ちなみに入有遁の立地は和歌山ですが、全体の空気は「十三」に近いです。
よそとの交流が基本旭川経由なので、昭和から平成くらいの雰囲気で止まってます。
何気に住人がデフォでスマホ持ってたりもしますが。
ニコの運転するハイエースの助手席には、フブキが座っていた。
「楽しみ。私も行くの初めてなんだよね」
「きっと気に入ると思うよ。小さい村だけど、風情があってボクは好き」
「そうなんだ。ニコが好きならきっと良いところだね。まあニコと一緒ならどこでも楽しいと思うけどさ」
「……そう言ってもらえると、うれしいよ」
「「クソが!分かってたけどくっついたら完全にバカップルじゃん!」」
その会話にルナールと秋雲が頭を抱える。
「いつの間にかお二人も、そ、そういう関係に……ふふふ、分かってましたよ、そういうのは私には無理だってことくらい……」
……1つ上らしいウイさんからはなんか拗らせた気配を感じる。なんかこう、戦わずして負けた感じが。
「大人って大変だねぇ、あんなの勢いで行ってガーってしちゃえば簡単なのに。ま、それが出来ないからああなったんだろうけど」
そんな喪女だとか言う集団を鼻で笑うキラキラ。多分ゴリラ呼ばわりされたのめっちゃ根に持ってる。
「それはそう、無言で押し倒せばよかったのに」
ポルノもまあ、普通のこと言ってる。好きあったらやるだろう。明日には死んでるかもしれないんだし。
無名地区では割とそんな感じだった。夢とか将来なんて贅沢品は、無名地区にはなかったのだ。
「いいなあ……ボクもいつかは大帝閣下に抱かれたいなあ」
そんなオレたちの会話を聞き、ビカラがそんなことを言う。
お、いいんか?本気にするぞ?抱いちゃ……うん。そんなこと思わないから、キラキラ、これ見よがしに磨き始めたロイヤルポケットしまおうね?ね?
「ポルノは、アタシより付き合い長いんだしまあしゃーないけど、これ以上はちょっとねえ……」
「まあ、分かる。せめてわたしたちが認めてから」
どうやらそう言うことになってるらしい。すっかり仲のいい姉妹って感じだ。
「は、はい!ボクも今まで以上にニンジャとして頑張ります!お二人にお認め頂き、大帝閣下の夜伽に参加させていただけますよう!」
ビカラ的にもそれでいいらしい。そういや地底人だから、価値観微妙に違うんだな。
とまあしばらくへこんだ後は、後部座席組でトランプをした。
……喪女組、全員トランプめっちゃ強かった。どんなゲームやっても勝負にすらならない。
「ふふふ。これでも普段から単位落とす勢いで卓上ゲームやってるのが私たちよ?勝てると思わないことね」
「リア充に手加減不要!大人と分かった以上は全力で潰すわよ!このリア充トリオ!」
「あ、あの……聞こえてましたので……本気出します」
ちょっと勝ち誇る3人。
「でもお兄ちゃん落とすのは出来なかったんですよね?」
「「「ぐほぁ!?」」」
ムッとしたキラキラの言葉に、全員が轟沈してた。
「スケートなんてほとんどやったことないんだから、ちゃんと教えてよね?ニコ」
「もちろん。手取り足取り教えるよ……楽しみだなあ」
「もう……えっち」
運転席の方は、こっちの様子など気にすることもなく、二人の世界を作っている。
まあ、これはこれで楽しいからいい。
そう思いながら引いたババ抜きの札は……ババだった。
*
お昼過ぎ。オレらはついに入有遁村にたどり着いた。
ーーーようこそ!コスプレとケモナーの村、入有遁へ!
「「ええっ……」」
村の入り口に建てられた看板に、オレとポルノの中にあった『田舎の村』イメージが爆発四散する。
いや、ジェイルハウスで聞いてもほとんど情報らしい情報が出てこなかったからこう、田舎の村で検索してくると出てくるような普通の村かなと思ってた。甘かった。
「うわあ。ニコとコルワから話には聞いてたけど、マジだったんだ……」
フブキは知っていたからか驚きは他より少なめだ。だがそれでも驚き呆然としている。
「ふおおお!?り、リアル妖怪横丁*1!リアル妖怪横丁ですよ!」
その様子によくわからない興奮をしているのがウイさん。なんかこう、アニメかなんかの奴に似てるらしい。
「おおおお!?コルワの言ってた通りだったわ!みんな、みんなコスプレよ!?すごいわ!?」
「コルワの裁縫技術はここで培われたのね……手縫いであの速度は正直おかしいでしょ」
ルナールと秋雲はどっかの誰かを引き合いに出して感動している。話から察するにジータにドレスみたいなの作ってた人だろうか?
