
「ああ、ジンから聞いた話をまとめた『クマの捜査手帳』だな」
世の中、どこで何の情報が役に立つか分からない。
だから、どんな些細な情報でもとりあえず覚えておけば、役に立つこともある。
そう、ジンに教えられ、ジンから聞いた話をオレなりに書き溜めたものだ。
ジンは、合法都市について、誰よりも詳しかった。地底人のことを知っているどころか、アイツらに『友達』がいるとまで言ってた。
ガキの頃、ジンから荒唐無稽な『地底での冒険』の話を聞くのが好きだった。
(ポルノならもっと詳しく覚えてたかもな。アイツ、あの話好きだったから)
そんなことを思いながら、手帳をめくる……ジンからの情報ならば地底人に関する記述も……あった。
ーーー『地底人』は『無名なる地下帝国』の住人である。名が無いわけじゃない。名前が
それは確かにオレの字で書かれた記述。筆跡からして大分古い。正直覚えてない奴だ。
「ほう。地下帝国の住人……?」
「名前がありすぎてどれが正しいのかわからないから無名ってわかるようなわからないような」
オレの記述を見て、フブキとキラキラも首をかしげている。
少しして、フブキがハッと何かに気づいた。
「いえ、そうか……なるほど。そういうことですか」
「何かわかったのか?」
オレの確認に、フブキは頷いて自分の経験則を語る。
「ええ、高校時代に似たようなケースを見た覚えがあります」
「高校時代ってことは退魔生徒会?」
「そうですね。考えてみればそっくりです」
キラキラの言葉に頷いて、続きを語る。
「時間の流れが違う異界……その内部に『数十年単位』で異界に閉じ込められた方々を助け出すというお仕事でした」
「それがどう今回の話に繋がるんだ?」
オレが先を促すと、一つ息を吸ってフブキが言葉を紡ぐ。
「……閉じ込められていた方々は、異界内部で『子供』を作っていました。そしてその異界しか知らない子供は……『現代日本の常識に非常に疎かった』んです。
親が最低限の常識は色々教えていたんですが、異界では絶対に手に入らない『電気』と『水道』については一切教えていなかった」
……あり得るな。そんな結論と共に、オレたちは百鬼夜行連中連中を思わせる装束を纏った『地底人』の前に立った。
(人間より丈夫な獣人種でしかも太陽光に弱いアルビノか……信憑性が増したな)
「よう。オレの名はクマだ。ここの旭川のえらい人の知り合いだ。今日はお前と話をするために来た。お前、名前は?」
「……初めまして。クマ。ボクはビカラです」
(聞かれたことにだけ答える。軍人か)
続いて、捜査手帳から推測される『正しい質問』を行う。
「で、お前はなんて『国』から来たんだ?」
名前がありすぎるから無名なる地下帝国……ならば彼らにとって『国名』はとても大事なものだろう。
果たしてビカラは目を見開いて、それから堂々と名乗る。
「そりゃあもちろんダ……『第14分隊太陽信仰ザンクティンゼル王国』です!」
「な、なんですかそれ?」
「え?え?ヒルトリアより訳が分からない国名なんだけど!?どゆこと!?」
ほら外野、騒ぐな。下手に笑ったら侮辱とか言われかねんぞ。
そう思いながら、オレは吹き出すのを我慢して真面目な顔をして問う。
「そうか。で、お前はなんで来たんだ?」
「……我が国の国王ジータ様の命により、我が宮廷唯一のニンジャとして太陽の国との接触と、援軍要請の任務を賜って参りました。
太陽の国の方々、どうか復活を遂げ、我が国を滅ぼした『邪龍王』を討伐いただきたい。成功の暁には我が国の国宝たる『勇者シグルドの剣』を差し上げます!」
……いきなり思ったよりも壮大な話になったぞオイ!?
*
旭川の郊外。住人が人手不足で経営を終わらせて廃棄された牧場。
「ここです。ここに『第14分隊太陽信仰ザンクティンゼル王国』の入り口があります」
ビカラに案内され、やって来たオレたちは、まだ明るい牧場を見渡す。
そこには誰もいない……あからさまに焚火やった後があったり、食べられる野草だけ全部むしられてたり、焦げた野生動物らしきものの骨が転がってるのがアレだけど。
「あれ?誰もいない……?」
「うーん。普通に隠れてますねえ。端々に生活の跡が残ってますが」
「サバイバル力がガチすぎる……これ、北海道の原野とか森に潜られたら絶対探し出すの苦労する奴じゃん……」
あの後、流れで参加することになったフブキと、合流したニコを加えた3人は、後ろで待機。
ここは多少なりとも地底人のことが分かるオレが交渉することになった。
「宮廷の皆様!ビカラが援軍を連れてまいりました!お姿をお見せください!」
その言葉と共にあちこちから人間が姿を見せる。
あからさまに無名地区っぽい奴らが何人かと……ちょっと奇麗だけど普通の格好した女子と、お付きのメイドらしき女が二人。
「……まさか本当に援軍を連れてくるとは、捨て駒覚悟で派遣した甲斐がありましたね」
「うわ!?滅茶苦茶数多いし、全員宮廷勤めができるレベルだよ!?」
「いやあ。これも太陽神様のご加護ですね。感謝感謝♪」
なんかノリ軽いぞ。てか国って割に大分数少ないな?