「なんとなく、ダイナマイト帝国*2時代を思い出しますね」
冷静に評しているのがビカラだ。そうか、地底にも似たようなところがあったのか……まあ地底なら何があってもおかしくないな。地底だし。
「すげえな……住人の大半が『悪魔人間』かよ」
「悪魔人間村。とってもエンターテインメントな感じ」
そう、入有遁村は街で普通に暮らす住人のほとんどが『悪魔人間』な村だったのだ。
暮らしぶりはまあ普通っぽい。
主婦が買い物したり、駄弁ったり、ガキが鬼ごっことかしてたり、ピアスとかつけてたり頭がボーンってなってる柄わるいのが殴り合いの喧嘩してたり、おっさんが昼間っから飲みすぎで吐いてたり、
暇そうなジジイがベンチで煙草ふかしてたり、少し歳が行ったガキどもが集まってちょっと古い機種の携帯ゲーム機でなんかのゲームやってたりする。
……でもそれが全員角だの羽だの尻尾だの生えてるしなんならが顔が獣そのものだったりする悪魔人間がやってると、それだけで大分不思議な空気が漂う。
ルナールと秋雲は先ほどからすげえ勢いで写真撮ってるくらいだし、ウイもなんかこう嬉しそうにプルプル震えてる。
「元は明治とか大正くらいにどこかから来た開拓者がこっそり作った隠れ里みたいな開拓村だったらしいんだけどね。
昭和とか平成の初めの頃、合法都市目当てで来た悪魔人間が噂聞きつけて集まってきて、村って言えるサイズになったのが入有遁村なんだ」
「それをアタシらが小さかった頃のお父さんとお母さんが『発見』して、旭川から色んな支援だしたり色々交流して今に至るって感じ」
この村を発展させてきた立役者の子供たちがちょっと自慢気に言う。
そんな話をしながら、車を走らせてしばらく泊ることになる、村に一軒しかない宿屋に向かう。
凍り付いた大きな湖の畔にある、丸太で作った古いログハウス風の家だ。
元は『初代村長』のお屋敷だったらしいが、今は昔の雰囲気を残しつつも水回りと電気関連だけリフォームされて、この村に来たお客さんを泊める宿屋になってるらしい。
「あ!?ニコ様のだ!ニコ様ー!」
「タナちゃんもいるぞ!わーい!1年ぶり!」
駐車場というか、家の前のただの広場って感じの所に車を止めて降りると、街のガキどもがわらわらとよってくる。本当に慕われてるらしい。
「やあ、久しぶりだね。元気にしてた?」
「やっほ。久しぶりってこらぁ!人の尻撫でんなって去年もいったでしょ!?このエロガキ!」
ニコとキラキラもなんていうか気安い感じで接している。どさくさ紛れにキラキラの尻撫でたやつは割と本気で顔面蹴られてたが、悪魔人間らしく鼻血出しながらも笑っている。
まあ、冗談で済む範囲だということだろう。本気だったら風穴開けてるし。
「……やっぱりニコってこう言うところ見ると本当に『二代目』って感じだよね。ベッドでは結構甘えてくるのに」
「分かります分かります。だからあの癖の強い人だらけだった退魔図書委員会をまとめ上げられたんでしょうね……あと、下世話な話は辞めろ」
そんな様子をどこか嬉しそうに見てるのがフブキとウイさんである。
なんだかんだ女の友情はあるらしい。時々ウイさんの視線にねっとりとした重めの感情が混じるのは、きっと気のせいだ。
「おう、いらっしゃい。一年ぶりだな。ニコ。またデカく……大人になったな」
「タナちゃんも大人になったのね……雰囲気がグッと女になったわ」
そんなことを言ってると、この宿の主人らしい男と女が姿を現す。
どちらも褐色の肌をしていて角が生えている。悪魔人間らしい。仲良さそうだなと思った。
「まあ長旅でお疲れだろうし、とりあえず部屋に案内するよ……おーい!ムムル、アイン!お客さんが来たぞ。荷物運んで、案内してくれ!」
「はいなのです!」「うっす」
主人のおっさんの言葉と共に、二人の悪魔人間が姿を現す。
犬耳と尻尾があるがコスプレで誤魔化せそうな大き目のコート着たちっこい犬系の獣人と、コスプレって行っても無理だろうなって感じのジーパン履いて革ジャン着たガチ人狼系のでけえ獣人だ。
男の方は旭川どころか合法都市でも滅多に見ないくらいには誤魔化せないレベルで人狼。だがこの村ではそこそこ普通らしく、獣人系の怪力生かして荷物を大量に一度に持ち上げていた。
「あれ?ムムルちゃん、アイン、こんなところで何してるの?」
キラキラが不思議そうに尋ねる。
「推薦枠取れて、来年から旭川大学行くので、普通免許取るお金稼ぐためにバイトしているのです!今年は私たちが管理人なのです!」
「で、姉貴に便乗して俺も手伝ってるんすよ。単車の改造費稼ぐのと、ガソリン代も最近バカにならねんで」
でっけえ方が弟だったのか。てか姉貴の方キラキラと同い年かよ!?
悪魔人間はけっこうちんちくりんというか、見た目と年齢一致しない奴が多いのは知ってたが、姉弟でここまで見た目違うと混乱する。
「んじゃまあ、あとは頼んだわ。坊ちゃん、今年は基本コイツらこき使ってやってください。頑張った分だけバイト代弾む分、お任せってことにしてるんで」
「ご飯は二人に言うか、村の商店街で食べてね。街の外れにはスーパーもあるから」
どうやら今回は割と自分らでなんとかしろって感じらしい。まあこれはこれで気楽でいい。
「んじゃまあ、各自とりあえず部屋に行ってみようか。やることもあるだろうし。合法サマナー組はアイン、ボクらはムムルが案内ってことで」
ニコの言葉に従い、移動する。
屋敷なので結構でかい。どうも屋敷が二つあって、それを中央でつなぐみたいなつくりになってるらしい……まあ、夜のアレとかコレとか聞くのも聞かれるのも嫌だっつう配慮だろう。
「合法サマナー組……?ああ、タナ姐さんの方っすね。案内します」
それからオレたちとニコたちで別れて屋敷を案内される。
「屋敷は東館と西館に分かれてて、お客さんらは東館になるっす。客室も3つあるし、一番でけえ当主の部屋にはキングサイズのベッドもあるんで、好きなところ使ってください。使ったところだけ掃除するんで」
なるほど、そうなると俺とポルノ、キラキラ、んでビカラでちょうど1部屋ずつか?
「じゃあビカラちゃん以外は当主の部屋だね!いつもはお父さんとお母さんが使うから一回使ってみたかったんだ!」
「キングサイズ……夜のプロレスにさいてき」
「この際ボクも……あ、言え何でもないですすいません。素直に客室の隅っこで丸まってます」
そう思ってたらなんか流れるようにビカラ以外の3人で当主の部屋使うことになった。まあキングサイズベッドに興味ないと言えば噓になるが。
なんかこう、最近、3Pが当たり前になってる気がする。前は主にキラキラは他の人に見られるのは恥ずかしいとか言ってた気がするんだが。
「え?マジっすか!?え?3P?すげえ、流石は大都会旭川の男だ……」
アインはめっちゃ驚いてた。まあ、キラキラが言うのは旭川はどうもどっちかというと田舎よりらしいけど、この村と比べれば都会なんだろう。
少なくとも合法都市よりは都会だと思う。あそこ、インターネットとかなかったし。
「んで、風呂は中央に大浴場あるんでそこで。24時間入れるようになってんすけど、1個しかないんで時間調整はそっちでお願いします。
食堂も中央に1個っすね。台所もその側っす。メシはそっちで作ってもいいし、言ってもらえればオレと姉貴で作りますが、大したもんは作れないんで、そこんとこ頼んます」
まあ、豪華なメシは期待するなってことらしい。一応今夜は豪華にジンギスカンらしいが、あれはまあジンギスカン鍋と肉と野菜用意するだけだしな。
というわけで一通り案内が終わったところでオレたちは一度応接間に集まって、相談する。
「つうわけなんすけど、昼めし、どうします?」
議題はズバリこれである。朝方出て、今ちょうど昼だ。
「うちで食うなら適当に姉貴の作る野菜多すぎるインスタントラーメンとかなんか微妙にべっちょりしたチャーハンっすけど」
「アイン、失礼なのですよ!一度に多く作ろうとするとそうなるだけで普通に家事は出来るのですよ!?」
なんかこう、適当感あふれてて微妙にそそられないメニューを聞かされ、どうするかお互い目で語り合う。
「……じゃあ、アイン君とムムルちゃんも一緒に街まで食べに行かない?奢るから美味しいお店教えてよ」
「マジっすか!?じゃあいい店知ってるんで教えるっすよ!」
「最近出来たハイカラなお店なんですけど、すごい美味しいって
ニコの提案にあっさり乗ってくるガキども二人……うん?確か姉貴の方は今年高校卒業ならオレやキラキラと同い年だっけ?