「えっと……」
「ああ、そちらの方が今回の援軍の長ですね?」
どうすればいいか困っていると、オレを見た一番普通っぽい女子が近寄ってくる。金髪を肩口で切りそろえた子だ。
剣と鎧をつけてはいるが、全体的には普通の子っぽい。少なくともメイドとかビカラよりは。
「初めまして!私が第14分隊太陽信仰ザンクティンゼル王国の国王、『ぺコリーヌの娘ジータ』です!よろしくね!」
「……あ、はい。クマです。よろしくお願いします」
なんか軽く言われたが……国王?普通にその辺の戦士Aとかじゃないの?
「国王って……あの子、王様なの!?」
「なんかノリ軽すぎません?」
「……まあ、確かにね。若いからそんなもんなのかな?」
こっちの3人は後ろで困惑していた。
「……相変わらずジータ様には威厳が足りない……もっと剣術だけでなく王としての器を磨いて頂かないと、ぺコリーヌ様のようにはなれませんよ」
「いいじゃないですか?確かにちょっと軽すぎですが、その分、頭の良さはお父上のシグルド様譲りですから」
なんかお付きのメイド2人も微妙にジータ貶してるぞ。大丈夫かこの国。
「あ、それとこっちがウチの国で最強の騎士であるクローディアと、従者長のドロシーです!ビカラは……まあいっか、ビカラだし」
しれっとビカラの扱いが酷いのをさておいて、お付きのメイド2人がずずいっと前に出てきて挨拶をする。
「第14分隊太陽信仰ザンクティンゼル王国の騎士隊長を勤めております、クローディアと申します」
「従者長のドロシーです♪探索ならお任せ!」
2人が名乗りを上げる。ビカラはもう知ってるから……すげえショック受けた顔してるのが謎だけど。
「えっと、本田ターチヤナです。よろしく」
「旭川市警から来ました、合歓垣フブキと申します。以後お見知りおきを」
「父に代わり旭川ヤタガラスの責任者代理を勤めさせていただいております本田ニコラウスでございます」
それに合わせるように、3人が紹介を返す。やっぱ大人は違うなと思う。
「で、なんかこう邪龍王を倒してくれって言われたんだが」
「そうなんだよ!あのクソドラゴン!15年前の恨みがどうとかでいきなり攻め込んできてさあ!滅茶苦茶強いんだよ!」
「ちょっとうちの宮廷では手も足も出ない戦力でしたねえ。リフ殿も普通に戦死してしまいましたし」
「あと3日で内部の構造が大きく変わる迷宮嵐が起きますから、その前に決着をつけねば二度と我が王国と民は取り戻せなくなるでしょう」
こっちの確認に、それぞれが情報を口にする。つまり。
「時間との勝負か……」
ダードが帰ってくるのを待つ暇はなさそうだ。やるにせよ、やめるにせよ。すぐに決める必要がある。
オレは後ろを見る。
「うーん。ファンタジーすぎる……正直、ついていけないけど、やるってことでいいんだよね?」
「まあ、ここで断って潜伏されたら面倒そうだし、いっそ……いや、やめておこう。まずは成功させてから話をした方が、絶対良い」
「いやあ退魔生徒会時代を思い出しますねえ。では、あの頃は出来なかった『大人パワーで蹂躙』しましょうか」
どうやら、やるでいいらしい。
「じゃあ、今日一日準備に充てて、明日突撃でいいか?」
「いいよ!決定だね!よろしく!」
かくて、オレたちの次の戦いは「異界に入って邪龍王の戦い」ということになった。
もう読者諸君にはお分かりいただけただろうと思うが、今回のゲスト連中は『シニカルポップダンジョンシアター 迷宮キングダム』の住人である。
PCである『ランドメイカー』はサタスペよりは死なないが『人の命の安さ』ではサタスペをはるかに上回るぞ!冒険企画局ゲーだからな!