まあ、それはさておき。他も異存はなさそうなのでそこに行くことになった。
で。ついた先で食ったのが。
「「……なんかこれ、微妙に懐かしい味」」
ポルノと感想が一致するくらい無名地区でよく食っていた、インドっぽいカレーの店だった。
具材がドロドロに溶けてなくなったカレーに米やデカいパン(ナンとか言うらしい)浸して食う感じの店。
店主は無名地区でよく見かけたネパール系っぽい。
「マジうまい。これなら何杯でもいける」
「夜にはジンギスカン食うんだから、ほどほどにしとけよ?……あ、すんません。このパンお代わりで」
二人して黙々と食う。他のメンツもナンお替り自由なのもあってガンガン食ってる。
スパイス多めの辛いカレーだ。旭川でもあんまり見かけないタイプだ。
無名地区ではカレーは定番だった……たいていの食材は多少アレな状態でもカレー味にすれば食えるからだ。
ちなみに本田家でもカレーは出るんだが、デカい肉と野菜ゴロゴロ入ったカレーなので、美味いんだけど無名地区の味ではなかった。
「ふおおお!?これ、このナンとか言うの、チーズ入りもあるんですか!?」
ビカラは最初は遠慮してたんだが、チーズナンとか言うのキラキラに分けてもらってから食欲が暴走した。
まあ、もりもり食うのは良いことだ。ビカラ、割と線が細いし。
「うん。ミナミの方で最近できたインドカレー屋と似たような感じ?」
「そうだね。あの辺りも旭川に移住してきた人間が色々飯屋開いてるから」
キラキラとニコは結構普通に食ってる。こう言うのにも慣れてるらしい。
「カレーって外で食べるものってイメージなかったけど、これがインド風……うちのとはやっぱり違うね」
カレー食いながら家のカレーのこと思い出してるらしいフブキ。
「ふいい……か、辛い!ら、ラッシーお代わりください」
辛いのが苦手なのか、さっきからしきりにラッシーのお替り頼んでるウイさん。
「ふおおお!?辛いけど慣れてくるとこの刺激が!」
「カレーは基本ご飯派なんだけど、こう言うのもたまにはいいわね」
やっぱり辛いのダメっぽいが普通に美味そうに食ってるルナールと、辛いのも平気そうな秋雲。
それぞれにカレーを楽しんだ後は、散歩も兼ねて商店街を散策する。
八百屋、肉屋、魚屋、薬屋に雑貨屋、武器屋と防具屋……ごく普通の店が立ち並ぶ商店街だが、服屋と装飾屋はちょっと変わっている。
「耳に関する飾りがやたら充実してるのはともかく、角ピアスとか角輪とか尻尾飾りとかあるのか……」
「クマ、見て。あそこ。翼用後ろ開きコーナーと尻尾穴付きコーナーだって」
そう、悪魔人間向け用の加工品が普通に売ってるのだ。
思えば悪魔人間は人間向けの服だと尻尾やら翼やらでまともに着れないことが多いから、そうなるのも当然なのだろう。
「ジーパンとか自分で無理に尻に穴開けると大体ひでえことになるんで、ここで買うしかないんすよね……それか業者に頼むか」
「旭川とかネットで買った人間用のおしゃれな服を加工したり自分で作ったりするのがすごく得意だったのがコルワさんなのです!」
アインとムムルも尻尾生えてる悪魔人間だからか、ここで買うしかないらしい。
「ふいいい……妖怪向け装備専門店……おお、興味深い」
「これよ!これを求めていたの!貴重な資料よ!ここで買っておかないと!」
「ルナール!装飾品あさりは任せたわ!私はムムルちゃんに色々着てもらってスケッチするから!ムムルちゃん、一番よかったお洋服買ってあげるからモデルお願い!」
「あ、ありがとうございますなのです!」
喪女トリオはなんか滅茶苦茶興奮してた。どうやらムムルと一緒に夕方までここに残るつもりらしい。
「じゃあ、ボクらは一足先に戻って、スケートでもやろうか」
「スケート、ちゃんと教えてよね、ニコ」
「「「ちっ……!」」」
……まあ、ニコとフブキに付き合うよりは楽しいんだろう。うん。
*
戻ってきてからは、宿のすぐ近くの湖でスケートをした。
「うん。大分慣れてきた。これなら普通くらいには出来るな」
「とう。三回転半」
「なるほど、専用の靴を使うと走るより大分楽ですね」
最初は戸惑ったが、オレとポルノは普段からローラーブレードで走ってるし、ビカラは基本運動は全部得意なマジニンジャだ。
あっという間に使いこなせるようになった。
「いやもっとこう、スケートって覚えるの苦労するんすけど、やっぱプロは違うっすね」
一応はインストラクター役だったアインが驚くほどだ。まあコイツもガキの頃からスケートやり込んでたガチ勢らしくかなり出来るが。
「……なんだろう。アタシ、結構運動神経いい方だし、子供のころからやってたのにこの中で一番下手まである?」
自信満々に生粋の道産子で幼稚園児の頃からスケートやってたアタシが教えてあげる!と張り切ってたキラキラがちょっとへこんでた。
まあ、しゃあない切り替えていけ。
「うわっ!?……ちょっとニコ、手離さないでよね!もう転ぶの嫌なんだから」
「大丈夫大丈夫。転んだら受け止めるからさ」
フブキとニコは、なんかこう二人の世界作ってるしそっとしておこう。
「よっしゃ。せっかくだし競争するか。目的地は……なんだあれ?島?」
一通り全員が出来るようになったところで競争を提案し、目的地を探して、湖の中央に島があるのに気づいた。
島と言っても本当に小さい島で、外周を一周しても1㎞もないだろう。森みたいになってて中身は伺い知れない。
「ちっこい。なんか祠とかありそう」
「だな。百鬼夜行とかが好きそうだ」
ポルノの言葉に同意する。他の季節だと近づくの大変だけど、冬場だけは湖が凍り付くのでたどり着ける島とか如何にもって感じだ。
「ああ、あそこは辞めといた方がいいっすよ。強い悪魔封じられてるんで」
「結構ヤバい祟る系の悪魔だから、あそこには不用意に近づくなって父さんと母さんから昔から言われてたな」
と、思ったらマジでそれ系らしい。
「そっか。じゃあ普通にこっから岸までで競争するか。ドベがジュース奢りな!」
まあ、別段そういうの相手にしにきたわけじゃないんで、普通にスルー。触らぬ神に祟りなしっていうし。
というわけで普通に競走した。
「っしゃあ!じゃ、クマの奢りね!アタシココア!」
「ファンタ。オレンジ味」
「さーせん。勝負なんでコーラで」
「あ、あのそれじゃあ、あったかいミルクティーで」
ちなみにドベはオレだった。キラキラが道産子の意地を見せやがった。クソ。
*
それから、オレたちは新品の服を着てご満悦のムムルと喪女トリオが戻って来たところで晩飯にする。
ジンギスカンとは聞いてたがカラジョルジョのとは違って醤油味で、おにぎりではなく山盛りのどんぶり飯が出てきた。
まあこれはこれで悪くない。腹いっぱいに食った。
晩飯が終わったところでムムルとアインが街へと帰り、男ども2人で風呂に入り(男のが圧倒的に入る時間短いので先に入れって言われた)、
旭川から念のため持ってきた装備の点検を終えた後は、夜中までゲームをした。
「……なんかこう、青春って感じですねぇ……高校時代にもっとやっておくべきでした」
楽しそうにウイさんがそんなことを言っていたのが印象的だった。
『お前たちの旅行は楽しめているか?こちらは楽しんでいる』
そんなメッセージと共に、浴衣を着たダードとカーナ、それから旅行参加者全員の浴衣姿の集合写真が送られてきた。
向こうは向こうで楽しんでいるらしい。
……そして翌日。
「た、大変なのです!村の入り口で人が死んでいるのです!」
「坊ちゃん!悪いが着てくれって村長が!」
朝っぱらで殺人事件である。せめて朝めし食わせてくれ。
*
角の生えた赤い肌をした巨漢。武器は業物っぽい刀と、デカい拳銃。
パンクなファッションに身を包んだ、人狼系の悪魔人間。武器はなしというか、多分素手。
宝石とか装飾とかじゃらじゃら付けた小汚いババア。武器というか、COMPに改造された杖を所持。
以上三名が今回の殺人事件の被害者である。ちなみに面識は全くない。
「あーこれ、ダークサマナー御一行様っすね。多分ですけど」
「うん。だろうね。ちょっと聞いてみたんだけど、村の人曰く、数日前から商店街でそれっぽいの見かけたって証言もある」
オレとニコの見解が一致し、被害者の正体は秒で割れた。ちなみに蘇生できないレベルで損壊してたので、蘇生は出来なさそうだ。
「死因は……滅茶苦茶切り刻まれてるからそれかなあ。あり得るのは、斬撃か……疾風?」
フブキがしゃがみこんで眺めたり触ったりして確認してる。北海道の寒さのお陰で完全に凍り付いてるので血で汚れないのは楽で良さそうだ。
「このおばあさん、かなり魔術ガチ勢だったようね。バッドステータスほとんど防げるし、魔法全体に強い感じの装備よ。疾風で殺すのは結構難しそう」
ルナールはババアのファッションチェックというか、装備確認。あの手の護符やらアクセサリーは専門の知識が無いとちょっと見分けがつかない。
「鬼の方は、かなり物理特化の装備してるね。妖鬼オニの特性も受け継いでるなら物理で殺すのはかなり大変だったはず」
秋雲は鬼の方を担当しているようだ。服を脱がせてスーツの下に仕込んだ装備を確認している。
「ね、ねえ。あの人狼ってさあ……」
そしてキラキラはと言うと、人狼の方を見て、顔を青ざめさせていた。どうやら見覚えがあるらしく、ムムルとアインに確認している。
「はいなのです。ウルフルンおじさんなのです」
「こんな田舎にいられるか!って出て行ったのに、なにやってんだよおじさん……」
そうか、地元に詳しい人間がいないと
「典型的な封印破壊からの返り討ち案件ですね。暫定ですが退魔生徒会では定番の事件なので、多分あってるかと」
ウイがここまでの情報で結論を出す。
そして残ったポルノが、言う。
「犯人は……アイツ」
「「「「「「「「ですよねえ……」」」」」」」」
全員が同意した。ポルノが指さした先。
少なくともこっからじゃ手も足も出ない上空。
そこを悠々と旋回しながら飛ぶ、巨大な鳥型悪魔。この距離でもあのサイズで見えるんなら、相当にデカい。ぶっちゃけ怪獣サイズだ。
「あれ、多分、湖にあった島に封印されてたとか言うやべえ悪魔だよな?」
「祟るとか言われてたよねえ……」
昨日のスケートの時に聞いた話まんまだ。
それが鳥型とは聞いてなかったが、多分Lvは相当に高い。
「うーん。ボクでも見たことないから、結構なマイナー悪魔かなあ。アイツの正体を見抜くところからやらないといけないかも」
ニコが続けて言う。
殆どの住人が悪魔人間なのもあり、どうやら住人にも見えているらしく、不安げに空を見上げている。
『祟り』はもう始まっているのだから、当然だろう。
村の周囲はすさまじい暴風が吹き荒れて吹雪になっている。村の中は小雪が舞う程度の穏やかな天気なのに。
あれを何とかしない限り、入有遁村から出ることは出来ないだろう。誰ひとりとして。
進行が速いって?今回は伝奇よりなんだ。
というわけで殺人事件の犯人にしてボスが判明しました。謎の鳥です。